大金を持って移動していると、明らかに尾行されていた。
下手な備考で、歩く音、漏れる魔力、心臓音、こちらに対しての視線、認識など、消さなきゃいけないものが消せてない。
まるで子供の備考のようだった。
「ちょっと良いかい」
「ダメだ」
「…………」
まるで立ち塞がるかのように、知らないおじさんが私達の前に現れて声を掛けてくる。
魔王様は、それはそれは綺麗に無視した。
流石に面食らったおじさんも、待てよと魔王様を捕まえようとするが、ピタッと動けなくなった。
溢れ出る魔力で魔王様が身体を覆ったからだ。
土の中に埋めてるような物だと思ってほしい。
「ぬっ、な、なんだこれ!?」
「私に挑もうとは、新鮮」
「まぁ、知らないですからね」
普通なら目も合わせないくらい危険人物なんだが、そんなのはこっちの人は関係ないのも事実。
しかし、何の用だったんだろ。
「釣れたな、恐らくこの辺のゴロツキだろ」
「賭場で見張ってたな」
えっ、と二人を見ると何やら納得している。
まったく気付かなかった。
尾行は気付いてたけど、そんな前からなんて。
「これもリンデル様の考えですか?」
「賭場の近くに大抵はゴロツキがいるからな、大金の資金洗浄に使おうと思っておった」
「なんか難しいこと言ってる」
立ったまま動けなくなったおじさんをリンデル様がペタペタ触りまくる。
魔法でのあれやこれやをしているのだ。
うーん、流石エルフ。
魔法の種類の多さで言えば、扱える数がすごい。
「よし、お前の拠点まで案内せよ」
「分かりました」
おじさんは感情の籠もってない返事をし、どこかへと歩き出す。
完全に洗脳されている。
おじさんは、ヤクザという職業の人だった。
事務所に到着するなり制圧されて、一人目の拷問で事務所の人間が教えてくれた。
リンデル様が腕を切り落とした、そんな早い段階で親父さんとやらは泣き喚いていた。
すぐに魔法で治したけどね。
「よし、後はアリスン待ちだな」
「何しようとしてるんですか?」
「アリスンには死にたての死体から身分書を見繕って貰っておる。これで戸籍はなんとかなる。ゴロツキ共は借家なんぞ住めんから家も持っておるだろ。これで当面はお前の所に厄介にならずに済む予定だ」
と言うことで、ヤクザさん達からはマンションの一室を手に入れ、戸籍はアリスンさん待ちという事になった。
なるほどな、私も死にたての人を捕食して成り代われば手っ取り早かったなぁ。
とはいえ、こうして私は御役御免になったということで帰ろうと思う。
「帰ろうと思うんで離してもらっていいですかね」
「お前が普通に生活できる訳ないだろ」
「痛たたた!ないからって掴む、痛ったー!強い、強い強い!」
「おのれ、脂肪の塊が!」
肉体の形、変えればいいでしょ。
あっ、エルフだから出来ないのか。
神経切らないと痛いじゃないですか!
おっぱいを掴むな!
「まぁいい、生活基盤はこれで用意出来た。準備が出来次第、連絡する」
「連絡って、今度は何するんですか?」
「表社会では目立ち過ぎるからな。毎度競馬で稼ぐ訳にもいかん。だが、この国は戸籍というのはあるがそれさえクリアすれば、その戸籍が本人かどうかは余程のことがない限り調べんようだ」
そうなのだろうか、戸籍制度自体が私はよく分かってないけど。
確かに免許も本物かどうかは最初に警察官に調べられた時くらいで、そもそも本物か疑われたこと無いけど。
「インターネットの世界なら、スマホ片手に稼ぐことが出来る。最もそれが登録されてる本人か確認しようがないがな」
「インターネットさんを騙すんですか……酷い……」
「酷いのはお前の頭だ。インターネットは特定の人物名じゃない」
「えっ?」
どうやら私は酷い勘違いをしていたようだった。
数日後、誰かの戸籍を手に入れた魔王様達。
アリスンさんが霊体から記憶を覗き見て、独り身の誰とも関わり合いのない誰かの免許証や名前を手に入れた。
住む場所はヤクザから奪ったマンション、契約関係などは洗脳や変身魔法でどうにかし、拠点を手に入れた。
引っ越しすら戸籍の問題が発生するとは思わなかったが、その戸籍も所詮は文字での証明でしかない。
もしバレるとしたら、その人物を知ってる人間くらいだ。
「はーい、呼ばれたので来ました」
「よく来た!」
マンションの一室で、リンデル様がたくさんのモニターに囲まれて何やらカチカチしていた。
パソコンって奴だ、なんでこんなにあるんだ。
「さて、当面の生活は何とかなりそうなので方針としては此方の素性が分からない方法で稼いでいく。株式投資、債券、不動産、あと配信だ」
「なるほ……今、一個変なの入ってましたよね」
「VTuberなるものならば、顔出しせずに金が稼げそうだ」
「えっ、聞こえてない?スルーします?」
「顔出ししないのは素晴らしい。我々の見た目が変わらない長命種の問題が解決する」
「いや、そんなこと聞いてないし、答えてほしいんですけど」
「うるさいよ」
何だ、聞こえてるじゃないか。
それでこのモニターなのか、うわ、ゼロがいっぱいある。
「当面の資金は競馬の金がある。ヤクザ共のアパートを何個か買い取ってな、架空の住民から家賃を取ってることになってる。すぐには使えないが綺麗な金だ」
「あくどい笑み浮かべてますよ、このエルフ」
「それに見よ、魔王様の魔法で数分先まで未来が見えるから株も儲かってるぞ」
「可哀想過ぎる、魔法が無法過ぎ」
いや、確かに魔王様って未来視しながら戦ったりして勇者の暗殺防いでたけど、それを株式投資とやらに応用するのはどうだろ。
メガネ掛けた黒髪ロングの魔王様が、猫背になりながらカチカチして数万単位で稼いでる。
どうでもいいけど、その赤いジャージは何なんですか?
ダサくないですか?
「ナスターシャ、余は天職を見つけたぞ」
「プログラミングも楽しいぞ、この世界は飽きが来ないな」
「楽しそうで何よりです、ところでアリスンさんは」
その言葉と同時に、ブォンと言う音ともにモニターに電源が着く。
そのモニターにはアリスンさんそっくりな、真っ白い髪に真っ白い肌、真っ白なワンピースに下半身が透けてる女が現れる。
『ここにいますよ』
「アリスンさんですか?えー、なにこれ」
『なんかレイスってこの世界で言うところの電磁波とか電子に近いみたいで機械に干渉できるみたいなんですよね、リンデル様の受け売りですけど』
「結局の所、カメラが認識した物を電子信号として送ってるからな。肉体がないアリスンでも、委託で作ったこのモデルを動かせるのだ」
本当にこの人達、配信とかやろうとしてる。
待ってよ、じゃあ呼ばれたのってもしかして。
「察したようだな、お前にはVTuberになってもらう。何、設定は前の世界のそのままでいいだろ」
「嫌ですよ。やりたくない」
「お前のエロさは売れる!」
「そんな評価嬉しくない。もう魔法があれば大体できるからすぐに生活整えられますよ」
「ぶっちゃけやろうと思えばこの世界3日くらいで支配下に置けそうだけど、管理面倒そうだし暇つぶしにいいかなって」
ですよね、魔王様が本気出したら魔法がない世界だから認識とか全人類改変したりできそう。
絶対、内政ばかりが面倒になって魔王辞めるって言い始めそうだけど。
「余は魔王を辞めるぞ。魔王を辞めて、起業する!」
「魔王様、結局働く事を辞めれてないです」
「働きたくないが、仕事してないと落ち着かない」
「魔王様、多分病気ですよ、それ」
なんだかんだ、起業することになった。