シルバーファングを殺すことで依頼を終えた俺は、このことを報告するためラジャフへその足を向けた。
途中で5~6頭程度のウルフの群れに3度襲われたが、シルバーファングとは格が違いすぎるためか簡単に退けることができた。
モンスターを出来るだけ避けるよう街道を移動してもエンカウントが多かったのは、シルバーファングを倒した残り香のようなものをモンスターが嗅ぎ取っているのだろうか?
これについては単なる想像の域でしかないので分からない。
ラジャフに戻った俺は、そのままイシター神殿のエブラ神父の下へ向かう。
神殿に着くと巫女見習いのルウアを見かけたので声をかける。(しかし、いつ見てもナイスバディだ!)
「ルウア、エブラ神官を呼んでくれないか?報告することがある」
「ガッツさん、お疲れ様です。シルバーファングの事ですね?お呼びしますから少しお待ちください」
10分ほど待つと、ルウアがエブラ神官と供に歩いてくるのが見えた。
「ガッツ君、…君が来たと言う事は依頼が完了したということだね?」
「そうだ。シルバーファングは俺がこの手で天に送った」
「…そうか。シルバーファングを…、止めてくれてありがとう。彼もきっと、君には感謝していると思うよ」
「不思議なことだが、俺はシルバーファングと少しだけ話すことが出来たんだ」
「シルバーファングと?賢いとはいえ、神殿に居た頃はそんなことは出来なかったが…」
「ああ、魔力のせいで体長10m近くになった身体は自由に動かせなかったらしいが、精神力もそれなり強化されたんだろう。思念を直接俺に伝えてきたんだ」
「いつも彼の声が、何を思っているのかを知りたいと願っていたが、こんな事で実現するとはね…」
「あいつは最後にエブラ神官に伝言を残した。「ありがとう」と伝えて欲しいそうだ」
「ありがとう…。そうか、彼がそう言ったのか…。これはささやかだが依頼のお礼だ」
そう言うと、エブラ神官は俺に1銀貨を渡した。
「確かに受け取った。他に俺に出来ることは無いか?」
「すまん。今は何も考えられない。申し訳ないが、少し一人にしてくれないか…」
エブラ神官は寂しそうな顔を見せると、神殿の奥へと静かに消えていた。
「すいませんガッツさん。エブラ様は友人を亡くされたような気持ちなのだと思います。昨日ガッツさんに依頼をした後も、どこか憔悴している様でした」
「そうだな。神官はシルバーファングとペットを超えた、友人とも呼べるほどの関係を結んでいたんだろう。後は時間が解決してくれるのを待つしかないようだ」
「はい。微力ながら私たちも神官を支えて行くつもりです」
そう言ってルウアも神官を追うように小走りで神殿の奥へ向かった。
…感傷的な場面でしたが、自分的にはルウアの揺れるバストがん見ですが何か?
辛い現実には癒しが必要なんですよ。あれはその為に神様が授けた物に違いありません。
エブラ神官は違うかもしれませんが、世の多くの男性なら分かってくれるはずですよね?
実際に依頼とはいえ「あなたの大切な友人(ペット)を殺してきました」なんて言いに来るのは辛かったんですよ。
おまけに殺した相手の遺言まで伝えるんですよ?
気が重くなるのも当たり前じゃないですか!
顔がガッツだからクールに振舞いましたけど、内心はビクビクしてましたよ。
マンガだったら絶対に縦の線が顔の側面に何本も走っているのが見えたでしょうね。ガッツは肌が浅黒いから分かりにくいかも知れません。
得意先との大型契約を失敗しました、と上司に報告するより何倍も気が重かったんですから…。
大嫌いな得意先の担当者に作り笑顔で接することで鍛えた<顔面マスク>の成果がここで発揮されたのだと思います。
ここは早く宿に帰って心と身体を休めることにしよう。
俺は定宿の夢屋へ足を運ぶのだった。
「お帰りなさいガッツさん」
アドナーンが迎えてくれた。俺的にはアイリーンに迎えて欲しいんだが…。
「ああ、今日も無事戻れた。中々(精神的に)キツイ依頼だったからな」
「へえ~、ガッツさんがキツイ依頼ってどんなです?」
この手の話に目が無いアドナーンは食いつくように聞いてきた。
そこで俺はエブラ神官から依頼されたシルバーファングの討伐を簡単に話してやった。
これはアドナーンに話してくれるよう頼まれたからと言うのもあるが、ちょっとした情報操作と言う側面もある。
神殿の大きな狼が居なくなったことは一部の人が知っているし、商隊を狼が襲っていることもラジャフでは知られている。
ルエリアが襲われた商隊の報告書から神殿で飼われていたシルバーファングを推測できたことを考えれば近いうちにこの考えを持つものが現れるだろう。
この情報が誤って伝われば、人を襲う狼を神殿が飼っていたことになり、かなりのイメージダウンになるのは避けられない。
ただし、神殿の代表者であるエブラ神官が、友人とも思っていた狼をラジャフの人々のため心を鬼にして討伐させたとなれば話は別である。
神殿とエブラ神官は、ラジャフの人々からこれまで以上の尊敬と信仰を集めるだろう。
神殿などの権力は障害にならない限り味方につけて置くべきものだ。
この話については、宿へ帰る途中でルエリアにも伝えておいたので、村長や女達の井戸端会議であっという間に噂が広がるだろう。
女子供の涙を誘うお話になるに違いない。俺も泣きながら傷だらけでシルバーファングを倒したことにすればよかったかな?
また、この話を宿で広めておけば商人や旅人達に早く伝わって物流や人の行き来も活発になると思うのだ。
「ラジャフ街道も少し安全になったと思う。商人や旅人にも教えてやってくれ」
「はい。これで商人達も安心すると思います。ありがとうございました」
「ちなみにアイリーンはどこだ?」
「調理場で夕食の準備をしておりますが、何か?」
「ラジャフラットの肉が1つ残ったから世話になっている例に渡そうと思ってな」
「それでしたら直接渡してやってください。喜びますから。私はフロントから離れられませんので」
俺はアイリーンのいる食堂の奥の調理場へ向かった。
いつもは見る事の無い調理場だが、文化レベルはやはり中世ヨーロッパという感じらしい。
大きな串に刺された肉がテーブルに載っており、アイリーンは暖炉のようなところで肉を焼く準備をしているようだ。
そして、次の瞬間、俺はアイリーンの行動に驚いた。
「<ファイア>」
アイリーンが暖炉の重なった薪を指差してそうつぶやくと、薪の下の小枝が燃え出したのだ!
えっ、村人が魔術を使えるの?ありえないでしょ?それに、FFじゃないから<ファイア>なんて呪文なかったし…。
この世界がゲームと似た別の異世界であることを再認識した瞬間だった。