現代に来たサキュバスさん   作:nyasu

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免許の偽造は良くないんだ、見つかるとマズイ

ナンパされながら逃げるように移動してたら、道しかないところに来てしまった。

建物もない、街灯と時おり通り過ぎるトラック、ちっさいトラック、鉄の馬、ほっそい鉄の馬。

なんで地面が黒いの、しかも硬い、後なんか記号が書いてあるし魔法陣?

私、長寿族だから文明の発展速度についてけない。

そもそも異世界だけどここ。

 

四方八方から人が来る。

祭りか戦争かって、言うくらい人が多い。

でも、青い光と変な音がしてる間だけしか移動しないし、赤いランプがついてるときは止まって待っている。

そして止まってる間はトラックと小さいトラックが交互に行き交うのだ。

うーん、規則的。こういうの賢い人とか魔法好きな人は楽しいかも。

あの人達、規則性とか大好きだからなぁ。

 

「っていうかどこ〜お家帰りたいよ〜」

 

この世界にも犬がいるのか、広場に犬の銅像があった。

きっと獣人族の英雄か何かで、偉業を讃えられてるんだ。

みんな、ハチって言ってるからハチって名前のすごいヤツ。

小さいけど、実物はデッカいんだろうなぁ。

 

「ねね、お姉さん。今、暇?」

「ナンパはもう疲れたよ〜」

「あー、ナンパされてたの?だよね~、これあげるよ。だから話だけでも聞いてみない?」

 

話し掛けてきたのは若い男というよりは三十路に差し掛かった、若者と中年の境目のような年齢の男だ。

まぁ、人間にしては中年みたいな。

そんな男が、何やら女の子の絵が書かれた金属の瓶をくれた。

なにこれ、でも温かい……えっ、いい人だ。

 

「これ何?」

「ゲームのキャラだよ知らない?ハマってんだよねー」

「これは馬の獣人なの?半人前ね、人っぽさが抜けてない」

 

獣人は獣化出来て一人前。人間のように生まれるが自在に獣の特徴を出せるようになって大人になっていく。

ハチのように完全な獣になれる存在になってから一人前だ。

まぁ、殆どが獣化していくと理性を失うので完全に獣になってる状態で理性があるのは珍しい。

これは……馬の獣人かな?

 

「面白いこと言うね〜、へへへ獣人ね。一昔前の人みたいだ、いや外国の人だからか?」

「どうして、外国人って分かるの?」

「そりゃ、顔とか見れば分かんのよ。いや、ハーフとかならゴメンだけど」

「そうなんだ、すごいねー」

 

ちょっとだけ覗いてみるか。なんか交尾したいだけのオスの感じじゃない。

あと、これが缶という物でコーヒーが入ってるとわかった。

コーヒーってなんだろう。

 

『後は国籍と歳だけだな、顔は良し、抜けてるとこも良い。ただ警戒心がねぇ、まずはキャバから慣れさせるか、キャバでも本命は固い。後はヘルスでも風呂でも沈めればいい』

 

此方を見ながら何なら考えている男。

分からない言葉ばかりだが、欲情しているのは雰囲気で分かる。

サキュバスはそういうのに詳しいんだ。

 

「お姉さんさ、日払いのバイトとか興味ない?キャバクラとかやったことある?」

「それは、何の仕事なの?」

「へへへ、面白い冗談だなぁ。何か身分証明出来るものとかってあんのかい?」

 

身分証明、知人や縁者の紹介状の事だろうか。

旅人がよく持ってるが、生憎異世界には知り合いがいない。

心を読めばどんなのを欲しがってるのかイメージは湧く。

ふむふむ、こんな感じかな?

 

「メンキョならあるわよ」

「免許ね。ちょっと見せて貰える……あっ、なんだこりゃ!?」

 

渡した免許を手に持ち、こちらの顔と免許を交互に見て驚く男。

男はスボンから何やら折りたたまれた革製品を取り出すと、その中からメンキョと同じ物体を取り出す。

私がイメージして作り出したメンキョの元になった物体だろう。

 

「なんで俺の免許が2つあるんだ、こいつはどういうことだ」

「あっ……あぁ、なるほど」

 

心を読み、どうやら勘違いしていたと理解してメンキョの顔を自分の物に変える。

そもそも、このメンキョは私の細胞を切り離して作ったので一部だから変化させるのも簡単だ。

身分証明なんだから、名前と見た目が分かるようにしてないとダメだったな。

異世界人っぽい名前……

 

「免許が、ひぃ!?」

 

ポロッと男の手から落ちる免許、落とした男はそのまま腰から地面に落ちた。

落ちた免許は表面を震わせて私の見た目の写真と奈須田詩愛(なすたしあ)っと表記された物に変わっていた。

相手の思考からナスターシャという名前を当て字というので、この国風に直したのだ。

 

「な、なん――」

「静かに……今まで私と出会った記憶を消せ」

「……はい」

 

流石にマズイかと思って魔法で洗脳し、記憶を無くす。

良かった、無意識シチュ用に覚えておいて。

まさか、エロ系の魔法が役立つとは思わなかった。

 

去っていくおじさん、私は身分証明を手に入れたのだが気付いたことがあった。

この世界の常識が、全くわからない!

異文化への理解が必要だ。

 

 

 

とは言ったものの、取っ掛かりがないのは確かであった。

ヒューマンは魔力に対する耐性が低いのか、すぐにサキュバスの色香にやられて誘引されてくる。

大抵の場合は無視すれば問題ないのだが、中には実力行使で連れ込み宿に連れて行こうとするものもいる。

いや、サキュバスに触れるとか生気を吸われても文句言えないが?

 

「おい!いいから……あぅ……」

「おい、どうしたんだよ」

「な、なんか……力が……」

「おいふざけんなって……えっ?おい、やめろよ」

 

今も二の腕を掴んだまま座り込んでしまったヒューマンがいる。

大丈夫、三日三晩ほど食事を取ってなかった程度の衰弱である。

多少の魔力はこれで回復した。

 

「そこ!何してるんだ、離れなさい!」

「やべ、あれ、俺らじゃね」

「待て!」

「何もしてねぇーよ!」

 

今後のことを考えていたら、同じ服を着たヒューマンが二人来る。

同じ服、それは所属を表していることが多い。

同じ物を仕立てられるというのは、それなりの地位や財力を持っているということだ。

様子からして憲兵のようなものだろうか。

 

「大丈夫?怖かったわね」

「通報のあった少女を確保しました。はい、おそらくこの子だと……了解」

 

二人組は男女だった。

片方は黒い筒に話しかけ、そこから声が聞こえる。

通信する道具……だが、魔力を感じない。

ドワーフのカラクリ仕掛けは水蒸気や静電気を用いる。

それに近いものだろうか。

 

抵抗しても仕方ないので、交番とやらに連れてかれる。

質問をされていることから、何か犯罪を犯したと思われているのかと思ったが補導はするが親御さんを呼べば解決すると説明された。

補導とか言葉の意味は分からんが、一時的に保護するってことらしい。

何故か怪訝な顔をされた。

 

「身元が分かるものですか?……あっ」

 

そう言って自信満々に作った免許を渡してみる。

渡されたヒューマンの女は最初、安堵したような表情をしたが今度は首を傾げた。

ヤバい、また何か偽装に失敗があったのか?

 

「あなた、これ偽造よね」

「えっ!?どうして分かったんですか」

「本当に偽造だったんだ……初めて見た」

「ゔぇ!?」

 

ど、どういう事だ。

ハメられた、確信なんてなかったんだ!

なんで分かったんだ、この国ではよく偽造されるの!?

 

『番号がおかしかったから気づいたけど、よく出来てる。これは先輩に相談しないと大事だわ』

 

なんか、思考を読んだらヤバそうであった。

ヒューマンの法は知らんが、だいたい広場で吊るされて拷問の末に死刑だ。

これはまずい、憲兵殺しもマズすぎる。

 

「わ、忘れろー!」

「……はい」

「おい、どうかしたか?」

「あっ、あっ、忘れろー!」

 

咄嗟にヒューマン二人の記憶を少し前まで消し飛ばした。

ふぅ……免許とやらは見せてはいけないようだった。

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