捨てられトレーナーの探訪   作:bver

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案ずる禿頭

「無茶をするものだ」

 

大丈夫かと声はかけたが、ただ苦く笑って、答えることなく去ってしまった。

礼儀正しく、しつこい挑戦者だった。

トラウマごと焼き潰すような苛烈な戦い方だったが、役に立てたのなら良かっただろう。

 

――

 

炎とは危険と同義である。

止める術を持たない者にはどこまでも纏わりつき、炭になるまで焼き尽くす。

それは容易に人を殺めるもので、生き残ったとしても時に恐怖の記憶として頭の中に消えずに残ってしまう。

そんな相手には、なるべく直接的な炎を見せないポケモンで実力を測るように注意していた。

 

火傷の後を見て、彼もそんな一人かと思っていた。

少年と青年の境にあるような子で、火傷を除けばいつもの挑戦者たちと同じように見えた。

しかし一度戦ってジムバッジを贈ろうとした時に、逆に丁寧に「本気で戦ってほしい」と請われて、炎を象徴するようなパーティで再戦を行った。

初めの何回かは熱さだけではないだろう汗をかき、苦悶の表情を浮かべてはいたが。

日を空けて何度も何度も挑んでくる姿に、躊躇することは無礼に当たると、その都度全力の炎で相手をした。

 

次第に固さも取れ、トレーナー自身が自在に動き始めるにつれて、まさに挑戦者と呼ぶべき姿が見えてきた。

ポケモンと共に果敢に前に出て、攻撃範囲を読みづらい炎が掠ることも厭わず体を捻じ込み、同じ目線から指示を出す。

常に声を掛け合い、時に相棒に触れて、共に駆けることで一体となって戦っていた。

それに当てられて、私も年甲斐もなく熱くなってしまったように思う。

相棒の炎を信じて動き、全力を引き出すために思考を止めず、声を張る。

最後の攻防はまるで何かを克服するかのような、その目立つ傷痕をさらに焦がすほどの刹那を見極めての一閃だった。

 

久々に気持ちのいい負け方をしたものだ。

座り込みながら相棒を労う挑戦者に、焦げた髪と赤く火傷気味になっている腕を指摘する。

少年は慌てたようにそこに触れて、随分と驚いた後、感慨深げにしばらく眺めていた。

常用している薬を渡して使うように伝え、手入れを待つ流れで雑談に移る。

そうして話している内にまた熱が入ってしまい、そのまま感想戦まで行ってしまった。

 

経験から来るのだろう読みと、複数の攻めを一度に潰す手堅さが戦い辛かった。

躊躇しない攻めと、同じ目線に立つことで生まれる判断の正確さ、速さは脅威だった。

あれは見せるための炎だったのか、隠すための炎だったのか。

当たってもいい炎はどの時点から見極めるようになったのか。

互いに互いの戦法を語り、疑問を潰し、次を検討する。

 

……いや、印象深い戦いだったからと言って、疲れているトレーナーとポケモンにさせることでは無かった。

すぐ熱くなり、また無駄に冷め辛い、悪い癖が出てしまった。

気付いた時には外も暗くなっており、慌ててお互い謝って、その日は解散した。

 

――

 

次の日、島を離れると挨拶に来た少年に、有耶無耶になっていたバッジを渡そうとするとやんわりと拒否された。

もう証明は持っている、と。

その言葉と、真剣勝負を始めた頃から感じていた強烈な圧に、そういうことかと納得する。

おそらく地域ごとに独自に存在する、バッジ代わりの何かでも持っているのだろう。

 

役に立てたようで良かったよと伝えると、苦く笑って謝罪され、頭を下げて感謝された。

自分が無茶な戦い方をしているのは自覚していたらしい。

これからも続けることは分かり切っていたが、大人としての心配より、熱い戦いに魅せられて止める言葉が出てこない。

代わりに大丈夫かと、一声だけ心配の言葉を掛けた。

少年は何も答えず、また少し笑って、島を離れた。

 

わざわざ私のところに来たくらいだ。

恐怖を克服した少年はきっと、自分以上の炎に挑むのだろう。

準備に使われたことが悔しいような、若人の成長につながったことが誇らしいような。

何とも言葉にし辛い思いだが、しかし気分は意外と晴れている。

久々に戻ってきたあの熱が、少し嬉しかったのかもしれない。

さっそく感想戦で得た知見を試そうとしている辺り、私もまだまだ現役を止めるつもりは無いようだ。

 

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