この回が描きたかった、その1
筆が乗ったのに地味に難産で、気がつけば日付が変わってました。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
それは、デビュー戦の一週間前に発覚した。
京都レース場で行われる芝1200m右回りというありふれた短距離レース。
当日の天候や馬場にも寄るけど、私なら余裕を持って勝てるだろうと慢心していた所にトレーナーが出走表を持ってきた事でそれは一変する。
2枠2番 スノースウィート (一番人気)
3枠3番 フレチャアンヘル (三番人気)
まさかの同室同士の対決が決まってしまっていた。
「……これ、デビュー日ズラせたりしない?」
「無理に決まってるだろ!?」
ですよね~と棒読みで答えながら私は考える。
まず、同室だから気まずいという事は正直無い。
私も彼女もその辺は特に気にしないタチだし、勝負の世界なのだからこういう事もあるだろう。
なんなら、今夜辺りに「一緒に走れて嬉しいわ! でもワタクシ、絶対に勝ちは譲りませんからね?」とか言って来そうである。
その上、実力も確かなのは私ですら知っている。
なにせ彼女は、かのシンボリ家の分家筋にあたるスウィート家のお嬢様なのだから。
その美しい白毛の髪と陶磁器の様に白い肌、そして何より周りをどこか寒々とさせるその鋭い走りから、付けられたあだ名は『白雪姫』。
つまり、彼女の血統と実力は折り紙付きだと言えた。
だからこそ、正直戦うにしてももう少し後の方が良かったんだけどなぁ。それこそGⅠとか……
「とはいえ、お前さんには今までのトレーニングの成果に加えてスキルチートがあるだろ? なんでそんなに自信なさげなのか俺には理解できかねるんだが……」
「シンボリ家に連なる家系で二つ名持ち。その時点で既に
「アレ?」
そう、所謂ネームドと呼ばれる強いウマ娘であれば必ずと言っていい程持っているモノ。
「スノー先輩は固有スキルを使えるかもしれない」
◇◇◇◇◇
遂にやってきたデビュー戦当日。
地下馬道まで聞こえてくる声を耳にしながら、体操服に身を包んだ私は深呼吸をする。
パドックでのお披露目中は全然気にならなかったけれど、流石にレースが近づいてきて少し緊張しているみたい。
だけど、悪くない緊張感だ。
「おーい、デビュー戦だからって別に気負う必要はないからな? 最悪、負けても未勝利戦で勝てばいいんだし」
「……そこは、絶対勝ってこい!って担当を鼓舞する所なんじゃないかなぁ?」
「俺がそんなキャラじゃないの知ってるだろ。それに、どうにもお前が気にし過ぎてるからな」
気にし過ぎている。
確かに、その通りかもしれない。
今までのトレーニングの成果やスキルチートなんかがあれば余裕で勝てるレースの筈だ。
だけど、私は彼女の事がどうにも気にかかっていた。
ネームドでもないのに?
いや、私が前世の競馬に詳しくないだけで、実は名馬な可能性だってあるし、名前が変わってるだけなのかもしれないけど。
それでも気になるのはやっぱり同室だから? シンボリの分家だから? それともいつの間にか私が白毛スキーにでもなった?
いいや、どれも違う。
この得も言われぬ不安はやっぱり……
そう考えていると、頭の上にトンッと優しくチョップが落とされた。
「今更ウダウダ考えたってしょうがないだろ。後はもう走るだけだ」
「…………それもそうだね」
「よし、分かったらさっさと行って来い!」
「うん……行ってきます!」
そうして、私はレース場へと脚を踏み入れた。
「アンヘルさん、今日は負けませんよ?」
「はい。こっちも負けるつもりは無いですよ、スノー先輩!」
私に宣戦布告をしてきたスノー先輩へ、そう答える。
たとえ彼女がどんなウマ娘だろうと関係ない。
ただ、私はゴールを目指して全力でひた走るだけだ!
⏱
各ウマ娘ゲートイン完了。
いつもの様に、心は熱く思考は冷静に。
トレーナーは私のスピードとパワーをしっかりと育ててくれた。
「今回はただ全力で逃げればいい。それだけで今のお前はどのウマ娘にだって勝てる筈だ」
それが、トレーナーからの唯一の作戦指令だった。
全力で走って全力で逃げる。
身も蓋もない作戦だけど、私達2人のチートが有るからこそ成り立つ作戦でもある。
懸念事項は未だ逃げがCな事と金スキルが一切無いことだけ。
後は、全て私次第。
さあ、幕が上がったぞ。
ジュニア級メイクデビュー
京都 芝1200m
ゲートが開くと同時に私は飛び出した。
【集中力】【先駆け】【逃げのコツ◎】【良バ場◎】
【春ウマ娘◎】【晴れの日◎】【地固め】
スキルが発動する感覚を感じながら、私は走り出す。
『さあ、始まりましたジュニア級メイクデビュー。各ウマ娘、一斉にスタート! 先頭に躍り出てきましたのは3番フレチャアンヘル! 独特な走り方をしながら逃げていきます! それを2番手の位置で追うのは一番人気スノースウィートです!』
『かのシンボリ家に連なるスウィート家の白雪姫がどの様な走りを見せつけるのか期待したいですね』
最初の短い直線を越え、坂を登っていく。
【直線巧者】【直線加速】【直線回復】
【登山家】【勢い任せ】
スキルのおかげで脚が軽い。
苦も無く坂を登って行ける!
『フレチャアンヘル速い速い! 坂を登って後ろとの差は既に7バ身! 意気揚々と先頭をキープしております。どうでしょうこの展開?』
『うーん、これは掛かってしまっているかもしれません。ひと息つけるといいのですが』
【逃げコーナー◎】【コーナー巧者】【コーナー回復○】【折れない心】【素直な一歩】
坂を登りきって直ぐにコーナーへ。
内ラチスレスレの所を難なく曲がって加速する。
『フレチャアンヘル、綺麗にコーナーを曲がって行きます! これはもはや独走状態か! 後ろの子達は間に合うでしょうか!?』
『おっとこれは――――』
【下り坂巧者】【目にも留まらず】
【急ぎ足】【中盤巧者】【尻尾上がり】
下り坂を駆け抜けて最後のコーナーへと向かう。
だけど…………
『ここで仕掛けたのは2番スノースウィート! コーナーも、下り坂も物ともせず駆け抜けていきます! 先頭のフレチャアンヘルとの差は既に4馬身!』
『坂を登りきった所で一気に加速してきましたね。この作戦が吉と出るか凶と出るか!』
私の後ろには彼女が、スノー先輩が来ていた。
ドンドンと差が縮められていく感覚が背中に伝わる。
【押し切り準備】【快速】
レースは終盤。
最終コーナーを曲がって私はさらに加速した。
『第4コーナーカーブ! 最後の直線、フレチャアンヘルとスノースウィートの一騎打ちです! 後ろはもう追いつけない!』
「さあ、勝負といきましょうアンヘルさん!」
来る。
そう感じた瞬間、世界が一変した。
雪景色の中を一人歩くウマ娘。
目を瞑り、左手に持つ白く美しいレイピアを胸の前で構えた彼女に向かって、まるで悪魔のように高笑いをしながら宙に浮かぶ複数の鏡。
彼女が目を開け、一歩踏み出して目の前の鏡を貫いた。それと同時に割れた鏡を踏みつけて飛翔する!
1枚、また1枚と貫きながら足蹴にしていく。
そして、雪がちらつく中、彼女はついに最後の鏡を破壊するに至った。
【
《領域》。
所謂スポーツ等でのゾーン状態。
シングレ世界では一握りの競走ウマ娘が、己の走りを究めた末に到達し得る物らしい。
この世界でも半ば都市伝説として語られているそれは正しく、アプリ版で育成ウマ娘達が必ず持っていた《固有スキル》にほかならない。
やっぱり持ってたかぁ……
スノー先輩が最高速度で突っ込んでくる!
その差、既に1バ身。
脚に、力を込める。
【末脚】【逃げ直線◎】【粘り腰】【振り絞り】
残り200m。
脚が重い。
突き放そうとしても差をドンドンと詰められる。
どれだけ姿勢を低くしても、どんなに脚を動かしても追いつかれる。
スタミナはまだ残っているのに!
【二の矢】
そのスキルを使った瞬間、スタミナを少し持っていかれる。
それと同時に、私の脚はわずかに加速した。
しかし、それでも――――――――
『スノースウィート並んだスノースウィート並んだ! フレチャアンヘルとスノースウィート並んでゴールへと一直線に向かっていきます! 残り30mもないぃぃ!! っっっ! 今、二人もつれ込む様にゴォォルイィィン!!』
『これは、メイクデビューとは思えない様な凄まじいレースになりましたねぇ』
脱力感。
膝に両手を付きながら息を整える。
まだスタミナには全然余裕があるけれど、疲れが一気に押し寄せる。
ああ――――――
負けた。
ジュニア級メイクデビュー
一着 スノースウィート アタマ差
二着 フレチャアンヘル 大差
キリが良かったのでここで一旦終了。
続きは今夜にでも投稿致します。
アンヘルちゃん、デビュー戦敗北。
この結果は最初から決まっていました。
主な敗因は固有スキル&金スキルの有無と逃げ適性C。
そして、どれだけ離されても焦らず自分の走りができるスノースウィートの忍耐力という差でした。
次回はこの続きである戦後処理から。
公式戦初敗北という実績を解除したフレチャアンヘルはこの後……
まて、次回!