リーニエと燕を斬る老爺   作:ハソユア

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2-3.師弟対決(Ⅰ)

 

 一級魔法使い試験は無事に終了した。

 あとは特権の授与を待つだけとなり、試験者達は合格者も脱落者も思い思いに羽根を伸ばしている。

 たまたま街で出会ったフリーレンとヴィアベルも、ヒンメルについての雑談に花を咲かせるところであった……とはいえ、ほぼ一方的にヴィアベルが話す形ではあったが。

 

 

「あ、いたいた」

 

 

 武蔵が姿を現したのは、そんな最中のことであった。

 

 

「なんだ、武蔵じゃねえか」

 

 

 フリーレンより先に反応したのはヴィアベルだ。

 彼はシュタルクや武蔵と共に獅子猪を退治した仲である。積み重ねた会話の量という点では、既にフリーレンよりも多く武蔵と接しているのかもしれない。

 

 

「悪いけど、シュタルクはここにはいないよ。フェルンと一緒にいる」

「いえ、まずは貴方に意見を聞いたほうがよさそうな話なのよね」

 

 

 武蔵のことだからシュタルクに用があるのだろう、とのフリーレンの予想に反して、話を持ちかけられたのはフリーレン自身のほうだ。

 雑談に割り込まれる形となったヴィアベルだったが、特に気分を害した様子はない。

 

 

「席を外したほうがいいか?

 俺がフリーレンに言いたかったことはもうだいたい伝えたからな」

「別に秘密の話ってわけじゃないし、そのままでいいわよ。横から入ってきたのは私の方だし」

 

 

 むしろ気を遣って立ち上がろうとしたヴィアベルを武蔵は止めた。彼が見た目や振る舞いに反して真っ当な人格の持ち主であることを、武蔵は既に知っている。何なら自分のほうがヴィアベルよりもよほど人でなしだろう、という自覚すらあった。

 腰を落ち着けたヴィアベルを見てから、武蔵は話を再開して問いかける。

 

 

「例の試験が終わって、あとは特権の授与だけなのよね。いつ?」

「そうだね……明日から時間を指定されて順番に呼び出される、って話。

 まあ受かったのはフェルンで私は落ちたんだけど」

「ということは、今日は時間が空いてるわけね。

 ちょっと提案したいことがあるんだけど……」

 

 

 そのまま武蔵が話し続けること、しばらく。

 フリーレンは顎に手を当てて考え込みながらも、頷いて提案の価値を認めた。

 

 

「……たしかに、この形式でやる機会はなかったかな。戦士が二人いる状況がなかったから、どうしてもね。

 シュタルクにも、そしてフェルンにもいい経験になる」

「面白そうだな。せっかくだ、あいつらと一緒に見物してもいいか?」

 

 

 そう言ってヴィアベルが親指を向けた先には、エーレとシャルフがいる。

 きっかけは単に一次試験で組んだだけなのだが、そのまま行動を共にし続けているあたりにヴィアベルの人柄が現れていた。

 

 

「だったら、見物のついでに審判役をお願いできるかしら?」

「よしきた。なら、さっそくシュタルク達にも話を持ちかけようじゃねえか」

 

 

 武蔵の提案に対し、当事者であるフリーレン以上にヴィアベルは乗り気な様子を見せ始めていた。

 それは単に面白そうだ、というだけではなく……武蔵について、彼なりの算段を立ててもいたからである。

 

 

 

 

 フリーレン達がシュタルク達を見つけた頃には、シュタルク達のほうもデンケンとの食事を終えて暇になっていたところであった。

 腹ごなしも兼ねて近くの森まで歩き……ちょうどよく木々が開けた広場までたどり着いたところで、フリーレンは武蔵から提案されたことを説明する。

 

 

「私たちとフリーレン様で、模擬戦……ですか?」

「そう。私と武蔵で、フェルンとシュタルクで組んで戦う。

 戦士と魔法使いのペアに分かれて戦える機会は今までなかったからね。武蔵と別れる前に経験しておいたほうがいい」

「えっと……俺とフェルンだけで? 武蔵とフリーレンに?」

 

 

 さすがに今のシュタルクは露骨に弱音を吐くまではしなかったものの、それでも困惑は隠せない。

 せめて二人だけではなく、もう少しこちらの側の人数を増やしてハンデを……そんな目つきでヴィアベル達を見るシュタルクだったが。

 

 

「悪ぃが俺達は審判役だ。

 俺は決着がついたと判断したら見た者を拘束する魔法(ソルガニール)で止める役。

 エーレとシャルフは動いていい範囲の外周を大まかに示す役な。浮いてる岩や花に触れたらその時点で負けだぜ」

 

 

 けんもほろろにヴィアベルは切り捨てた。

 

 

「まあまあ、シュタルク。いちおうハンデは用意したから……はいこれ」

 

 

 そう言って武蔵が投げつけてきたものを、慌ててシュタルクはキャッチした。手に取ったのは木製の斧……当然ながら刃などなければ切れ味もない、鍛錬用のものだ。見れば武蔵のほうも刀ではなく、木製の剣を握っている。

 今まで武蔵とシュタルクが手合わせをする際には真剣を使っていたため、この手のいわゆる「安全な」武器には触れさえもしなかった。

 

 

「それじゃあ、大まかなルールについてだけど……」

 

 

 

 

「確かに、条件としては私たちがかなり有利ですね」

 

 

 武蔵の話を聞き終えたフェルンとシュタルクは、二人で作戦会議に移っていた。

 森の広場の反対側では、同じようにフリーレンと武蔵が話し合っているのが見える。

 

 

「俺と武蔵が使うのは、この玩具みたいな木製の武器。

 フェルンとフリーレンが使っていいのは、飛行魔法と出力を下げて怪我をする心配がない一般攻撃魔法だけ、か。

 そして勝利条件は武蔵の木製の武器を壊すか、武蔵かフリーレンのどっちかに攻撃を当てる……

 なあ、フェルンって一般攻撃魔法の扱いはフリーレンより上手いんだよな?」

「はい。

 それに怪我の恐れがない程度に出力を下げる前提であれば、フリーレン様との魔力差が問題になる恐れはないと思います」

 

 

 模擬戦の条件について、一つ一つシュタルク達は確認していく。

 武器は模擬戦用の模造武器と、手加減した一般攻撃魔法のみ。フェルンやフリーレンが攻撃を受けた際の致命傷を避けるための条件ではあるが、それでも度が過ぎていると言わざるを得ない。

 フリーレンであれば相手を傷つけずに拘束する魔法など、いくらでも持ち合わせているだろう。にも関わらず、一律に飛行魔法と一般攻撃魔法以外を禁止した……これは明らかにハンデだ。

 

 

「そして武蔵様が使うことになった木製の剣の使い勝手は、あの方が日頃から身に着けているものとは異なるのではないでしょうか」

「ああ。

 俺と手合わせする時に武蔵が使ってた刀ってやつじゃなく、よく見かけるようなただの剣をモデルにした模造剣だった。

 俺のほうは普段使ってるのと近い感じの斧だけど、武蔵のほうは扱いに慣れてないだろうな」

 

 

 そしてこの世界で――少なくともこのオイサーストにおいては、武蔵の刀に近い模造刀など調達しようがない。魔族であれば別だろうが。

 故に武蔵が使う模造剣は、彼女の世界で言う西洋剣に近いものを選ばざるを得ない。弘法筆を選ばず、とは武蔵の世界の諺ではあるが……手に馴染みのない武器の使用を強いられては、例え達人であろうとも影響は避けられないものだ。

 

 

「何より一番大きいのは……俺はフェルンの戦い方を知ってるし、フェルンも俺の戦い方を知ってる。

 だけど、武蔵とフリーレンはお互いの戦い方を知らねえ」

 

 

 だがその二つよりも重要だとシュタルクが判断したのは、この組み合わせが急造でしかない点である。

 武蔵とフリーレンはあまり交流していない。ましてやお互いの実力など、ろくに把握できてもいない。そんな状態でまともに連携など取れるはずがない。

 これは武蔵に武器の、フリーレンに魔法の縛りがなくとも存在する穴だ。いくら二人が強かろうとも不可避の弱点。シュタルクは怯みながらも、内心では隙となりうる部分を計算していたのである。

 

 

「なら、作戦は決まりですね。私たち、フリーレン様たちに勝てるかもしれません」

「かもな」

 

 

 頷きあうシュタルクとフェルン。とは言え、二人の自信には温度差があるようでもあったが。

 その姿を、広場の反対側から武蔵とフリーレンが見つめていた。盗み聞きのような真似などはもちろんしていない。ただ単にやることが既に決まっているので、シュタルクたちの様子を微笑ましい気分で観察していただけだ。

 

 

「あの様子だと大丈夫そうね。

 それより、いいのかしらフリーレン。今回フェルンには花を持たせなくて」

「二次試験で(水鏡の悪魔)を相手に花を持たせたからね。

 むしろ奮起してくれるよ」

 

 

 にひひ、という表現が似合う悪い笑みを浮かべる武蔵と、穏やかとは言えやはり微笑んでいるフリーレン。

 武蔵もフリーレンも、上からの目線でシュタルクとフェルンを見ている……敢えて悪く言えば、舐めている。

 しかし。

 

 

「さて、と……

 単純な撃ち合いで遅れは取っても、今のフェルン相手ならまだやりようがあることを見せてあげようかな。

 武蔵に頑張ってもらうのが前提になるけど」

「任せて。

 私が宮本武蔵である以上、ちゃんと木剣も扱えないとね!」

 

 

 舐める理由には、相応の根拠と実力がある。

 

 

 

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