捨てられトレーナーの探訪   作:bver

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臨むチャンピオン

「侵入者ね」

 

鼻で笑って、警備員からの報告を軽く流したのはエリートトレーナーの若者だった。

チャンピオンロードの外れ、そこを囲む防護柵の一部から異常が見つかり、確認したところ一人の侵入者があったと報告された。

そこは猛獣ともいえる協力なポケモンの巣が近く、戦闘の跡も見られたとのことだ。

岩場には長時間にわたる戦闘があったことを示す重なり合った傷跡もあり、かなり激しい連戦が行われたようだ。

しかしその一か所以外に戦闘痕や足跡は見つからず、奥に進むならば必ず通るはずの熟練ポケモンの闘技場と化している場所も静かなものだった。

そのことから、おそらく岩場の戦闘で疲弊して引き返したと思われる、と警備側では判断した。

ただ異常であることは確かなので、念のため報告に上がったとのことだ。

地図を見ながら思案するメンバーに、先ほど笑った若者から軽く声がかけられる。

 

「いつもの盗掘者か未熟者じゃないですか。心配なら俺が行ってきましょうか?」

「そうとは限らないよ。いつもなら、こんなに奥に、直接侵入をするようなことは無かったろう」

「そうですね。こうやって野良に撃退されるからできなかったんでしょう。今回たまたま試してみて、結局失敗したのでは?」

「……」

 

四天王の一人である老婆から慎重な言葉が出るが、それも笑顔で肯定した上で、いつもと変わらないと判断する。

頑なに否定する根拠があるわけでもない老婆が黙ると、機嫌よさげに若者が続ける。

 

「逃げたなら上々。まだ中に居るとしても連戦で疲れてます。補修の人員を送るついでに見回って、居たら俺がやりますよ」

「……そうだね」

 

軽い調子は気になるが、何も考えていないわけではなさそうだ。

呆れるように頷く老婆と、棚ぼたがあれば評価が上がりそうな仕事を受けて喜ぶ若者。

さっそく防護柵の補修担当と相談を始める様子をちらと見ながら、たまたま会議室に訪れていたチャンピオンが警備に聞く。

 

「周囲を探索したと言っていたが、どのくらい見たんだい?」

「はっ。えー、そうですね」

 

いきなりチャンピオンから声を掛けられて、少し緊張した様子の警備担当が報告書を捲りながら答える。

高揚した様子ながら真面目に報告しようと、焦りながらも若干固めな言葉が続く。

 

「岩場の周囲を3人、柵の外に人が通った形跡がないかを2人ほどで確認しました。内側には岩場以外に足跡、戦闘痕、大岩の移動の形跡などが見当たらず、外に何度か人が通った形跡が見受けられました」

「闘技場も見たとのことだが、どんな様子だった?」

「静かなものでした。人の形跡はなかったため、奥に進んだようには見えませんでしたが」

「戦ったような跡は無かった?」

「ポケモン同士の戦闘痕はありましたが、確認したところ岩場のものよりは古いようです」

「そうか。ありがとう」

 

嬉しそうな警備担当を見送って、チャンピオンはもう一度地図を見る。

不便な侵入位置、連戦の跡、静かな闘技場、消えた侵入者。

岩場での連戦は意図しないものだったのだろうか。

たまたま遭遇したのか、親の虎の尾を踏んだのか。

もしくはそれさえも狙ってここから入ったのか。

 

そして、一つの目的地は静まり返ってしまったこの闘技場だったのかもしれない、とも推測できる。

わざわざここから入ったのは、単純に最短距離で、あの闘技場に訪れたかったのではないか、と。

しかし情報が足りない。

いや、意図して情報を残していないのだろうとは思うが。

戦闘狂いと言われる私の妄想だけでは証明はできないだろう。

 

ただ、どうにも笑みが浮かんでくるのは止められなかったようだ。

そわそわとした動きと、その笑みを怪しまれて、老婆から声を掛けられてしまう。

これではいけないと、「何でもない」と老婆に返して、意識的に気を落ち着けながら、夜を楽しみに待つことにした。

おそらくまだ中に居る侵入者の、次の目的地を思い浮かべながら。

 

――

 

セキエイ高原で採取される特殊な鉱石群は様々なアイテムに加工される。

時に力の入れ物として、時にそれ自体が持つ特殊な力を使って。

その用途は多岐に渡り、故に手に入れようと試みる者が後を絶たない。

リーグ本部がここに建てられ、四天王やチャンピオンが常駐している理由も半分はこの土地の警備にある。

貴重で価値ある資源を守るため、また違法アイテムの製造を抑制するため、盗掘には厳しい罰が課せられている。

 

しかし、それと同時にここをトレーナーの頂点と銘打ってしまったことで、大勢のトレーナーが盗掘とは別に侵入を試みるようになってしまった。

自分の実力ならチャンピオンと戦える。

苦手なタイプ以外なら十分殿堂入りする実力はある。

私の得意なタイプなら四天王の彼を確実に倒せる。

 

一度でも戦ってもらえば分かるはずだ。

 

そんな理由を付けて、リーグが指定したジムバッジを揃えずにチャンピオンリーグに訪れて、門前払いされる者は多い。

中には追い返された後に、関所を通らず違法に侵入しようとする者も少なくない数居るのだ。

そういうトレーナーは大抵、常に見回りをしているリーグ所属のトレーナーや、武者修行と称して野良と戦闘を繰り返すトレーナー達に叩きのめされて、自信を失って帰っていく。

有名税のようなものと、皆がその状態に慣れてあまり侵入者に注意を向けなくなっているのが現状なのだ。

 

――

 

チャンピオンは待っていた。

月が明るい夜、薄く照らされる暗闇に、侵入者が現れる時を。

 

「こうして顔を合わせれば分かる。君は野良に追い返されるような実力じゃないな」

 

二つ目の目的地と予想した、チャンピオンロード深部の『炎鳥の間』と名付けられた場所。

かの時の炎に煽られて黒ずんだままの岩壁に恐れを抱くのか、それとも野良にも分かるほどの存在感のようなものが残っているのか。

かつて伝説が住処としていた、今もポケモン達が近づくことを躊躇う場所だ。

外に繋がる大穴からの月光に淡く照らされて、武骨な地下空間に人の輪郭が浮かび上がる。

 

「闘技場の静けさも、君の実力を見てあの戦闘狂たちが大人しくなったという証明だろう」

 

ここに外から訪れるなら、件の侵入箇所から入るのが一番早い。

採掘できるような場所でもなく、すでに伝説が居ないことも公表されている。

そんな場所に訪れる理由が無いからこそ、他の者は気にしなかったのだろう。

だが、何故かは分からないが、チャンピオンの勘とも言うのだろうか。

一連の状況を見た時に、ここで待っていれば会えるという予感がしたのだ。

 

連戦を物ともしない実力を示し、無暗に戦うことはしないと伝えられ、人もポケモンも来ない目的地を指定された。

これで答えなければチャンピオンの名が廃るというものだろう。

皆には申し訳ないが、警備に伝えて多勢で捕らえるなどと言う無粋をする気はない。

目の前まで来ておいて四天王に敗れる挑戦者は多いのだ。

そういう役割だと分かってはいるが、この煮え滾った欲に、久々の明確な誘いがあれば、ただ待ちきれない思いを抱くのは当然のことだろう。

 

「さあ、君が望むバトルをしよう!」

 

四天王にも匹敵するほどの躊躇ない圧は、飢えた私にとって心地よい挑発でしかない。

無言で構えるボールを見れば、どんな戦いを求めているかは分かっているつもりだ。

チャンピオンとして、トレーナーとして、先達の一人として。

一切の手加減なく、その全てを込めて。

 

全力で相手をしよう。

 

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