「──了解しました。以上で依頼を達成とします。お疲れ様でした。」
あの後、僕はいつも通りギルドへと赴き、ことの顛末を話した。いつも通り落ち着いた様子で話し、いつも通りの返事が返ってくる。
だが僕の内心はいつも通りでは無かった。
『──……ありがとう──』
「……ッ‼︎」
ずっと頭の中によぎるあの言葉。
彼女…、いや彼だったかもしれない。もはや性別すら分からないあの『人』は何を思っていたのか。………そんな事は分かりきっていたのに……。
「それでは依頼達成による報酬です。お受け取り下さい」
「──あぁ」
麻袋にいつもより多めに入っている金貨を差し出してきた。それを半ば奪い取るように受け取り建物を後にする。
建物を出たらすぐに人が見える。……皆楽しそうな表情をしている。仲間と共に酒を飲むもの。恋人と寄り添いながら歩くもの。一人で酒を飲むもの。道端で寝ているもの。
………酔っ払いが多いのはギルドの前だからか。何はともあれ皆幸福を享受しているのだろう。
普段ならそこに混じって、酒を飲むのだろうが今日はそんな気分にはなれなかった。
人混みを掻き分けながら今日あった事を考える。あの人は結局誰だったのか。何故あの様な姿をしていたのか。何故あんなにも……優しかったのか。どれだけ考えても分からない。……いや、頭が回らないのか。
……一時期は『死神』なんて呼ばれた僕がここまで動揺するとは。ははっ、笑えてくる。たった『一人』の命を奪っただけでここまで動揺するとは。
あぁ、そうだ。どれだけ考えてもあの人を化け物と思う事は出来ない。したくない。
たった数時間同じ空間に居てたった数分間話しただけの異形のあの人を。
あの人はどこまでも心の強くて、優しくて、それでいて──
「──人間って何なんだろうな」
思わずそんな言葉が口からこぼれ落ちた。それは周囲の誰にも気にも止められる事は無く消えていった。
人間に向けた言葉が人間の放つ喧騒に呑まれていく。その様が何処か可笑しくて自嘲気味に笑いながら歩き続ける。
結局僕が今どれだけ人間の事を考えその為に行動したとしてもそれは意味のない事なんだろう。どれだけあの人が優しくても無情な結末を遂げた様に。
この世界に神はいるのだろうか。居たとしてもそれは僕達が思っている神なのだろうか。いや、違うだろう。
だって神ならばあの人を助けない筈が無いのだから。それとも神にさえ救う事の出来ないような運命だったのか。
そんな哲学もどきの思考を回し続ける。そうでも無いと気が狂いそうな気がしたからだ。
そんな儚い抵抗もこのクソッタレな世界からしたらちっぽけなものだろう。
これはそんな僕のepilogueで、この世界のprologueだった。
誰かの物語が終わっても世界は常に動き続ける。