人界の守護者がダンジョンに来るのは間違っている!?   作:リーグロード

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1話でランキング入りと赤バーで嬉し泣きしそうです!
これからも続けていくつもりなので、とりあえず2話目を投稿!!


世界がふたりを分かつとも

 

 元ニューヨークたるヘルサレムズ・ロット。そこは日夜、異常が日常であるイカレた世界。

 そこでは世界を揺るがしかねない大犯罪や大事件が蛆のように湧いて出てくる。

 

 そんな巨悪と立ち向かい、世界の均衡を護る組織が存在する。

 それが超人秘密結社ライブラ。クラウス・V・ラインヘルツを筆頭とし、数多の超人達が世界を救う為に暗躍していた。

 

 だが、そんなライブラはかつてない程に追い詰められていた。

 その原因は、組織のリーダーにして屋台骨ともいえるクラウスの失踪。

 

 現在、生きているのか死んでいるのかさえ不明の状態。

 なにより、その場にいたメンバーの士気が大きく下がったのが致命的だった。

 

 それでも、世界の危機が起こったのなら尻を蹴り飛ばしてでも駆けつけるのがライブラの一員だ。

 だが、事務所に戻れば皆が意気消沈となってしまい、ソファーや机といったものに突っ伏しては動かない。

 なんとか、ザップが気丈に振る舞いながらも葉巻を吸うだけで、会話らしい会話がされない。

 

 無論、ライブラに所属する誰もがクラウスの生存を信じている。

 だが、心の何処かで不安を感じているのは隠しようがない事実だった。

 そんな重苦しい雰囲気の事務所に突然の来訪者が現れる。

 

「やあ、こんにちは。意気消沈のところ失礼するよ」

 

 現れたのは術士協会。通称LHOS(レオス)のNY(ニューヨーク)支部代表の調停者。コードネーム長老と呼ばれている眼鏡をかけたおじさんだった。

 そんな来訪者を出迎えたのは、頬が瘦せこけ、今にも倒れそうな幽鬼じみた人相になっているスティーブンだった。

 

「お久しぶりです、長老。それで調査の方はどうでしたか?」

 

「ふむ、結論から言わせて貰うと一切の痕跡を辿れなかった。まるで煙に巻かれたようなものだったよ」

 

「そんな……」

 

 一縷の望みに賭けて頼んだ、長老の魔術(アーツ)によるクラウスの痕跡を辿る追跡は失敗に終わった。

 その絶望は凄まじかったようで、スティーブンは膝から崩れ落ちるようにその場に倒れ伏した。

 

「おいこら、クソ親父!旦那を見つけられねえとはどういう了見だ!!」

 

「ちょっ、ザップさん!?」

 

「何しようとしてるんですか、あなたは!?」

 

 今にも殴りかかりそうなザップを、レオナルドとツェッドが止めに入る。

 それを気にすることなく、長老は調査結果の詳細を説明を続けた。

 

「はっきりと言うとね。君達が敵対したその血界の眷属(ブラッド・ブリード)。まさに、人外にして天才だよ。空間術式という高位の術式を封印される直前に編んだというのに、その繋いだ次元の先の痕跡をこうも見事に隠せるのは正直言って脱帽だ」

 

 長老は、どこか自虐的な笑みを浮かべながらそう語る。

 それに対し、ライブラの空気はさらに重くなる。

 

「ああ、でもね。クラウス君の身の安全は保障できんが、そう危ない事態にはなってはいないんじゃないかな?」

 

「っ!それはどういうことですか、長老?」

 

「実はね、我々も調査に向かった当初は、クラウス君が飛ばされた次元の先は永遠の虚の奥底か、真っ当な生物では生存出来ない危険地帯のどちらかだと考えていたんだがね。とりあえず、これを見てほしい」

 

 長老が持っているカバンから一枚の図式を取り出した。それは素人が一見しただけではどういう物かは判断できない。

 実際、ザップとレオナルドはそれがどういう意味を持つのか分らずに、ちんぷんかんぷんといった様子をみせたが、スティーブンは持ち前の頭脳でその図式を解析してみせ、驚愕した。

 

「こ、これは!?長老!!」

 

「うむ、これはあの現場に残っていたクラウス君が飛ばされたであろう次元の先の残り香のようなものを解析したものだ。その結果、クラウス君が飛ばされた先は恐らくはどこかの森林地帯であると推測が立てられる」

 

 その言葉にスティーブンは今にも死にそうだった顔色から若干の生気が戻った。

 

「そうか、ならよかった。飛ばされた先で即座に即死という状況じゃなければ、あいつは必ず生き残る!」

 

「そうだね。彼は僕が知る人類の中で最もタフな男だ。生きてさえいるのならばきっとここへ帰ってこれるだろう」

 

 スティーブンのクラウスへの信頼に長老も同意し、クラウスが生きて戻ってくるという希望的観測が出来た事によって、ライブラの空気が再び前向きなものへと変わる。

 

「ひとまず、一縷の希望は出来たわけか……」

 

 必ず生きて帰ってみせろ、クラウス。

 それまでは、僕がこの場所を、僕らが世界を護っておいてやるからさ。

 

 

 一方、異世界へ飛ばされたクラウスはどうなったかというと……。

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦

 

 

 

 こちらの世界では、あの日の誓いを交わした夜から数年の月日が経った。

 

「せい!とりゃ!!はぁっ!!!」

 

「いいぞ、ベル君。その調子だ」

 

 昼下がりの草原で木刀を持ったベルを相手に稽古をつけていた。

 傍から見れば微笑ましい光景ではあるが、まだ幼い顔つきのベルの動きはとても子供らしいというにはほど遠く、その剣の太刀筋や相手の死角に回り込もうとする足さばきなどは下手な下級冒険者以上の動きであった。

 

 だが、そんなベルの攻めをクラウスは素手で余裕をもって受け流しながら、時折動きの無駄な部分や隙の出来た箇所を怪我しないレベルで反撃してベルに学習させる。

 

「ほら、脇が甘い!」

 

「いてっ!?」

 

 ベルはクラウスの見せたフェイントにやられ一手遅れたところを狙われてしまい、頭にポコッ!っと軽い攻撃を入れられてしまう。

 軽い攻撃とはいえ、ゴリラのような体格をしたクラウスの攻撃が弱い筈もなく、ベルは頭を抑えながら苦痛の悲鳴を耐えている。

 

「今日の稽古はここまでにしておこう。ベル、悪いが今日の昼飯の用意を頼めるかな?」

 

「?はい、分かりました。今日もありがとうございました、クラウスおじさん!」

 

 いつもならば一緒に食事の準備を手伝ってくれるクラウスの頼みに疑問を浮かべながらも、今日の稽古をつけてくれた礼を言って家へと戻っていった。

 

 それを見届けると、遠くに生えている木に向かって声をかける。

 

「さて、そこで見ているのだろう、ヘルメス」

 

「いや~、気づかれていたか。未来の2人の英雄の邪魔をしないようにと隠れて見ていたんだけどもね」

 

 どこか胡散臭い顔をした軽薄そうな男が木の陰から現れた。

 

 この男の名はヘルメス。我が主神であるゼウス様の使い走りとしてこの地に現れたのが交流の切っ掛けだった。

 当初は互いに社交辞令めいた接し方だったが、豪快気質なゼウス様の無茶ぶりもあって、今では互いに砕けた喋りが出来る間柄になっている。

 

「本来なら、客人に対して茶の一杯でももてなしたいところだが……」

 

「いつもお心遣いどうも。でも、生憎とそうゆっくり茶を飲む暇がなくってね。気持ちだけはありがたく受け取っとくとするよ」

 

 残念だと言いたげに帽子を弄りながら懐から数枚の紙束を差し出してくる。

 それを私が受け取り、書かれた内容を速読していく。

 

「ふむ、そうか……」

 

 そこには現在のオラリオの情勢や周辺諸国の問題、更には現代まで残っている古代のダンジョンから地上に進出したモンスターの事が記されていた。

 おおよそ内容は、私が予想していた通りのものであった。

 

「俺の眷属は優秀でね、戦闘はそこそこだけど、裏方仕事や情報収集ならオラリオの中でもトップクラスだ。これくらいの情報は朝飯前さ」

 

「いや、実に役に立った。ぜひとも、あなたの眷属達に礼を伝えておいて欲しい」

 

「はは、ゼウス最後の眷属からの礼とくれば、あいつらも嬉し泣きするだろうさ」

 

 今頃、連日の調査や暗躍で疲れてぶっ倒れて恨み言を延々と零してあるであろう自身の眷属の姿を思い浮かべながら、ヘルメスは愉快に笑う。

 

「それで、もうそろそろいいんじゃないか?」

 

「……ベルのことか」

 

「勿論さ、さっきも隠れて見ていたけど、あれはもう立派に冒険者の動きだった。かつてゼウスはベル君には冒険者に向いていないと言っていた。しかし、君という英雄が隣に立つことで彼は大きく成長した!!」

 

「だから、もうオラリオに連れていってやれと」

 

 私の言葉にヘルメスは頷き、肯定を示す。

 確かに、ベルの成長速度は目を見張るものがある。

 彼は愚っ直なまでに素直で純粋だ。だからこそ、師の教えに疑うことなく、真剣に取り組んで成長していく。

 それはまるで乾いたスポンジに水を与えるかのようで、私の教えをすぐさま己の力に変えていく様は目を見張る思いだった。

 

 しかし、そんな彼の性格だからこそ、未熟なままオラリオへと連れていけば大きな挫折は避けられないだろう。

 それこそ、そこで挫折してしまえば、ベルは二度と立ち上がれないかも知れない。

 過保護と言われるかもしれないが、それが未だ師としては未熟者である私の噓偽りのない思いだった。

 

「……約束は違えぬさ。だが、ベルを連れて行くのはもう少し成長してからだ」

 

「そうかい……なら、それを楽しみにしているよ」

 

 私の答えにヘルメスは納得したのか、それ以上何かを言ってくることはなかった。

 もう用事は終わったとばかりに去ろうとしたヘルメスが足を止めて振り返る。

 

「そうそう、これは個人的な話だけども……」

 

 唐突にヘルメスが思い出したように話し始める。

 

「君はまだ世界を救うつもりかな?」

 

「無論だとも、私はあの日の誓いを忘れたことはない!」

 

 その真っ直ぐで揺るぎない声には嘘偽りの類いは一切混じっていなかった。

 そして、クラウスがそう言い返すであろうことは、ヘルメスが以前からよく分かっていることだ。

 しかし、ヘルメスが本当の意味で聞きたかったのはそうではない。

 

「ああ、すまない。言葉を付け足し忘れた。君は今でも世界を救って元の世界に帰りたいのかい?」

 

「それはどういうつもりで言っているのか?」

 

 質問の意味が理解出来ずに問い返す。

 

「なぁに、ゼウスに君を紹介されてはや数年、君の世界のことも聞かされてよく知っているつもりだ。だからこそ、あんなデタラメな世界が未だに無事だとでも?特に、君が元いた組織が君無しで今もまだ存続しているだろうか?」

 

「ああ、そういうことか……」

 

 なるほど、ヘルメスが言わんとしていることは理解出来た。

 つまり彼は、私の世界を救う動機がもう既に無意味なものになっているやもしれないと考えているのだ。

 

「確かに、あの世界は常に滅亡と隣り合わせの日々を送っている。だが、そんな心配は無用だと言っておこう。例え私という存在がいなくなろうとも、世界を護り続ける使命を持つ彼らが挫けることも、敗北することもない!!」

 

 これは信頼や信用という話ではない。ライブラである以上、確定事項である。

 

「なるほど、野暮なことを聞いたみたいだね」

 

「いや、君がそう考えるのも無理からぬことだ。あそこはそういう世界だからね。だが、1つ訂正して言っておくなら、ライブラの存続は私よりも我が副官であるスティーブンが消えた方が重大な損失だ。だからこそ、私は彼を助けこの世界に来たのだ」

 

 そう、彼がまだいるのならばライブラは決して負けはしない。

 

「いやはや、随分とその彼は君に信用されているみたいだね。俺も思わず嫉妬してしまいたくなるよ」

 

「ははは、彼は優秀な男だからな。その分、色々と苦労も背負わさせてしまっているがね」

 

 特に世界の存亡を賭ける戦いでは誰よりも苦労を掛けてしまっている。

 本来なら、ここは我々に任せて休みたまえと言ってやりたいところだ。

 だが、それでも頼ってしまうぐらい彼は優秀で、いつも共に私の隣を歩いてくれる為に、つい私の抱える重荷を一緒に背負って貰ってしまっている。

 

「本当に、久しく会いたいよ、スティーブン」

 

 遠く、それこそ世界を跨ぐ程に遠くの空に向かって小さな弱音を零してしまう。

 だが、それで歩みを止めはしない。逆により前へと進まねばと心が───魂が燃え上がる。

 

「君が未だ折れずに戦える理由が少し理解出来た気がするよ」

 

「ええ、自分の帰りを待つ者がいる。それだけで人は立ち向かい続ける勇気が湧くのだ!!」

 

 自分の為ではなく、誰かの為に力を発揮できる人間のなんたる尊いことか。

 神であっても、その精神性は清らかな善人であらずとも、調停者としての善性を持ち、そういった理由を抱えて偉業を成した英雄を知るヘルメスだからこそ、クラウスの言葉の重みがよく分かった。

 そう、彼らのような存在はそれこそが何より大切なのだ。

 自分の為に力を振るうという行為は彼らからすれば偽善であり欺瞞でしかない。

 だからこそ、ヘルメスはクラウスがこの世界で目的を達し、元居た世界に帰れることを1人の神としてではなく友人として願っている。

 

「じゃっ、そろそろベル君も昼飯の用意が済んで呼びに来るだろうし、俺はここらでお暇させてもらうよ。……元の世界へと帰れることを神としてではなく友人として応援しているよ、クラウス」

 

「ああ、ありがとう。私も君の声援に報いれる働きはしてみせるさ。私は必ず元の世界へと帰還する。ゆえに、手始めに世界を救うのだ!!」

 

 

 

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