魔法スキルの取得は予想以上に上手くいっている。
<ファイア>は1日である程度コントロール出来たといっていいだろう。
初歩の魔法だからという事もあるし、魔力量のコントロールとイメージが容易だったのが大きい。
この世界の人は自分や他人のステータスを見ることが出来ないようだ。
そのために魔法を使う場合も魔力量と発動させる魔法のイメージを合致させるのが難しいのではないだろうか?
俺の場合はステータスでMPが確認出来るので、そのうち○MPを使ってこんな魔法を発動させるというイメージが容易に出来るのだ。
これは熟練のメイジが多くの経験でやっと掴むことが出来る感覚なのかもしれない。
訓練を終えてラジャフに帰ると、俺は真っ直ぐ書店屋のメリヤ婆のところへ行き水属性の魔法<ウォーター>の魔導書を購入することにした。
「おや、今日は何の用だい?聞きたいことでもあるのかい?」
「<ファイア>を使えるようになったから<ウォーター>の魔導書を売ってくれ」
「そんなに早くまともに使えるはず無いだろう。からかってるのかい?」
<ファイア>が使えることをメリヤ婆は信じていないようだ。
「そう言っても使えるものは使えるんだ。試してもらってもいいが」
「それなら店の裏やっておくれ。本当だったら<ウォーター>の魔導書を売るよ」
二人は店番を剣技スキル担当の年配の男に任せると店の裏庭へ行った。
俺は<ファイア>を庭にあった枯れ枝を何本か重ね、それに向かって発動させた。すると枯れ枝は赤い炎で包まれ、あっという間に燃え尽きる。
「こんなに早く<ファイア>をものにするだなんて、やっぱりメイジの方が向いてるんじゃないかい?ここまで出来るのに普通は1ヶ月は掛かるんだよ!」
まあ、俺は元々この世界では規格外だから勘弁してもらいたい。テンプレだろうから俺のせいじゃないよね…。
「火属性の剣技スキルをいくつか使えるから相性がいいんだろう。<ファイア>は特別じゃないか?」
そんな風に誤魔化して<ウォーター>の魔導書を購入することに成功した俺は、その日の夜にルーンを身体に受け入れた。
2回目だった為か、<ファイア>より副作用の頭痛が少なかったのはありがたかった。
次の日にはまたラジャフ街道の原石の岩のところで<ウォーター>の練習をした。
<ウォーター>は主に球形の水を空気中に発生させる魔法で、旅やダンジョンで重宝するものだ。
使用MPは<ファイア>と同じ2MPで、洗面用の桶1つ分ほどの水球を発生させることが出来る。
練習してみるとMPの量に比例して水量が増えていくのが分かるが、<ファイア>と同様限界があった。
ある程度工夫してみたが、使用方法に大きな変化はなかったので練習を早めに切り上げてラジャフへ戻る。
こんな調子で1日目は<ファイア>、2日目は<ウォーター>を覚えたが、次は2日間空けて5日目に氷塊を発生させる水属性の魔法<アイス>を覚えた。
「5日で<アイス>かい。ガッツ、もう何があっても驚かないよ」
メリヤ婆も呆れながら言っていた。驚きすぎると命に係わりそうだからそれがいいよ婆さん。
そして、やっと8日目に念願の<ファイヤーボール>の魔導書を取得することになった。
<ファイヤーボール>は火属性の純粋な攻撃魔法で、灼熱の弾を作り出し、対象へ放つ弾道魔法だ。
最低使用MPは8で、ゲームなら魔導書を購入しなくても初期から取得している魔法だったが、この世界では初級とは言え魔法初心者へいきなり攻撃魔法を覚えさせることはしないようだ。
普通<ファイア>、<ウォーター>、<アイス>の三つをまともに使えるようになるには3ヶ月は掛かるそうだ。才能のあるメイジでも1ヶ月は掛かるらしい。
<ファイヤーボール>の魔導書を1銀で購入した俺は、早速その夜にルーンを身体に取り込んだ。
副作用でやっぱり頭は痛かったが、4回目でだいぶ耐性が出てきたのか酷くはならなかった。
いつもと同じ街道の原石の岩で練習をすることにしたが、本格的な攻撃魔法とあってワクワク感がある。
訓練場所に到着すると、あたりにウロウロしていたクモさん2匹を剣で駆除して場所を確保する。
そして、10m程度離れた目標となる岩に向け、左足を前に出した半身から左腕を真っ直ぐ伸ばして指を差し詠唱する。
「<ファイヤーボール>」
消費MPは最小の8。暴発は無いだろがどうなるか分からないしな。
すると、指先に直径30cmほどの火炎の球が発生し、ロケット花火と同じぐらいのスピードで約10m先の目標の岩へ向かっていった。
岩に当たった火炎弾は、大きく爆ぜる様な音を残して消える。なかなかの迫力と威力だ。
その後は、MPの量を調節して<ファイヤーボール>を岩場に向けて発するが、実験の結果はこうだ。
まず、MPは32までが使用限界のようだ。それ以上は火炎弾の威力が変わらなかった。
16MPぐらいまではMPの量に比例して火炎弾や威力が大きくなったり、射程距離が長くなったりしたが、それ以上になると問題が発生した。
それは、火炎弾のキャストタイム|(魔法を発動するまでに掛かる時間)が長いのだ。8~16MPまでだと2秒ぐらいだったものが、24MPで4秒、36MPだと6秒掛かってしまう。
これでは詠唱者が無防備になる時間が長すぎて危険なため、24MP以上の魔法はソロの接近戦や複数相手の戦闘にはとても使えそうに無いだろう。
なお、攻撃魔法である<ファイヤーボール>はかなり確実に目標へ火炎弾を当てることができる。
訓練中に現れたモンスターにも狙ってみたが、動く目標に対しても同様だ。
その理由は、詠唱者が<ファイヤーボール>を放った後も火炎弾が目標に当たるまで指示していれば追尾して攻撃するからだ。
火炎弾は目標に当たった感触こそ無いが、指先が魔力で<ファイヤーボール>の火炎弾と繋がっている感覚がある。
また、指示しなければキャンセル扱いとなり直進するだけで、適当な距離で魔力が尽きて消滅してしまう。思ったよりは安全な攻撃魔法だ。
ただし、途中でキャンセルしても攻撃魔法はクールタイム|(次の魔法を発動させるまでの時間)の設定があるので連射は出来ない。
それ以上に問題は、この魔法の威力かもしれない。8MP消費では50~60程度のダメージしか与えられないのだ。
ラジャフ街道なら一撃でモンスターを倒せるのだが、二桁以上のLvを持つモンスターにはあまり効果が無いだろう。
プロボ代わりに使うにしてもプロボの最低MPは5なのでコストパフォーマンスが悪い。
このため戦闘に魔法を使うなら何とか早めに上位魔法を習得する必要がありそうだと感じた。
日が落ちてきた為訓練も終わりにしようとした時、<ファイア>の魔法から思いついた<ファイヤーボール>の発動方法をやってみることにした。
<ファイア>では、炎を小さくすれば同じ魔法量でも強い火力を発生することが出来た。これを<ファイヤーボール>で試してみるのだ。
まず、岩盤に向かって<ファイヤーボール>の火炎弾を小さく強い炎となる様にイメージして発動する。
すると火炎弾は5cm程度の青白い火球となり岩盤へ向かって飛んでいった。
結果としては予想以上だった。すばらしいのは火炎弾の貫通力だ。
通常の<ファイヤーボール>は攻撃対象の表面にある程度の打撃を与えながら炎で追加ダメージを与えるのだが改良版は違った。
青白い小さな火炎弾は岩盤に強い衝撃を与えてめり込み、岩盤の中で爆発したのだ。恐らく防御力の弱いモンスターなら貫通してしまうほどの威力だ。
貫通しない場合は想像するのが恐ろしいところだが、モンスターの体内で火炎弾が爆発するのではないだろうか?
これならばMP8の<改良版ファイヤーボール>でもLv20程度のモンスターまでは十分使える魔法になると思う。
MP16で使用すれば威力だけなら<ファイヤーボール>の上位魔法<ファイヤーボールⅡ>に匹敵するのではないか。
ただし、火炎弾が小さいためこれをコントロールして動く対象に当てるのは難しいだろう。これは十分な訓練が必要だ。
そうだとしても<ファイヤーボール>が使える魔法となる目途が立った俺は、明日からの訓練をどの様にするかを考えて楽しんでいた。
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