ウルフとの戦いを見てルエリアとルウアが十分冒険者としてやっていける力があると思い、俺は数日後二人を冒険者認定クエストへ連れて行くことにした。
このクエストは本来、エブラ神官と村長のタムドからの許可を得てから受けるものだが、二人にはすでにパーティを組む際に許可を得ているので問題ない。
ついでにクエストに必要な”冒険者の試験票”もルエリアを送っていった時にタムドから貰っておいたのだ。
「今日は予定どおり冒険者としての試練を受けてもらう。ドルアーガの塔へ入るぞ」
「とうとうドルアーガの塔へ行くのね。少し怖いけどワクワクするわ。ルウアはどう?」
「私はルエリアと違って不安の方が強いです。でも、三人でなら戦えると信じています」
「戦うだけなら俺が保障してやる。ただし、ドルアーガの塔はここから少し遠いが準備は大丈夫か?」
「ええ、着替えや軽い食料も持ってきたし大丈夫よ」
「ドルアーガの塔の周りには商店や簡易宿泊所もあると神殿のみなさんから聞いていますから、最低限のものだけ持ってきました」
そうなのだ、ゲームでもドルアーガの塔の周りには商店や倉庫が存在したのだが、ここでは宿泊する施設も存在するらしい。
塔を攻略する冒険者が多く訪れて、それを目当てに商人たちも集まったらしい。
俺も宿でアドナーンに話を聞いていなかったら宿泊用に毛布を持っていくところだったよ。サンキュー、アドナーン!
三人で話しながら村から街道に出ようとすると、出入り口にいた衛兵の一人に話しかけられた。
「お前たち、ドルアーガの塔へ入るのか?」
彫りの深い顔立ちで黒い短髪の30才過ぎほどに見える男だ。身長は175cm程度ありがっしりした体格をしている。何やら真剣な様子で話しかけてきた。
「そうだ。この二人が冒険者になるための試練として塔に入るんだ」
俺はルエリアとルウアに目配せして、二人も肯く。
「そうか。俺は衛兵のテベスだ。塔に入るなら頼みがあるんだ。聞いてくれないか?」
塔のクエストだな。たぶん簡単だったと思うから聞いてやろう。
「望みをかなえられるかどうか分からないが、話だけなら聞いてもいい」
「ありがたい。実は悪魔ドルアーガが塔を支配していた頃、俺の親父も奴を倒しに塔に行ったんだ。しかし、親父は所詮普通の人だったんだな。塔に入ったところでスライムに殺されちまったらしい」
「残念だったな」
「ああ。ま、人生そんなもんさ…。それでも俺にとってはたった一人の親父なんだ」
「それで頼みとは?」
「悪いんだが、塔の中で親父の形見を探してきてくれないか?俺は衛兵の仕事があるから、ここを離れる訳にはいかないんだ」
衛兵の場合、交代制といっても1泊するほどの休暇があるわけではないのだろう。親の形見も探しに行けないとは厳しい労働環境だな。少し同情したくなる。
「その形見とはどんなものなんだ?」
「親父の名前はネヴィルという。常に名前の入った陶片のタブレットを身につけていたんだが…。もしも、見つかったら持ってきてくれると嬉しい」
現実的な問題、塔の中のどこでその父親がスライムに襲われたのかも分からないので必ず見つかるとは言いにくい。恐らく他の冒険者にも声を掛けているのだろうが、今だに見つかっていないのだろう。
「分かった。もし見つかったらお前のところへ届けよう」
「たのむよ。出来れば遺品を埋めて親父の墓を作ってやりたいんだ」
少し悲しそうな顔で俺に微笑みかけようとする。男の笑顔で頼みを聞く俺じゃないが、男気には答えたい。
俺はテベスに向かって肯くと、二人を連れてラジャフ街道へ向かった。
「ガッツさん、テベスさんのお父さんの形見が見つかるといいですね」
ラジャフを出て少しするとルウアがつぶやいた。
「そうだな。出来れば見つけてやりたいと思っている。そのためには二人の協力が必要だ」
「もちろん協力するわよ。スライムなんてやっつけてやるわ!」
「甘く見ない方がいいぞルエリア。単体ならともかく、囲まれるとやっかいな相手だ。それに塔に入ると塔の魔力で強さが補正されてしまうからな」
俺は街道を歩きながらでも見える、天を衝くように巨大で禍々しい雰囲気を放ったドルアーガの塔を遠くに見ながら行った。
そうなのだ。ドルアーガの塔はその恐ろしい魔力によって入ったものの強さ(Lv)を補正してしまうのだ。
1階ならLv2、2階ならLv4というように、階数の倍までしか力が出せないのだ。これにはスキルも影響されるため注意しなければならない。
なお、現作ゲームでは塔の内部は60階まであったのだが、現在は何階まであるのか不明だ。
「魔力まで減少するようだからスキルがあまり使えなくなるのは厄介ね」
「<ヒール>は使えると聞いていますが、回数が限定されますよね。回復薬は用意していますが、頼りのガッツさんまで実力が大きく落ちるんですから慎重にいく必要があると思います」
「そうね。ガッツにばかり負担を掛けてるから、塔では今まで以上に協力しましょう」
分かってくれているようだ。賢い生徒たちでありがたい。俺たち三人はそのまま順調に街道沿いに足を進めた。
前回と同じく川を渡る橋のところで長めの休憩を取ると、さらに1時間歩いてウルフたちのテリトリーに入る。
ここを進む間にウルフの群れとは一つだけ戦ったが、今回は塔へ向かうのが目的なので積極的にこちらから探して仕掛けることはない。
そのうちに街道は家の廃墟がいくつか残る寂れた場所へ続いていた。
「ルアリア、この辺りの廃墟はもしかして…。ここに村があったのか?」
「ええ、ドルアーガの塔が現れる前街道沿いにあったホックスという村よ。以前は街道の休憩地としてもよく利用されていたと聞いたわ」
「やっぱりモンスターのせいなの?」
「そうね。この村は比較的頑丈なレンガの家が多かったんだけど、モンスターに襲われてはとても耐えられなかったでしょうね」
童話では子豚をオオカミから守ったレンガの家も、モンスターから人々を守ることは出来なかったようだ。
家の基礎や壁の低い部分だけが残る廃墟。壊れたかまどが昔の生活感を少しだけ伝えてくる。
「残念ですが、いくらイシター神殿でも全てを守ることは出来ませんから…」
そうか、ゲームでここが廃墟となっていたのは魔王ドルアーガ復活の名残だったのか。残っていれば時代劇の宿場町のようにたくさんの人々が暮らしていたのかもしれない。
「それはそうと、ドルアーガの塔までもう少しだ。頑張るぞ」
「「はい」」
俺は二人を励まして軽い昇りになった街道の道を歩き、ますます巨大に見えるドルアーガの塔へ向かって再び一歩一歩足を進めていった。
街道を上りきると岩山の間を通る高さ10m、幅4mほどの切り通しがあった。そこを10分歩くと、やっと開けた場所にたどり着いた。”ドルアーガの塔”だ。
このドルアーガの塔を表現する時、塔という言葉を使うことに少し躊躇いがある。もちろん高く細長い巨大な建造物なのだが、通常の建築物とは多少かけ離れた姿をしているのだ。
しいて表現するなら極太のクモの糸を円柱状に緩く纏め上げたものとでも言えばいいだろうか?
強引に近い物を上げるなら北京オリンピックでメイン会場だった鳥かごを縦に高くひねり上げた感じとでも言おうか…。実際に見てみないとこれを理解するのは難しいだろう。
その上この塔は100mは超えるであろう高さがあり、その頂上は雷が時折瞬く暗い黒雲の中に消えているため見えないのだ。さすが魔王の塔、完成度が半端ないっす!
「近くで見ると凄く大きいわね~!」
「大きさも凄いんですが、禍々しさを感じてしまします。どうぞイシター様のお守りがありますように」
「魔王の元でイシター様への祈りを奉げるなんて…、ルウアは本当に巫女なのね」
「ええ、私たちイシターの巫女や神官はいつも祈りでイシター様を身近に感じていますから」
「見物が終わったところで宿を確保するぞ。明日は朝一で村長から紹介された塔の監視者のところで冒険者の試験を受けるんだ」
「ドルアーガの塔へ入るのね!ドキドキするわ」
「必ず試練を乗り越えますわ!」
二人とも気合は十分のようだ。この意気で明日は試験に挑んでもらうとしよう。
俺達はドルアーガの塔攻略のため冒険者で賑わいをみせる街並みを歩いて粗末な宿を確保したのだった。