ドルアーガの塔周辺で確保した宿はあまり上等ではなかったが、ここでは十分並みの部類らしく料金は2食付で一人20銅と普通に取られる。
部屋の方はツインとシングルの2部屋を取ることが出来た。もちろん俺はシングルでおとなしく泊まりましたよ?
残念ながらテンプレ的なベットにもぐりこみ~とか、二人に挟まれて寝れない~、なんていうことは残念ながらなかったです。はい。
次の日、俺たち三人は宿で軽い朝食を取り冒険者の試験を受ける為に塔の監視者のところ向かった。
ドルアーガの塔の前には、バビリム王国から派遣された攻略の様子を見守る監視者や、イシター神殿が塔の魔力を結界で抑える為にいる結界の管理人などが何人かいる。
その中で村長のタムドから紹介された塔の監視者エムドを探して声を掛けた。タムドと同じぐらいの年だろうか?
「あんたがエムドか?」
「そうだが、お前は?」
「俺は冒険者のガッツだ。ラジャフのタムドから紹介されて冒険者の試験をこの二人に受けさせに来た。これが紹介状だ」
「何だって?本当に間違いなく紹介状のようだな。タムドめ…まぁたこんな、若い娘を二人もよこすとはどういうつもりだ?」
「何か問題でもあるわけ!」
ルエリアがその言葉を聞いて反応する。そんなにいちいち突っかからなくても…。
「お前たちひよっこが、塔の中でずたぼろになって気絶しちまったとき、それを回収して村まで連れて帰ってくるのは誰だと思ってやがるんだ?」
「私たちならそんなドジは踏まないわよ!」
「まあまあ、取りあえず紹介状はあるんだ。試験の内容がなんだか教えてくれ」
「ったく。いいか?よく聞け!簡単な試験だ。一階の奥にある”選別の岩”に刻まれた、文言を調べてくるんだ。まあ、この程度の試験もこなせないんじゃあ、塔の謎なんざ夢のまた夢ってこった」
「それだけでいいの?」
意外?といった顔でルエリアとルウアは顔を見合した。
「塔の中にはいまだに危険な魔物が数多く徘徊しているんだ。命が惜しければ、慎重に行動しろ」
「その通りだぞ二人とも」
「要するに自分の身は自分で守れってこった。くれぐれも勇者きどりの無茶とかして、俺たちに余計な手間かけさせんじゃねえぞ。わかったな!」
「わかったわよ。必ず自力で戻ってくるわ」
「じゃあ、行ってこい!塔の一階にある”選別の岩”を探すんだ。くれぐれも、慎重にやるんだぞ」
「了解よ」
「わかりました」
ありがたいことに、うまくエムドが二人の気持ちを引き締めてくれたようだ。
俺たちはすぐにドルアーガの塔へ入るため、結界の管理人のところへ行った。
塔の前には30歳ぐらいのほっそりした白人系の神官がイシター神殿の白いローブを着て立っていた。
「俺は冒険者のガッツだ。この三人で塔へ入りたい」
「三人のパーティですね。神殿の巫女もいるようですね?」
「ラジャフの巫女でルウアと申します。よろしくお願いします。冒険者の試験を受けにまいりました」
ルウアが神官に深々と頭を下げた。ここで結界の管理をしているんだから、ルウアからしたら大先輩だろうからな。
「初めての塔ですね?頑張ってください。ここから私が結界の中に送り込めるのは、あなたたちの肉体と各種装飾品、それに道具袋(マジックバック)だけです。準備はよろしいですか?」
「大丈夫です」
「いつでもいいわ」
「わかりました。あななたちが塔に挑む一瞬だけこの結界に穴を穿ちましょう。ただし、時がくればあなたたちをこの場に戻しますが…、これが魔力に抗える今の神殿の限界なのです」
端正な顔立ちの結界の管理人は少し悔しそうな顔で嘆く。塔に入ったとしても時間がたつと魔力のせいで塔から弾き出されてしまうらしい。とはいっても半日程度はいられるから問題ない。
「それで十分だ。今回は長居するつもりも無いし、俺たちは自力で塔から出てくるから心配ない」
「そうですか。無理は禁物ですからね。では、今から結界に穴を開けます。あなたたちにイシター神のご加護があらんことを」
そういうと、結界の管理者は俺たちに両手のひらを向ける。すると俺たち三人はまばゆい光に包まれていった。
光が晴れると、そこはもう塔の中だった。1階のその場所は少し広いホールになっており、安全な場所なので塔のモンスターなどに挑む前に装備の点検や作戦の打ち合わせに便利なところだ。
塔の中はその外見とは異なり、中世の石造りの城の内部を見るような構造だ。窓は無いものの通路に沿って上部にランプが辺りを照らしているため視界は十分確保されている。
ただし、下から蒸気のような物が時折上がってくる鉄格子で組まれた床だけは意味不明なのだが…。
「準備はいいな?下級の装備に換えてあるな?」
「大丈夫よ。武器を練習用の木剣にするのは何だか少しこころもとないけどね」
実はドルアーガの塔の中では本人のLv補正だけではなく、装備のLv補正まで行われてしまうのだ。正しい装備でないとその装備の力がまったくと言っていいほど発揮されなくなる。
ルエリアの場合、多少いい剣を使っていたため、この1階では使えず木剣に換えることになった。ルウアの棍棒も木製にしてある。
ちなみに俺もいつもの両手剣ではなく、修行者用の片手剣と木製の盾を装備している状態だ。
「正直に言えば冒険者の試験をクリアするのは簡単だ」
「そうなの?」
「ああ、ルエリア。お前たち二人の実力なら問題ない。この先にいるグリーンスライムを避けるか、倒してその先にある”選別の岩”に直接さわって確認してくればいいだけだからな」
「グリーンスライムは弱いんですか?」
「一人なら多少苦労するが、三人ならまったく問題ないレベルだな。回復職がいればなおさらだ」
「それなら早く帰れるわね」
「ここへ来た目的は試験をクリアして冒険者になることと、塔の雰囲気に慣れることだ。ただし、今回は衛兵のテベスに頼まれた親父さんの形見を探す役目があるから少し頑張ってもらうぞ」
「もちろんいいわよ」
「はい、がんばります」
俺は二人をホールの奥にある通路へいざなう。ここには少し驚くような物体?がある。
「ガッツ…、あれはなに?」
通路の両側には合せて4人の遺体のようなものが放置してあるように見える。近くに寄ってよく見ると、本物の遺体ではなくホログラムのようなものだということがわかる。
そして、その遺体らしきものから直接頭に言葉が聞こえてくる。残留思念なのだろうか?それは、無謀な戦いを塔のモンスターに挑み、敗れて死んだ冒険者の反省の言葉だった。
自慢の攻撃力でモンスターたちを蹴散らそうとして死んだスカウト(剣士)や、みんながバラバラに攻撃したため回復をしきれずに全滅の憂き目を見たドルイドなどだ。
「これは塔で死んだ者たちの幽霊のようなものだろう。二人もこうならないように気をつけることだ」
「攻撃力があるからって一人で突撃しちゃだめってことよね」
「盾となる前衛役が固定していないと回復するのも絞れませんし、魔力もすぐに枯渇してしまいますものね」
「そうだ。場合によっては全体を見渡せるドルイドが戦闘行動を指示する必要もあるからな」
この偽遺体は、かなり見た目は悪いがいい教訓となっている。まあ、そうならないように二人には十分訓練したつもりだけどね。
所々ひびの入った薄茶色の石畳の広く長い通路を50mほど進むと、20m先のホールに1匹のグリーンスライムを発見する。
横幅が2m、高さが1mほどで形は鏡餅のようだ。名前のとおり鮮やかな緑色をしており、遠めで見るときれいに見える。ただし、接近すると体内の消化器官が透けて見えるのでグロいんだが。
「いいか?グリーンスライムは敵を探知する範囲が10mほどしかない。このホールのような広い場所ならば避けて通過することも可能だ。ただし、今回は倒しにいくぞ」
「基本的にはここまで戦った、ガッツさんが前衛のフォーメーションでかまいませんか?」
「それでいい。あいつを倒して、その奥に見える”選別の岩”を確認するぞ」
「「はい」」
俺はグリーンスライムに少し近づいて遠めから<プロボ>を放ち、こちらに注意を引き付ける。すると、グリーンスライムは俺を認識してべチャべチャと音を立てながら人が歩く速度でゆっくりと近づいてきた。
そこへ俺は左手で盾を構え、右上段から片手剣を振り下ろしてスライムにダメージを与える。これでスライムの注意は俺に固定だ。相手のHPは1/5ほど削っている。
怒ったスライムはそのプルプルした身体で俺に体当たりをしてきた。
ベシャッ!
重量感のある攻撃だが、俺はどうにか小さな盾でその攻撃を凌いで耐える。
ここでルエリアが側面からスライムへ攻撃を加えた。
「<ソニックブロウ>!」
これでスライムのHPは2/5まで削れた。さらにルエリアが突きを、俺がなぎ払いで攻撃するとスライムはHPを失ったため、しぼんで淡い光とともに消えていった。
「よし、二人とも”選別の岩”を確認してくるんだ」
ルエリアとルウアは”選別の岩”までたどり着くと、近くでその岩を見つめた。スライムと同じぐらいの大きさの灰色がかった何の変哲もない岩に見える。
しかし、その岩の上部は何人もの手で削りとられた後があり、先に訪れた冒険者によって刻まれた文章のようなものも見て取れた。
『私は塔調査隊の先発隊長、アサド。ここに聖なる刻印765を刻む。後続の君たちにイシター神のご加護があらんことを』
続けてさらにその下に書いてあった文章を読み、ルエリアは驚きの声を、ルウアは憂いをたたえた沈黙の様子を見せた。
「えっ!」「…」
『私は塔調査隊の先発隊長、アサド。塔の復活を聞き、ここまで来たが 魔力に当てられ徐々に自分の体が 岩へと変わるのを感じる。 この意識が失われる前に、分かったことを我が 体に 刻んでおこうと思う』
「そんな…。ガッツさん、この岩はアサドさんという人だったのですか…」
「そうだ。彼は先発隊としてこの塔へ入り、重要な情報を自分の命と体を使って残したんだ」
「凄い人よね…。こんな人達のおかげで塔が攻略されていくのね」
「だれもがギル王子やイシターの巫女カイのように魔力に屈せずモンスターを倒せるわけじゃない。普通の兵士の尊い犠牲の積み重ねが不可能を可能にするんだ」
「この岩は冒険者となる人々に心構えを説く意味もあるのでしょうね」
俺たち三人は岩となったアサドに手を合せ、冒険者として生きることとは何なのかをそれぞれが心の中で思い描くのだった。