佐藤に紹介して貰った居酒屋は焼鳥のチェーン店であった。
佐藤曰く、一番美味しいのはうずらの卵盛り合わせとえびせん、とやららしい。
ちょうど時期的に何人も辞めてしまい、人手不足だったそうだ。
人数は10人くらいいるらしいのだが、実際に働くときは半分ほどの5人でやるそうだ。
ご飯を作るキッチンさんが2人、ホールと呼ばれる注文や片付けがホールというらしい。
「奈須田詩愛(なすたしあ)さんね。よし……採用。今日から行ける?週はどのくらいで」
「毎日が休みなので……」
「フリーターだもんね、空いてるところに入ってもらう形で……調整、します。あれだよ、フリーターは20代迄だよ」
20代までだからね!と店長さんに強調された。
何だ、なにか闇が深そうだな。
でも確かに同じ職場では長命種は浮きがちだ。
っていうか長命種に該当する存在が戦闘や自殺以外で死んだの聞いたことないし、老化する種族から見ると気持ち悪いもんね。
今日は初日ということだったが店長と佐藤と私だけだった。
ホールにもう一人いるはずが、バックれたらしい。
バックれとは当日欠勤だ、よくあるらしい。
「それっていいの?」
「バイトなんてそんなもんでしょ、良くないわ。殺す」
「えっ?」
バックれたら殺すの?
この店長、ことなげに言ってる。
視覚情報から読み取れるのは、何も緊張していないということだ。
何も感じてない、まるで問題ないかのように言っている。
「こ、殺す?け、警察!スマホなかった!」
「待て待て、何をしようとしてる!?」
「店長、詩愛さん天然入ってるから」
「殺さないよ、もちろん!」
本当だろうか?
殺すやつは殺すって言わないし、嘘なのでは?
あれ、じゃあ殺すって言ってた店長は逆に言えば殺さないのか?
うん?うん?
「本当に?」
「本当に殺したらヤバい奴でしょ!」
「やりかねないかなって」
「アンタ、初日の私にどんな印象!?」
ヒューマンって些細なことで人殺してるし、この国じゃ問題なだけで問題なければすぐ殺し合うんでしょ。
サキュバスってだけで殺されかけたことがあるから、私は詳しいんだ。
「人は見かけによらないし」
「闇が深い発言しないの、こわっ……」
「じゃあ、注文の仕方教えるね」
「佐藤、普通に仕事して……いや、そうね仕事しようか」
居酒屋のお仕事は掃除から始まった。
開店前にテーブルや床、トイレ掃除を行う。
途中からキッチンの人が入って、食べ物の確認。
なるほど、氷室を再現する道具、これが冷蔵庫か。
「あの……やり辛いんですけど」
「お構いなく」
「あ、味見します?」
「いいの!」
「言い訳ねぇだろ!コラ、バイト初日から仕事サボるな」
キッチンの方を覗いていたら、店長に頭を叩かれた。
痛い……でも目の前にご飯が、こんなにたくさんのご飯があるなんてすごい。
この世界は食べ物が多いのだ、少しくらい食べてもいいのでは?
「そんなにお腹空いてるの?」
「佐藤とご飯食べてから何も食べてない」
「昨日じゃないすか!?」
「えっ、なんで食べてないの……」
お金ないから……バイト代、今日から貰えないだろうか。
バイトが始まった。
最初の時間帯はチラホラと人が来るくらい。
これくらいなら簡単にできそうだなと注文を対応する。
まず番号を覚える、そして番号のテーブルに料理を運ぶ。
何かあればテーブルに行って、何もなければお皿を片付けたり清掃する。
やってることは簡単だ……しかし、ペースが早い!
人が配膳する前に配膳が要求される!
「すいま――」
「時よ止まれ!」
注文が余りにも多すぎるので、ここら一帯の時間を止める。
境界線上は時間が遅くなるから違和感もない。
本当は知らない間にエッチなことをする魔法だけど、今は致し方ない。
テーブルの間グラスや皿を片付ける、キッチンに行って料理を持って配膳する。
よしよし、番号と注文はあってるな。
「そーれ、時よ動け!」
「――せん。注文いいですか!」
「はい、ただいま」
「あれ、俺のコップないんだけど」
なんか聞こえたけどヨシ!ほとんど入ってなかったから注文してください!
注文を取って空いた食器を回収、注文して回収、注文……回収……
「ねぇねぇ、お姉さんって彼氏――」
「命じる、お会計しろ」
「ハイ……お会計します……」
面倒な酔っぱらいは洗脳魔法でお会計、ナンパするくらいなら飯を食え!
こっちは腹減ってんだー!
仕事が終わった。
「えー、5時間以上働いてたので賄いを提供します」
「良いんですか、じゃあメニュー全部」
「いや、フードファイターかよ。一品だけだわ」
そんな、串焼き一本じゃ……盛り合わせは一品に入るだろうか。
秘伝のタレ、くそぉ……鶏肉を焼いただけなのに美味しい。
「あっ……無くなって……」
「……ダメだ、それ以上は自腹で食え」
「佐藤」
「馬鹿な真似はよせ佐藤、貢いじゃう系か!貢いじゃう系なのか!」
「店長、串じゃダメなんす!ご飯、ご飯物にしましょう!」
「馬鹿が、ノリノリか!分かった、私が今日は奢るから!バイト初日頑張ったってことで!」
うわぁ、えっ、いいの?
こんなに食べてもいいの、追加もいいの?
あぁ、美味しい。これも美味しいぞ、えっ、店長なんですか。
ちょっと、タッチパネル返して!ご飯返して!
まだ、メニューの半分しか食べてない。
この後、頼むから少しは遠慮しろと店長に怒られた……解せぬ。
初めての異世界での労働、仮住まいのお家に私は帰ってきた。
鍵……そんなものはないので指を鍵穴に液状化してからツッコミ、鍵の形に変形した形でカチリと施錠を解除した。
鍵穴を採用とは異世界の施錠技術はそれほど差がないのだろう。
部屋は真っ暗だった。
由貴はどうやらまだ帰ってはいないようである。
だがしかし、そんなことは置いといて私はやらなくてはいけない事がある。
そう、それは佐藤から借金(10万)して手に入れた、スマホの初期設定だ!
休憩時間にわざわざ買いに行った最新機種である。
何が最新なのかは分からない!
……私が言うのもなんだが、10万なんて大金を貸して佐藤は大丈夫なのか?
下心があるのは読心魔法で分かってるが、アイツ馬鹿じゃないのか?
私じゃなかったら返してくれなくて騙されてたぞ。
説明書読まなくても指示に従えば大丈夫とのことで、画面に写った通りに触っていく。
いっぱいやることいっぱいだ……
「ただいま……あっ、やっぱりいた」
「あっ、お、おかえり」
「おぉ……遂にアンタもスマホを手に入れたのね、厳格なお父さんに制限されて……お父さん?あれ、そもそも高校の時にスマホ、漫画喫茶で……」
色々やってる途中で家主の由貴が帰ってきた。
あぁ、なんか脳内で勝手にストーリーを作って今の状況に整合性をとろうとしてるけど、存在しない記憶を作ろうとしてバグってきた。
これだから記憶系の魔法は、深く考えてはダメなのだ。
「やだなぁ、ガ、ガラケーだったじゃん」
「あー、うん、そうだっけ?」
「そうだよー、あっ、それよりご飯にしよう!」
精神崩壊とか怖いので話を逸らす、ご飯だよ。
うん、この家に食べ物があるかどうか分からんけど。
「あー、やべ」
「えっ?」
「うん、あー、アイスしかねぇや。アンタの分、考えてなかったな……」
いや、まぁ、元々一人暮らしの所に急遽来ましたけど、食料がないんですか?
「おっ、そうだ。面は良いしな、飯行くよ」
「えっ、ご飯!行く行く」
「体入で何とかなるだろ、よし行くぞー」
と言うことで、外食に行くことになった。
そこは薄暗い店内、革張りのソファー、テーブルの上には氷と酒が置いてある。
「いやぁ、シアちゃんは可愛いなぁ。おじさん、フルーツ頼んじゃうよ」
「…………」
「あー、ご飯系行きたくないですか?チャーハンもあるんですよ。ねっ、シアもチャーハンがいいよね」
「あっ、ハイ」
何故か知らないおじさんの横でチャーハン食べてた。
なんか、思ってたのと違う。