戸籍を作ることは出来たのだが、問題が発生した。
今の私は住所不定無職、住居を借りて住民票を作りたいが作るためには免許がいる。
身分証明のための免許は住民票がいる。
しかし、住民票を得るためには免許がいる。
ループしてる、何だこの国は!面倒くさいなぁ!
突然、無から生まれたりする場合を想定してないのか。
ひょっこり行方不明の人が出てきたりとか、異世界人が来るかもしれないのになぁ。
とは言えだ、魔法も使えない現地人を騙すのは簡単だ。
役所で住民票を取得して、住所の部分だけ由貴の家の住所に変更。
免許なるものは一発試験というのがあるらしい。
費用は3万円……金、金、金!お金が欲しい、うごごご。
「ちゃんと返してよね、まったく」
「ありがとうございます」
由貴からお金を借りて免許を取りに最寄りの試験場に行く。
スマホに聞いたら府中の警視庁とやららしい。
「ここが警視庁府中運転免許試験場、まさか憲兵がやってるなんて」
内心ビクビクしながら手続きをする。
お、女の人が受付だ……誘惑されないから安心する反面、友好的でない確率が高いからなぁ。
と、思ったのだが手続きは普通にしてくれた。
合格率が云々、やめたほうがいい的なの言われたけど。
いや、死活問題なんだが!やるしかないんだが!
どうやら1日では無理らしく学科試験とか適性検査とかをするらしい。
一日テストと座学、周りの人間の思考や試験を管理する人の記憶などを読み取り達成する。
本当はSM用の魔法だったりするのだが、覚えていてよかった。
次の日、また来るように言われて予約した時間に講習を受ける。
路上講習というやつだ、トラックに似た金属の馬車を自分で運転する。
隣りに座った教官の経験がなければ運転出来なかった。
なお、男性だったので胸を揉みたいなどのノイズが邪魔ではあった。
数日の路上講習の後は、一発試験。
パソコンでのテストと実技試験だが、記憶を改竄することで誤魔化した。
ふぅ……機械には洗脳は使えないし試験は普通に難しいで焦ったわ。
しかし、2週間かけて運転免許を手に入れた。
これで身分証明関係が何とかなる。
早速、手に入った運転免許を持って銀行口座を作ることにした。
どうして、この世界にはギルドみたいな仕事をくれる場所がないのかしら。
まぁいいわ、これで銀行口座が作れる。
「口座の開設には本人確認の出来るものと、印鑑が必要になります」
「い、印鑑って」
「えっ?」
「えっ?」
い、印鑑って何だろう。
何言ってんだコイツって顔で見られてる。
銀行に来た私は、銀行員のお姉さんにすごい冷ややかな目を向けられていた。
ど、どうしよ!そうだ、スマホ!スマホが……持ってないよ!
盗んだスマホはなんかあるとヤバいと思って捨てちゃったよ!
「あの、実印でなくてもですね浸透印でなければ、あぁ浸透印って言うのはチャチハタなどのハンコでして」
「印鑑……実印?えっ、浸透印とハンコって……」
「ハァ……」
「す、すいません」
帰りたい。
深い溜め息を目の前で吐かれている。
しんどい、もうやだ、恥ずかしい。思考を読み取って作るんだ!
「印鑑はありますぅ!」
「えっ?」
「……あ、ありましゅ」
自分の身体を変形して切り離した印鑑を取り出し、特に読まずに押した。
よし、手続きヨシッ!
ちょっと待たされたけど銀行口座も出来た。
やっと、就職である。
「申し訳ありませんが、日を改めて」
「なんでぇ……」
早速、運転免許と銀行口座の証明書類。
なんか今は紙じゃなくて電子らしいから、持ってきた。
それを使ってカフェに就活である。
「まず、今はその募集はなくてですね」
「募集……」
「あと、当店は入社という形で研修もありまして」
「……すいません、帰ります」
よくわからないけど、バイトを雇う気がないのはわかった。
お金がないとスマホが買えないから、バイトも足で探すしかない。
はぁ……と深い溜め息を吐きながらカフェを出たところで声を掛けられた。
「ねぇ、お姉さん。今暇、これから予定あるの」
「何かしら、忙しいんだけど」
「仕事探してんの?聞こえちゃってさ、悩み聞こうか?ランチする、いやしたいです!お願いします」
声を掛けてきたのは年若い男だ。
髪は茶色に染めてるのか、何かの儀礼的な装飾なのかピアスやネックレスがジャラジャラとしている。
暗殺者ではないはずだが、何故か足元を隠すように足首までダボダボのズボンを履いている。
女の子と違って手玉に取りやすいから怖くないけど、ナンパ面倒だな。
いや待てよ。
「ご飯」
「えっ?」
「ご馳走してくれるなら。ご飯だけだからね」
「いいの、マジ!やった!あっ、でも、どこ行こう……」
「そこがいいわ!」
いい匂いがしている店がある。
高価買取の看板、その下にはステーキと書いてあった。
知ってる、ステーキは焼いた肉だ。
ダメだろうからまずは高いところを希望して、それからグレードを下げてハンバーガーか牛丼にしてやろう。
交渉は無理なことからするのだ、私は交渉もできるのだ。
決して、銀行員さんや店員さんに翻弄されたのは間違いである。
「あー、まぁ、いけるか」
「えっ?」
「よし、行こうよ」
「えっ?」
あ、あれ?えっ、金持ちなのか?
行こうと言われて店に入っていく。
そして、案内された席でメニューを見ながら何をするか聞かれたので同じ奴を頼んだ。
えっ、トイレに行って支払いしないとかない?大丈夫なの?
「あっ、お、お金……」
「えっ?」
「高くない?大丈夫?」
「えっ、あっ、まぁ、大丈夫っす!」
注文後、私達の目の前にはステーキが出てきた。
ドンと置かれる、手の平サイズのステーキ。
鉄板だ!しかもジューって!ナイフもスッて入る!
これは高いやつだ、固くない食べるために育てられた牛だ!
コイツ、金持ちなのか!
「えっと……おっぱい揉む?」
「ブッ!?げほッ……」
「わぁ……だ、大丈夫?」
「だ、大丈夫。冗談きついよ、変なとこ入った」
「だって、思ったより高そうだったから」
減るものではないし、脂肪と水分の塊だから、揉むだけなら別に。
その代わり、多少は生気というか性欲というか魔力を奪わせてもらうけど。
だって、食べるためだけに育てられた肉なのである。
食事用に加工された鉄板、わざわざ加熱処理を施し提供。
これは貴族の食べる食べ物だ。
「まぁ、二人で3000円くらいだから」
「えっ?」
「えっ?」
「安くない?」
えっ、どういうこと?
どうして家賃や免許よりも安いの?
肉だよ、牛肉!労働力を潰してでも得た肉。
それが、住む場所や紙切れの免許よりも安いだと……可笑しいよ!
「や……安くな、安いっす!」
「だよね!おかしいよね!普通は高いよね!」
「は、はい!普通は高いっす!」
二人でこの肉は安すぎる、おかしいと騒いでいたら、いつの間にか店員さんが来ていて咳払いをされた。
すいません、早く食べて帰ります。
急いで食べた牛肉は、柔らかくて美味しかった。
何だか気まずいまま、私達は店を出た。
そういえば聞いてなかったと思ったら、彼の名前は佐藤というらしい。
ユキと同じ大学生で、高等教育を受ける高校を卒業後、専門意識を学ぶ大学に通ってるのだ。
つまり、エリートな軍人みたいなものだ。
さては貴族だな。
「詩愛さんはフリーターなんですね、モデルだと思ってました」
「色々あってね、戸籍とか銀行口座とかやっと作ったんだ」
「……あっ、そうなんだ」
「うん、どしたの?」
何故か佐藤は黙ってしまった。
あっ、戸籍とか銀行口座っていつの間にか持ってるものだから変だっただろうか。
「えっと、仕事探してるんだよね。居酒屋とか聞いてみる、俺のバイト先」
「えっ、本当に?」
「店長次第だけど、シフトが楽になるだろうしワンチャンあるかもだから、なんで……連絡先とか」
「ごめん、スマホ持ってない」
「またまた……マジ?」
スマホを持ってないのは相当驚かれた。
最優先でスマホを手に入れなくてはいけないと思ったよ