ヤングウルフの気配を察知して草原を進んだ俺だったが、近づいてみて状況が良くない事が分かった。
このモンスターは体長が1.5mほどで、大型犬と変わらないぐらいの大きさなのだが、群れを形成しているのだ。
もちろん野生の狼が群れで生息していることはよく知られたことだ。
ただし、ラジャフ街道のモンスターは初級者用だからか基本あちらから襲ってくることはなく、1対1での戦闘が殆どなので楽だった。
それが今回は5頭が群れになった状態なのでどうしようかと思い慎重に近づいたが、よく考えれば悩むほどではなかった。
自分のLvと装備ならLv4ヤングウルフの攻撃など気にならないのが当たり前なのだ。。
恐らく多くてもHP減少1で0もありうる程度。心配して損した。
プロヴォーグで近くのヤツから誘導して狩るとしますか。
スキルを受けた狼は攻撃をされたと感じ、真っ直ぐこちらへ向かってくる。
むむ、さすがに狼だけあって意外と動きが早い。初級の冒険者がソロで戦闘になったらパニくるかもね。
ただし、こっちは中級なので能力補正がある為か十分動きも捕らえられるようだ。
自分の敏捷性のステータスはそれほど高くないけど腕力はあるので見えれば攻撃を当てるのは難しくない。
剣を上段に構えた俺は、ヤングウルフが飛び掛ろうとする動きを体捌きで左へかわすと、その胴を上から両断して屠る。
戦闘に気付いたほかのウルフも端から各個撃破していく。
最後の2頭は一斉に襲ってきたが、1頭の攻撃をかわしながら片方をを切り下ろしで両断した後、かわした1頭へ向き直り、首に突きを入れて屠った。
戦いに慣れてきたのか剣技で突きまで使えるようになったようだ。
中学校で体育の時間にやった剣道では突きは禁止だったのが、これからもスムーズに出せるよう練習してみようか。
結局狩ったのはヤングウルフ4頭と、それを統率するアダルトウルフ1頭だった。ヤングとアダルトに個体差はあまり感じられない。経験差なのだろうか?
意識しない内にもう少しで最初の戦闘でボウケンの挑戦クリアするところだったようだ。
この調子で次の挑戦で言ってくるであろうLv5アダルトウルフ5頭も狩っときますかね。
結果としてはアダルトウルフを5頭倒すため合計で1時間半ほど掛かった。
理由は群れに多くてもアダルトウルフが1~2頭しかいないため、広い草原で群れを5つも狩る必要があったからだ。
剣の実践練習も気が済んだのでボウケンの所へ報告しに行くことにした。
「どうしたんだね。もう諦めたのかガッツ?」
「いや、仕留められたから報告に来たんだが?」
「すわっ、まさか?!(私は他の冒険者4人と一緒に戦って1日かけてやっと倒したのだぞ!)」
「カードを確認すれば分かることだ」
「…まあいい。キミはただのイノナカではないと言う事か。しか~し、私からの真の挑戦はまだ用意してある。この程度で慢心してもらっては困るのだよ!」
「(それも知ってると思うが)その真の挑戦とやらはなんだ?」
「ふっふっふっ、アダルトウルフの爪を5個2時間以内に収めることだ。そして、これを達成出来るのは世界広しと言えど私だけだ、と言っておこう」
「その依頼もついでに達成できたようなんだがなぁ」
「な、なんだと~!ぐ…ぐぬう…、まさか両方一度に達成するとは…。この私ですら…げふんげふん。いやなんでもない」
「それではカードを確認してくれ」
「うむ、本当のようだな…。まあ、これに慢心せずに精進することだ。あと、キミにはこれをやろう。私に認められたという証だ。大切にしたまえ!」
そう言ってボウケンは青銅製の片手剣コピシュとブロンズネックレスを俺に渡す。
「ありがたく頂いておくとしよう」
こうしてボウケンと別れ、ウルフとの鍛錬を終えてラジャフへ帰ることにした。
次の日、改めてシルバーファングを止めるためラジャフ街道を走る。
記憶では、南東の渓谷の奥にシルバーファングが居たはずだ。
ただし、あの周りには親衛隊のようにウルフ達が屯(たむろ)していた。
注意しながらウルフの群れを3つほど倒し渓谷を抜けると、後ろの斜面に岩肌が見える広場にこれまでのウルフ達とは違った雰囲気をもつ者達が居た。
あれがシルバーファングの親衛隊のようだ。3頭ほどいるが一騎当千という感じがする。
それでも今の俺にはまったく問題ない程度の強さだが。
俺はブラックファルクスを両手で握ると向かって右端のアダルトウルフをスキルで誘導して一刀両断する。
さらに気付いた他の2頭が一瞬怯んだ隙を見逃さず、素早く剣を突き入れて1頭を仕留め、最後の1頭も下段から切り上げた剣で腹から胴を裂いた。
悲しげな叫び声を上げながら消えるウルフ達だったが、ここで岩肌の上から殺気を感じる。
視線を向けるとそこには銀色の見事な身体を持った、巨大な狼が牙をむき出しにしながらこちらを見つめていた。
エブラ神父は他よりも少し体が大きい狼だったと言っていたが、そんな程度ではない。少なくとも体長10mはあるはずだ。
イメージとしては狼と香辛料のホロが実体化した状態が近いかもしれないな。アニメを見た人なら分かってもらえると思う。
シルバーファングはその身体からは想像できない身軽さで岩肌の上から飛び降りると、ズーンという音と供に俺の前に立ちふさがった。
Lv的には瞬殺できるはずの相手だが、興味があったので話しかけることにした。
「お前がシルバーファングか?」
すると頭の中に直接感じるような声が聞こえる。
『そうだ。私がシルバーファングだ。お前はだれだ?』
「(テレパシーか?)俺はガッツ。エブラ神官に頼まれてお前を止めるために来た」
『そうか、エブラ神父が…』
「お前は人を襲うことを止めることは出来ないのか?」
『残念ながら現在の私は自分の身体を一部しかコントロール出来ていない。塔の魔力の影響で魔狼としての本能が呼び起こされ、身体も巨大化してしまったのだ』
「今は攻撃を抑えてられているんじゃないのか?」
『これも全力でやってだ。この状態も長くは持たん』
「そうか…。残念ながら俺やエブラ神官にもお前を魔力から解放することは出来ない」
『…その剣で私を止めてくれ。お世話になったラジャフの人々やエブラ神官に牙を向けることになるのは耐えられん』
「申し訳ないがそれしか手が無いようだ。シルバーファング、あまり苦しまずに送ってやる」
『頼むぞガッツ。エブラ神官に「ありがとう」と伝えてくれ』
「ウォォォォーッ!」
その天にも響く遠吠えの合図で、シルバーファングの身体は呪縛から放たれたように俺を襲う。
直径1mを超える丸太のような前足が横なぐりに振るわれて俺を襲う。
1撃目はかわせたが、体制を崩したため2撃目の鋭い爪を剣で受けることになる。
ガキィィィーン!ドゥッ!
剣と防具で守ったためHPは少ししか削られなかったが、5mほど派手に後ろへ飛ばされてしまう。
そこへシルバーファングが飛ぶように移動し、恐ろしい口を開けて俺をかみ殺そうと襲い掛かってきた。
「ガゥゥーッ!」
咄嗟に俺は剣を抱え込み、前転をしながらシルバーファングの身体の下へ潜り込む。
モンハンの大型モンスターと戦う時の要領だ。逃げるより前へ出たほうが活路を開けることもある。それに…
ズシュッ!
俺はシルバーファングの腹に剣を突き上げた。腹はどのモンスターも防御が甘いのだ。
素早く腹の下を抜けて距離を取ると、シルバーファングが少し弱っているのが分かる。
切りつけたところからおびただしい血が流れ出て、腸が少しはみ出ているのが見える。
しかし、油断は禁物だ。手負いの獣は凶暴さが増すからだ。
口からよだれを垂らしながら、赤く充血した鋭い目でこちらを見つめるシルバーファングは恐ろしいの一言だ。
だが今度はこちらが主導権を握らせてもらう。
ジグザグに移動しながらシルバーファングに近づいた俺は、前足の攻撃を前転して避けると、起き上がりざまにもう一方の前足を横なぎに切り裂く。
ズバッ! ドゥーッ!
弱っていたシルバーファングは自重に耐え切れず、躓くように前へ倒れこんだ。両断は出来なかったが、筋肉を断てば立ってはいられない。
チャンスだ!俺はシルバーファングに近づくと折れ曲がった前足をジャンプ台にして首の上へ飛び乗った。
腰だめに剣を構えた俺は、首の後ろから剣をシルバーファングの頭へ突き入れる。
ガスッ!グシュッ!
「キャゥゥゥーン!」
さすがのシルバーファングも脳へ直接攻撃を加えられれば生き長らえはしないはずだ。ブシュッ!
剣を引き抜くと血飛沫が噴出する。痙攣する身体から飛び降りた俺は、再び剣を構え不意の攻撃を警戒する。
シルバーファングは血走った目が光を失うと、その目蓋と捲れ上がった口を閉じて息を引き取った。
その身体は光に包まれて消えたが、消える前にその口が微笑みを浮かべていたと思ったのは気のせいだろうか。
いや。彼は最後にエブラ神官との思い出と一緒に天へ召されたのだと思いたい。