晴れやかな日差しの朝にすっきりと目覚めた俺は軽い朝食を宿で取ると広場へ向かった。
待ち合わせの場所のオーブの下には昨日と同じ様に二人が待っていた。
「おはよう」
「おはようございます、ガッツさん」
「おはよう、ガッツ!」
テンション高いなルエリア。二人とも装備も整っているし大丈夫みたいだな。
ルエリアは剣士が好んで装備するレザースケイルという皮鎧を装備している。この皮鎧はウルフの背中の皮を丁寧になめして鱗状に加工したもので出来ている。
他にも腰に装備しているレザーフォールドや腕に装備するガントレットも同じウルフの皮を使用している。
通常は茶色が主体の装備なのだが、ルエリアは女性らしくさわやかな藍色の染料で表面を加工したものを購入した。
ルウアの方はというと、ローブを選ぶのかと思っていたら防御力重視でレザーショルダーを装備している。
こちらもウルフの皮を使った鎧だが、主に肩から胸元の防御を重視したものになっている。(人類の宝は守らねばならんのだ!)
皮はクリーム色に加工しているものを選んだので、見た目には思ったよりも厳(いか)つい感じはしないようだ。
この装備が頭から足まで合わせたものでも一人500銅ほどで購入できるのは驚きだ。モンスターから身を守ることが重要なこの世界では初級冒険者は優遇されているらしい。
バビリム王国あたりから初級冒険者育成のための補助金でも出ているのかもしれない。
「それでは早速ラジャフ街道で二人の腕前を見せてもらおうか」
「いいわよ。お父さんに教えを受けた剣捌きを見てもらうわ」
「私は回復スキルがメインですが多少は戦えます」
見れば分かるよルウア。装備が杖じゃなくて盾と棍棒(メイス)だもんね…。撲殺ドルイドだったんだ。
ル、ルエリア。広場で刺突剣を振り回すのはやめてね? 殺(や)る気まんまんだな二人とも。
俺は周りから受けるいろいろな視線を無視して三人でラジャフ街道へ向かった。
街道に出た俺たちは、辺りを見回して草の陰に身を潜めたスモールラットを発見した。
「まずはあのスモールラットを倒してくれ。ルエリアからだ」
「わかったわ。いくわよ」
ルエリアは左腰の鞘からレイピアを抜くと、その細い刀身を前に構えながらスモールラットへ静かに、そして素早く近づいていった。
「はっ!」
気が付いてこちらを向いたスモールラットの眉間を狙ったルエリアの突きは見事に決まり、刀身が10cmほど刺さると小さな叫び声を上げて痙攣する。
さらにルエリアが素早くスモールラットの右側面に回って首の頚動脈あたりを切りつけて止めを刺すと淡い光とともにモンスターは消えていった。
「ほう。なかなかの手際だな」
一撃で決まらないと見るや流れるようにニ撃目で追撃できる素早さと判断力は剣士としての資質を十分備えていると見える。
村長も娘相手とはいえかなり鍛えたのだろう。これならばウルフの相手も可能だな。
「そうでしょ。もう少し強い相手でもいけるわよ」
「焦る必要はない。慣れてから強い相手と戦ってもらう事にしよう。次はルウアだ」
「はい」
ルウアの身体が固くなって小さく見える。返事も小さい。少し緊張気味のようだ。
そこで、軽くジョギングしながらモンスターを探して身体の固さをほぐしてやる。ジョギングといっても早歩き程度だけどね。
10分ほど動いていると30mほど先に木の陰にいるラジャフラットを1匹確認できた。
「ルウア、あのラジャフラットを倒すんだ」
「はい」
姿勢を低くして静かにラジャフラットへ近づくルウアだったが、あと10mの所で気付かれる。しかし、一人だと侮ったのか威嚇しながらルウアの方へ歩いてきた。
ルウアは左手に持った木の盾を前に出し、棍棒を右肩の上に構えるとラジャフラットへ接近する。
「えぃ!」
ルウアは威嚇するラジャフラットの顔前に一瞬盾を突き出すと、左手を引くのと同時に振り上げていた棍棒を顔面に叩きつけた。
さらに怯んだモンスターの後頭部を棍棒で2回殴り、倒すことに成功する。ルウアも戦いは問題なくこなせるようだ。
「ルウアは意外と力もあるんだな」
「はい。神殿では畑仕事もしますし、力仕事もたくさんありますから」
ふむ、あの豊かな双丘が見事な張りを保つには普段からの継続的な努力があったようだ。グッジョブ!
「これだけ戦えるのにクモが駄目だとはな」
「クモは生理的に苦手なんですぅ」
クモが苦手な女性は多いからなぁ。俺的には毒を持つクモ以外は害虫も駆除してくれる益虫だと思うんだがな。モンスターのクモは完全に害虫だけどね。
芥川龍之介の『蜘蛛の糸』じゃないけど、現世ではよく部屋へ迷い込んだクモを助けてやったもんだ。
「二人が十分戦えるのは分かった。戦いながら移動して川を渡ることにする」
「「はい!」」
目標とするのは川を渡ったところにあるウルフがいる草原だ。そこに行くまでに二人の特徴を掴んでおく。
ルエリアはスピード重視の剣士のようだ。一撃は重くないがモンスターの急所を的確に攻撃している。苦手なモンスターはいないようだ。
守備は盾を装備しているが相手の攻撃は基本的にかわすようにしているらしい。
ルウアだが見た目のとおり守備重視のドルイドだ。頑張って棍棒で攻撃はすることは出来るが前衛職ほどの攻撃力はない。
動きもそれほど早くないためタイニーバットやスモールウイングなどのコウモリ系には攻撃が当たりにくいようだ。
パーティで戦う場合は後衛で回復に回ってもらうので問題ないが、戦闘では動きの遅いネズミ系としか戦えんかもしれん。クモとは戦えないしね。
モンスター1匹にルエリア・ルウアの二人が協力して戦うなど移動しながら狩りを続けた。
三人は3時間ほどで川を渡る木の橋までたどり着いた。普通に歩いても同じぐらい掛かるらしいので急ぎ足だったようだ。太陽は既に真上へ上がっている。
「日も高いのでそろそろ休憩しよう。その後でウルフとの戦いの準備だ」
「よかった~。ほとんど休み無しで疲れたわ。ルウアはどう?」
「そうですね。近くでの狩りが多いのでここまで来ることもありませんでしたから少し疲れました」
「軽食と水分を取ってくれ。少しは疲れも取れるだろう」
「とうとうウルフと戦うのね。ついでに商隊の荷物も回収できるといいんだけど」
「よかったらウェブメーカーも狩っていただけるとうれしいです。私は後ろで見てますけど…」
「そうだな。同じ場所にいるので機会があれば狩っておくか」
俺たち三人は橋の袂(たもと)に座ってこれからの戦いの話をしながら休憩することにした。