ドルアーガの冒険   作:まぁしい

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39 怒りの襲撃

 

俺がゲームをしている時にバビリム平原には本来、開拓者村などはなかった。あったのはクエストが発生する開拓者マタルのいる家だけだ。

 

そのクエストはジャイアントスパイダーを狩ってマタルからブロンズを貰うものだったが、ブロンズが重要な素材として脚光を浴びた為に、時折り高レベルのプレイヤーがこのフィールドを荒らしまわっていたものだ。

 

マタルの一軒屋があっただけの場所が村へ変わっているのだから、ゲームとは違う異世界なのだと俺は改めて実感した。

 

村に1つだけある宿へはいった俺達はサリア様とルウア、アルフェスとランパードに俺と2つに別れて部屋を取って宿泊することにした。

 

夕食後、女性達は旅の疲れから早めに休んでもらい、男達は順番に夜の警戒をすることにした。

 

初めはランパードが女性達の部屋の前に椅子を持ってきて警護を行い、次に俺、アルフェスの順番で変わる事になった。

 

 

 

「ガッツさん、時間です」

 

俺は身体を揺すられて目を覚ます。ランパードと交代の時間になったようだ。

 

「ああ、分かった。不審な事はなかったか?」

 

「ええ、問題ありません。明日にはバビリムの城門が見えるところまで行けますからこのまま無事に旅が続けばいいのですが」

 

「そうだな。そうなるようにしっかり警護をするとしよう」

 

「はい。お願いします」

 

俺はランパードの代わりに廊下へ出て、女性達のいる部屋の前に座った。装備は皮の鎧に黒のマントを羽織り、室内のため片手剣のマカイラを帯剣することにした。

 

 

 

15mほどの廊下を照らすランプの弱い光の中で数時間警護をした俺は、無事に警護の時間が過ぎた事にホッとしながらアルフェスを起こしに行く。

 

「アルフェス、時間だ」

 

横になっている肩の辺りを軽く叩くと、アルフェスはすぐにこちらを向いた。

 

「寝ていなかったのか?」

 

「寝つきが浅かったようだ。気持ちが高ぶっているのだろう」

 

えらそうにしていても心配なんだな。姫の警護だからなぁ。

 

「そうか。少し辛いかもしれんが交代の警護を頼む」

 

「分かった。不審なヤツなど近づけはせん」

 

そういうとアルフェスはベッドから起き上がると、側にあった片手剣をもってゆっくり部屋を出る。

 

しかし、その様子を見ていた俺は違和感を覚えた。アルフェスが笑っているように見えたのだ。

 

 

 

ベッドの中でまどろんでいた俺は遠くで女の声がしたような気がして覚ました。まさか!?

 

俺はすぐさま剣を手に廊下へ飛び出した。ルウア達の部屋の前には、そこに居るはずのアルフェスの姿は無かった。

 

ドアの開いたままの部屋に入ると、そこには誰もいない。

 

「どういう事ですか!?」

 

続いて部屋に入ったランパードが声を上げるが、俺だって同じ気持ちだ。

 

「外へ行こう。まだ遠くには行っていないはずだ」

 

俺達は宿の外へ向かい、二手に分かれてルウア達を探すことにした。

 

 

 

村の東側へ向かった俺は、草原にある風車の近くに人影を見つけた。あれか?

 

負担はセーブしているフェザームーブを最大限に使った俺は、飛ぶようにその人影に向かって走っていった。

 

「来たか…」

 

そこに居たのはアルフェス、そして拘束されて猿ぐつわをされているサリア様とルウアを後ろから捕まえている二人の男だった。

 

「どういうことだ!」

 

こいつはサリア様の護衛だったはずだろう。なのに、なぜ?

 

「ふふふ、最初から私は護衛などではない。本当に私が使えているのはジュリア様だ」

 

何だと!?初めから裏切っていたのか。

 

「バビリムへ向かう時の襲撃も私が準備したものだ。まさかお前達に止められるとは思っていなかったがな」

 

「…まさか、捕まえた山賊に偽装していた冒険者を殺したのはお前か?」

 

「察しがいいな。もちろん私だ。街道に残してきた者達は、ドルアーガの塔の近くで待機していたこの者達が始末をした」

 

ルウア達を抑えている二人か。

 

「衛兵に捕まっていた男は?」

 

「私が毒を飲ませてやった。牢から出るために仮病を偽る薬だと言って与えたら簡単に飲んでくれたよ」

 

冷酷なヤツだ。自分が不利になる要素は完全に消したんだな。

 

「二人をさらってどうするつもりだったんだ。お前が疑われるはずだ」

 

「ふんっ。こんな予定ではなかったのだがな。初めの襲撃が成功すれば、片腕に怪我でもしてほとぼりを冷まし、ジュリア様に引き上げていただくはずだったのだ」

 

「しかし、それは出来なかった」

 

「そうだ。そこで今度はサリア様共々消える事にしたのだ。ジュリア様からは十分な報酬が出る約束だから、バビリムを離れて隣国のスーマール帝国に仕官するのもいいかもしれんな」

 

「ゲス野郎が」

 

「何とでも言え。この二人を抑えられれば、どんなに腕が立とうとお前は手も足も出まい」

 

そう言うと、アルフェスはレイピアを俺の方に向けた。

 

「反撃したらこの二人がどうなるか分かるだろう?」

 

アルフェスは俺に向かってレイピアを横なぎに振るい、さらに顔を目がけて突きを連続して放ってきた。

 

早いっ!訓練された動きだ。宮廷騎士でもいい腕を持つはすだ。

 

俺はバックステップで横なぎの剣を避けると、片手剣で顔に放たれた突きをパリーして弾いた。

 

「さずがだな。だが、どこまで持つかな?おい、援護だ」

 

「はっ」

 

レイピアが俺を頭上から襲い、これをパリーした瞬間、ルウアを抑えていた男がスローイングダガーを俺に向かって投げてきた。

 

「くっ!」

 

俺は一瞬身体を回転させてナイフを皮のマントで防いだ。ナイフはマントがなびいて絡め取った。マントは防寒用だけではなく、戦国武将の母衣のように矢などの飛来する刃物を防ぐ機能を持つのだ。

 

「ほう、これも防ぐか。これではどうかな?」

 

ルウアを抑えていた男がブラックダガーを取り出し、見えるようにルウアの脇腹へ押し付けた。

 

「サリア様よりこの娘の方が大事なのではないか?傷つけたくなかったらその剣を捨てるのだ」

 

卑怯な。だけど逆らえない。ルウアを傷つけるわけにはいかないんだ。隙が出るまで言う事を聞くしかないのか。

 

「ゆっくり後ろへ投げるんだ」

 

俺は片手剣をゆっくりと5mほど後ろに投げた。

 

「これで終わりだ」

 

アルフェスはレイピアを構えると俺に向かって近づき、連続攻撃を放ってきた。

 

俺はバックステップやスウェーでレイピア攻撃を回避するが、さすがに無傷でいることは難しい。

 

かすり傷ではあるが、攻撃が当たってしまう。

 

「どうした、どうした?そろそろ諦めたらどうだ?」

 

まずい。この世界で俺がまともに傷を受けるのは初めてだ。怖い、怖い、怖い、怖い。俺は死ぬのか?もうだめなのか?

 

「ぐっ、このアマあ」

 

その声の先には、拘束されたルウアが足で男の足の甲を踏み抜いて争っている姿があった。そして…

 

「くっ」

 

その声は口を塞がれたルウアが、男と争った拍子にブラックダガーで脇腹を傷つけられて上げた声だった。

 

「ルウア!」

 

「俺はそんなつもりじゃ無かったんだ。こいつが暴れるから」

 

 

 

ルウアが地面に倒れる様子がスローモーションのように俺の目に映る。

 

自分が傷つくよりも大きな恐怖が俺の中で急激に膨らんでいく。

 

ああ。

 

大事なものが俺の手から離れていってしまうのか。

 

そんなことは許さない。

 

誰だ。

 

俺から大切なものを奪おうとするヤツは誰だ?

 

その時、何かが俺の中で切れたような気がした。

 

 

 

切り掛かるアルフェスの剣を避けて距離を取るため、俺は飛び込み前転で地面を転がった。

 

こうすれば良かったんだ。

 

「<ファイア>」

 

「な、なんだ!熱い!」

 

俺の放った魔法はレイピアを持つアルフェスの手を青白い炎で焼いた。あまりの熱さと痛みにアルフェスは剣を手放したようだ。

 

「次はお前だ。<ファイア>」

 

俺はルウアを傷つけた男の腕を炎で燃やした。

 

「ぎゃー!た、助けてくれ!死にたくねー!」

 

「無理だ。お前に選択肢は無い」

 

男は焼け爛れた腕のまま、逃げようと走り出した。しかし、逃がさん。

 

「<ファイヤーボール>」

 

詠唱により、俺の手から青白いテニスボールほどの大きさの火球が逃げる男へ向かって放たれた。

 

ボンッ!

 

モンスターの内臓すら破壊する俺の<ファイヤーボール>は、人に当たるとその威力は絶大。

 

背中のあたりに当たった<ファイヤーボール>は、体内で爆発してその身体を上下真っ二つに引き裂いた。

 

俺はルウアに素早く近づくと、覚えておいた回復魔法を詠唱した。

 

「<ヒール>、<ヒール>、<ヒール>。頼む、ルウア。助かってくれ!」

 

倒れているルウアの猿ぐつわを外し、傷の状態を見ると何とかふさがっているようだ。

 

ただし、かなり出血したため暗くて分かりにくいが顔色が良くないように思う。とても安心出来る状態ではない。

 

「いやだ。こんなヤツと戦えるわけねぇ!」

 

サリア様を拘束していた男もこの様子を見て耐えられなくなり、反対方向へ走り出した。

 

「逃がさんよ。<スネア>」

 

詠唱された魔法は、男の足を魔力のツタで拘束して移動を遅らせる。

 

「次は<アイスブレスⅡ>」

 

俺の手から放たれたバスケットボールほど氷塊は男の足に当たると、大きなダメージを与えると同時に冷却効果でその足を氷つかせた。

 

俺はゆっくりその男に近づくと、左手を向ける。

 

「や、やめてくれ!殺さないでくれ!」

 

「もう遅いんだ。<アイス>、<アイス>、<アイス>、<アイス>、<アイス>、<アイス>、<アイス>…」

 

俺が詠唱をやめ、気が付いた時には、男は氷付けになっていた。恐怖で顔を引きつらせたままにだ。

 

俺は草むらを少し歩くと、先ほど投げ捨てた剣を拾うために跪いた。

 

「出たら目なっ!炎に氷、さらに回復など出たら目にも程がある。それに何だあの<ファイヤーボール>は?人を引き裂くほどの威力など、あんなものは見た事がない!」

 

「お前らがケンカを売り、命を狙ったのはそういう相手だということだ」

 

「くそっ、こうなったら刺し違えても貴様を殺す!」

 

アルフェスは焼け爛れた手で恐ろしいほどの痛みを耐えてレイピアを両手で握ると、腰だめにして俺に向かって突っ込んできた。

 

魔法を出させないためだな。考えとしては間違っていない。だがな。

 

「お前は魔法でなど殺さない」

 

俺は片手剣を大きく振りかぶってレイピアを持ったアルフェスを剣と身体ごと大きく弾き飛ばした。

 

「がっ!」

 

俺は片手剣に魔力を注入してその刃を高温に燃焼させるようにイメージする。

 

「<ヒートスラッシュ>!」

 

青白い炎を纏い、信じられないほどの高温となった剣を俺は渾身の力を込めてアルフェスに放った。

 

そして、その剣は受け止めようとするレイピアごとアルフェスの首を断ち切った。ああ、首から血が噴水みたいに出てきた。

 

 

 

俺は傷を受けて倒れているルウアのところへ駆け寄ると、血のたくさん付いたマントを脱ぎ捨てて、ルウアを抱き上げて宿へ戻ることにした。

 

サリア様はと言えば、騒ぎを聞きつけたランパードに看病を頼んだのだ。

 

もちろん傷は受けていない。ただし、凄惨な場面を目にして気絶したようだから心に傷が無いとは言えないかもしれないがな。

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