【完結】河野春男? いいえハルです   作:和尚我津

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エピローグ

「負けちゃったね、春男」

「はい、負けました……すみません、義父さん」

 

 ドームに併設されている医務室。

 十鬼蛇王馬に敗北を喫したハルーー河野春男を見舞うのはゲーム業界の雄、NENTENDOの社長である河野秋男。

 ハルの雇用主にして、養子縁組を結んだ父でもある。

 

「謝る必要はないよ。体の方は大丈夫なのかい?」

「ええ、そっちは全くの異常なしです」

 

 本人の言う通り仕合で傷は負ったものの、影響は微塵も存在しない。自分の足でそのまま退院できるほどだ。

 彼が未だここに居るのは、外部協力員である医務室の主(解剖魔)もしかしたら(絶好の機会)を懸念して押し留めているがためである。

 

「……負けちゃったね、また」

「はい。完敗です」

 

 繰り返す義父の言葉に、ハルもまた同じように言葉を返す。

 

「完敗というにはかなり惜しかったと思うけど?」

「俺は『牙』を倒すためにこれまで己を高めていきました。十鬼蛇王馬にはヒマラヤで、日本で培った、俺の全てをぶつけたとハッキリと言えます。そのうえで負けた。完敗と言わざるを得ません」

 

 戦士として全力で戦い、凌駕された。であればそこに言い訳の余地など存在しない。

 それがハルの考えであった。

 

 きっぱりと言い切るハルの姿に秋男は呆れたように笑みを浮かべ、彼が来日した頃の記憶を思い起こす。

 

 当初はハルという傑物をコントロールしようと、食事や娯楽といった種々様々な物を彼に与えていた。完全なる手駒に落とすため、贅沢という毒に浸さんと日夜費やしていく。

 そんな日々に一つの誤算、あるいは転機が訪れた。

 

 急遽決まった大日本銀行銀行との仕合。

 相対するは当然『滅堂の牙』加納アギト。

 

 一縷の望みを託し、秋男はハルを仕合に送り込む。

 強さを見込んではるばるヒマラヤから引っ張ってきた男のデビュー戦の相手に、歴代最強と呼び声高い闘技者が宛がわれた。

 

 結果は惨敗。

 見るも無残とはこのことであり、目も当てられないほど無様に負けた。

 加納アギトのつまらなさそうな瞳が最も印象に残るような負け戦っぷり。

 

 何一つ得るもののない仕合で、しかしてハルは己を取り戻した。

 蝕まれつつあった精神から毒を吐き捨て、戦士としての自分に立ち直ったのだ。

 

 それ以来、ハルは欠かすことなく日々の鍛錬を続けていく。

 肉体を鍛え、技を鍛え、心を鍛えた。

 もはや毒がその身に入る余地などありはしなかった。

 

 思い通りに動かなくなったハルに、されど秋男は感化されていく。

 手駒としか見ていなかった青年、飽食遊興という沼にどっぷりと漬からんとしていた若者が、たった一度の敗北で大きく化けて()となった。

 

 拳願会という生き馬の目を抜く世界に半生を捧げ、知らずのうちに捻てしまった心に、青年のひたむきさが良く沁み込んだ。

 

 気が付けば秋男は雇用関係や利害関係を抜きに、ハルという青年を全力でバックアップしていた。

 さながら、実の親子のように。

 

「負けちゃったけど、これからどうする?」

 秋男の質問に、ハルは笑みを浮かべる。

 

「当然、リベンジするさ。『牙』にも、十鬼蛇王馬にも――だって、ボスは倒すものでしょ?」

 想像通りの言葉に、秋男もまた笑みを浮かべる。

 

 ゲーム会社の社長の義息子に相応しく、ハルもゲームは好きなのだ。

 

 

「そうだ。まだゲームオーバーにはなっていない(キノコは残っている)

「ああ、コンティニュー(ここから)だ」

 

 どれだけ敗北しようが、失敗しようが、何度だって立ち上がる。

 トライ&エラーこそが、ゲームの楽しみなのだから。

 

 

 敗北した男たちが、その悔しさすら糧にして再び一歩踏み出していく。

 

 

 その拳に、願いを乗せて。

 

 

 




これにて完結です。
ありがとうございました。
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