窓から眩しい光が差し込んでいる。朝になったようだ。
ベッドには俺一人だけ。ルエリアは日が昇る前に帰ったらしい。
それにしてもこんなことになるなんて…。そうならないように用心していたんだけどな。
異世界から現実世界へ帰りたいと考えているので、ここで恋人を作るつもりは無かった。何かあっても責任が取れないからね。
俺の場合、好きな女(ひと)には誠実に当たるタイプなので、奥手で上手く行かないこともしばしばだった。
スタイルで言えばグラマーなルウアの方が好みなんだが、ルエリアだってスレンダーでモデルのような綺麗な体型だから嫌いなわけじゃない。
それに俺がこれまで好きになった女性はグラマーなタイプとスレンダーなタイプが半々ぐらいだと思う。
結局は中身が大切なんだよ。性格が良くないと一緒にいても楽しくないからね。もちろん外見を否定するつもりはまったく無いけどね。
ルエリアはお転婆だけれどもやさしいところもある可愛い女性なんだ。だからルウアと供に大切に接していたつもりだった。
けれども昨夜のようなシュチュエーションでルエリアのような美少女に迫られたら断れる男はまずいないだろう。モーホー以外は。
いつまで考えても仕方が無いことだ。出発の準備をしよう。
「これでしばらくの別れだ」
「ガッツさんが居なくなると少し寂しくなりますよ」
「ラジャフへお越しの時は、ぜひうちに泊まってくださいね」
「ああ、ここを第2の我が家だと思う事にするよ。それじゃあ、二人とも元気でな」
「「いってらっしゃいませ!」」
アドナーンとアイリーンに見送られた俺は、サリア様一行と合流するためにラジャフ街道へ出る村の門へ向かった。
そこにはいつもの衛兵二名の他に、サリア姫、騎士のアルフェス、ランパード神官、ルウアらが待っており、見送りにエブラ神官の他に数名の神官や巫女、衛兵長のラクターとタムド村長が待っていた。
「悪いなエブラ神官。待たせたか?」
「それほどでもないでしょう。予定の時間より少し早いぐらいですし、先ほど皆が揃ったばかりですからね」
そこで騎士のアルフェスがこちらを少し睨むようにして声を上げた。
「全員が揃い準備も整っただし出発できるようだな。サリア様、よろしいでしょうか?」
「はい。それではエブラ様をはじめ、皆様お世話になりました」
腰が低いお姫様だ。好感が持てる。それに比べて…。
「それでは一行の纏めはこのアルフェスが引き受ける」
サリア様を除けば地位の高いアルフェスがこの一行を率いるのが妥当なところだろう。その方が俺は護衛だけに専念できて楽だからな。
「ガッツさん、サリア様のことを頼みます」
「もちろんだ。ルウア達も無事にバビリムへ届けるさ」
「お願いします」
他の神官達も軽く頭を下げている。初めてバビリムへ向かうルウアのことが心配なのだろう。いい同僚に恵まれたようだ。
「ガッツ、厳しい旅になるかもしれん。注意しろよ」
「分かっているさ。ラクターも心配症だな?」
「今回は心配しすぎて困ることはないだろう。それで何も無ければいいんだからな」
「その通りだ。護衛として最高の仕事をするよ」
ラクターが肯いた。すると、横に居たタムドが俺に怖い顔を向けてきた。目が少し血走ってないか?
理由はもちろん分かっている。ルエリアが朝帰りした時点で何かを感じたはずだし、理由も少しは感づいているのだろう。
「ガッツ、無事にバビリムまで行ってこい。そして、そのうちに無事な姿を見せに来てくれ。…ルエリアのためにもな」
搾り出すようなその言葉に、俺はタムドの目を見て肯く事しか出来なかった。言葉などでは軽いと思ったのだ。
「それでは出発する」
アルフェスの掛け声で一行は門からラジャフ街道へ足を踏み出した。
「ルエリアは来なかったですね」
ラジャフを振り返りながら、ルウアが少し悲しそうにつぶやいた。俺も見送りの人々を確認していたがルエリアを見つけることは出来なかった。
「そうだな。気持ちの整理が付かなかったのだろう。ルエリアのことだ、そのうちに元気を取り戻すさ」
「でも、ああ見えてルエリアは弱いところもあるんです。だから心配なんです」
「そうかもしれない。だが、三人でパーティとして過ごした時間はルエリアに勇気や強さを与えているんじゃないか?俺はそう思いたい」
「…そうですね。あの子のことだから、きっとすぐに立ち直りますよね」
少し俯くルウアを横に見ながら俺はラジャフ街道を進んで行った。
初日にラジャフ街道を順調に進んだ俺達一行は、ドルアーガの塔周辺で宿泊した。
そして、次の日にバビリム平原の東よりの街道を一行は進んでいた。バビリム平原には西よりのルートもあるが、こちらはあまり道が整備されていないため女性には不向きなのだ。
このバビリム平原でも一行の旅は順調だった。時折り現れるトゥースラットやバビリムスネークも早めに俺が見つけて駆除しておいた。
こうして2日目も無事に旅を続けた一行は、バビリム平原の南東に位置する開拓者村へたどり着いたのだった。
俺は移動中の襲撃を警戒していたが、その素振りは無く、見回りの居る開拓者村では少し神経を休めることが出来ると喜んだ。
しかし、この場所が俺に悪夢を見せることになるとは、この時は少しも思っていなかったのだ。