人界の守護者がダンジョンに来るのは間違っている!?   作:リーグロード

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女神は我が主神の姉

 ギルドのトップである創設神ウラノスとの顔合わせを終えたクラウスは早々にベルと合流するでもなく、市街地の屋台等を見て回っていた。

 

「やあ、すまない。これとこれを貰おうか」

 

「へい毎度、兄ちゃん見ない顔だけどもしかしてこのオラリオに来たばかりかい?」

 

「む、そうだが、何故お分かりに?」

 

「そりゃ、兄ちゃんみたいな目立つ図体してる奴はこのオラリオでもそうはいねえからな!」

 

「なるほど、そういう訳か。なら、ついでに最近何か大きな事は起こっていないかな?もしそういった面白い事を聞ければ、今晩の夕食が少々豪華になるのだがね」

 

「ははは、兄ちゃんも口が上手いな。うっし、それじゃとっておきの噂話があるんだがどうだ!」

 

 そうやって外からでは得られないであろう、オラリオの住人ならではの情報を仕入れながら、今日の夕食の食材を買って回っていく。気づけば日が沈みかけ夕暮れ時の時間に差し迫っていた。

 前を見るのも困難になりそうなほどに買い物をしたクラウスは取っていた宿に帰ると、まだ部屋にはベルは帰ってきてはいなかった。

 

「ふむ、まだ帰ってきてはいないか。入団したファミリアとの歓迎会で遅れているのならばまだいいが、何か事件に出も巻き込まれでもしていたら……」

 

 ベルの強さは一般人相手ならば万が一の心配はないが、ここはモンスターと常日頃から戦い続ける冒険者が集う都市。

 数年前は暗黒期と呼ばれる時期には、闇派閥やそれに近しい犯罪組織紛いのファミリアも多く潜んでいたとヘルメスから聞かされていたクラウスは部屋に戻って早々に荷物だけ置いてベルを捜索しようとすれ違いにならないように一筆だけ書き置きを残して宿屋を後にする。

 

 まだ夕焼けが微かに地上を照らしているとはいえ、空は夜空になりかけ、建物から魔石灯の明かりが漏れるような時間だ。

 街ゆく人々の殆どが仕事を終え、これから自分の食を満たすために屋台や酒場で腹を満たそうとする者たちが行き交い始めている。

 

「この時間でも一般人と思える者も多く出歩いているところを見るに、治安の悪さは心配無用か?」

 

 とはいえ、路地裏など人目につかない場所にこそ悪事を働く人間が待ち構えているのが道理だ。

 それにベルは今日初めてこの都市に来たばかり、土地勘の無さから人通りから外れた道を踏んでトラブルに巻き込まれてはいないという保障もない。

 なにより、何故か分からないが、あの子は面倒なトラブルに巻き込まれやすい体質をしている。

 ヘルメス(いわ)く、そういう面倒事と遭遇する者程、英雄になりやすい。つまるところの、生粋の英雄体質というものらしい。

 

「だが、保護者として目の届かない場所で面倒事に巻き込まれているのは胃と心臓に悪い」

 

 ある程度、路地裏など人の寄り付かなそうな場所を回ってみるが、ベルの痕跡は見つからず、失礼を承知ながらにギルドでベルが紹介されたファミリアを1つずつ聞き込みして回ったが、その結果として分かったのは、どのファミリアもベルを受け入れなかったということだ。

 

 理由は大まかに3つ。1つは大手だから入団したら将来安泰といった考えでやって来る者を拒否しているから。

 ベルは確かに強くなる為に日頃からクラウスと訓練をしてはいるが、神から恩恵を貰ってステイタスを上げていたわけではない。

 この世界では強さ=レベルやステイタスの数値というのが一般で、なんの実績も持っていない恩恵無し(素人)を歓迎するような大手のファミリアはまずいない。

 

 2つ目はベルの第一印象だろう。鍛えたベルの肉体はヒョロッとしたものではなく、ガッシリとした体つきになってはいるが、ここオラリオではその程度の体つきの者は見渡せばチラホラと見受けられる。

 それに、ベルは未だ成長期だからすぐ身長も伸びると考えてダボッとした服を着せていた為、見た目では分かりづらくなっているのも不採用に拍車を掛けているのだろう。

 

 そして3つ目として、今は入団員を待っているファミリアがいない、いうなれば時期が悪かったということだ。

 有力候補であったロキファミリアも遠征前ということで、余計な事に気を回したくないという考えで暫くは入団を拒否しているようだ。

 

「少々、予想外の展開だな。1つ2つならばそういった事態もあり得るだろうと思っていたが、まさか全滅とは……」

 

 こんな事態を予想していなかったが為に、ベルがどういった行動を取るか考えていなかった。

 有り得ないだろうが、自暴自棄になったベルが実績作りの為に恩恵も無しにダンジョンに挑む可能性もあるやもしれん。

 

「念の為、ダンジョンの警備を任されているガネーシャファミリアの者に聞き込みでもしてみるか……」

 

 もし、ベルがダンジョンに向かったのであれば警備を担当しているガネーシャファミリアが把握しているかもしれないとダンジョンの方に向かう最中、それらしき人影を見かけた。

 

「あの後ろ姿は……ベルか?」

 

 夕暮れ時ではあるが、見間違えるような距離ではない。その姿は間違いなく探し人そのものだった。

 よくよく観察してみれば、通行人に何やら聞き込みをしている様子だった。

 どうやら、初めての都市で道が分からず迷子になっているのだと解釈したクラウスはベルの元まで赴き、声を掛ける。

 

「ベル、ここにいたのか」

 

「クラウスおじさん。ご、ごめんなさい。道に迷ってしまって」

 

「構わないさ、それよりもファミリアの方は残念だったが……」

 

「あっ、そうです!クラウスおじさん。実はボク、眷属にしてくれる神様が見つかったんです!!」

 

「っ!そうか、それは良かった」

 

 ベルはファミリアではなく神様が見つかったと、確かにそう言った。

 それはつまり、ファミリアの入団に全滅したベルを見つけた神が眷属にする誘いを掛けたということになる。

 

 私は知っている。この世界で神は尊ぶべき存在であると同時に、最も警戒するべき存在であると。

 神は人間の味方であるが、信用できる神もいれば、するべきではない神も存在する。

 それを私はゼウス様とヘルメスから学んだ。

 

「その神はどこにいるのかな?」

 

「えっと、神様ならこの先の教会にいますよ」

 

「教会に?」

 

 すでに神が下界に降り立って天界にいる神へ祈りを捧げる教会は廃れたと聞いている。

 それもこの神々が集う都市オラリオで教会にいるという神。善神か悪神かは分からないが、厄介事の気配がするな。

 

「とりあえず、私もベルの主神に挨拶をしたいのだが、どうだろうか?」

 

「そうですね、きっと神様もそれくらいは許してくれると思いますよ」

 

「では、案内しては貰えないだろうか?」

 

「分かりました」

 

 ベルに導かれるまま、辿り着いたのは寂れた小さなオンボロ教会だった。

 これはもはや教会というよりも廃墟と呼ぶに相応しい惨状だ。

 

「本当にここで合っているのか?この廃墟で」

 

「はい、神様はここにいるって仰っていましたから」

 

 まさかこんな場所に神がいるのは信じ難い事だが、ベルの言葉に嘘は無いようだし、とりあえず挨拶は大事だろう。

 ベルが教会の扉にノックして、神様を呼ぼうとすると中からドンガラガッシャン!!と何かが暴れ回る音と一緒に、可愛らしい女の子の声が響き渡る。

 そして、私はベルを扉の前から数歩後ろに下がらせると、次の瞬間に扉が勢いよく開いてツインテールの童顔の女神が現れた。

 

「ベルくん、ようこそボクの教会へ!って、そこの大柄の君は誰かな?」

 

「挨拶が遅れて申し訳ない。私はクラウス・V・ラインへルツといい、ベルの保護者をしている者です」

 

「そうかそうか、君がベルが言っていたお師匠さんだね。僕も自己紹介しておこうか、僕は炉の女神ヘスティア、これからベル君共々よろしく頼むよ!」

 

 君みたいな奴がいるなら安心といった顔でバンバンと胸を叩いてくる女神に微笑ましさと母が近くにいるような安心感が湧いてくる。

 これがこの女神の持つ神性、これならば恐らくは悪神の類ではないかもしれないだろう。

 

 だが、神には容易に人を騙し、唆し、欺くのを得意とする者もいる。

 容易く信じ込んでしまった結果、気がつけば骨の髄までしゃぶりつくされてしまっていた、なんて未来もあるかもしれない。

 

「どうしたんだい?」

 

「いや、ベルが貴方のような神に拾われたことに安心してしました」

 

「いや〜、そう言われると照れるな〜」

 

 だが、この目の前で顔を赤らめて照れ臭そうに鼻を擦っているこの女神が邪悪な神ではないと思っているし、ベルがこの女神に拾われたことに安堵しているのは本当のことだ。

 

 人は疑えばどこまでも疑ってしまう生き物だ。大事なのは自分の中で信じたい物を信じ抜き、その選択を後悔しないように生きるのだ。

 私はヘルメスのように腹芸は得意ではない、嘘や偽りを見抜くことも苦手としている。ならば素直に信じてみるのもまた一興だろう。

 

「さあ、こんな所で立ち話もなんだから、ボクのホームに入りなよ。歓迎するぜ!」

 

 グッ!と親指を立てて中に入ろうと言ってきたヘスティアはクラウスたちを手招きして中に招こうとする。

 ここまでお膳立てをされて断るのも無礼だろうと、クラウスたちはお言葉に甘えさせてもらうことにした。

 案内されるまま中に入れば外見通り、中も長年放置されていたのだろうと容易に想像できるほどに朽ちていた。

 

「これは、また随分と……」

 

「あっはっは、こんな有り様だけど、地下の方はまだマシだから安心して……あ~、クラウス君はちょっと入れるか怪しいな」

 

 確かに、見れば地下へ通じる隠し扉はクラウスの体格を考えれば狭く小さかった。

 

 しかし、流石に客人をここで待たせて地下へ行く訳にもいかず、ヘスティアはここでベルを眷属にする儀を始める。

 私のせいで態々固い床で寝そべさせることに申し訳ないが、ベルは笑顔で大丈夫ですよと言ってくれた。

 ヘスティアはベルの背に跨ると、自身の血を垂らして恩恵を授ける。

 

「ふっ、ふぇぇぇ~~~!!?なんだいこりゃ!?」

 

 刻まれた眷属のステイタスがトンデモないものになっていた。

 

 ベル・クラネル

 

 

 

 Lv.1

 

 

 

 力:I0

 

 

 

 耐久:I0

 

 

 

 器用:I0

 

 

 

 敏捷:I0

 

 

 

 魔力:I0

 

《スキル》

 

【世界を救う者の卵】

 ・世界を救う意思を持ち続ける限り、ステイタスに補正がかかる。

 

【英雄の弟子】

 ・英雄からの指南に補正がかかる。

 

 

 

 初めて恩恵を貰った者が2つものスキルを所持している。それも、どちらも聞いたことがない。これは間違いなくレアスキル。

 もしこれをどこぞの愉快な神が知れば、我先にとベルを誘拐するかもしれない。

 隠すべきか?いや、ベル君はともかく、このクラウスって子に隠し事は通じなさそうだしな……。

 

「神ヘスティアよ、ベルの事情は私も知っている。だから、そう気にしないで欲しい」

 

「……なにか特別な事情があるってことだね」

 

 このステイタスは明らかに異常、普通ならば有り得ないと、ヘスティアはベルのスキルについて考えを巡らせていると、クラウスがさりげなくヘスティアの肩に手を当ててそう声を掛けてきた。

 なるほど、それ相応の事情があるということか。ならば、今はそれは聞かないでおくとしよう。

 

「分かったよ。なら、今は何も聞かない。そういえば、クラウス君はオラリオの外の神の眷属らしいね。何処の神なんだい?」

 

「ええ、私の神はかつてこの地でも活躍なされた、神ゼウス様です」

 

「ゼ~ウ~ス~?」

 

 主神の名を聞いた途端に、ヘスティアは嫌そうな顔をしながら神ゼウスの名を口にした。

 その名を挙げた途端にヘスティアの表情が嫌そうに変わったのを、クラウスは見逃しはしなかった。

 

「我が主神とお知り合いで?」

 

「……ゼウスはボクの弟さ。だからアイツの事はよ~く知っているさ、どうしようもない女好きの愚弟だよ」

 

 プンプン!と可愛らしく怒るさまは確かに姉らしさが感じられた。

 

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