森をさらに進んで行くと他にもモンスターが出現してくる。蛇の姿をしたツリースネークや植物モンスターのマントラップだ。
マントラップは薄紫色の大きなバラのような花びらを頭部を持ち、ツルのような手で攻撃してくる2mほどのモンスターだ。攻撃力は高くないが、花粉を使った気絶効果を持った攻撃があるので接近戦ではやっかいな場合もある。
ただし、植物モンスターの弱点である<ファイヤーボール>が使えるようになった俺には楽な相手だ。これを花びらに2発ほどぶち込めば安全に倒せるおいしいヤツにすぎない。
襲ってくるモンスター達を片付けながら俺は迷いの森を奥へ奥へと目的地に向かって進んでいった。
もう、森に入ってから3時間はたっただろうか?途中の石碑のある広場でランチは済ませてある。アイリーンの作ったスモークサンドはいい香りがしておいしかった。チップはどんな木を使ったのだろう?
3体目になるマントラップを倒してそんなことを考えながら歩いていると目的地に到着した。
そこは、みすぼらしい石碑が巨木の根元にある森の中の大きな広場だ。ここに目標となる相手(モンスター)がいる。
その名は”ハンババ”。2m半を超える巨大な体躯を持つ凶暴なモンスターだ。
その姿は、毛のない巨大なマウンテンゴリラのようで、その腕は丸太のように異常に太く、両手にアイアンナックルを付けた緑色の巨体は恐ろしいの一言だ。
Lv20から22であるハンババには、同Lvの頃に何度かソロで殺られている。巨体から繰り出される強力な打撃と、土属性の攻撃に耐性を持つハンババは接近戦を専門とする戦士には相性の悪い敵なのだ。
ハンババには、攻撃の種類が多少異なるハンババソルジャー、ハンババスカウト、そしてハンババキャスターの3種類のタイプが存在する。
ランダムで出る強打や気絶攻撃、中でもハンババキャスターが繰り出す3倍撃や毒のように継続してダメージを発生させるスキル攻撃などは脅威だ。
だが、脅威だからこそ先に進むためには戦っておかなくてはならない相手だ。攻撃力だけなら簡単に勝てる。俺はどんな相手と戦っても死なないために最小のダメージで勝つんだ。
遠くに強敵のハンババキャスターを見つけた俺は、<プロポ>代わりに<ファイヤーボール>をヤツに放つ。
「ゴゥァァァア!」
腹部に傷を負ったハンババは恐ろしい叫び声を上げながら、ドスドスと音を立てて近づいてくる。牙を剥き出しにしたその顔が身近に迫ることに恐怖感さえ感じる。
でもここでは引き下がれない。俺は前へ駆け出しながらハンババへ<クラスマ>を叩き込んだ。
ハンババは攻撃の威力を本能で察知したのか、その左腕を犠牲にして致命傷を避けた。しかし、まだまだこれからだ。
俺は攻撃を受けてバランスを崩しているハンババの側面へ回り込むと、<ヒートボディ>を発動して火属性を持つ体当たりをわき腹に追撃して入れ動きを止める。
顔を歪めてこちらをにらむハンババから一度離れた俺は、もう一度<クラスマ>を発動させた。
ガキィーン!
「ぐっ!」
まさか!<クラスマ>がハンババのアイアンナックルに弾かれた!こんな偶然が起こるなんて。剣は何とか無事のようだ。
俺はハンババを切りつけることに失敗して転がるように着地した。そこへハンババは傷ついた腕をものともせず、その胸をドラムのように叩いて叫びスキルを発動した。
「がっ」
紫色の光体が近距離から俺を襲った。魔法に近いそのスキルは鎧の上からでも俺にダメージを与え、焼けるような痛みを俺に与える。時間制限のあるHPを削るスキルだ。
さらにハンババは無傷な右腕を振り上げて俺めがけてアイアンナックルを叩きつける。
まずい。俺は剣を抱えながら転がって何とかその拳をギリギリで避けた。
ドガッ!
地面に半分以上突き刺さったその拳はその威力を物語っている。おそらく3倍撃だったに違いない。
当たったらそこそこHPを持っていかれただろう。というか、かなり痛いはずなので絶対に当たりたくない。
今度はこっちのターンだ!体勢が低くなり防御が甘くなっているハンババへ俺は助走なしで<クラスマ>を仕掛ける。
ドシュッ!
体重の乗った両手剣はハンババの首筋を切断し致命傷与えた。緑色の血が噴出していおり、ハンババも両膝を着く。
「悪いな」
俺はハンババの首を落として止めを刺した。モンスターを倒すことに躊躇(ちゅうちょ)しない俺だが、多少なりとも人型に近いハンババを仕留める時は感じるところがあった。
しかし、相手のLvが倍ほども違うのに戦いがいい勝負になってしまうのは俺の心と技が未熟なせいだ。
自分の命、そして大切な仲間を守るためにはもっと実力をつけなくてはならない。
そう考えた俺は、この後で攻撃コンボを組み替えて5体のハンババとバトルし、今度は完勝することが出来た。
コンボの順番を<ファイヤーボール>の後で、<クラスマ>を入れず相手の攻撃をパリィーでかわし、<ヒートボディ>で相手を止めた後で<クラスマ>を発動させたのだ。
この流れならば<クラスマ>を相手に叩き込む確率もかなり高く理にかなっている。
少しだけ満足した俺は迷いの森を後にすることに決めた。
可能な限り戦闘を避けて迷いの森から黒オベを経由し、やっとラジャフに戻ったのは日も落ちる寸前の時間だった。
今日の訓練の内容に満足していた俺は、スキルを売っている広場の書店屋へ寄ることにした。
「いらっしゃい。なんだい、ガッツかい」
「客になんだいは無いだろう?」
俺はメリヤ婆と言葉を交わす。これぐらいはあいさつのうちだ。
「今日はこんな時間に来るなんてがんばったみたいだね」
「ああ、迷いの森まで行ったからな」
「迷いの森だって!?あそこに一人で行ったっていうのかい!」
「一緒に行ってくれるヤツがいないもんでな。ハンババと戦いたかったんだ」
「そんな…。アタシも迷いの森は若い頃行ったことがあるけど、一人で行けるようなところじゃないよ。それにハンババだって?あんなのパーティでなきゃ倒せるもんかね」
やっぱり俺は規格外らしい。ゲームだとLvが同格ぐらいはソロで狩れるのが普通だったんだがなぁ。
戦ってみると分かるが、この世界では同格のモンスターとソロで戦うのはかなり無茶だ。リアルで見るモンスターのスピードや攻撃の破壊力はハンパない。
「そうか、やっと倒したんだが…。他のヤツには言わないでくれないか。騒がれたくない」
「本当なのかい。…分かったよ。証明するのも難しいし、いっても信じてもらえなさそうだからね」
ふぅ、これで何とかなるか。あんまり在り得ないことすると噂になるしな。ホッとした俺は新しい攻撃魔法のスキルを買うことを思い付く。
「なあ、アイスブレスの魔導書の第二章はあるか?」
「あるけど、あんた<アイスブレスⅡ>まで覚える気なのかい」
<アイスブレス>は水属性の魔法だ。<ファイヤーボール>の氷版だと思って欲しい。大気中の水を凝縮冷却し作り出した氷塊を放ちダメージを与える弾道魔法なのだ。
その威力にもよるが、上手く当たれば対象の移動速度を鈍くさせることが出来る。<アイスブレスⅡ>はその上位版だ。
<アイスブレス>も魔改造しようとしたが、威力があまり上がらなかったので遠距離攻撃は<ファイヤーボール>を使うことにしている。
ただし、中には火属性に強いモンスターもいるので<アイスブレスⅡ>を早めに覚えて魔改造し、威力を上げておきたい。
「俺の魔力ならそこまでは覚えられると思うぞ」
ステータスを確認するとMPが200を十分超えていることがわかる。この魔法を覚えられるメイジのLvと同等か、若干高いぐらいの魔力はあると思う。
その証拠に魔力を計測して見てもらえば問題ないはずだ。俺は魔力を測る水晶玉に手を掛けた。
「見たところ少しだけ濃い青色が出ているから問題ないようだね。まだ若干魔力にも余裕があるみたいだ。でも気をつけるんだよ。自分の魔力ギリギリの魔法を身に付けようとすると身体にルーンは入った時の拒絶反応に耐えられなくて、運が悪い時は死ぬヤツだっているんだからね」
「そうか、分かった。で、魔導書はいくらだ?」
「500銅だよ」
…この魔法そんなに高かったっけ。この世界の相場はかなり違ってきてるな。<アイスブレスⅡ>を覚えるやつが少ないからなのか?
俺は金を払って<アイスブレスⅡ>のルーンが封じてある魔導書を受け取った。
しかし、俺はこの夜、ルーンをその身に宿す時に後悔することになる。メリヤ婆の言った注意を真剣に考えていなかったことを…。