魔王城の一室、そこでバラバラに解剖された人間がいる。
この間、魔王様を暗殺に来た他国のテロリストだ。
可哀想なことに、勇者とか信じ込まされた年若い青年で、命を消費するようなワンオフの魔法兵器片手に突撃させられたのだ。
で、普通に魔王様の魔法でやられて四天王であるエルフのリンデル様に拷問されたのだった。
そして、そんな人に呼び出しされてる……怖い。
「し、失礼しまぁ〜す」
「やぁ」
椅子に座っていたリンデル様が振り返る。
汚れてもすぐわかるから白衣が血だらけで、変色してるのは洗ってないからだろう。
エルフ特有のズボラさが出てる。
「むっ……何だよ」
「べ、別に〜」
「はぁ……まぁいいや」
あっぶねぇ、顔に出てたのかリンデル様が不機嫌そうに詰め寄ってきた。
それにしても、今度は何の実験に付き合わされるんだろう。
この人、大体呼ぶとき何かの実験だからなぁ。
「異世界転生トラックってあるじゃん」
「何それ」
「……まぁ人間の国で流行ってる奴、知っての通り魔法がなくて努力が全ての世界に行くやつなんだ」
「知らないです」
「トラックってのは物資を運搬する乗り物のことだよ」
いや、だから知らないですけど。
そのトラックに乗ると異世界に転移出来るの?
いや転生って言ってたし、死ぬのか?
「気付いたようだね」
「異世界転移じゃなくて、異世界転生トラックなんですよね」
「そうなんだ。勇者達が経験者らしいので尋問したところ、どうやら死ぬらしい」
私はチラッと、リンデル様の背後のテーブルを見る。
拘束具と刃物と肉塊があった。
拷問の間違いですよね。
「ということで仮説を元に作ったのがこれだ」
ポン、と魔法で転移してきたそれは鉄で出来た馬車だった。
なんでオリハルコンとか丈夫な金属じゃないんだ、それと馬がいない。
「なんでも、異世界転生トラックはぶつかった衝撃で死ぬらしい」
「ぶつかっても勇者なら死ななくないですか?」
「多分、乗り物だしトラックにぶつかるんじゃなくて、トラックがぶつかるんだよ」
「何に?」
コテン、とお互いに首を傾げる。
あっ、このエルフは深く考えてないで作ったぞこれ。
「まぁでも金属製だし、魔法を仕込むんだよ」
「一体どんな魔法を」
「トラックは高速で突っ込むらしいから、無限に加速してみる」
雲行きが怪しくなってきた。
そして、どうして呼ばれたのか分かったぞ。
「嫌ですよ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「じゃあ試しに言ってみてくださいよ」
「この発信機を持って乗ってみて」
「嫌ですよ」
ほら、ほらほら、やっぱりじゃないですか。
どうせ死んでも蘇生させるからとか、そんな感じでやらせようと思ったんだ。
「大丈夫、死んでも蘇生させるから」
「まず死なない実験にしてください」
「死なないよ、この発信機で異世界の座標を特定するだけだから」
「異世界なのに使えるんですか?」
いや、異世界の存在は噂されてるけど。
異世界から勇者は来たって言う触れ込みだし、多分デマだけど。
あんなの記憶改変魔法で作った勇者という名の少年兵を、利用するためのプロパガンダじゃん。
「……使えるよ」
「どうして目を逸らすんですか?」
「ごめんて」
「えっ?あっ、まさか!」
気付いても、もう遅い。
私の立っていた地面が光りだす。
よく見ると私を囲むように魔法文字がぎっしり敷き詰められていた。
汚い、会話途中で魔力で模様作って魔法陣作りやがった。
そんな芸当、普通できないから想定してない。
気付けば、私は謎の箱の中にいた。
手足は謎の鎖に拘束されている、なんだコレ。
「出して下さい」
「説明しよう、それはシートベルトと言うんだ。多分、捕虜とかを脱走させないための装置だ」
「いいから、出せ」
「そんなにやる気満々だとは」
「違う違う、なんで動かしてるんですか!出発しろって意味じゃない!」
動き出すトラック、だと思われる物体。
なんでこれ外が見れるようになってるんですか!
悪趣味ですか、御者はいないんですか!
眼の前には転移門がある。
そこに突っ込むとまた同じ景色が戻ってくる。
転移門の手前に転移された。
また突っ込み、手前に転移、何度も何度も転移門を通過する。
なお、通過する事に加速し続けているので間隔が短くなっていく。
途中から転移門に突っ込んでるのか突っ込んでないのか分からなくなってきた。
「お外、真っ暗なんだけど。いつ終わるの?うお、まぶし!」
いきなり目の前が真っ白になった。
ひんやりとし感覚に意識が覚醒する。
おえっ、酷い目にあった。
もしかしたら死んで蘇生されたのかもしれない。
あっ、肉体がバラバラになってるのが感覚的に分かるぞ。
視覚情報を手に入れるために眼球を形成する。
ポトッと液体の中に沈みながら生み出された肉体は、どこかの森の中を映している。
魔王城の壁でもぶち破ったのかな?
眼球を収めるように頭部を形成し、首から肩、胸や両腕を作り出す。
下半身はまだグチュグチュの肉片の混ざったアメーバ状だ。
それも時間経過で蠢きながらゆっくりと腹部や下半身を作っていく。
これ、下手したら普通の魔族なら死んでたまである。
「……あ、あぁー、喉はこんな感じかな?」
全身が出来上がったので改めて見ると、森であった。
背後にはなぎ倒されて燃えている木々、あーこれ突っ込んだ後だ。
よく見ると周りに鉄片が転がってる。
爆発でもしたんか?あっ……発信機。
「どっかいっちゃった……えー」
どうしよ、取り敢えずは街を目指すか。
街って、どの方向に行けばいいの?
少し散策すると、明らかに整備された道が出てきた。
細かい砂利舗装、木の長椅子、アーチ状に組まれた木製の細工物が道の両脇に等間隔で並んでいる。
ずっと進んでいくと大きな湖が出てきた。
「えぇ……何で木製。ここ、魔王城の近くじゃないの?」
魔王城の近くなら石製が多いはずなんだけどな。
見たことない景色だ。
翼を形成して、身体を魔法で軽くして羽ばたくことで空に飛ぶ。
お……おぉ!明かりだ!
高度を上げると街明かりにしては明る過ぎるが、文明の光らしき物が見えてきた。
いや、でも、明らかに景色が見たことなさすぎる。
「本当に異世界なの?」
隠蔽の魔法を自分に使って、明かりの方へと近づいて行くとヒューマンの群れがいた。
みんなスーツに近い格好をしていて、異世界なのに此方にある服と同じ物を着ている。
そういえば全裸だったと、適当に見つけたヒューマンの格好をそのまま作り出して着てから地上に降りた。
「スカートもあるのね、でもデザインや色が全く違うわ」
それに、使われてる文字らしき記号も見たことない物だ。
ヒューマン達の見た目は、殆どが黒髪黒目で平たい顔をしている。
異世界人は彫りが浅いのかしら?
「縺雁ァ峨&繧薙?ゆス輔@縺ヲ繧九s縺ァ縺吶°?」
「あらあら、現地人の言葉も違うのね」
「縺医▲縲√o縺九s縺ュ縺」
話し掛けてきたのはヒューマンのオスだった。
年は20代かしら、ヒューマンにしては大人ね。
言葉は分からないけど、意思はあるはずよね……意思疎通の魔法とか上手く行くかしら。
「あ、あぁー、分かりますか?」
「日本語!お姉さん、日本語話せるのか!」
「日本語?あっ、あぁー、少し喋れます」
日本語ということは、日本という国か世界って事だろう。
それにしても、このヒューマンは衛兵か何かだろうか。
「お姉さん暇なら、飲みいかない?」
「飲み?」
「あー、ドリンク!あとフード!奢る、プレゼント!」
「ご飯……」
未知のウイルスとか環境が合わないかもと思ったけど、元の世界に近いのね。
次はご飯も調査しなきゃ!
決してお腹空いてる訳じゃないわ!