ある日の事だった。
バイトの帰り、ビリっと首筋に痛みが走った。
何だろう、私が痛いとは珍しいこともあるもんだと振り返ると何か男の人がいた。
「えっ、な、えいっ」
「えぇ、こわ〜」
何やら変な機械、携帯みたいなのを押し付けられる。
それは胸に当たるとジジジという音と一緒に赤ん坊が作る程度の雷魔法みたいな電流を放っていた。
えぇ、知らん人に何かイタズラされてる。
「な、なんで!乾電池だからか、クソが!」
「何の話?あっ、逃げた」
何やら慌てた様子で男の人は逃げ出した。
どういうことだってばよ。
またある日の事だった。
せっかく分別したゴミが荒らされ、由貴の代わりにアパートの大家さんから苦情の電話を対応する羽目になった。
どうして居ないときに電話が掛かってくるの、寝てたのにさ。
他の日の事だった。
キャバクラでお客さんが暴れたりした。
というのも、私に抱き着いて喚き散らしてそのままエナジードレインでぐったりしたところを摘み出されたのだ。
よく見たら、イタズラしてきた男の人であった。
何か最近騒がしいなと思ってたある日、私と由貴がいない間に借りていたアパートに空き巣が入った。
嘘やん、色んなもん盗まれてる。
「なんてこと……ストーカーだわ」
「すとーかー?」
「なんか思い当たる事ない?なんでか、あんたの私物ばかりないんだけど!」
言われるがままに洗い浚い最近の事を話すと、どうやらよく来るキャバクラのお客さんはストーカーらしい。
そういえば、よくスマホの方に連絡来るし、脅迫とかもされてたな。
まぁ、脆弱なヒューマンが怖がらせようとしてるのを微笑ましく見てたんだが、子供のイタズラに目くじらを立ててもね……あっ、由貴からしたら怖いのか。
「引っ越すしかないか……なんか保険とかでお金貰えるし」
「えっ、引っ越し……」
えっ、面倒くさい。
あれよあれよと引っ越したのだが、今度はお隣さんが良くインターホンを押してくるようになった。
大した用事がある訳ではないのだが、家の中に入ろうとしてくる。
しかも何故か由貴がいないタイミングでだ。
「これは……」
最近は居酒屋バイトに出待ちするお客さんも増えてきた。
後ろから付いてくるので直接お話して、次いでに精気をエナジードレインで奪って立てなくしてやるのだが、それでも後を絶たない。
所謂、ストーカーという奴が滅茶苦茶増えた。
なんか芸能人にならないかとかスカウトとやらをしてくる人もいる、女衒の一種だろうか。
「目立ってるかもしれない」
最近、知ってる状況になってきたなと勘付き始めた。
そう、私が人間の街から追い出される時の状況に似ている。
サキュバスの魅了のせいで町の住民が可笑しくなって、女どもが排斥に動き、サキュバスを炙り出そうと町中の女がたくさん捕まり、拷問に掛けられる状況にすごく似ている。
性欲を向けている相手を特定するサーチ魔法を使うと、常時10名ほどが此方を監視している。
えぇ、性欲の対象として見られているということだから憲兵ではないと思うが、だとしたら完全に魅了されてる人間の仕業だ。
また引っ越しになりそう、困る。
キャバクラは稼げるのに、辞めたくない。
引っ越しもしたくないから、空き巣に入られたくない。
取り敢えずサーチした奴らは遠隔で昏倒させて、淫夢を見せるとして、マジでどうしよう。
「本当どうしよ」
「そーですねー、やっぱり人に会わないとかが良いんじゃないんですかねー」
「やっぱりそうだよね……んっ?」
「んっ?」
1人、部屋の中で外にいるストーカー達をどうしようか悩んでいたら、私の横から女の声が聞こえた。
えっ、と思って横を見れば真っ白い髪に真っ白い肌、下半身が透明の女が立っている。
っていうか、レイスの友人であるアリスンさんだった。
「どうも~お久しぶりです〜」
「え、何でいるの……」
「話せば長くなるんですが、リンデル様に飛ばされました」
「全然長くないね」
リンデル様とは、四天王であるエルフのリンデル様である。
よく実験で部下を殺してしまうリンデル様である。
私を異世界転生トラックなる物で異世界に送り飛ばした、エルフである。
「アリスンさんも飛ばされたんですか?」
「ですねぇ〜物理とか効かない系女子なので〜」
「あぁ、なるほど……」
「近々、来る予定でして〜」
あぁ、なるほど……なんだって!?
嘘だろお前とアリスンさんの顔を見るが、相変わらず笑顔のまま、何も考えてることが分からない、怖い。
「な、なんで……」
「やー、魔王様が国家プロジェクトにしましたので」
「嘘じゃん」
「本当ですよ~亡命したいらしいですよ、異世界に」
魔王様の事を思い浮かべて、なんていうかやりかねない人だなと思った。
国なんか放り捨てたいって、いつも言ってたしな。
「まぁ、じゃあ、なんというか、お互い」
「逃がしませんよ。貴重な現地戦力なんですから」
「ひぃ!アリスンさん、真顔は怖い!」
急に笑顔じゃなくなるのやめてよ、やめて。
まさかの再会を果たした俺は深夜に公園に来ていた。
途中、何やらコートに全裸の男に遭遇したが行き掛けの駄賃として精気を奪い、アリスンさんが精神力を奪った。
私に触れた途端に膝から崩れ落ち、精神力の低下で生きる希望を失って死にたいとしか考えられない状態で動かなくなったが、時間が解決してくれるだろう。
いや、もう、その格好の時点で社会的には立ち直れなさそうだけどね。
「それで、こうすれば良いんですか?」
「あっ、そこ曲がってますね。そうそう、えっ?あ〜、こう、空間的なのを固定したくて」
「専門外でよく分かんない」
さて、なんで公園に来たかというと魔法陣を描くためだった。
物理的な肉体のないアリスンさんは、魔力と肉体のある相手を見つけて描かせる仕事を任されていた。
それで現地の魔力を辿ってみて、そして保有してそうな人物を探してたら……私に出会ったそうだ。
でしょうね、こっちでダントツですからね。
必然である、生きてる前提の作戦だった。
そして、爆発四散しないための入口作成ということで魔法陣を書き上げた。
「どうですか?」
「下手くそですね、まぁいいでしょう」
お前がやれよ、とは言えない。
肉体のないレイスの癖に、私より役立たずの癖に、でも言ったら仲が悪くなるから言わない。
「何か?」
「いえ、この後どうするのかなと」
「あー、魔力を注いでもらって……私、やっちゃいますね」
おい待て、あのヤバい上司を呼ぶんじゃねぇ!
今呼ばれると鉢合わせするだろ!
とか思ってたら魔法陣がペガーっと光って、魔法陣の上に人が現れる。
すっごいチビの人影、血生臭さが漂い、見慣れた血だらけの白衣。
金髪碧眼の長耳、エルフのリンデル様が現れた。
「うん?おぉ、拷問中に何かと思えばアリスンじゃん」
「うわ~、絶対忘れてましたよね。恨みますよ」
「やめてよ、レイスの呪いはねちっこいんだから」
「……呪いますね」
「えぇ……なんで……」
ねちっこいとか言うからでは?
魔法陣に注がれた魔力からして本人?本霊?的には疲れただろうにさ。
エルフってデリカシーないからクソだね。
「というか、ナスターシャ生きてたのか」
「うわぁ、人の心とかないんですか?」
「観測出来たことがないが難しい命題だな」
「そんな哲学的なこと聞いてないです」
なんか感性がズレてる上司が異世界からやって来るのであった。
絶対この先苦労しそう。
「取り敢えず、異世界のご飯食べたいな。案内して」
「早速、苦労しそう……ラーメン食べるか」
「おい、なんだその道具。見せろ」
「あー、スマホ取らないでー」