◇◆◇◆◇◆◇
した者は負け組
された者は勝ち組
されど、した者は皆、結果がどうであれ勇者となる。
配点《告白》
◇◆◇午後1時 30分
武蔵アリアダスト教導院 正面口前階段◇◆◇
放課後。
用事がある一部の生徒を除けて集まった梅組のメンバーは下りる者の邪魔にならないように階段を陣取り、一人だけ皆の前に立つネシンバラに視線を向けていた。
「それじゃあ、今日の生徒会兼総長連合会議を始めます。議題は『葵君の告白をどうやって成功させるか』。誰か、意見ある人いないかな?」
議事録係りを勤めるネシンバラの言葉に、皆は近くにいた者とで、ああだこうだと相談を始める。
そんな中、トーリは隣に座っていた三日月に問いかけた。
「なあ、ミカ。お前、告白された事あるんだろ? なんかアドバイスとかねぇか?」
『───ッ!?』
突如投下された爆弾に、一部のメンバーが驚き、三日月に彼らの視線が集まる。
「フフフ聞く相手を間違えたわね愚弟。賢弟は『される』側よ? 『する』側と一緒にしないことね」
「いやいや、それくらいは分かってるよ姉ちゃん。ただ、される側の心情も把握したら成功率あがんじゃねって思ってさ」
「なるほど。愚弟にしては考えるじゃない」
「あ、あの~……ちょっといいでござるか?」
三日月に視線を向けていた者達を代表して、点蔵が葵三姉弟に問い掛ける。決して、周りから任された訳ではない。
「なんだよテンゾー。今、結構重要な所なのに」
「いやまあ、あのトーリ殿が真面目に考えていることに明日は剣山でも降ってくるのかなぁ、と思わなくもないでござるが……え? 三日月殿って、そんなにモテるの?」
「モテるも何も、ミカは昨日、下の学年の子に告白されたばっかりだぜ」
トーリの更なる投下に、一部の男女に衝撃が走る。
皆は知っていた。三日月は荷物もちを率先してやったり、助けを求められたら手を貸すなど、確かに根は優しいが、一度キレたり、本気になった時は容赦が無いことを。しかし、それは付き合いの長い彼らだからこそ知っている事実。初対面の者が見るのは優しく、小柄だが教導院の中でもイケメンの分類に入る三日月の姿なのだ。結果、多くの者が告白するのだが、
「でも、断ったんでしょ?」
「相手の事をよく知らないのに、軽い気持ちで付き合うのはダメだから」
三日月の言葉に一部の女子(※誰とは言わない)は一安心。一方、日頃から性癖と色欲全快のとある三人はそんな三日月が眩しく思えた。
「フフフ。モテたかったら三日月を見習うことね、ロリコンに姉萌え半竜に金髪巨乳推し犬臭忍者」
「ちっがーうッ! 小生はロリコンではありませんッ!」
「貴様ッ! 姉萌えをバカにすると言うのかッ!」
「てか、なんで自分だけディスられてるんでござるかッ!?」
「ハイハイ彼女いない歴=年齢の愚衆どもは放っておいて、賢弟、愚弟に何かアドバイスある?」
「「「『彼女いない歴=年齢』は言うなぁぁぁぁぁッ!!!」」」
ふくよかな男子『御広敷・銀二』とウルキアガ、点蔵の男子三人の叫びは無視して、三日月は喜美の問いかけに首を横に振った。
「俺の考えがホライゾンの考えじゃないし、それに告白するって事自体がどんな感じかよく分からないし」
「そっか。じゃあ、テンゾー。お前はなんか無いの? 回数だけはこなしているんだから、何かしら案はあるだろ?」
「ちょっッ!!? さっ、さっきから自分だけ色々と酷い扱いを受けてござらんかッ!?」
「いいから話してみ?」
めんどくせえなぁ、とでも言いたげなトーリの顔に一発全力でぶん殴りたい気持ちに駆られるが、事実なので反論できない点蔵。なんとか怒りを押さえ込み、落ち着いた所で懐からペンとメモ帳を取り出した。
彼が提案したのは手紙作戦。前もって伝えたいことをメモし、告白する代わりに手紙にして渡す。これなら失敗することもなく、相手もすぐに返事を出さなくてすむ。
点蔵が考えた気遣いも十分といえる作戦なのだが、トーリは、
「え゛ッ!? でも、それってお前の失敗談だろ? 大丈夫かよッ!」
「最っ悪でござるな貴殿ッ!」
「まあ、エロゲ忍者のわりに方法だけは悪くないわね。
「姉ちゃん、ひょっとして方法以外のテンゾーの全てを全否定じゃねッ!? 確かに犬臭いし、ござる語尾がうぜぇなぁ、とは思うけどよ、何も全否定しなくても……あれ? テンゾーのいいところって何かあったっけ?」
「この姉弟、最悪でござるなッ! てか、他も考え込むなッ!」
点蔵が何かを叫んでいるが気にせず、梅組の外道どもは点蔵のいいところを考えるが何かあったっけ?、と首を傾げる始末。
こいつら一発ずつ殴ってやろうか、と本気で考える点蔵だったが、そんな彼に救いの手が差し伸べられた。
「そんなこと無いよ。点蔵は仕事早いし、言われたことは出来るだけこなそうって頑張ってくれる。それに毎日鍛練に付き合ってくれる、いい奴だよ」
「み、三日月殿ぉぉぉぉッ! 三日月殿だけが自分の救いでござるぅぅぅぅぅッ!」
どういう仕組みか、帽子から涙を流し、三日月に抱きつく点蔵と、そんな彼の頭を何気なくよしよしと撫でる三日月。そんな彼らを見ていた武蔵の同人作家は一言。
「ダメね。両方とも攻めには向かないから、絵にならないわ」
「ちょっとそこッ! これは男の友情と言うやつで、BL要素をぶちこむのは御法度でござるよッ!」
「は? ごはっとナニソレオイシイノ?」
「はいそこ~そろそろ話を戻そっか~」
ネシンバラの声に皆は本来の『葵・トーリの告白を成功させるゾッ☆』という議題に思考を戻す。
皆は話し合い、トーリはとりあえず点蔵が提案した方法をとってみることにした。
「ん~……彼女の好きな所か……。
えーと……
顔がかなり好みで上手く言葉に出来ない。
朝と昼に聞く通り道歌の歌声が綺麗で上手く言葉に出来ない。
風が吹いたときに靡く髪が綺麗で上手く言葉に出来ない。
しゃがんだ時にエプロンの裾からインナーがパンチラみたいに覗けて上手く言葉に出来ない。
触れた手がひんやり冷たくて上手く言葉に出来ない。
ウエストから尻のあたりのラインが抜群で上手く言葉に出来ない。
……やっぱり言葉にするのって難しいなぁ」
「どこがッ!? 結構スラスラと出てたでござるよッ! しかも後半フェチっぽくてキモいッ!!」
「キモいってなんだよッ! しろって言ったのテンゾーだろッ!」
「だからって限度があるでござるッ! 見るでござるよッ! 周りの引いている顔をッ!」
そう言って、点蔵が指差した梅組の者たちが眉を寄せ、トーリから距離をとっていた。
引いていないのはトーリの話がいまいち理解出来ず、諦めてチョコを口に運ぶ三日月や相変わらずだな、と軽く笑う一部の者たちだけだった。
そんな中、たった一人だけ、トーリにある疑問を抱く者がいた。その男の名前はキヨナリ・ウルキアガ。
「ちょっと待てトーリ。貴様の行為には不可解があるな。貴様……
───おっぱい県民のくせに、何故相手の胸に対する言及がないッ!?」
『『『───ッ!?』』』
「…………あれ? 今のって驚くべきなの?」
疑問符を浮かべる三日月は他所に置いておいて、皆は自他が認めるオッパイソムリエのトーリが胸に関して言及無しという事実に、やれ『あいつ、本物のトーリか?』や、『まさかのヘタレ?』などと好き勝手に口に出す。
そんな彼らにトーリは一句。
「
オッパイは 揉んでみないと 分からない
……季語どうしよ?」
『『『うわぁ……』』』
「つまりオパーイに対してはいい加減出来ないのね?」
「おうッ! 俺、こうみえて真面目だからなッ!」
「でも、告白するならエロゲ忍者の方法以外も試すべきじゃない?」
「けどなぁ……試すったって、俺自身がやるのはなぁ」
「だったら、誰かに代役を頼むとか出来るでしょ?」
そう言った喜美の視線がトーリのすぐ側でチョコレートの甘さを味わっている三日月に移り、それに気づいたトーリは喜美と顔を合わせ、ニタリ、と口元を三日月に歪めた。
周りの者たちは気づいていたが、この鬼畜姉弟のターゲットが自分達に移る可能性があるので何も言わない。
喜美とトーリが肩を寄せあって、何かを話し合う。
そんなとき、教導院から一人の女子生徒……会議に参加していなかったネイトが酒井と姿を現し、階段に集まる学友たちに声をかけた。
「こんなところで何をしてるんですの? 通行の邪魔とか考えませんの?」
「あらミトツダイラ。それに酒井学長も。二人とも三河に降りるの?」
「いいえ。ただ三河に降りる学長に証書などか必要でしたので」
「まあ……昔の仲間からの呼び出しでね。そういや三日月。お前、ダっちゃんから指名されてたぞ。何でも、娘さんがお前に会いたがってるんだとさ」
「ダっちゃん? …………ああ、槍のおじさんの事か。
学長。俺、こっちの方が重要だから、ごめんって伝えてくれる?」
「こっちが重要って事は……本当に告白するんだなトーリ?」
「ああ。モチのロンだぜ」
トーリの真剣な表情に、酒井は問いかける。他人の空似かもしれないぞ、と。それでも、トーリは告白するのだと答えた。
「今朝思ったんだよ。十年前のこの頃にホライゾンがいなくなったんだなって考えたら自然と、さ。
ホライゾンじゃなくてもいい。赤の他人でもいい。何にも出来ない俺だけど、一緒にいてくれないかなって」
「そっか……まあ、頑張れや。俺は今から三河に行くから、遠くから成功を祈ってるよ」
そう言って、酒井は一人、その場から去っていった。
───そして、鬼畜の憐れな獲物が決定される。
「愚弟、話を戻すけどやらせるわよ? 答えは聞かないけどッ☆ ───賢弟、ちょっと来なさい」
「……?」
疑問符を浮かべるが、とりあえずは喜美の元に向かう三日月。彼が到着すると、喜美は彼の耳元であることを囁き、指示を出した。
「…意味はよく分からないけど、やればいいんだよね?」
三日月は階段から立ち上がり、喜美が指示した通りに……憐れな獲物に選ばれたネイトの元へ行った。
◇◆◇◆◇◆◇
(……総長、本気で
トーリと酒井の会話を聞いていたネイトは脳裏に、とある一機の自動人形の顔を思い浮かべていた。
恐らく、その場にいた梅組生徒の中にも同じ顔を思い浮かべていた者がいただろう。
その自動人形の名は『P-01s』。青雷亭で働く彼女が武蔵に現れたのは約一年前。住民票は持っているが記憶喪失といった珍しい個体を見て、皆がまず思ったのは十年前に亡くなったホライゾンという少女の事だった。
彼女はあまりにもそっくりだった。トーリたちが知るホライゾンの面影があった。だからこそ、トーリが告白しようと思うのも無理はないのかもしれない。
(私も……見習うべきでしょうか……)
次に思い浮かべたのは、一人の少年。八年前、ある出来事で自分の心を射ぬいた、背中に特徴的な突起物を三つ携えた一人の男。
そんなとき、その男……葵・三日月がネイトに話しかけた。
「ネイト、今大丈夫?」
「ミ、ミカッ!? な、なんですの? 私に何か話があるなら、別に今じゃなくてもよろしいのではなくて?」
ネイトは出来るかぎり平常心を保ち、三日月と向かい合うが、それは無意味に終わってしまうだろう。
何故なら、三日月が彼女の両肩を掴み、
「───好きだ」
「─────……ふぇ?」
三日月の言葉に思考が停止し、再起動するまで10秒。そして、言葉を理解し、声が出るまで5秒。計15秒の時間が過ぎ去って、彼女の口から出てきたのは普段の彼女からは聞かないような声だった。
もっとも止まってしまったのは彼女だけではない。一部の女子も時間が止まったかのように硬直していた。
ネイトは聞き間違いかもしれないと、三日月に何と言ったのか問いかける。結果は、
「好きだ」
「…え、えええええええええええッ!!!?!?」
ネイトの悲鳴……悲鳴というには妙に嬉しそうな声音だが、その声量はその場にいた者たちが耳を塞ぐのに十分なものだった。
「ミ、ミミ、ミミミカッ!? 今、『好きだ』とッ! 確かにそう言いましたのッ!?」
「そうだけど?」
「あ、ああ、あああのですねッ! そういうのは、もっとこうシチュエーションと言いますかッ! もう少しロマンティックな場所で───」
「喜美に言われてやった」
「───はえ?」
ネイトの目がブリキの玩具のようにゆっくりと喜美の方へ向く。
さっと目をそらす喜美を見て、彼女は確信した。自分は遊ばれていたのだと。もちろん、三日月に悪気がないのも分かっている。彼は言われたことを忠実にやる男なのだから。
でも……いや。だからこそ、彼女の怒りが頂点に達するのは早かった。
「フ、フフ、フフフフフフフフフフフフフフフ……」
口元は笑みを浮かべているが、何故か逆立っているように見える髪に梅組の者たちは皆離れる。
さすがの三日月もあれ?やっちゃった?、と後悔するが、すでに遅かった。
「───三日月のバカァァァァァッ!」
……今さらかもしれないが、ネイトの体には半分だけ人狼の血が流れている。その影響か、彼女の力は梅組の中でもトップに立つ。
そんな彼女が人狼の脚力で、ある場所を蹴り上げればどうなるだろうか?
───答え:言葉では表現できない。
「○@◇◆”¶〈♭━⑤☆▽ッ!!?!?!?」
前世で数多くの痛みを味わい、それらを悲鳴をあげずに耐えきった三日月だったが、経験したことのないその痛みだけは……男にしか理解できないその苦痛だけは耐えることが出来ず、その場に崩れ落ちたのだった。
数分後。何とか立ち上がることの出来た三日月が喜美と一緒にネイト&浅間の説教を受けたのはまた別の話。