目覚めると、俺はわらのベッドに寝ていた。
やっぱり夢じゃなかったらしい。
軽い焦燥感を感じながらベッドで今後のことを考える。
昨日の狩りでわかったのだが、モンスターを倒して手に入るアイテムは自動的にマジックバックに入りイベントリで確認できるようだ。
宿代を稼ぐだけなら、この辺のモンスターを狩ったり、簡単なクエストを受けるだけで足りるだろう。
弱いモンスター相手なら剣の耐久もそう簡単には落ちないから、道具屋へメンテナンスに出す費用も頻繁ではない。
しかし、元の世界へ戻るまでにどれぐらいの期間を過ごすことになるのかも見当がつかないので無駄遣いは出来ない。
そこまで考え、お腹がすいてきた俺は、朝食を食べるために食堂へ向うことにした。
「ずいぶんゆっくりしたようですねダンナ。よく寝むれましたか?」
若旦那のアドナーンが声をかけてきた。
「疲れていたのかよく寝たようだ。そんなに長く寝ていたか?」
「日も昇ってけっこうたちますから、他の方は殆ど食事が終わっていますよ」
田舎の1日は、朝日とともに始まるようだ。
田舎に住む農家のじいちゃんも朝の五時ぐらいから畑に行っていたような気がするしな。
朝食は大きな黒パンとハムのような物にサラダとミルクがついている。
食事をしながら俺は時間について考える。
時計もないし、どうやって時間を確認すればいいのだろう?
そこで俺は地図のウインドウの中に時計があったことを思い出した。
地図ウインドウをイメージすると右上に確認することができ、さらにウインドウの右上にデジタルで時計が表示されていた。
ゲームでは1分が1秒ぐらいの速さで経過していたが、この世界ではそうではないようだ。
食事を終えて部屋に戻った俺は、念のためフル装備で情報収集のため外へ行くことにした。
宿がある通りは中央の広場から倉庫へ伸びているのだが、ゲームではここに生産用のNPCが並んでいた。
倉庫はアイテムを預けておけるところで、預けたアイテムは各タウンの倉庫で受け取ることができる。
アイテムの出し入れは倉庫番のNPCに話しかけて行っていたが、この世界ではどうなるのだろう?
俺は倉庫番の女性、タリアに話しかけた。
「アイテムを取り出したいんだが」
「冒険者のタブレットをお見せください」
冒険者のタブレット?何だそれは?
ゲームの世界では必要無かったものだったので少し困惑する。
そう言えば他の異世界でもそんなシステムがあったしな。
考えていたら思い当たることがあった。
それは初心者が受けるクエストで受け取ったアイテムだ。
これを持っているとバビリム国からのクエストを受けられると言ってたっけ。
イベントリウィンドウを確認するといつの間にかアイテムとして入っていた様だ。
俺はバッグにタブレットをイメージして手を入れ、薄い石版の様なはがきサイズのカードを取り出してタリアに渡した。
「ガッツさま、何を取り出しますか?」
「強化体力回復剤を50個取り出したい」
「かしこまりました。ガッツさま、タブレットに手を当ててください」
そう言うと、タリアはタブレットに手を当てながら目を閉じた。
俺がカードに触れると、次の瞬間、イベントリウインドウの中に強化体力回復剤が50個表示される。
「アイテムをご確認ください」
「ああ、確かに受け取った」
タブレットを返された俺は、念のため倉庫のシステムを確認した。
「最近はまちを離れていたので聴いておきたいんだが、アイテムの取り出しはいつでもできるのか?」
「はい、いつでも倉庫番が常駐していますから大丈夫ですよ」
「料金は?」ゲームでは無料だったので確認してみる。
「月に100銅いただきます。通常はお預かりしているところから月末に自動的に引き落とします。もしも、引き落としが出来ない場合は、一定期間アイテムを保管後、任意で換金していきますので注意してください。」
そうか、現実問題として貸し金庫のようなシステムになっているのだろう。
「わかった。ありがとう」
「またのご利用をお待ちしております」
倉庫を後にすると、俺は広場の方へ向かった。
ゲームで並んでいた生産用のNPCは露店のような形態だったが、ここではちゃんと建物の中で職人が作業しているようだ。
生産スキルをもっているプレーヤーは、そこで生産レベルで可能なアイテムを作成できたのだが、ここでもできるのだろうか?
俺は刀工のスキルだから刀鍛冶のNPCだったマセンに聴いてみよう。
「すまんが、刀を生産したいときはどうすればいい?」
「材料さえ持ってくれば作業場を貸すぜ。まあ、普通は50~100銅ってとこだな」
「そうか、今日はやらないがその時はたのむぜ」
「ああ、よろしくな」
そのうちに材料をそろえて簡単なのを生産してみたい。
まあ、生産レベルはあんまり上げていないからそれしか出来ないんだけどね。
俺からすると生産レベル上げるのはマゾに近いと思う。
刀は作ってもあまり売れないから、骨をすりつぶして骨粉にしてから研磨材を作ったりするんだけど、研磨材が高く売れないから材料として買い取ってもらうより赤字になるし、やりきれなくなっちまうんだよね。
学術スキルなら将来は回復剤やらで儲けられるからがまんできるんだろうけどなぁ。
そんなことを考えながらアイテムショップで賑わう広場へ向かう。
広場の中央にはルーンを纏った巨大な岩が20mほどだろうか、高く空中に浮いている。
神の力とかで浮いているって書いてあったような気がするが。
俺は、その神秘的な光景を見上げて目を奪われながら思うのだ。
*****
俺はラジャフに駐屯するバビリム国の衛兵ラクターだ。
このラジャフは、古くは大陸全域から巡礼者が集まる一大聖地であったが、今は首都バビリムの建都によって以前よろも静かな雰囲気を保っている。
もちろん、イシター神殿の出張所がある為、今もここを訪れる敬虔な信徒は多いので賑わいが無いわけではない。
俺はこのラジャフを守る衛兵の長として中央の広場で警備をそている。
このには巨大なオーブが神々の力で中に浮かんでいるのだ。
数年前まではこの村も、南に広がる死の砂漠に飲み込まれるところだったんだが、このオーブの力で緑を回復することができたんだ。
その平和なラジャフに昨日から変わった雰囲気の男が現れた。
戦士職らしい冒険者に見えるが、その雰囲気と見たことが無い大型の業物らしい両手剣からして、かなりの手錬れできるヤツのようだ。
その割にはラジャフになれていないのか、キョロキョロしていたのが気にかかっていた。
調べてみるとガッツという名前で昨日は夢屋に泊まったらしいが、何の目的でこのラジャフに来たのだろう?
このあたりのモンスターでは実力がとても合わないようにしか見えないが?
『ん、こっちに来るのは例の男だ。声をかけてみるか』