お久しぶりです。
秋華賞だったので連載再開。
今回はトレーナー視点です。
本来、ウマ娘の脚質や適性というものは簡単に見分けが付く様な物ではない。
新人は勿論のこと、ベテラントレーナーによる観察眼ですらそれを
いくら知識や経験があったとしても、『ウマソウル』に深く刻まれた物を正しく推し量るなんて事は無茶が過ぎるのだ。
故に、トレーナー達はウマ娘の状態とトレーニングやレースでの様子からその適性を見極めるしかないのである。
しかし、ウマ娘の中には幼い頃からトレーニングを重ねるうちに自分がどんなコース、どんな走り方が得意だったり好きなのかがなんとなく解るようになる子が多い。
そういうウマ娘はその得意な物を追求していく為、模擬レースや選抜レースで頭一つ抜けた成績を残すこともできる。
そして、担当トレーナーとの連携がしやすくなるのであった。
勿論、ほとんどのウマ娘達が自分の適性を正確に知っているわけではないし、かと思えばどっかのトレーナーの様にイレギュラーな存在もいたりするわけだが……
◇◇◇◇◇
あの選抜レースから早数日。
フレチャアンヘルのもとに数多くのトレーナーからスカウトがあった。
しかし、彼女が言った『私の適性が正確に解る』という条件に当てはまるトレーナーなんているはずも無く、また彼女がトレーナー達にした
ベテラン達も来るなら拒まずといった態度ではあるものの、見えている地雷を踏みたくはない為に積極的なスカウトはしていないらしい。
さて、そんな中俺はというと……
「チュウ助。お前、今日でサブトレクビな?」
「はっ?」
リョウさんからクビを言い渡されていた。
「いや、なんでですか急に。まだ作りかけの資料とか手配中の案件が残ってるのに。というか、俺が今ここを辞めて回るんですか?」
「別に急じゃねぇだろ。元々お前を預かるの昨年度までの予定だったし、正直お前に教えられる事なんて最初から殆ど無かったからな。むしろこっちがいくつかアドバイス貰ったりもして助かってたぐらいだ。回るか回らんかで言えばちょっと回りにくくなるかもだが、そこはお前が心配する所じゃない」
「いや、地味に心配なんですが……」
この人優秀なくせに意外とズボラだからなぁ……
「というか、今日いきなりとか俺明日からどうすりゃ良いんすか」
「いや、スカウトして来いよ」
リョウさんから手厳しいツッコミをもらう。
まあ、それはそうなんですが……
「つーか、最近噂になってるこの間の子はどうしたんだよ。結局お前スカウトしてないんだろ?」
「いやいやいや、どう考えても地雷案件じゃないですかあの子。流石に俺には無理ですよ」
「お前なぁ……」
フレチャアンヘルの噂は俺達の所にも聞こえてきている。
既に何人もの新人〜中堅のトレーナー達が玉砕しているから嫌でも耳に入ってきていた。
「だけどよ、あの子の条件お前なら――――」
「さて、今日付けでクビという事らしいので早速荷物まとめて出ていきますね。お世話になりました」
「おい」
リョウさんが俺の肩を掴んでこちらを見つめくる。
俺にそっちの趣味は無いんですが?なんて冗談を言える雰囲気でもない。
リョウさんに俺が持ってる能力について話した事は無いが、彼は察しが良いからなんとなく気がついているのだろう。
俺がウマ娘の適性を把握する事に長けていると言う事に。
実際、サブトレーナーとして適性に関係してくる様な提案を何度もした事があった。
「俺が気づいてないとでも思ったか? お前、最近あの子の資料集めて色々手調べてただろ。育てたいと思ったウマ娘をスカウトもしないとか、お前なんの為にトレーナーになったんだよ」
なんの為…か……
別に大きな夢や目標があった訳じゃない。
ただチート級の能力があった。それを腐らせるのはなんだか勿体ない気がした。それだけの理由で勉強を続けてきて、気がついたら中央のトレーナーにまでなれていた。
別に情熱がないわけじゃない。ウマ娘の走りやライブを見れば心が躍るし、自分もいつかと思う事だってある。
しかし、他のトレーナー達と比べて温度感に差があるのはずっと感じていた。元々、能力を活かしたいというどこか不純にも感じる理由だしな。おそらく、そのせいでスカウトも上手くいかなかったのだろう。彼女達ウマ娘は目だって良いのだから。
「昔から俺等はお前に期待してんだ。ほれ、今すぐスカウト行って来い!」
そう言ってリョウさんに強引に部室を追い出される。
さて、どうしたもんか……
彼女、フレチャアンヘルの事を調べていたのは別にスカウト云々とは関係なく、単純に気になったからだった。
で、調べてみてわかったのはとんでもない地雷ウマ娘だということ。
いやそれにしてもまさか……
「おっ、チュウ坊じゃ〜ん。何してんだこんなとこで」
フラフラと考え事をしながら歩いていると一人のウマ娘に声をかけられる。
「ゴルシ……いい加減そのあだ名やめてくれ。つーか、俺の方が年上なのに坊はおかしいだろ」
「え〜っ、チュウ坊はチュウ坊だろ~。ゴルシちゃん的にはここは譲れねぇなぁ〜」
彼女の名前はゴールドシップ。
リョウさんが担当をしてるウマ娘の一人で、スピカの最古参でもある。
正直、破天荒すぎるコイツに俺もリョウさんも振り回され続けてるんだけどな……
「んで? なんでこんなとこ歩いてるんだ? サブトレの仕事はどうしたんだよ〜」
「……ああ、それならさっきクビになった」
「…………はっ?」
俺とゴルシの間に沈黙が流れる。
そして、みるみる彼女は不機嫌そうな表情を浮かべ……
「よ~し、つまりチュウ坊はイジメられてんだな! 待ってろ、うちのトレーナー絞めてくるから!」
「いや、別にイジメられてる訳じゃ……っておい、少しは話を聞け!」
俺の話を聞くこともなく、ゴルシは勘違いをしたままスピカの部室へと走っていった。
大丈夫か、これ……?
⏱
とりあえず、スカウトはしに行かないとどうにもならないという事で、俺はトレーニング用のコースに来ていた。
今は今年デビュー予定でまだ担当の決まって居ないウマ娘達が使用できる時間であり、責任者として教官もついている。
そして、そこにはフレチャアンヘルの姿もあった。
……あの子の事は気になってはいるが、色々な要因から正直気乗りはしない。
まあ、スカウトだけしに行って適当にフラれて来るのが一番か、なんて考えつつ走っているウマ娘達を眺める。
「あれ、山県先輩? こちらにいらっしゃるなんて珍しいですね!」
「……桐生院ちゃん、俺ってそんなに不真面目に見られてる?」
「あっ、いえ、本当に珍しいなと思っただけでして……先輩っていつも西崎トレーナーの所にいるイメージなので」
「……うん、間違ってはいないな」
俺が来る前から数人程いたトレーナーの内の1人、桐生院葵が声を掛けてきた。
彼女は名門桐生院家の一人娘であり、昨年トレーナー学校を首席で卒業した超優秀な新人トレーナーだった。
因みに、トレーナー学校の1年後輩な為その頃から面識があった。
「あれ、つーかお前もう担当決まってただろ。何しに来たんだよ」
そう、若干忌々しい事に彼女は一年目にして既にハッピーミークというウマ娘と契約済みなのだ。
相当嬉しかったのか、散々自慢話的にミークがミークがと聞かされたのを覚えている
「はい、実は次にここを使用するのが私達なんです。なのでミークを待ちつつコースの確認や今年デビュー予定の方々を見てみようかと思いまして」
なるほど、簡単に言えば偵察しに来たわけね。
「先輩はどうしてこちらに?」
「んなもん、スカウトしに来たに決まってるだろ?」
「えっ!! 先輩が遂にスカウトを!?」
「いや、遂にもなにも去年もしてたし、この間だって選抜レース見に行ってたからね俺」
「あっ、私ミークとの契約の関係で忙しくて見に行けなかったんですよね……」
うん、悪気がないのは知ってるけど自慢とか嫌味に聞こえるからね? 前から言ってるけどいい加減気を付けようね?
「そ、それで、どの子をスカウトする予定なんですか?」
「ん、あの子」
そう言って俺はフレチャアンヘルを指差す。
丁度、彼女の番が回ってきており、今から走る様だ。
「えっ、あれって確か最近噂になってる……」
「ああ、知ってるのか」
「は、はい。という事は先輩も知っていてスカウトを?」
「まあ、ちょっとリョウさんに気になってるんならスカウトしてこいって言われちゃってな。しかも今日でサブトレクビだってさ」
「えぇ…………あっ、走るみたいですね」
フレチャアンヘルが位置につき、走りだす。
前回見たレース同様、側対歩と呼ばれる走り方で重心がブレることなく進んでいる。
「わっ! 噂には聞いてましたが本当に独特な走り方をしてますね」
「側対歩とかなんば走りとかって呼ばれてるらしいぞ? 忍者とか飛脚とかの走り方の応用で、長く走れるとかなんとか」
「なるほど! これは勉強になりますね」
「まあ、あれで走れる奴は相当限られるだろうけどな」
そのまま彼女はコースを一周した。
息は多少乱れてはいるもののとても涼しい顔をしている。
ありゃあ、かなりスタミナがあるな。
足腰も結構しっかりしてるのが見て取れるし、一体どんなトレーニングをして来たんだか……
その後、フレチャアンヘルは教官と少し話してからコースを離れようとする。
「さてと、それじゃあフラれてきますかねぇ」
「いや、なんでフラれる前提なんですか……」
「そりゃお前、俺はあの子のお眼鏡に叶わないだろうからな」
「そんな事……」
少し沈んだ様子の桐生院ちゃんに背を向け、後ろ手を振りながら彼女に接触を試みる事にした。
しかし……
「フレチャアンヘルさん! 私が君のトレーナーになってあげよう!」
どうやら一歩遅く、先を越されたらしい。
確かあの男性は少し上の先輩トレーナーだった気がする。
特に良い噂も悪い噂も聞いたことは無いが……
まあ、とりあえず話は聞いておこう。
「なんというか、いきなりですね?」
「ふふん、私程優秀なトレーナーはそうそういないよ!」
「じゃあ、アナタには私の脚質適性が正確に解ると?」
「勿論だとも!」
そう言ってその男性トレーナーは自信ありげにペラペラと語り始めた。
「君の適性は芝とダートどちらも走れるステイヤーだ! 長中距離は問題なく走れるし、マイルでも良い成績を残せるだろうね。逆に短距離は苦手だね。そして君の脚質は自在だ! 逃げ先行差し追込み、どの作戦をとっても勝てる才能が君にはある。どうだね、私の分析力は! さあ、私と共に最強のクラシック三冠ウマ娘を目指そうじゃないか!」
何を言ってるんだこの人は……
いや、芝と砂の両刀なのは合ってるし中距離マイルが得意なのも合ってはいる。若干不安だが長距離も得意寄りではあるだろう。だが、短距離が苦手とか言いやがった。しかも脚質は自在だって? バカか、何見てそう思ったんだよ。あんなに差しは走りにくそうにしてただろうが。
……いやまあ、チート使ってる俺が言えることでもないけどさ。
「ふむふむ、なるほど。うーん、自在、ですか……」
「そうだとも。君のその自在な脚質があれば、かの生徒会長と同じく無敗のまま三冠を取ることだって可能かもしれない! さあ、私と契約を!」
大袈裟な態度で彼女に担当契約書と思われる資料を見せる男性トレーナー。
それに対して、深く考え込んでいるフレチャアンヘル。
そして……
「では、一つだけ質問をしても良いですか?」
「なんだね? 何でも答えてあげるとも!」
そうして、彼女は質問を投げかけた。
「私の適性ランク、見えてますか?」
その言葉に、俺の心臓がドクンッと飛び跳ねる。
適性…ランクだと……?
いや…まさか……
動揺する俺を余所に、その質問を聞いた男性トレーナーは待ってましたと言わんばかりにニヒルな笑みを浮かべる。
「勿論見えているとも!」
「……っ! じゃ、じゃあ、それを教えてください」
それは誰がどう聞いても嘘だとわかるものだった。
だってそんなゲームのステータスみたいに彼女の適性を見ることができる訳が無い。
しかし、見えていると言った彼の言葉に、フレチャアンヘルは動揺しながらも期待した眼差しを彼に向けていた。
なんだ? 彼女は一体何を知っている?
まさか、俺のこのチート能力について何か知っているのか?
それとも……
「いいや、それはできない」
「な、なんで!?」
しかし、男性トレーナーは彼女にそれを素直に教えたりはしなかった。
「こういうのはなるべく他のトレーナーには知られたくないからね。私は契約した担当ウマ娘にしか教えていない。例えばだが、君が私から適性のランクを聞いたとしてだ、契約しないままそれを別のトレーナーの所へ持っていかれればどうなる? 私達がただただ損をするだけだろう? 」
「……だけど、契約して貴方の言葉が嘘だったら?」
「疑うのであれば別のトレーナーを探すといい。だけど君が出した条件や質問に応えられるトレーナーは私だけだろうがね」
「…………」
そうして、フレチャアンヘルは黙ってしまう。
こんなもの明らかに詐欺の手口である。
彼女自身だってどこかでそう感じているのだろうが、もし本当だったら?という可能性を捨てきれないでいる様だ。
なぜそこまで適性が解る者に固執しているのだろうか。
そして、なぜそんな事が解るトレーナーが居ると確信しているのだろうか。
だけど、そんな事はどうでもいい。
彼女のどこか覚悟を決めた顔が目に映る。
そして、彼女が口を開いた瞬間、俺は駆ける。
「……わかり…ました、貴方と」
「コース適性は芝 A ダート A。距離適性が短距離 A マイル A 中距離 A 長距離 B。そして脚質は逃げ C 先行 G 差し G 追込 C。これが……お前さんの適性だ」
突然現れ捲し立てる様に言った俺に二人は驚いた。
そして、男性トレーナーが抗議してくる。
「おい! 今は私が彼女をスカウトしているんだ! 邪魔を――――」
「少し黙ってもらえますか?」
「――――っ!?」
彼女がそのトレーナーの言葉を遮り、コチラをジッと見つめてくる。
その瞳に、先程以上の期待と喜びの色を映しながら。
「
自分の頭上を指差し、彼女は俺に問いかける。
コイツ…やっぱり……!
「それともこっちです?」
今度は自分のお腹のあたりを指差していた。
……どうやら、全部を知っているというわけではないらしい。
「……頭の上だ。今は切ってるから見えないがな」
「ふむ……切っているとは?」
「あんなもんが常時見えてたら頭おかしくなるだろ。前に100人ぐらい同時に見た時は情報過多かなんかで気絶したしな。ONOFFを切り替えてんだよ」
「なるほど……なるほどぉ!」
フレチャアンヘルは嬉しそうに薄っすらとした笑みを浮かべた。
調べた通り、表情筋がほとんど死んでいるみたいだな……
「知っているかもしれませんが、フレチャアンヘルです! トレーナーさんのお名前は?」
「あ〜……山県――
「いい加減にしてくれないか?」
俺が自己紹介をしようとすると、我慢の限界だったのか男性トレーナーが言う。
その顔はどこか怒りに満ちている様にも見えた。
「ああ、まだいたんですね。もう貴方に興味ないのでどうぞお引き取りください」
「なっ!? 何故だい!? 君はさっき私のスカウトを受けようとしていたじゃあないか! それなのに僕の言葉よりこんな男の言う事を信じるのか!?」
「だって、貴方見えてないでしょ?」
「いいや見えてるね! 君の頭の上にちゃんと君の適性が出ているさ!」
どうやら彼は頭の回転が早い様で、今の俺達の会話から必要な情報をしっかりと抜き出せてはいるらしい。
やっぱ、詐欺師の手口だよなぁこれ……
「それになんだって? 脚質がCとGしかない? バカを言うな! 彼女の脚質は自在だ! その証拠に彼女の脚質適性はオールAだぞ!」
「いやそれは――」
「私が自在だなんてありえないよ」
今度は俺に突っかかってきた彼に反論をしようとすると、フレチャアンヘルが今までの丁寧な口調を崩しながらそれを否定した。
「な、なんだって?」
「私が本当に自在なんだとしたら、先行や差しであんなに走りにくいわけがないもん。抜け出すタイミングすら掴みにくかったしね。それに逃げや追い込みも走りやすくはあるけど得意とまでは言えそうじゃなかった。適性がCって聞いて妙に納得したぐらいだし」
「だが、ソイツが嘘をついている可能性だって!」
「話してみた感じそれもなさそうだけど、万が一そうだとして詐欺まがいに契約を迫るような貴方よりはマシだと思いますが?」
「ぐっ……」
「もう良いですか? 時間の無駄なので」
彼女は無表情の顔でそう吐き捨てた。
正直、自業自得とはいえ少し同情するわ……
「君は絶対に後悔する! 親戚のコネでトレーナーになった上に、昨年スカウトに失敗し続けた様な実力もない七光りのクソ野郎だぞソイツは!!」
はい? いやいや、どっからそんな話が出たんだよ?
俺、これでも一応トレーナー学校で第三席卒業だったんだが……
「はぁ……さっき言いそびれた事ハッキリと言わせてもらいますね。貴方と契約するつもりはありません。おととい来やがってください」
「………っ! 失礼する!!」
男性トレーナーは肩を怒らせながら去っていった。
「さてさて、邪魔者は居なくなりました! もう一度お名前を聞かせてください」
「……山県忠助だ」
「では、山県トレーナー。この後、ちょっとお時間ありますか?」
「まあ、なくはないな」
さっきサブトレをクビになったばっかりだしな。
というか、耳をパタパタ動かして無表情のまま嬉々とした目でジーッとこっちを見るな。ちょっと怖いぞ……
「ではでは場所を変えて、もう少し詳しいお話を聞かせてください!」
「……ああ、わかった」
正直未だに気乗りはしないのだが、俺もいくつか聞きたい事ができた。
ずっと謎だったこの能力について知れる、良い機会なのかもしれない。
はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……
ついに二人が出会いました。
まあ、筆が乗って契約まで行けませんでしたが……
そして、もうなんか逆スカウトのノリである。
次回はアンヘルちゃん視点でお送りします。
果たして彼女はこのトレーナーと契約できるのか……
次回もどうぞお楽しみに〜
ぱかぱか裏話
☆沖野Tへの勘違いは解消されたが、それはそれとしてゴルシには絞められた。