鉄血のホライゾン   作:メンツコアラ

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#6 前へ……

◇◆◇午前10時 43分 多摩・青雷亭◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 三年梅組の生徒たちが授業を受けている頃。

 正純は予定していた墓参りへ行く時間が来るまでの間、店主と世間話をしていた。

 

「そういや正純さん。あの子はちゃんと勉強してるかい?」

 

「あの子? ……あの、一体誰の事でしょうか?」

 

「? ……──ああ、ごめんごめん。三日月の事だよ。正純さんが勉強を見てくれてるんだろ? あのバカ息子、興味のあることはちゃんとするけど、それ以外は別にいいってサボる癖があるからねぇ」

 

「ああ、三日月ですか。確かに彼はキッパリしすぎてるところはありますけd────へ? む…息、子……?」

 

「そうだよ。あの子とその兄、姉のトーリと喜美は私の子さ。驚いたかい?」

 

「い、いえ、そこまでは。言われてみると、確かにあの姉弟からはあなたの面影が感じられますから」

 

 でも…と正純は三日月の顔を思い浮かべ、店主と照らし合わせてみる。だがやはり、三日月には彼女の面影が感じられないのだから。いや、もしかしたら父親似という可能性も……

 

「三日月と私、似てないだろ?」

 

「そ、そんなことは───」

 

「誤魔化さなくてもいいよ。……昔の私も、今の正純さんと同じだったからね」

 

「え……?」

 

 悲しそうな表情を見せる店主に正純は思わず聞き返してしまった。すぐに誤魔化そうとするが、店主は笑って許す。

 

「あの子が生まれた日……初めてあの子とトーリの産声を聞いたあの日、私は二人の母親になったんだって確信した。だけど、月日が立つにつれて、三日月の異常に気づき始めたのさ。私の親族にも父親の親族にもない身体的特徴。時折見せる、子供とは思えない冷酷な判断力と残酷さ。他の子が遊ぶような玩具には眼もくれず、兵士がやるような武術や読書ばかり。まるで、こんな世の中を生き抜くための術を身に付けようとしているみたいに。

 そんな三日月を見るたびに、私は何度も思ったよ。本当に自分の子供なのかって……最低だろ?」

 

 店主の言葉に正純はどう返すべきか悩んだ。

 気を使って、『そんなことはない』と言うべきか?

 それとも冷徹に『その通りだ』とでも言うべき?

 どちらが最良であり、そうでないかなんて正純には分からない。

 しかし、

 

「……確かに、最低かもしれません。自分の子をそうじゃないと思うほど、子供にとって辛いことはありませんから。

 でも、三日月はやっぱり店主の子供だと思います。そりゃあ、アイツはぶっきらぼうで不器用で何事もキッパリしすぎてて、私の秘密を知ったときも興味なさそうに『ふーん』の一言だけでしたし……だけど、私が空腹で倒れた時とかはここまで運んでくれたり、家まで来ては飯を作ってくれたり、そう言った優しいところはあなた譲りだと。だから、その、えっと…………すいません。自分でも何を言っているのか……」

 

 すみません、と頭を下げる正純に、店主は気にしなくていいと笑って見せる。

 

「その気遣いだけで十分だよ。それに、この事は三日月にも話したことがあるんだ」

 

「あるんですかッ!? ……ほ、本人は何と……?」

 

「『別に気にしない』の一言だけさ。キッパリしすぎて、身構えてた此方がバカみたいに感じたよ」

 

「何というか……三日月らしいですね」

 

「そうだろう?」

 

 雲ひとつない青空に浮かぶ太陽が見守るなか、自然と笑みがこぼれる二人だった。

 

「───くしゅッ」

 

「み、ミカ、大、丈夫?」

 

 

 

 

「三日月といえば、一つ聞きたいことがあるのですが……」

 

「なんだい?」

 

「あいつの術式についてです。身体強化系の術式だと思うのですが、それでもあの身体能力と防御力は説明が付かないんです。三日月にも聞こうと思ったのですが、答えてくれなくて…」

 

「で、詳しいことを私に聞きたいと。確かに知ってはいるけど……ごめんね。私からは教えられないよ」

 

「そう、ですか……」

 

「どうしても知りたいんならトーリとかに聞いてみたらどうだい? クラスメイトなんだろ?」

 

 店主に言われ『考えておきます』と答える正純だが、去年転校してきた身として、まだトーリ……いや。クラスメイト全員との距離感を掴めてはいない。故に、どう聞けばいいのか分からなかった。

 そんな正純の心情を悟ったのか、店主はある提案をする。

 

「正純さん。もし、今よりも皆と仲良くなりたいと思うんなら『後悔通り』を調べてみな」

 

「後悔通り……それって、あの教導院前の?」

 

「そう。そこに正純さんの知らない真実がある。あと一歩、踏み出してごらん」

 

 

 

 

 

◇◆◇午前10時 54分 奥多摩・墓所◇◆◇

 

 

 

 

 

 

(ああ言われたが、後悔通りに何があるんだろう?)

 

 柄杓と水を入れた桶を手に、正純は自分の母親の墓へ向かう中、店主の言葉の意味を考えていた。

 あと一歩踏み出せば、何かが見えてくるかもしれない。

 少し開けた場所、武蔵の全体を見下ろせるその場所で正純は教導院がある方角に視線を向けた。

 

「後悔通り、か…………」

 

 呟く正純の頬を風が優しく撫でる。

 そんなとき、墓所の砂利を踏む足音が彼女の後方から聞こえた。

 

「誰がたそがれているのかと思えば、正純様でしたか」

 

 聞こえてきた知った声に振り返ってみれば、そこには知った顔が、青雷亭で働く一機の自動人形が二冊の本を脇に抱え、桶を両手で持って立っていた。

 風に靡く灰色の髪。人の手によって造形された、整った容姿。感情を表すことはない整った顔。その自動人形の名は、

 

「P-01s」

 

「Jud. もう空腹は大丈夫なのですか、正純様?」

 

「まさか、こんな所で会うとはな。掃除か?」

 

「Jud. ここの掃除は日課としておりますので。また命題の一つとして正純様が御貸ししてくださった本を静かな場所で読むこともあります」

 

 肩を並べて本多家の墓の周りに生えた草を抜く二人。

 P-01sはその手を一旦止めて、表紙に『指導者言行録』とかかれた本を見せ、顔色一つ変えずに感想(五割……いや。八割が批判にしか聞こえない)を言った。そんな彼女にそうか、と苦笑いで答える正純だが、そんなとき、P-01sが脇に置いていた野菜の栽培に関する本が視界に写った。

 

「P-01s。その本はどうしたんだ? 貸した覚えがないのだが……」

 

「これは三日月様の愛読書です。これを見て、家庭菜園について勉強しているのだとか。しかし、すぐ枯らしてしまう三日月様に、P-01sは彼に農業の才能はないと判断します」

 

「は、はっきり言うんだな……」

 

 ──Jud. そこ答えたP-01sは抜いた草を近くの下水路まで持っていく。すると、溝蓋の隙間からジ◯リの黒丸妖怪を思わせる生物、下水処理をする黒藻の獣が姿を現し、P-01sが差し出した草を食べ始めた。その内の一匹がP-01sに一言、

 

『ダイジョウブ? バレテナイ? オーケー?』

 

「大丈夫です。ばれておりません。我々の活動は完璧です」

 

(バレてるぞ……)

 

「そう言えば、正純様はこの墓をよく手入れされているようですが、誰が眠っておられるのですか?」

 

「私の母のものだ。遺骨は無く、遺品だけ入れている……と言われても、母親のいない自動人形には意味が分かりづらいか」

 

「Jud. ですが、率直に申し上げますと、正純様はお母様がお好きなのですね?」

 

「好き、か……───」

 

 正純はそう一言口にしただけで質問に答えず、草むしりを再開しようとしたが、その時、P-01sが突然唄いだした。彼女が口ずさむ曲にまた手を止める正純。

 その曲は『通し道歌』。

 

「───この子の十の お祝いに♪

 ───両のお札を納めに参ず♪」

 

 その唄は正純も知っている。極東ではメジャーな童謡だ。

 幼き頃、彼女の母親が子守唄として歌ってくれた……

 

「───通しかな……♪」

 

 気がつけば、P-01sに続くように正純も通し道歌を口ずさんでいた。

 なぜ正純が歌ったのかは感情を持たないP-01sには分からない。無意識の内でなのか? はたまた……

 

「どうかなさいましたか、正純様」

 

「……いや。昔のことを少し思い出していたんだ。

 私は元々三河にいたんだ。三河の君主、松平には二つの本多が必要とされていた。

 

 一つめの本多は松平四天王の一人である本多・忠勝(ただかつ)を代表とする武闘系。

 もう一つは本多・正信(まさのぶ)を代表とする内政系の本多家。

 私の父は正信を襲名しようとしたが叶わず。代わりに私が正信の子、正純を襲名しようとしたのだが、それも叶わなかった……」

 

 正純は『正純』の名を襲名するため、どんな手段も厭わなかった。

 その手段が男になるための手術。

 まず胸を無くし、性別を変えるための手術を受けようとした。

 しかし、突然松平家が家臣の人払いを行ったため、その手段を受けることはなかった。

 正純の家を含めた多くの家臣が左遷や役の免除を受け、それ以降は自動人形が担当するようになり、目標を失った正純の父親は武蔵に、三河に残った母親は去年、『公主隠し』と呼ばれる神隠しにあい、姿を消した。

 

「ほんと……なんでだろうな……失ってばかりだ……」

 

 ポツリ……ポツリ……と正純の瞳から涙が溢れ出る。その滴は悲しみからか? あるいは悔しさからか? 隣で聞いていたP-01sには分からない。

 しかし、一つだけ正純に対する疑問が解けた。

 

「いつも男性の服を着ていらっしゃったのは、正純様の趣味ではなかったのですね」

 

『『『ヅカッ!』』』

 

「……なんで今の流れでそうなる……」

 

「いえ、ちょっとしたジョークです。それで、先程の正純様のお話ですが、なら次は失わないようにすればいいかと思われます」

 

「え……───?」

 

「失う辛さを味わった。失う怖さを知った。なら、今度は失わないように行動すればいいかと」

 

 

 P-01sの言葉に唖然とする正純。

 彼女の言葉を理解できなかった訳ではない。

 一緒だったのだ。かつて、正純が一人の少年に自身の秘密を明かした時、その少年に言われた言葉とほぼ同じ。

 

 

「P-01s。今の言葉は、三日月の……?」

 

「そうなのですか?」

 

「……ふ……ふははは───」

 

 

 正純は思わず笑ってしまった。

 偶然とはいえ、同じ言葉を二回も言われてしまったのだ。

 正純は一通り笑った後、涙を拭い、顔をあげる。そこには先程の曇った表情はなく、どこかスッキリした表情になっていた。

 そんなとき、ステルス航空を終えた武蔵が包んでいた術式を解除し、太陽の光が武蔵に住まう住人を照らした。

 そんな武蔵に近づく一隻の航空船。それは松平のもの。そこから通神がつながり、武蔵中に映し出されたモニターには三河の当主、松平・元信の姿があった。

 

『やあ、久しぶりだね、武蔵の諸君ッ! 先生の顔、覚えているかい? 毎度毎度、私が三河の当主、松平・元信たッ!

 今日はみんなの為に面白いものを見せようと思っているッ! ちょっとした花火を用意しているんだ。楽しみにしていて欲しいッ!

 では、本日の授業はまずこれにてッ!』

 

 通神が閉じ、松平の船は一足先に三河へ向かった。

 その後ろを墓所から眺めていた正純は相変わらずだな、と苦笑していた。その横でP-01sは船に向かって手を振っていた。

 

「おのぼりの観光客のようなことを……」

 

「ガラスの向こうから此方に手を振っている方がいます。その方が此方を見て笑っておりましたので」

 

 そんなP-01sの言葉に『へぇ……』と返す正純だった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午後1時 06分

   三河関所前街道◇◆◇

 

 

 

 

 雲一つない青空の下、三河へ続く街道。多くの者が三河から足を運ぶなか中、一組だけ他の者たちとは逆……つまり、三河へ向かう二人の男性……いや。一人は男性、一人は男装をした女性のペアがいた。三河にいる旧友に呼び出された酒井と、そんな彼を関所まで見送る事になった正純である。

 

「───ってな訳で、トーリの告白前夜祭をするんだってさ。正純くんは夜どうするの? トーリたちとバカ騒ぎする?」

 

「騒ぎません。それに、そんな事をしてると聖連に知られたら…」

 

「ま、そういう過ごし方もありだってことさ」

 

「だとしても限度が……」

 

 他愛のない会話をする二人。そんな中、酒井はチラチラと自分達の横を通り過ぎる者たちを見ていた。

 

「……どうかされましたか?」

 

「いや。シロジロの奴に聞かれたんだが……確かに今日は変だ。気づいてるかい?」

 

「変、ですか? ……そういえば、武蔵への荷はあっても三河への荷がありませんね。こう一方的だと、まるで三河が形見分けをしているような───」

 

「オイオイ。物騒な事を言わないでくれよ。俺、今その三河に行ってるんだよ?」

 

 たはは、と苦笑する酒井。

 そんなとき、日の光を遮り、一艦の航空艦……極東の瀬戸内付近に存在する国家『K.P.A.Italia』の教皇総長『インノケンティウス』が所有するヨルムンガンド級ガレー『栄光丸』が二人の上を通りかかった。

 

「栄光丸か……そういや教皇総長、大罪武装開発の交渉に来たんだって?」

 

「はい。情報が正しければ」

 

 『大罪武装』。

 それは二人が向かう三河の当主、元信公が制作した、この世のパワーバランスを担う、七大罪の原盤となった八想念をモチーフにした八つの都市破壊級個人武装。

 そんな強力な武装には、ある噂があった。

 

「人間を部品にしている、か。正純くんはどう思う? 名古屋の人たちもその材料にされたんじゃないかって言われているけど」

 

「まさか。私がいたときも住人はちゃんと転居届を出していましたし」

 

「……でもさ、正純くんがそれをただの噂だと思う根拠は何処にある?」

 

 倫理に反するから? 常識で考えてあり得ないから?

 ならひとつ、と酒井はちょっとした意地悪をすることにした。

 

「元信公には内縁の妻と子がいるとしたら……どう?」

 

「そんな馬鹿な「それだよ」───……」

 

 酒井に言われて気づく正純。確かに彼女は無意識ではあるが常識的にあり得ないと結論付けてしまったのだから。

 

「正純くんは政治家志望で結構大きいことも考えているように思えるけど、一歩踏み込むことが苦手だよね。ちょっとは大胆になってもいいんじゃないかな? トーリや三日月みたいにさ」

 

「……三日月はともかく、彼を参考にするのはどうかと」

 

 正純の苦笑混じりの返答に、酒井も違いないと笑う。

 暫くして、二人は三河の関所前に到着した。

 

「はいお疲れさん。あとは好きに遊んでいいよ」

 

「忠勝公の娘さんに会ったらよろしく伝えておいて下さい。昔、同級生だったことがあるので」

 

 正純の言葉にJud.と答えた酒井は彼女に証書を渡し、関所の門を通ろうとする。しかし、その足はすぐに止められる事になる。なぜなら、正純が大声で彼を呼び止めたからだ。

 

「酒井学長ッ! このあと、後悔通りを調べようと思ってますッ! そうすれば、私も一歩進めるでしょうかッ!?」

 

 正純の言葉に思わず笑みがこぼれる酒井。彼は手を振って、また三河へ歩みだす。それがどう言った意味を表しているのかは正純には分からない。

 しかし、何故か言われたような気がした。

 ───それでいい。その一歩が正純くんにとって新しい動きになるだろう、と。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午後3時03分

   武蔵アリアダスト教導院学生寮◇◆◇

 

 

 

 

(どうしよう…………)

 

 教導院前の階段で『葵・トーリの告白成功作戦会議』が行われている中、三年梅組の一人である東は会議に参加せず、寮長から指定された寮室に荷物を置こうとしていたのだが、一つ大きな問題に直面していた。

 

 指定された部屋の場所が分からないのか?

 ───否。手に持った紙に書かれた部屋番号は目の前の部屋と同じであるため、目の前の部屋べ間違いはなかった。

 すでに満員だったのか?

 ───否。扉を開けたとき、二人部屋の中には一人しか居なかった。確認したところ、その一人が同居人だった。

 では、その同居人に問題があるのか?

 ───その通り。

 どういうわけか、その同居人は()()だったのだ。

 流石に、年頃の男女が一つ屋根の下で同居するのはどうか?、と真面目な東は寮長、そして、真喜子に相談したのだが、

 

『ああ。ミリアム・ポークゥか……まあ、いいじゃんッ! いいじゃんッ! 若いうちは体裁が大変かッ! ガッハッハッハッ!』

 

『転居届欲しいから許可下さい? いいじゃんッ! いいじゃんッ! 若いうちは体裁が大変かッ! アハハハハッ!』

 

「───押しきられる余も余だけど、どうしよう……?」

 

 深い溜め息を吐き、俯く東は頭を抱える。

 もう一度許可を貰いに行くべきか、諦めて部屋に入るか。

 

「余はどっちを選べばいいんだ……」

 

「なに扉の前に突っ立っているの?」

 

「うわぁ───ッ!?」

 

「……人の顔を見て驚かないでくれる?」

 

 部屋の扉を開き、中から出てきた車椅子の少女『ミリアム・ポークゥ』に咎められ、東は素直に謝る。そんな彼に『別に良いわよ』と答えたミリアムは部屋に入るよう言う。

 

「え、でも……大丈夫なの? 余は男だよ?」

 

「別に? ルームシェア自体は初めてじゃないもの。まあ、男の子は初めてだけど慣れればいいのよ」

 

「そ、それで片付けるのはどうかと……」

 

「でも、さっき一度来て出ていってからずっと色んな所に抗議して、それでもダメだったからこの部屋の前に立っていたんでしょう? そんな人を突き返すのも酷ってものよ」

 

 自分のさっきまでの行動を見事に言い当てられ、東は抗議することが出来ず、よろしくお願いしますとしか言うことが出来なかったが、そんな彼にミリアムは一つだけ条件を出した。

 その条件とは『互いの生活に口を出さないこと』。

 

「そうね……極端な例を言うと、あなたがここに女性を連れてきてイヤらしいことをしていても私は何も言わないわ」

 

「つ、連れてこないよッ!」

 

「でしょうね。だって、あなた真面目そうだし」

 

 冗談よ、とクスクス笑うミリアムに東は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じていた。

 

「改めて、私はミリアム・ポークゥ。よろしくね」

 

「ぅぅぅ……東です。よろしく……」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇午後2時25分

     多摩・鍛冶屋 源助◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 多摩の町中にある加治屋の主、源助。周りからはおやっさんと親しまれている彼は極東でも指折りの鍛冶士だ。例え、どんな難しい質問でも文句を言いながら引き受けてくれる。

 そして、今日も…………

 

「おやっさん。これ、修理お願い」

 

「……あのなぁ、三日月。おめぇの武器の扱いが荒れぇことは分かってる。けどよ? なんで俺の作ったソードメイスの分厚い刀身がくの字に折れ曲がってんだ?」

 

「真喜子」

 

「……あぁ。あのおっさん娘か」

 

 

 

 

「誰がおっさんだッ!!?」

 

「せ、先輩ッ!? 急に叫んでどうしたんですか?」

 

「いや、なんか言わなくちゃと思って」

 

 

 

 

「しっかし───」

 

 源助は改めて無惨な姿になったソードメイスを見つめる。

 ソードメイスの刀身の厚さは10センチ近く。それが見事にボッキリと折れている。それだけで教師オリオトライがどれだけ人間離れしているかが分かる。

 

「こりゃあ、一から打ち直した方がいいな」

 

「時間かかる?」

 

「まあ、他の仕事もあるからな。少なくとも一週間以上はかかる」

 

「そう」

 

 そう答えた三日月は部屋の隅で纏めて立て掛けれいた武具の中から少し短めの鎚矛(メイス)を2本取り出し、軽く振って、感触を確かめる。

 

「───うん。おやっさん、これ幾ら?」

 

「まさかと思うが三日月、それで戦うつもりか?」

 

「うん」

 

「……二刀流の奴は何人か知ってるが、メイス二本を両手に持つ奴はお前が初めてだよ」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 読み返すことは出来ても

 

 消すことは出来ても

 

 戻すは出来ない一ページ

 

 

 

配点《思い出》

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少しだけ遡り、鍛冶屋の前では浅間、鈴、アデーレ。そして、キセルを加えた右腕義手の少女『直政』がバイクに繋がれた荷台に座り、そのバイクの持ち主が鍛冶屋から出てくるのを待っていた。

 荷台の中には野菜や牛肉など、今日、明日の宴に使う食材もあった。

 

「しっかし、大量に買いましたねぇ。三日月さんが足係になってくれて良かったですよ」

 

「だけど、いくらなんでも買いすぎじゃないかねぇ?」

 

「大丈夫ですよ。だって、明日はお祭りなんですから」

 

「祭り、ね……楽しい祭りになりゃいいけど」

 

「三河の花火も気になりますけど、皆やっぱり、総長の方に行くんですかね」

 

「わ、私、行き、ます」

 

 アデーレの言葉に鈴が答えるが、答えなくても分かっている。

 世界が大罪武装だの、末世だのと騒いでるなかで、一人の男が告白する。通し道歌に似た怖さがそれにはあった。

 トーリの告白。それは心機一転の再スタートか、清算の始まりか。それの意味を知るのは告白する本人だけ。

 もっとも、その意味がどうであれ、梅組の誰もがトーリの告白が成功するかどうかを気にしていた。

 

「そこら辺は実の姉である喜美も覚悟してんだろ? 成功すれば一番騒ぐのはアイツさね。なのに、あのバカはここにいやしない」

 

「階段の所に座ったままでしたね」

 

「さっき解散するとき、トーリが『後悔通りに行ってみる』って言ってたからな。あのバカはあれから十年、一度もあそこを歩いた事がない。喜美の奴はそれを見守ってんだろうね。バカな弟のバカな姉として」

 

「そういえば、なんで三日月さんは総長の所に残らなかったんでしょう? 兄弟なんですから見届けてもいいと思うんですけど。ちょっと冷たくないですかね?」

 

「そ、そんなこと、ない、よ? ミカ、優しいよ」

 

「そうですか?」

 

「うん。トーリなら、大丈夫だ、て。そ、それに、ね。ミカね、私に、声、かける、とき、いっつも、躊躇う、の。私、目見えない、から。脅かさない、ように、って。でも、どうすればいいか、分からなくて」

 

「「「あぁぁ…………」」」

 

 

 鈴の言う三日月の姿を容易く想像し、納得する浅間たち三人。

 

 

「でも、ね? ミカ、近づくと、ミカの匂い、するの。汗臭くて、ちょっとだけ、血の匂い、して、でも安心、出来る。そんな、匂い」

 

「安心できるかどうかはともかく、確かにアイツはそんな匂いがしそうだね」

 

「……なんでしょう? 聞いてるだけだと危ない話にしかきこえないんですけど」

 

「あははは……あ、噂をすれば、出てきたみたいですよ」

 

 

 鍛冶屋から出てくる三日月に浅間たちはお帰りなさいと手を振る。

 

 

「ごめん。待った?」

 

「いえいえ。そんな事は───て、三日月? その腰の鎚矛は?」

 

「買った。直るのに一週間はかかるって言ってたから」

 

「なんで二本? 一本は予備ですか?」

 

「? 二本同時に使うからだけど?」

 

 何かおかしい?、とでも言いたげに首を傾げる三日月に浅間は諦めたように首を振る。

 

「三日月って、そういう子でしたもんねぇ」

 

「……バカにされているのは分かるけど、人を笑顔でズドンする智には言われたくない」

 

「「ブフォ……ッ!」」

 

「ちょっとそこッ!」

 

 穏やかな日常を彼女たちは歩んでいく。

 明日はいい結果になるようにと願いながら……。

 

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