夢を見ていた。
ヒューマン、此方では人間の沢城由貴という女の子の記憶だ。
高速で記憶の想起をさせていたので、肉体が一部負荷に耐えられなくて壊れたりしたけど、私の肉体で治したから誤差ということで許して欲しい。
痛かったことも、起きたら忘れるだろうから。
それにしても、この世界には魔法がなかった。
魔力に頼らない技術、科学と言うのが発展しており、ドワーフが覇権を取った世界かと言うような有り様だった。
個人が圧倒的なパワーを持ってないから、定期的に文明破壊が起きない故に発展しているらしい。
核兵器だっけ?あんなの目じゃないレベルで魔法はヤバいからな。
大体のことは分かったのだが、やはり昔の事や最近のマクロ経済学とか基礎の知識は忘れてるし、その応用など聞いても分からなかった。
社会的な常識と私の立場しか分からんかった。
私は不法滞在している外国人という立場だった。
戸籍というのを、この国では管理しているらしく私にはそれがない。
それがないと社会的なサービスを受けられない。
そして、そのためには役所というのに行き手続きしないといけない。
手続きにはパソコンなるもので調べたら何ヶ月も掛かるらしい。
なので、戸籍を作ることにした。
ふと、目が覚めると胸に違和感を覚える。
なんだか長い夢を見ていたような気もする。
「ッ!?痛たたたた」
寝惚けていた頭もそれどころじゃない、なんか全身が筋肉痛何だが!
いや、どういうこと!クラブで踊っただけだが。
「どうなって……な、なんじゃこりゃー!」
私の眼の前には、スラリとしたキレイな足があった。
まず、ムダ毛が全身脱毛したかのようになく、シミもない真っ白な肌。
ここまで白いと病的ですらある。
そして、脂肪のないほぼ筋肉の足。
足だけではない、バキバキの腹筋、二の腕、柔らかいのは尻と胸。
なお、パンツはギチギチに締め付けるし胸もブラジャーで押し潰されて痛い。
速攻、ノーブラノーパンになった。
痴女だ、死にたい。
「何がどうなって……」
あれ、なんで漫喫になんて泊まってるんだっけ?
と、頭に霞掛かって何かを思い出そうとしても思い出せない。
何を思い出そうとしたんだろうか?
『気にしないで』
いや、別にいいか。
そんなことより、下着をどうにかしないと。
今日が日曜日で良かった。
学校だったら寝坊確定だろ。
何にもやることがない日で良かった。
『市役所に行かないと』
いや、そうだった。
市役所に行くの忘れてた。
取り敢えず、下着買って市役所だな。
ごめん店員さん、ブラとパンツは捨てといてくれ。
市役所。
それは社会的サービスの手続きをしてくれる施設。
ユキの身体に寄生して、意識を憑依させることで誘導してやってきたのだが日曜日は休みらしい。
悲しい、ユキにはお帰り頂こう。
何やら叫びながら走り去っていくユキを見ながら、新たな寄生先である市役所に植えられてる植物で1日を過ごす。
あっという間に翌日、人がやってきたので手当たり次第に憑依した。
うんうん、最初から憑依しとけば楽だったかもしれない。
エロ系の魔法の中でも、便利だよな。
なお、その間は本体は無防備になる模様。
市役所職員を転々とし、戸籍を管理する人間に憑依した。
さぁ、私をイメージして戸籍を作るのだ。
『戸籍、作って』
「あぁ!何なんだよもぉ、書類がないよぉ!」
視線が私に憑依されたおじさんに集まる。
しまった、なにか無茶な命令をして精神的な負荷が大きかったようだ。
えっ、そんなに偽造するの難しいの?
やらなくちゃいけないのに、やることができなくて焦っている。
そういう心理状況になってるけど。
「あの、山口さん大丈夫ですか?どうしました?」
「書類が、作らなきゃいけないのに書類が……書類がない」
「就籍許可審判書の謄本が一緒に送付されてなかったんですか?」
「あっ、いや、わた、わっ、わわわ」
あっ、と声を出す間もなく憑依していたおじさんが心理的負荷に耐えられず泡を吹いて気絶した。
すまない、なにか無茶を頼んだようだ。
次は声掛けてくれた女の子にするよ。
「きゃぁぁぁ!?大丈夫ですか!山口さん、就籍許可審判書の謄本はありますよ」
「ちょ、田中くん!それどころじゃないでしょ、救急車呼んで!」
「でも、手続き!手続きぃぃぃ!」
「田中くん!?」
バタッ、と倒れてしまう田中とかいう名前の女の子。
ごめんなさい、私がよく分からないばっかりに何か心理的に負荷のかかる命令をしてしまったみたいで肉体と精神が耐えきれなくなって倒れてしまったみたいだ。
何か必要な物がないのに、やれって言ってるからだろう。
命綱なしに飛び降りろって言われて死の恐怖が勝ったときとかこういう感じのこととかあったし。
まぁ、見本になるのはあるので複製することは可能だ。
就籍届?現住所……他に出してる誰かの住所でいいだろ。
一応、誰かの手続きに必要な書類の原本は分解しておこう。
誰かは戸籍が手に入らないけど、代わりに私の戸籍は出来る……はず。
ごめんよ、寄生しないと生きていけないサキュバスなんだ、許して。
よし、後はなんかやってくれるだろ。
最優先でみんな作るようにしたし、なんか騒いでるけど落ち着いたら大丈夫でしょ。
市役所でやれることが終わったらまずは不動産に行く。
人が行き交うスクランブル交差点とやら近くの不動産だ。
「いらっしゃいませ〜」
「あっ、ど、どうも……」
「お客様、本日はどのようなご用件でございますでしょうか?」
「えっ、い、家を探してて。初めてなので、借りるのに必要なものとか物件とか見たくて……」
「なるほどですね、女性の一人暮らしですと……あっ、失礼しました。どうぞお座りください」
不動産にやってきた私を出迎えてくれた不動産の人は誘導するように机まで案内してくれた。
しばらく待ってると、何やらプリントをたくさん持っている。
物件だ、値段なども書いてある。
「今ですとパソコンで条件検索も出来ますが、オススメはこうしてプリントしてたりするんですよ。まずご予算や条件などはありますでしょうか」
「な、なるべく安ければ在宅ワークなので」
「なるほど、因みに差し支えなければご職業を聞いても?」
「それなら、む……」
無職って、家とか借りれるんだろうか。
あれ、言わないほうがいいのか?
「む?」
「む、無人機に搭載するシステムとか、なんか、説明が難しいですけど、あの、はい」
「システムエンジニアということでしょうか?」
「そんな感じです」
「そうですね……そうなりますと、まず身分証明書と収入の証明書が必要ですね。会社員の方でしたら源泉徴収票になります。フリーランスですと、納税を証明できる物なら収入を審査します」
また免許だ!免許ないと、あと源泉徴収って何!?
そんな知識、私は知らないぞ。
「あと此方の入居申込書に記入も必要ですね」
……名前、生年月日、現住所、電話番号、勤務先の情報、業種、年収、勤続年数、なんかいっぱい聞かれてる。
お金渡してどうぞじゃないの?
そもそも、お金も持ってないよ。
「どうしました?」
「また来ます」
「えっ?」
「透明化」
「……ハッ!?えっ、えぇ、今!」
「人が消えた!?」
「ですよね!いましたよね!えっ、えぇ!」
ダメだ、私にはまだ不動産は早かった。
まずは戸籍、そして住民票、それから免許を作って、銀行口座を開設。
そして働いてることを証明したら不動産を……どうして生きるだけでこんなに大変なの?
異世界はルールだらけだよ、元の世界はもっと適当だったのに。
やはり、権力者に擦り寄るしかないんだろうか。
この日本にいる魔王的な人にアピールするしか……戦闘力とかいるのか?
この国平和だし、戦える人間とかいらないのでは?
「もうダメだ、おしまいだ」
「そして私の家に来たって訳?」
「しばらく泊めてください」
残す手段がなかった私は、道でバッタリ会った昨日の由貴の家に来ていた。
だって読み取った記憶から行ける場所、ここなんだもん。
大丈夫、洗脳すればなんとかなる。
「そもそも……あれ、幼馴染だよね?」
「そうだよ、幼馴染でしょ!思い出して」
「うーん、昨日会わなかった?っていうか、もうダメってどういう」
「細かいこと気にしちゃダメだよ、しばらく居ていいって言って」
「まぁ、そのうち思い出すか。良いけどさ、事情は説明してよね」
なんとか今日の宿を確保した。
偽りの記憶で何とか誤魔化せたか。
「聞いてよ、なんでか胸とか大きくなってさぁ」
「ぴぃ!?」
お、覚えてないし誤魔化せたよね?