ようこそ元海賊がいる教室へ   作:てつお

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人気があれば続けます。


海原進の独白

 

 やぁ皆さん、初めましてになるかな。俺の名前は海原進。今日から高校生になる15歳の男子で、そして半年前まで海賊をやっていた者だ。

 

 もう一度言おう。

 

 俺は半年前まで海賊稼業をしていた、元海賊だ。

 

 といっても皆さん、ここだけを聞けば、『なんだ中二病か』と鼻で笑い、俺に頭のおかしい変な奴というレッテルを張るだろう。だがこれは俺が体験した本当の話、冗談抜きのマジの話だ。

 

 そう、あれは俺が中学2年の記憶、俺は親から貰ってずっと貯めていた小遣いで、新作のゲームソフトを買いに行こうとしていた時、俺はトラックに轢かれたのだ。赤信号なのにも関わらず急に突っ込んで来たトラック。俺は突然な事に避けることも逃げる事もできず、見事に宙に打ち上げられ、13年にも満たない人生を終えるかと思っていた。だが違った。目を覚ませば、なぜか俺は海にぷかぷかと浮かび、漂流していたのだ。

 

 その後、数分間状況が理解できず、波に身を任せて海に浮かんでいたが、俺は偶然にも一隻の舟に保護された、それは当時の自分では一番無縁だろうと思っていた海賊船だったのだ。

 

 と言っても、その船はオンボロの小舟で、皆がイメージする海賊船とは違っているものだった。それに俺を助けてくれた海賊も自称海賊と言った感じで、決して乗員も大所帯ではなく、船に乗っていたのは船長を名乗る麦わら帽子を被った口のデカい男と、眼鏡を掛けた剣士の男の二人だけだった。

 

 海賊と聞いて俺は二人に『荒くれ者』だったり、『野蛮』といったマイナスのイメージを抱いていたが、二人は気前がよく、当時警戒していた俺にも色々世話を焼いてくれた。俺もそれに応える為に船の手伝いなどをしていれば、気がつけば俺も彼らと同じ海賊の仲間入りを果たしていた。

 

 船で海を渡り、宴でどんちゃん騒ぎする。最初は気が乗らなかったが、元の世界に帰る手立てが見つからず、海賊として生きる事を決意していた俺は、そんな生活も意外と楽しく感じる事が出来た。

 

 勿論海賊である以上航海は楽しい事ばかりじゃない。苦しい事、辛い事も沢山あった。俺も何度も死にかけた、本当によく生きていたモノだ。特にあちらの世界の武術である『覇気』を習得する為に、血反吐が出る程の修行をした事を今でも覚えている。

 

 その他にも、とある海兵の拳骨をモロに食らって意識が飛びかけた事もあったし、年下と思ってナメていたら金棒でぶっ飛ばされた事も有ったし、お菓子好きな女海賊と『何処のケーキが旨いか』という些細な理由で島が吹っ飛ぶレベルの殺し合いをした事もあったな……

 

 長い間続けてきた海賊稼業、色々大変な事もあった、だけどその分楽しかった。だけどそれも永久に続く訳ではなかった。

 

 俺が船長達と出会い、海賊として生きる事を決意してから数十年、既にウチらは何百人ものクルーを抱える大所帯になり、何時からか船長を『海賊王』なんて世間が呼ぶようになってから暫く後、あの日は遂に訪れた。

 

『この海賊団を解散する』

 

 甲板上に船員を集め、そう言い放った船長の声は、今でも俺の耳に焼き付いている。元々予想は着いていた。最近船長が病気で体調を崩しがちで、航海に限界が来る事も解っていたし、それにラフテルから帰った頃からそんな空気が船員の中で流れていたのだから。

 

 その後船長の宣言通り、海賊団は解散。船長は船を降り、仲間達も散り散りになった。男の別れだ、その時は涙一つお互い流さなかったさ。

 

 そして俺も船を降り、酒を呑み、飯を食い、気の向くまま辺りを放浪する。そんな荒んだ生活を送っていた。だがそんな中だった。

 

 船長が捕まり、処刑される事を知ったのは。

 

 船長が海軍に捕まる様なヘマはしない。大方自首したのだろう。だが俺には船長の意図は解らなかった。そんな事をすれば処刑されて命は無いのは火を見るよりも明らかだったのだから。

 

 処刑は彼の故郷である東の海(イースト・ブルー)で行われた。俺は行かなかったけどね。

 

 その後シャンクスから船長の死に様を聞いたけど、それはまた予想外で奇天烈なモノだった。何せ船長は……いや、ロジャーは世界に発破を掛けたのだから。

 

『俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる、探せ。』

 

 あいつはそう言って死んでいった。最後の最後に自分の海賊としての夢を、意思を、新しい世代に託して逝ったのだ。本当、ウチの船長さんには驚かされる。

 

 あの日程の笑った日はない。

 

 あの日程泣いた日はない。

 

 あの日程の酒を飲んだ日はない。

 

 酒場のいつもの席で、大声で笑い、涙で瞼を濡らし、酒を喉に流し込んだ。

 

 忘れたくて、逃げたくて、飲んで、飲んで、呑まれて、呑んで。そして眠りに就いた。深く、どっぶりとした深い海に溺れるように。

 

 こうして俺は自棄酒を決め込み、酒場のカウンターで酔い潰れて眠った。そう、眠った筈だった。

 

 

 だが次に目を覚まして俺が見た光景は、酒場のテーブルでもなく、酒樽でもない。懐かしい消毒液の香りと、真っ白な天井だった。鏡を見てみれば、十数年前にあの世界に行った時と変わらない、若々しい姿。話を聞いて見れば、俺はトラックに轢かれてから丸1年昏睡状態だったらしい。その時、俺は確信した、戻ってきたのだと。

 

 家族たちは泣きながら俺が目覚めたことを喜んでくれた。だが俺には喜んでいる暇はなかった。そう、俺が海賊をやっていた世界とこの世界は時間の流れにズレがあるようで、あっちで数十年経っていた中で、こっちでは1年程の時間が流れていた。そう、1年程だ。俺があの世界に飛ばされたのは中学2年生のころ、つまり俺が戻ってきたのは中学3年、タイミングが悪いことに受験の時期に俺は目覚めたのだ。

 

 その結果、1年間も勉強を遅れていた俺に待ち受けていたのは、大量の参考書と過去問の嵐だった。正直滅茶苦茶しんどかった。マジで、あんなのゴッドバレーが湯水に感じるほどのキツさだった。そして目覚めてから3ヶ月とちょっと、頭がショートするほどの勉強の末、俺はどうにか無事高校に合格し、進学することになったのだ。いやー、勉強で死ぬなんて考えたの、初めてかも。

 

 そして俺が目を覚ましてから半年が経った4月。現在俺はこれから入学する学校へ向かう為にバス停にいる。

 

 思い返せばここに来るまで色々有った。というか有りすぎた。トラックに跳ねられ、別の世界に飛ばされ、そこで海賊として生き、元の世界に戻って、若返って、半年の間に受験勉強……当たり前だと思うがこんな濃い人生を送っている奴は早々いないだろう。いたら連絡してくれ、代わってやるから。

 

 しかし高校に進学するなんて、海賊時代では考えもしなかった。でもこの際だ、色々ここまで有りすぎたし、そこそこ冒険もしたいけど、高校生でいる間は昔の事を忘れて隠居するのも良いかもな……

 

 そんな事を考えていると、どうやらバスが来たようだ。

 

 血沸き肉踊る冒険も悪くないが、暫くの間は命のやり取りもなく、何事も程々に、平穏な高校生活を送ろう。限定的な3年間という時間の中、海賊でいる間は無縁だった青春というのを楽しもう。

 

 俺は心の中でそう決意すると、これから自分が行くことになる学校へのバスへゆっくりと乗り込むのだった。

 

 

 

 

 




見きり発車なので、不定期更新なのはご了承を。

ご感想は作者のエネルギーです。有れば有るだけ筆が進みます。

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