また人間を拾った。   作:乾いた重水

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 暖かい陽射しが世界を照らす日のことだ。

 そんな天気にも関わらず、カーテンを閉め切っている家があった。

 外の世界から遮断された一室で、天井からの強い照明が中央に置いてあるベッドを照らしていた。

 正確には、ベッドを急遽改造した手術台の上だ。

 間に合わせの手術台の上で、茶髪の少女が1人眠っている。

 少女の身体は無惨なまでにボロボロで、所々から骨が見えている有様ではあったが、心臓の動きはまだ止まっておらず、かろうじて命を繋いでいた。

 麻酔や手術補助のためのものだろうか、頭部及び手術台の下で魔法陣がゆっくりと回っている。

 よく見てみれば、その2つだけでなく、微小な魔法陣が多数宙に浮かんでいるのがわかるだろう。

 その魔法陣を維持しつつ、メスを持ち懸命に施術を行なっている存在がいる。

 黒く異様に細長い指を数十本も器用に動かしているそれは、4m程の巨躯を持つ、かろうじて人型と言えるであろう触手の怪物だった。

 それは一言も話さず、ましては呼吸をしている様子すらなく、その黒くしかし暗い虹色の瞳をもって黙々と作業を続けていたが、その指先の動きからは多少の焦燥や動揺が見て取れた。

 時折魔法陣が点滅したり、次の動作を決められなかったりするなどひどく焦った様子もあったが、陽の沈む少し前には全ての縫合が終わったらしく、魔方陣の種類を切り替えてからその身体を椅子に沈めた。

 それから20秒も経たないうちに、来客を知らせる鈴がチリンと鳴った。

 それは立ち上がる素振りを見せたが、疲労に負けたのだろうか、「開いているよ」という声を玄関に向かって発するに留めた。

 やがて、それと同じような容姿のモノが扉を開けて入って来た。手に小洒落た紙箱を添えて。

「よお……って、ああ、タイミングが悪かったか」

 入って来たそれは部屋に立ち込める鉄の匂いと疲労困憊した様子の家主、それから手術台の上の存在を一瞥して申し訳なさそうに言った。

「……ああ、いや、問題ないよ。丁度終わったところさ」

「いやずいぶんお疲れじゃねぇの。……で、ありゃ人間だろ? また拾ったのか? しかも今回は死にかけの」

「まあね」

「事の割にかっるい返事だなぁ。ま、オヤツ買って来たし食おうぜ」

「感謝するよghavye君。君の株価はまだ上がりそうだね」

「へいへい感謝いたしますよ、大株主のtquahv様」

 tquahvと呼ばれたそれは椅子から立ち上がり、ghavyeと共にその部屋を離れた。

 目覚めぬ、しかし確かに呼吸をしている少女を残して。

 

 ──ー

 

「で、だ」

 クッキーのような物をつまんでいるghavyeが切り出した。

「これで、あー、5回目か?」

「6」

「そうだったか。まあそれはともかく、どこで拾ったんだ?」

 その質問にtquahvは数瞬考え込み、茶を飲んでから質問で返した。

「おや、何故とは聞かないのかい?」

「何回も拾った奴に聞くような質問じゃねぇだろ。敢えて言うなら『なんで死にかけの奴を拾ったんだ?』ってとこだな」

「それは……うん。治せそうな気がしたから」

「それでできるんだからお前ってやつは……」

「中を開くのは初めてだったけどね。で、どこで拾ったのか、だったか。pks'hqの辺りだよ。血痕が続いてたから自力で辿り着いたんじゃない?」

 その言葉を聞いてghavyeは驚いた様子で(目が増えることを驚くと表現するならば、ではあるが)、先ほどの部屋の方向に目を向けた。

「おおう、前線からかなり離れてるだろここ。よく辿りつけたなアレ」

「施術した理由はそれもあるよ。案外耐久力があるんだったらいけるんじゃないかと思ってね」

「……ま、何が目的でここまで来たのかは知らんがな。一応目ぇ離すなよ?」

「そもそもまだ動ける状態じゃないと思うけどね。まあ障壁と縛りはかけておくよ。また怪我されても嫌だし」

 それらは菓子をつまみながらしばらく語り合っていた。

 その日の内は、少女が目覚めたと言う信号は届かなかった。

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