第1章ラジャフ編終了です。
第2章バビリム編はそのうち開始します。大まかなプロットはあるので、たぶん・・・。
襲撃があってから俺は一睡もせずにルウアに付き添って開拓者村の宿にいた。
幸いにもルウアの傷の回復に問題は無く、失血も危機的なものでは無かったため様態は安定したようだ。
サリア様の方にはランパード神官が付き添っており、襲撃のショックから徐々に立ち直っているとのことだ。
それにしても今回はやってしまった。この世界でも殺(や)るつもりは無かったんだ。
たぶん俺の心が弱いせいなのだろう。冷静になれば実力差があるのだからもっと他の対応の仕方があったのではないかと思う。
しかし、あの時の俺にはそれが出来なかった。理由は”恐怖”だ。
自分が死んでしまうのではないかという”恐怖”。そして、ルウアという大切な物を失ってしまうのではないかという”恐怖”。
この二つの”恐怖”が俺を狂わせた。俺の理性のリミットを越えたのだ。
自分がそんなことを出来る人間だとは思っていなかった。山賊達を倒すために戦った時も、その手に伝わる肉体や骨を打つ感触に嫌悪感があった。
それなのに昨夜はあっさりと三人の命を奪ってしまったのだ。今でも自分がやったことであるのに実感が湧かない。
…いや、違う。アルフェスに手を下したあの一撃だけはこの手に残っている。忘れたいことだがそれは無理だ。
本当にこの世界から元の世界に帰るまで無事に過ごせるのか自信が無くなってきた。
今回のような襲撃が二度と起こらないとは限らない。おそらくサリア様をバビリムへ送り届ければ宮廷の暗闘に否応も無く巻き込まれる事だろう。
そうなれば人間同士の戦いは避けられない。くそっ!ルウアの無事さえ確定ならサリア様を置いて逃げたいぐらいだ。
だが、今回の事件にはイシター神殿も絡んでいる。俺も可能な限りルウアを守りたいから無関係で居られるはずは無いのだ。
とりあえず、ルウアの回復を待ってサリア様達とバビリムを目指そう。今はそれしかないんだ。
サリア様と俺達一行は、もう一泊開拓者村に泊まってからバビリムへ向かった。
ルウアはと言えば、普段の鍛え方が良かったのか次の日には普通に歩く事が出来た。
ただし、少し貧血気味だと感じたので蜂蜜水やスープをルウアへ多めに摂らせた。
もちろん、ルウアの分の荷物は俺が全て持つ事で負担を減らした。
「すみませんガッツさん。全て荷物を任せてしまって」
「いいんだ。こっちこそ二人が部屋から連れ出されたことに気付けなかったんだ。本当に悪かった」
ランパード神父も済まなそうに頭を下げた。
「警護をしていたアルフェスさんが裏切っていたのですからどうしようもないですよ」
ルウアはフォローしてくれるが、警護役としては後悔の念に駆られるばかりだ。するとサリア様からも声がかかる。
「私がアルフェスの本性を見極められずにいた事が原因です。まさかジュリアに通じていたとは…。申し訳ありません」
いやいや、サリア様を責めているわけじゃないですよ?高貴な方に謝られるといたたまれない気持ちになるので勘弁してくださいね?
「サリア様も私も大事に至らなかったのですからこれで終わりにしませんか?私は助けていただいて感謝していますが、誰も悪いとは思っていません」
「そうですか。ルウアさんがそうおっしゃるなら…」
こんなお互いが自分を責める話ばかりしていても仕方が無いよな。さっさとバビリムに着くために足を進めるとするか。
4人での旅は順調に進んだ。俺達はルウアに無理をさせず、王都に着く前にもバビリム城門のフィールドで休みを取った。
そして、とうとう王都バビリムが見えるところまで来たのだ。
「あれがバビリムなのですねルウア様?」
「そうです。あれが王都バビリムです。どうにか建国記念の式典に間に合ったようですね」
石が敷き詰められた道の先には、城壁で囲まれた巨大な街が見える。その城壁の高さは10階建てのビルに相当するかもしれない。
「とても大きな街ですね。どれくらいの人が住んでいるのですか?」
「そうですね、西と東の街区を合わせて3万人ほどは住んでいるでしょう。日が昇っている間は周辺から人が集まってきますからさらに増えますよ」
「そんなにたくさんの人が居るのですね。いろいろと不安もありますが、イシター神殿の大神殿に仕える事が出来るので楽しみです」
信じる者は救われるかもな。ルウアのことならイシター様も見てくださるだろう。ルウアもあの怪我で助かったのはイシター様のおかげだと信じているらしいからな。
こうして俺達は、期待と不安を胸にバビリムの城門へ近づいていった。
そして、俺の胸の中では分身とも言える3人に会える期待が高まっていく。これから俺にどんな冒険が待っているのだろう?恐らくろくなモンじゃないだろうがな。