前回の続きになります。
それではどうぞ。
燐子がピアノを始めた切っ掛けは、とあるコンサート。
母に連れられて行ったコンサートで見たピアニストの演奏が素敵で……
自分もあんな風にピアノを弾いてみたい。そう思った燐子は両親に頼んで、ピアノ教室に通わせてもらっていた。
「……!」
「凄い、燐子ちゃん! そんなに難しい曲、もう弾けるようになったの!?」
「はい……たくさんれんしゅうしました……」
驚いている表情をしてるピアノ教室の先生に答える燐子。今の曲が弾けるようになるまで、たくさん練習したのだ。
「燐子ちゃんは本当にピアノが大好きだね。楽しそうに弾いてる燐子ちゃんを見てると、先生も楽しくなっちゃうな」
「えへへ……」
先生に褒められた燐子は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「その曲が弾けるなら、もっと大きなコンクールに出られるよ。ね、よかったら挑戦してみない?」
「こ、コンクールは、えっと……」
コンクールに挑戦してみないか?と先生に言われ燐子はちょっと戸惑った。
「大丈夫。燐子ちゃんは色んなコンクールで賞を取ってるんだし、大きなコンクールでも上手にピアノを弾けるよ」
「は、はい……」
こうして燐子はコンクールに挑戦してみる事になった。
◇
「少し意外ね。コンクールなんて、燐子はもっと嫌だと思っていたわ」
その話を聞かされた友希那は、少し意外だと感じた。今の燐子とは想像もつかないから。
「嫌じゃなかったわけじゃないです……人がたくさんいるので……」
あの頃もすごく怖い場所だと思ってましたと話す燐子。
「でも、コンクールに出て頑張ると……みんな喜んでくれたんです……お父さんやお母さん……ピアノの先生……ゆうりくんも……」
「その頃から、悠里と知り合いだったの?」
「そうですね。ほんとはもっと前から知り合いだったんですが……その頃は、わたしの人見知りが酷くて、ゆうりくんに迷惑をかけてしまったかもしれません……」
「寧ろ、そんな事ないって悠里は言うと思うけど」
そう言い切る友希那。根拠としては自分も悠里の幼馴染みだし、当時の性格も理解している。それを聞いた燐子も苦笑いで返す。
「それが嬉しくて……苦手なコンクールにも……あの頃はよく参加してました……」
「そうだったの……」
「でも、あの頃のわたしは……大きいコンクールに出るのが……どういう事か分かってなかったんです……」
会場が母に連れられて行ったコンサートのホールぐらいの大きさ……そして、いつも弾ける筈なのに、間違えてしまい、最終的に続きすらも分からなくなってしまったのだと燐子は友希那に話した。
「……そう。そんな事があったの」
「あれから怖くなって……コンクールに出るのは……やめてしまったんです……でも、Roseliaに入って……わたしも少しずつだけど……変われてる気がしてたんです……」
今ならコンクールにもちゃんと向き合う事ができる……そう思っていた燐子。
「コンクールに出るのは……まだ早かったみたいです……」
「燐子……」
「実は……わたしが出る予定のコンクール……子供の頃、失敗したコンクールなんです……」
燐子が出場する予定のコンクール……実は子供の頃に失敗したコンクールなのだ。
「もう一度……あのコンクールに出て……最後まで自分の演奏をできたら……ひとつ……何かを乗り越えられる気がしてたんです……」
だが、例の曲を弾いてると当時の事を思い出してしまうのだ……
今も覚えてる。たくさんの人の……ガッカリした顔を……
「わたし……全然変われてないですね……」
「そんな事情があるなら、今回は見送る事もできると思うわ」
「そ、それは……したくありません……」
友希那の言う通り、そういう事情なら今回のコンクールは見送る事もできる。だが燐子はしたくなかった。
「どうして? またあの時のように失敗してしまうかもしれないのよ?」
「そ、そうかもしれません……でも、逃げてしまったら、結局何も変わらないから……」
「……」
燐子の言葉を聞いた友希那が口を開く。
「あなたは全然自分は変われていないと言ったけれど、それは間違いね」
「え……?」
それは間違いだと指摘され、燐子は驚く。
「逃げない事を決めた。それだけでも
「そ、そうでしょうか……?」
「ええ、それも勇気がいる事だもの」
自信がなさそうに訊く燐子に変わったと言い切る友希那。
「あの、友希那さん……ひとつ質問をしても……いいですか?」
「ええ、構わないわ」
「友希那さんは……ステージに立つ時……プレッシャーを感じたりはしないんですか……?」
個人的に気になっていた事を友希那に質問する燐子。ステージの上には色んなプレッシャーがあると燐子は思っているからだ。
「そういうものを感じた事はないわ。オーディエンスの目を意識していないわけではないけれど……」
誰かの期待に応える為にステージに立っているわけじゃない。友希那はそう続けながら……
「自分自身の……Roseliaの音楽をする為に立っているのよ」
ただ目の前にあるその事を考えていたら、他の事は自然と目に入らなくなるわと付け足しながら、燐子の質問に答える友希那。
「……!(氷川さんが教えてくれた……正射必中の考え方に似てる……)」
それは以前、紗夜から教わった『正射必中』の考え方に似ており、友希那はその考え方を自然にでき、ステージの上でも迷わずに自分を貫く事ができる人なんだなと燐子は思った。
「燐子、私からも質問をさせて」
「え? は、はい……」
友希那から逆に質問されると思ってなかった燐子は少し緊張する。……何を訊かれるのだろうか?
「あなたは何の為にピアノを弾くの?」
「それは……その……」
その質問に燐子は、答えが浮かばない……というより、直ぐに答える事ができそうになかった。
「ご、ごめんなさい……直ぐには答えがでません……」
「直ぐに答えを出す必要はないわ。ただ、もっと自分の気持ちに寄り添ってみて」
しかし友希那は、もっと自分の気持ちに寄り添ってみる事で、燐子が探している答えはそこにある筈だと彼女に伝えるのであった。
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