明日の昼にはサリア様一行としてラジャフを出発することになった俺は旅の準備を始めた。
そうは言ってもかなりの荷物はマジックバッグにアイテムとして収納できるし、余分なものは倉庫に預けておけるので難しくない。
ただし、お世話になった人々へは挨拶ぐらいしていきたいと思う。まだ昼前だから時間はあるはずだ。
「アドナーン、アイリーン。世話になったな」
「ガッツさん、こちらこそいろいろとお世話になりありがとうございました。ガッツさんから聞く冒険者の話は心が躍って楽しいものでした」
「私もガッツさんから教えていただいた異国のお料理が宝物のようになりました。ぜひこの宿の名物料理にしますから、また来てくださいね」
「ラジャフでの生活も知らないことばかりで不安だったが、二人には本当に助けられた。改めて礼を言いたい、ありがとう」
「いいんですよ。お客様のお世話をするのが宿の仕事なんですから」
例の店まで教えてもらって、感謝してるよアドナーン!
「良かったら、私と一緒に最後の夜は飲みに行きませんか?」
むむ、アドナーンがアイコンタクト送っているぞ。俺には分かる、例の店に行きたいんだな?
「ぜひ飲みに行こう。アイリーン、旦那を借りてもいいか?」
「仕方が無いですね。夕食の片付けが済んでからという条件付で許可します」
「それではガッツさん、夕食後にお部屋へ行きますのでよろしくお願いします」
「ああ、待っている」
話によればアドナーンも結婚してからはご無沙汰らしいからな。俺からのささやかなプレゼントだ。
「そうか、とうとうバビリムへ行くのか」
「ああ、ラクター。仲間がバビリムに居る事が分かったからいい機会だった」
「それにしてもルウアまで行くとはなぁ。神殿の仕事で行くんだからお前と一緒なのは偶然だろうがな」
「そうだな。まあ、長旅で知り合いが一緒なのは気が休まるからいいことだ」
「だが、ルエリアはどうなる?あいつは一緒に行けないんだろう?」
そうなんだ。今回サリア様に同行するのは俺とルウアだからルエリアはメンバーに入ってない。彼女はどう思っているのだろう…。
「いつまでもパーティーを組むわけじゃない。いつかは別れの時が来るもんだ」
感傷的になりそうな心を隠して俺はラクターに答えた。
「俺から言うことじゃないかもしれんが、ルエリアの気持ちも考えてやれ。あの娘も見た目ほど強くはないんだ」
「そうだな…。後で村長のところへ行くつもりだから、その時に話をして見る。慰(なぐさ)めになるかどうか分からんが…」
「それでいい。後は自分の中で解決する問題だ。それはそうと、お前はサリア様についてどこまで知っている?」
他の衛兵がいないとは言え、さりげなく際どいところを突いてくるな。やっぱりラクターは王女のことを知っていると見て間違いない。
「エブラ神官から一通りは聞いている。恐らくラクターが知っている範囲の事は知っているはずだ」
「…そうか。それならば厳しい旅になる可能性が高い事も承知しているな?」
「もちろんだ。ただし、それもルウアが参加する事を知って護衛することを決めたんだ」
「本当か?ガッツ、おまえは本当にあきれたやつだ!それならば頑張って騎士(ナイト)役を務めることだな」
「ああ、バビリムまでみんなを無事に届けるつもりだ。あんたもラジャフでいい便りを待っていてくれ」
「分かったよ。またラジャフに来た時は声ぐらいかけろよ」
「いろいろと世話になったな。また会おう」
さて、次はどこに行こうか。
俺は衛兵の詰所と同じ広場に面した書店屋へ足を運んだ。
「メリア婆、居るか?」
「その声はガッツかい?」
メリア婆が店の奥からゆっくりと出てきた。
「居たのか。どこかで昼寝でもしてるのかと思ったぞ」
「何言ってんだい。あたしゃここの看板娘だよ。居るに決まってるじゃないか」
「おいおい、何十年前の話だよ。それに若くても看板になるかどうかわからんだろ」
「ふんっ。娘の時は少し背は低いけどルウアにそっくりだったんだよ。それでもそう言えるのかい?」
な、なんだと!そんなはずは無いだろう?見た目が違いすぎる。あんなナイスバディーがこんなちんちくりんの婆になる訳が無いはずだ。
「そんな冗談を聞くために来たんじゃない。別れの挨拶に来たんだ」
「…冗談じゃないんだけどね。ルウアと一緒にバビリムへ行くんだってね?あの子から聞いてるよ。喜んで報告しに来たからね」
ルウアは親代わりのメリア婆へ真っ先に知らせたようだ。
「少し早い気もするけど神殿のお役目だからね。それにあんたも行くんなら安心できるよ。何たって規格外の冒険者だからね」
「買いかぶりすぎだが褒め言葉として受け取っておくよ。ルウアの事は任せてくれ」
「頼んだよ。それにあの子の悲しむ顔を見たくないから、あんたも十分注意するんだよ」
「分かったよメリア婆。ここで得た魔法が俺を助けてくれるはずだ」
「そうだといいね。行っておいで。無事に戻ってくるんだよ」
「ああ、行ってくる。元気で待っていてくれ」
少し口は悪いが気のいいメリア婆への別れも済ませた。残っているのはあそこだけだな。
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とうとうルウアもガッツと一緒にここを旅立つ日が来たんだね。
あの娘の両親も冒険者だったから仕方が無いのかもしれないね。
大人しく巫女をやっていたけど、これが血筋ってもんだ。
しかし、ガッツを見ているとあの子を思い出すのはなぜだろう?
最後に見たのはまだ少年だったし、面影もガッツには似ていないんだがねぇ。
似ているところがあるとすれば、信じられないぐらいに才能があったことだね。
生きていればガッツのように戦いにも魔法にも秀でた戦士になったろうに・・・・
読んでいただきありがとうございます。