広場に近づくと衛兵のラクターがこちらを窺っているようだ。
衛兵はともかく、なぜ名前まで分かるのかと言うと、ゲームと同じようにターゲットすれば職種、名前が確認できるうえ、プレーヤー以外のLvまで分かるようになっているからだ。
これは実戦でかなり有効な能力になる。
万が一、見たことが無いモンスターに出会っても、Lvの違いで回避することが可能になるのだ。
特にボスキャラであるパワードモンスターに遭遇する時は、ある一定以上のLvのPTで挑まないと苦戦することも多いからな。
衛兵のラフターはLvを確認すると25のようだ。
ラジャフ街道側のモンスターは雑魚だし、黒のオベリスクだって入口周辺のモンスターなら十分撃退できるLvだからこのLvで問題ないんだな。
おお、ゲームなら動かないラクターがこっちに向かってきたぞ。
「おい、そこの冒険者。見ない顔だが名前は何と言う」
「ガッツだが、あんたは?」
「衛兵のラクターだ。かなり使えるようだがラジャフへは何をしに来た?」
おいおい、いきなり職質だよ。リアルだってされたことないのに。
まあ、見た目がガッツだから仕方ないのかもしれないけど、嘘と本当をうまく混ぜて話すか。
「実は困っている。転移魔法でここまで飛ばされたらしいが、何らかのアクシデントで自分の記憶に曖昧なところがあるんだ。このまちもラジャフだという記憶があるのだが、自分の記憶と微妙に違う様な気がするのでうろついていたんだがな…」
「そうだったのか?場違いなヤツがいると思っていたんだが転移か…。高度な魔術だがアイテムとして出回っているとは聞いたことがある」
かなり怪しい返答だったがそれほど不審に思われなかったらしい。
「まあ、これも一時的なもので、そのうち記憶も戻ってくるんじゃないかと思ってる。しばらく滞在するつもりだからよろしくな」
「ああ、面倒を起こさないならば実力のある冒険者は歓迎だ。もし時間があれば依頼でも受けてくれ」
「どんな依頼だ?」
面倒なことならごめんだぞ?
「そこに娘がいるんだが、村長の娘でルエリアという。モンスター絡みで冒険者頼みたいことがあるといっていた。一度話を聞いてやってもらえないか?」
おお、初クエストかな?ラクター経由で来るとは考えていなかったけどね。
「いいだろう。ただし、受けるのは村の様子を一通り見てからになるぜ?」
「問題ない。たのんだぞ」
つい依頼の話を聞くことにしたが、これには理由がある。
記憶では、そのクエストはかなり初期のLvが低いクエストだったはずだ。
それに、おそらく衛兵の紹介で村長の娘の依頼を受ければ、ラジャフで信用が付くはずだというもくろみもある。
田舎ってのは流れ者には敏感なものだし、お偉いさんの影響ってものは良くも悪くも大きいのだ。
俺は広場の中にいる村長の娘、ルエリアのところへ行って話を聞くことにした。
そうやって会いに行ったルエリアは、グラフィックで見た素朴な顔ではなく、見た目は高校生ぐらいの少しきつめの美人さんだった。
「ラクターに紹介された冒険者のガッツだ。モンスター絡みで依頼があると聞いたんだが?」
「村長の娘のルエリアよ。実は最近、村の周りのモンスターが増えてきて物騒になって困っているの」
「村のすぐ近くにはモンスターがそれほどいないようだが?」
「村はオーブの加護があるためか問題ないわ。この村はバビリムとの交易で成り立っているんだけど、最近『塔』の周りに魔物が徘徊するようになって、商人たちが襲われる事件が多発しているのよ」
ドルアーガの塔の影響でモンスターがやはり活性化しているらしいな。
「ついこの間も魔物に隊商の積荷が襲われて荷が奪われてしまったんだけど、それを探してきてくれないかしら。勿論、報酬は用意するわ。荷物10箱につき100銅よ。どうかしら、やってくれる?」
ほう、実際に狩りをすると手間がかかることが分かったが、報酬にも上昇ということで反映されているようだ。
「問題ない。ただし、ここは来たばかりなので一通りアイテムショップを覗いて準備してになる。明日からでもいいか?」
「いいわよ。そう言えば、商隊を襲ったのはスモールウイングらしいから、あいつらを中心に倒してみて」
「分かった。荷物はどこに届ければいい?」
「私はこの広場にいることが多いけど、いない時には西側に村長の家があるからそこへ届けてくれるかしら?」
「おう、村長の家だな」
こうして俺はこの世界で初めての依頼=クエストを受けることになった。
しかし、初期のクエストだから記憶に残ってなかったけど、ルエリアってこんなキャラだったんだ。
初めてのクエストに少しだけ気分が上がった俺は武器の手入れが出来るところを探すことにした。
戦士としては武器の切れ味は死活問題だから大切なのだ。
剣が看板にかいてある武器商人の店へ行ってみることにした。
店に入ると剣の他にも、メイスや魔法の杖まで扱っている。
ただし、担当がいるらしくソルジャーやスカウトの前衛戦士系、ドルイドやメイジの後衛魔術系と者達と商談をしていた。
俺は剣を扱っているカウンターへ向かった。
「いらっしゃい。お客さん、どんな種類の武器をお探しですが?」
「そのうちに剣を砥ぎに出すつもりなんだが、ここで頼めるか?」
「大丈夫ですよ。それに、このラジャフならほとんどのアイテムショップで受付できますよ。実際に剣を研ぐのはマセン親方のところですからね」
「その親方なら少し前に会ったぜ」
「そうですか。村の約束事ですから法外な値段を取られることもありませんし、安心して依頼してください」
「分かった」
ゲームをしている時は雑貨商店で修理できることが不思議だったけど、そういう便利なシステムなんだ。
それとは別に俺は剣を物色することにした。
今持っている剣は、最低でもLv30以上の武器であるためラジャフ周辺で使うには威力が大きすぎるのだ。
Lvの高い剣で低Lvのモンスターを狩っても切れ味は落ちないし、それを周りに不審がられても困るという配慮もある。
並んでいる中でも上等な剣を手に取り、装備でどの程度のものか確認したうえで聞いてみる。
「この両手剣はどんな代物だ?」
「この店で一番の両手剣、ブラックファルクスです。黒い刀身は高温で焼かれておりますので通常の鉄製の剣よりも丈夫ですよ」
Lv20以上が装備できる両手剣で、このあたりの雑魚を片付けるには十分な剣だ。
「中々の剣だな、いくらになる?」
「4銀になります」
記憶している店頭価格と同じようだ。
「そうか、この剣を1本貰おう」
「ありがとうございます。最初のメンテナンスは無料でやらせていただきますのでお持ちください」
「それは助かるな。その時は頼むよ」
そう言って俺はバッグから4銀を払って武器を受け取ると店を後にした。