28&29話は「にじファン」の作品から大きく加筆・修正しております。
28話は次編(予定)の布石にもなっていたりします。
宿の部屋で疲れた身体を固く絞った布で拭き清めた後、エールを一杯やりながら食堂で夕食をとった俺は部屋へ戻った。
もう1ヶ月もこの宿にいるためか、ここを自分の家のように感じはじめている。
若旦那のアドナーンや若女将のアイリーンも記憶がおぼつかないと説明していたので、いろいろと便宜を図ってくれているようだ。
だが同時に長くラジャフには居ないだろうという予感もある。ここは地方の街だ。
これからこの国の状態を見極めて、自分の行動を決めるためには国都であるバビリムへいくのは必然だろう。
これまでの戦いでバビリムまで行く力は確認できたと思う。もう少し街道沿いやバビリムの情報を収集したらラジャフをたつ日もそう遠くないだろう。
ベッドの上でこれからのことを考えながら、俺は先ほど書店屋でメリヤ婆から買った<アイスブレスⅡ>の魔導書を取り出した。
俺はベッドの上に筒状になっていた羊皮紙を広げ、ぼんやりと光る円形魔法陣(ルーン)の上に左手を置いて唱えた。
「<アイスブレスⅡ>のルーンを我が身に」
その瞬間、今まで感じたことの無い痛みが頭を襲う。
「がぁぁっ!」
これまでの頭痛とは訳が違う痛さだ。俺は頭を抱えながらベッドにうずくまる。
しかし、それでも収まらない痛みに耐えかねてベッドの上から転がり落ち、床の上で悶え苦しんだ。
「ガッツさんどうしたんですか!?」
そこへ大きな物音と叫び声に心配したアドナーンが俺の部屋へ入ってきた。ルーンを受け入れる時は緊急の場合があるので鍵をしていなかったのが良かった。
「ぐっ、うぅぅっ。頭がっ」
「おい!アイリーン、ガッツさんが大変だ!水を張った桶と布、それとロープを持ってきてくれ!それにだれか!ガッツさんを抑えるの手伝ってくれ!」
すると2分ほどでアイリーンが桶と布を部屋へ持ってきた。同時に同じ宿に泊まっていた二人の20代後半の冒険者が部屋に入ってる。
「どうしたんだ?」
「ルーンを受けた拒否反応らしいです。さあ、私と一緒にガッツさんを抑えて毛布でくるんでください。アイリーンはガッツさんが下を咬まないように布を口へ巻くんだ」
俺は3人がかりで毛布を巻かれ、ロープで縛られる。さらに口へ布を猿ぐつわのように巻かれた。
「ぐぅぅ、ぐゎぅ!」
それでも痛みに耐えかねて動こうとする俺をアドナーンが抑える。
「なあ、大丈夫なのかこいつ?」
「後はガッツさんの体力しだいです。信じられないぐらい強い人ですからきっと大丈夫ですよ」
「そうか。何かあったらまた声をかけてくれ」
そういって冒険者たちは自分の部屋へ去っていった。
「はい。ありがとうございました」
俺はアイリーンの声を聞きながら、どうしてこうなってしまったのかを考えた。しかし、あまりの痛みにその意識を長く保つことは出来なかった。
「いてっ」
意識が戻った俺は痛みが残っている頭をかかえようとしたが腕が動かない。毛布で簀巻きにされたままのようだ。窓から光が差し込んでいるので朝になっていることがわかる。
「大丈夫ですかガッツさん?」
アイリーンがやさしく声をかけてきた。ずっと付いていていてくれたのだろうか?
「大丈夫…、のようだ。頭は少し痛いが問題ない程度だ。ロープを解いてくれないか」
「はい。かなりきつく縛ってあるのでナイフを持ってきます。それとスープをお持ちしますから、よろしかったら食べてみてください」
「わかった」
アイリーンはアドナーンと一緒に部屋へ来てロープを切り、毛布から俺を解放してくれた。俺は二人に礼をいったが「お客様ですから」と軽くかわされてしまう。
かなり迷惑をかけたので、後でお礼の品でも考えなくては…。スープを飲みながら思案する俺の頭に中に不思議なことが思い浮かんできた。
「俺は…、ケイロニアから来たのか?」
なぜだ?ベルセルクの世界でガッツが傭兵として過ごしていたのはミッドランド王国のはずだ!他にも何とか諸国なんていうものがあったがケイロニアなんて…。
そこで再び浮かんでくるのは、俺がケイロニアで百竜長をやっていた記憶だった。
これは何かが違う…。ゆっくりと思い出すんだ。クリアな状態から少しづつ…。
ルーンの拒否反応で起きた酷い頭痛は、俺の、いや、ここに存在する”ガッツ”の記憶を呼び覚ましたようだ。
まさか、パラレルワールドというやつか?それも、クロスオーバーの…。
まずは、”ガッツ”がどうしてケイロニアで百竜長になったのかをゆっくり順を追って思い出していく。
ガッツはケイロニアの地方の騎士の家に生まれたらしい。残念ながら父親はユラニアとの戦役で亡くなり、母親も病気で死んだそうだ。
このあたりは育ててもらった親戚から聞いたらしい。よかった。このガッツは傭兵の中で生活してたんじゃなかったんだね。
しかし、貧しい親戚の家にいつまでもいられなかったガッツは、幼い頃から続けていた鍛錬によって剣の腕を上げていたこともあって12,3歳で傭兵の世界へと入っていった。
クム、ユラニア、モンゴールが勢力を伸ばそうと暗躍していたため、小さな戦いは数多くあってガッツもいろいろな国を転戦した。
そんな中で出会ったのが運命の人”グリフィス”だった。
グリフィスは既に傭兵たちの中でも”鷹の団”を率いて戦歴を重ねていたので有名だったようだ。いくつかの貴族からも正規兵にならないかと誘いを受けていたらしい。
しかし、グリフィスはそれをことごとく拒んでいた。その理由はグリフィスの出自にあったようだ。
彼はモンゴールの下級貴族の妾腹として生まれた。母親も幼い頃に亡くなり、貴族とはいってもそれほど恵まれていない環境に育ったグリフィスだったが、その頭脳は明晰で、剣の腕も大人顔負けだった。
父親が立派であれば妾の子とはいえ目を掛けられることもあったかもしれないが、彼の父は愚物であり、それにそっくりの長男から目障りな存在として扱われたようだ。
父親たちに罠に嵌められ、ある貴族を誤って殺してしまったグリフィスはモンゴールから出奔する。
そこで、剣の腕を頼りに傭兵となったグリフィスが若くして纏め上げたのが鷹の団だった。
その戦力は高く評価され、貴族からの正規兵としての誘いを受ける事もあったが、グリフィスはモンゴールの貴族を殺して出奔しているためそれが出来なかった。
もしも、騎士として使えている時にモンゴールから正式に罪人としての訴追(そつい)を受ければ逃れられないからだった。一騎士個人を国が守ることは通常ないのだ。
そこでグリフィスが夢想したのは、誰も自分に手を出すことが出来ない”自分の国”を作るということだった。
グリフィスはある戦場でガッツの剣の腕を見て鷹の団へと誘ったが、ガッツは入団を躊躇した。
それはガッツの個人的な理由からであったが、そこで二人が取った行動が刃引きした剣による腕試しだった。
幼い頃から大人の剣を振っていたため、青年になってからも巨大な剣を愛用するガッツと、正規の剣術を学びレイピアで相手の攻撃を受け流すグリフィスの戦いは拮抗したものだったが、最終的にグリフィスへ軍配があがった。
こうしてガッツは、運命のようにグリフィス率いる鷹の団へ入ったのだった。
この先は、少しショートカットで説明するが、グリフィス率いる鷹の団はケイロニアに雇われることになる。
ケイロニアは傭兵だったグインを将軍から王にしてしまうほど、身分ではなく実力主義な国だ。おかげで、その実力が認められて鷹の団は騎士に取り立てられた。
さらに、グリフィスは原作以上の腕前でケイロニア皇女を落としやがった。下級とは言え元貴族、立ち振る舞いも立派な物だったらしい。豹頭ではない王様の誕生だ。
ただし、ガッツもキャスカと結ばれたから幸せだったんだぜ。百竜長に出世もしたしな。
ああ、王様になりそこねたグインは黒竜将軍になった。自分から出世を望まない人物だからそれで十分らしい。
グリフィスも内心はいろいろと含むところもあるらしいが、うまくやっている。そこは地位が人を大きくしているようだ。
最後に、ガッツがドルアーガの世界へ来た経緯なのだが、根本的には物質転送機械の誤作動が原因のようだ。
グインと供にパロを訪れていたガッツは、ある事件に巻き込まれてナリス、ヴァレリウス、イシュトと一緒に転送機で移動することになった。
しかし、この物質転送機械が不可解な誤作動を引き起こしたらしいのだ。
そして、信じられない事だが、この誤作動の理由には少し心当たりがあった。
ガッツ以外の三人は俺がMMORPG『ドルアーガの塔』で使っていた別キャラクターだったからだ。つまり、三人は”俺”なんだ。
そこから推測すると、彼らはこの世界に転移している可能性がある。三人はいったいどこへたどり着いたのだろう…。
宿の部屋で疲れた身体を固く絞った布で拭き清めた後、エールを一杯やりながら食堂で夕食をとった俺は部屋へ戻った。
もう1ヶ月もこの宿にいるためか、ここを自分の家のように感じはじめている。
若旦那のアドナーンや若女将のアイリーンも記憶がおぼつかないと説明していたので、いろいろと便宜を図ってくれているようだ。
だが同時に長くラジャフには居ないだろうという予感もある。ここは地方の街だ。
これからこの国の状態を見極めて、自分の行動を決めるためには国都であるバビリムへいくのは必然だろう。
これまでの戦いでバビリムまで行く力は確認できたと思う。もう少し街道沿いやバビリムの情報を収集したらラジャフをたつ日もそう遠くないだろう。
ベッドの上でこれからのことを考えながら、俺は先ほど書店屋でメリヤ婆から買った<アイスブレスⅡ>の魔導書を取り出した。
俺はベッドの上に筒状になっていた羊皮紙を広げ、ぼんやりと光る円形魔法陣(ルーン)の上に左手を置いて唱えた。
「<アイスブレスⅡ>のルーンを我が身に」
その瞬間、今まで感じたことの無い痛みが頭を襲う。
「がぁぁっ!」
これまでの頭痛とは訳が違う痛さだ。俺は頭を抱えながらベッドにうずくまる。
しかし、それでも収まらない痛みに耐えかねてベッドの上から転がり落ち、床の上で悶え苦しんだ。
「ガッツさんどうしたんですか!?」
そこへ大きな物音と叫び声に心配したアドナーンが俺の部屋へ入ってきた。ルーンを受け入れる時は緊急の場合があるので鍵をしていなかったのが良かった。
「ぐっ、うぅぅっ。頭がっ」
「おい!アイリーン、ガッツさんが大変だ!水を張った桶と布、それとロープを持ってきてくれ!それにだれか!ガッツさんを抑えるの手伝ってくれ!」
すると2分ほどでアイリーンが桶と布を部屋へ持ってきた。同時に同じ宿に泊まっていた二人の20代後半の冒険者が部屋に入ってる。
「どうしたんだ?」
「ルーンを受けた拒否反応らしいです。さあ、私と一緒にガッツさんを抑えて毛布でくるんでください。アイリーンはガッツさんが下を咬まないように布を口へ巻くんだ」
俺は3人がかりで毛布を巻かれ、ロープで縛られる。さらに口へ布を猿ぐつわのように巻かれた。
「ぐぅぅ、ぐゎぅ!」
それでも痛みに耐えかねて動こうとする俺をアドナーンが抑える。
「なあ、大丈夫なのかこいつ?」
「後はガッツさんの体力しだいです。信じられないぐらい強い人ですからきっと大丈夫ですよ」
「そうか。何かあったらまた声をかけてくれ」
そういって冒険者たちは自分の部屋へ去っていった。
「はい。ありがとうございました」
俺はアイリーンの声を聞きながら、どうしてこうなってしまったのかを考えた。しかし、あまりの痛みにその意識を長く保つことは出来なかった。
「いてっ」
意識が戻った俺は痛みが残っている頭をかかえようとしたが腕が動かない。毛布で簀巻きにされたままのようだ。窓から光が差し込んでいるので朝になっていることがわかる。
「大丈夫ですかガッツさん?」
アイリーンがやさしく声をかけてきた。ずっと付いていていてくれたのだろうか?
「大丈夫…、のようだ。頭は少し痛いが問題ない程度だ。ロープを解いてくれないか」
「はい。かなりきつく縛ってあるのでナイフを持ってきます。それとスープをお持ちしますから、よろしかったら食べてみてください」
「わかった」
アイリーンはアドナーンと一緒に部屋へ来てロープを切り、毛布から俺を解放してくれた。俺は二人に礼をいったが「お客様ですから」と軽くかわされてしまう。
かなり迷惑をかけたので、後でお礼の品でも考えなくては…。スープを飲みながら思案する俺の頭に中に不思議なことが思い浮かんできた。
「俺は…、ケイロニアから来たのか?」
なぜだ?ベルセルクの世界でガッツが傭兵として過ごしていたのはミッドランド王国のはずだ!他にも何とか諸国なんていうものがあったがケイロニアなんて…。
そこで再び浮かんでくるのは、俺がケイロニアで百竜長をやっていた記憶だった。
これは何かが違う…。ゆっくりと思い出すんだ。クリアな状態から少しづつ…。
ルーンの拒否反応で起きた酷い頭痛は、俺の、いや、ここに存在する”ガッツ”の記憶を呼び覚ましたようだ。
まさか、パラレルワールドというやつか?それも、クロスオーバーの…。
まずは、”ガッツ”がどうしてケイロニアで百竜長になったのかをゆっくり順を追って思い出していく。
ガッツはケイロニアの地方の騎士の家に生まれたらしい。残念ながら父親はユラニアとの戦役で亡くなり、母親も病気で死んだそうだ。
このあたりは育ててもらった親戚から聞いたらしい。よかった。このガッツは傭兵の中で生活してたんじゃなかったんだね。
しかし、貧しい親戚の家にいつまでもいられなかったガッツは、幼い頃から続けていた鍛錬によって剣の腕を上げていたこともあって12,3歳で傭兵の世界へと入っていった。
クム、ユラニア、モンゴールが勢力を伸ばそうと暗躍していたため、小さな戦いは数多くあってガッツもいろいろな国を転戦した。
そんな中で出会ったのが運命の人”グリフィス”だった。
グリフィスは既に傭兵たちの中でも”鷹の団”を率いて戦歴を重ねていたので有名だったようだ。いくつかの貴族からも正規兵にならないかと誘いを受けていたらしい。
しかし、グリフィスはそれをことごとく拒んでいた。その理由はグリフィスの出自にあったようだ。
彼はモンゴールの下級貴族の妾腹として生まれた。母親も幼い頃に亡くなり、貴族とはいってもそれほど恵まれていない環境に育ったグリフィスだったが、その頭脳は明晰で、剣の腕も大人顔負けだった。
父親が立派であれば妾の子とはいえ目を掛けられることもあったかもしれないが、彼の父は愚物であり、それにそっくりの長男から目障りな存在として扱われたようだ。
父親たちに罠に嵌められ、ある貴族を誤って殺してしまったグリフィスはモンゴールから出奔する。
そこで、剣の腕を頼りに傭兵となったグリフィスが若くして纏め上げたのが鷹の団だった。
その戦力は高く評価され、貴族からの正規兵としての誘いを受ける事もあったが、グリフィスはモンゴールの貴族を殺して出奔しているためそれが出来なかった。
もしも、騎士として使えている時にモンゴールから正式に罪人としての訴追(そつい)を受ければ逃れられないからだった。一騎士個人を国が守ることは通常ないのだ。
そこでグリフィスが夢想したのは、誰も自分に手を出すことが出来ない”自分の国”を作るということだった。
グリフィスはある戦場でガッツの剣の腕を見て鷹の団へと誘ったが、ガッツは入団を躊躇した。
それはガッツの個人的な理由からであったが、そこで二人が取った行動が刃引きした剣による腕試しだった。
幼い頃から大人の剣を振っていたため、青年になってからも巨大な剣を愛用するガッツと、正規の剣術を学びレイピアで相手の攻撃を受け流すグリフィスの戦いは拮抗したものだったが、最終的にグリフィスへ軍配があがった。
こうしてガッツは、運命のようにグリフィス率いる鷹の団へ入ったのだった。
この先は、少しショートカットで説明するが、グリフィス率いる鷹の団はケイロニアに雇われることになる。
ケイロニアは傭兵だったグインを将軍から王にしてしまうほど、身分ではなく実力主義な国だ。おかげで、その実力が認められて鷹の団は騎士に取り立てられた。
さらに、グリフィスは原作以上の腕前でケイロニア皇女を落としやがった。下級とは言え元貴族、立ち振る舞いも立派な物だったらしい。豹頭ではない王様の誕生だ。
ただし、ガッツもキャスカと結ばれたから幸せだったんだぜ。百竜長に出世もしたしな。
ああ、王様になりそこねたグインは黒竜将軍になった。自分から出世を望まない人物だからそれで十分らしい。
グリフィスも内心はいろいろと含むところもあるらしいが、うまくやっている。そこは地位が人を大きくしているようだ。
最後に、ガッツがドルアーガの世界へ来た経緯なのだが、根本的には物質転送機械の誤作動が原因のようだ。
グインと供にパロを訪れていたガッツは、ある事件に巻き込まれてナリス、ヴァレリウス、イシュトと一緒に転送機で移動することになった。
しかし、この物質転送機械が不可解な誤作動を引き起こしたらしいのだ。
そして、信じられない事だが、この誤作動の理由には少し心当たりがあった。
ガッツ以外の三人は俺がMMORPG『ドルアーガの塔』で使っていた別キャラクターだったからだ。つまり、三人は”俺”なんだ。
そこから推測すると、彼らはこの世界に転移している可能性がある。三人はいったいどこへたどり着いたのだろう…。