ルエリアとガッツがイシター神殿に向かうと、神殿の前の広場でルウアが50を超えたぐらいの初老の神官と何か話しているのが見えた。
「ガッツ、あれがエブラ様よ。失礼の無い様にね」
そう言ってルエリアはシルバーグレイの紳士的な神官に近づくと俺を紹介し始めた。
「こんにちはエブラ様。探していた腕の立つ冒険者を見つけたので連れてきました。ガッツさんです。既にルウアの依頼も済ませています」
「ほほう、ルエリアが認めた冒険者ですか。なかなか腕も立つようですね。ルウアからも聞いていますよ」
「買いかぶられちゃ困るんだがな。神官様の頼みだから内容によっては引き受けてもいい」
まあ、大体の内容は知ってるんだけどね。
「実は、神殿で飼っていた狼がここ最近姿を消してしまったのだ。シルバーファングと言うんだが、なかなか賢い狼でな…。この神殿の祭事にも神獣として色々と参加させていたものなのだ」
「それがなぜ居なくなったんだ?」
「分からんのだよ。旅の商人にもそれらしい狼を見なかったかと聞いているのだが、最近は塔の影響もあって物騒になっているだろう?あまり情報も集まらなくてな」
「あまりにも漠然とした話だな…」
「そこを何とか探してきてはくれないだろうか?勿論、礼はするつもりだ」
「う~ん。ルエリア、何か情報はないのか?」
「ひょっとして…、このことは関係ないかしら?」
「何か心当たりがあるのか?」
「ええ。少し前に街道で荷馬車を襲われた行商人がいたんだけど、背中にかなり大きな傷があってね」
「それで?」
「ラジャフ街道で襲ってきた狼たちを何とか撃退しているうちに、出てきたすごい大きさの狼にやられたらしいの。今の話に関係するかどうかは分からないけど」
それですよルエリア!いいフリするね。
「狼か…。共通点としてはあるから調べてみる必要があるな」
「襲われた商人の背中には大きな傷があったらしいわ。その時の記録書もあるから後で見るといいわ」
この話を隣で聞いていた神官が肩を落としてつぶやいた。
「背中に大きな傷か…。シルバーファングは他よりも体の大きな狼だったのですよ。そう考えるとその狼は彼の可能性が高いでしょうね…」
「でもエブラ様、それがシルバーファングと決まったわけでは…」
重苦しい雰囲気が皆の間に流れるが、そこを俺の言葉で現実に引き戻す。
「どうするんだ。人を襲っているとなれば問題じゃないのか?」
「…あぁ、信じたくは無いがこれも塔の魔力の影響なのか…。ガッツ君、更なる依頼で申し訳ないが、彼がこれ以上人を殺めないように君の手で彼を天に帰してやってはもらえないだろうか?」
「そんな…。エブラ様、シルバーファングの事は子供の頃からとても大切にしていらっしゃったではないですか?元に戻す方法はないのですか?」
「ありがとうルエリア。元に戻す方法は今のところ無いのだよ。多分、彼もそれを望んでいるだろうし、ラジャフの民のためにもならないと思うからね」
「そこまでの覚悟なら俺に依存は無い。シルバーファングを探して彼が人を襲うのを止めさせてもらおう」
「頼む。…シルバーファングを止めてくれ!彼にとっても、きっとそれが最善だろうから…」
搾り出しようにつぶやくエブラ神官の声を聞き、俺は正式に依頼を受けた。
商隊を襲った狼の記録を見るため、俺はルエリアと一緒に村長の家へ向かう。
「これが記録書よ。ラジャフ街道の東で襲われたらしいわ。ドルアーガの塔に近い所ね」
「襲ったのはシルバーファングだけではないようだな。他にも狼が数頭居たと書かれている」
「あのあたりはヤングウルフやアダルトウルフが元々居るところね。以前は街道近くまで来て人間に危害を加えることは無かったらしいわ」
「やはり塔のせいか。シルバーファングが他の狼を率いているとなればやっかいだな」
「そうね。いくら鎧で覆われていても、一度に数匹から襲われるとまずくないかしら?」
「そうだな。そのためにも一度ヤングウルフあたりと戦ってみようと思う。これからすぐにでも出発するつもりだ」
「そんなこと言って準備は大丈夫なの?それにもう日も高いから暗くなるまで時間が無いわよ」
「今日は神木まで行くのに準備はしていたし、試す程度だから本格的に戦う気は無い。最低限の装備以外はバッグに入れて走ることで移動時間も短縮するつもりだ」
「それならいいけど…。無理しないで戻ってくるのよ!大切な戦力に怪我でもされたら困るわ!」
「それではお嬢様のおっしゃるとおりに」ニヤリ。
「そっ、それでいいのよ!」
なぜかルエリアは腰に手を当て、恥ずかしそうにしながら言う。
うん、何となくからかうツボが見えてきたかもしれんな。
「それじゃあな」
俺は早速、ラジャフ街道へ向かった。
ラジャフ周辺で街道を移動するだけならモンスターに襲われることは少ないため、俺は装備していた鎧をバッグにしまった。
元々この辺りはノンアクティブ(攻撃しなければ襲わない)のモンスターが生息していたが、設定でテリトリーが草原とでも認識されているのだろうか?
まあ、普通の野生動物だって人が居る場所は嫌うがまったく現れない訳じゃないかならな。
運良くモンスターに遭遇せずにラジャフ街道を爆進した俺は、ウルフが生息するエリアの街道に立っている人物を見つけた。
多分うざいあいつだ。ターゲットしてステータスの名前を確認する。
やっぱりな。放浪の冒険者ボウケン、ウルフを狩るクエストを吹っかけてくるヤツだ。
近くで狩りをするのに知らない振りも出来ないから声を掛けるか。俺は大人だからな。
「俺は冒険者のガッツだ。この辺りで狩りをするがかまわないか?」
「ほう。私は放浪の冒険者ボウケンだ。ここで狩りをすると言うことはネズミやクモは倒してきたようだな」
「もちろんだ。もう少し上のヤツを狙おうかと思ってな」
「ひょっとして「俺って強くない?」と思ったりしてないか?しかし、それこそ思い上がりと言うものだ。ま さ に カワズ オブ イノナカ! このボウケンがキミのその伸びきった、だらしない鼻をへし折ってやろう!」
ニヤッ「どうやってへし折ってくれるんだ?」
「どうだねイノナカのガッツとやら、私の挑戦を受けるかね?まあ、逃げてもいいのだがね。クックック…」
「どんな挑戦だ?」
「ハッハッハ!キミには出来ないと思うが、やってみるというのかね? それなら挑戦の内容を説明しよう!この辺りに居るヤングウルフの牙を5個、2時間以内に集めるのだ。キミにはこれが出来るかね?ちなみに私には楽勝だ!」
「いいだろう。その挑戦を受けよう。ちょうどヤングウルフを狩るつもりだったんだ。いい励みになる」
「そうか。ではガッツ、君の健闘を祈る」
コイツどんだけ上から目線なんだよ。でも、草原が以外に広いから狩猟時間がゲームより延長されているのは助かるな。
システムの亜種かどうかは不明だが、狩りをしたり街道を移動する時に一番近くのモンスターの気配を察知できることが分かった。
だとしても、移動を考えるとこれだけ広い草原で狼を狩るのは簡単じゃないと思う。
すぐに俺は遠くにヤングウルフらしい気配を察知すると移動を開始した。