由貴が連れてきたのはキャバクラと呼ばれるところだった。
どういうとこかと言うと、なんか社交界に近い気がする。
ご飯食べて、お酒飲みながら話すのである。
食事してるだけなのに仕事になるの?どういうことなの。
なお、由貴はフィーリングで頑張れと別の席に行った。
フィーリングって何!?
「チャーハンでーす」
「チャーハン……」
眼の前に出されたのは皿に盛られた米だった。
米、オートミールの親戚。
穀物を水気がない感じに炊き上げてる奴だった。
なんか、小さい肉と緑の豆とオレンジの野菜が入ってる。
「フルーツじゃなくて良かったのかぁ?」
「おじさま、好き」
「お、おう……そうかぁ、ふへへ」
スプーンで掬ってみたら、サラサラと溢れる。
こ、この黄色い米の表面、卵だ!
良いんですか、横で話を聞いてるだけで食事を提供してもらって!
いいんです、そういう仕事だから!そう聞いてるから!
「ファ!?」
しょっぱい、いや、鳥の味がする。
口の中に入れたときはパサパサなのに噛んだら弾力があって米の味がする。
チャーシューだ、小さいチャーシューと柔らかい何かの野菜がある。
水気がないけど、逆にそれがいい!
「ん〜!」
「そ、そんなに美味いのかい?」
「えっ……」
「一口貰ってもいいかな」
「えっ……一口も……」
これをあげるのか、量が減ってしまうが支払いはこの人だ。
でも、食べる量が……くっ。
「一口だけ……うぅ……」
「な、泣いてる……嘘だろ……」
「食べる量が、減るから……」
「そ、そう……すいません、チャーハン下さい!」
おじさま、どうして追加のチャーハンを頼んだの?
そして運ばれてくるチャーハン、そんなに食べたかったの?
「お腹、空いてたんだろ。一口だけで良かったんだ、後は……さっきの食べ終わってる……早いな」
「おじさま、いらないの?」
「あぁ、おじさんは一口食べたからね。後は、待て待て話してる最中に奪い取るな、溢れる溢れる」
「はふっ!はふっ!美味い!」
「えぇ……」
すごい、きっとおじさまは金持ちだ。
だって食べ物を無償で提供してる。
徳を積んでるんだ、きっと聖職者だろ。
ご飯くれる人、好き!
「シアちゃんさ、連絡先教えてよ。今度、美味しい寿司屋に連れてってあげるよ」
「寿司……なにそれ……」
「シアさん!シアさん!ご指名です」
「えっ、あっ!」
「あっ、呼ばれたのですいません。おじさま、またね」
このキャバクラを仕切る黒服と呼ばれる人の言うことは聞くように言われてたので席から立ち上がる。
咄嗟に手を掴まれたが、上手いこと液状化させて拘束から抜ける。
すまないおじさま、私もお酒とご飯を食べる仕事があるんだ。
チャーハンのことは忘れない、ありがとう。
次にやってきたのは佐藤みたいな若い男達だった。
胸元の空いたシャツ、貴金属のネックレスと指輪、ははーん商人と見た。
商人は現金化出来る貴金属を持ちがちだからだ。
ただ、あんな風に見せれるのは命の危険があるのだが、相当強いか護衛を雇ってるということだろう。
つまり、さっきのおじさまより金持ちかもしれない。
「すげぇ!クーポン使って最初に可愛い子来た!」
「ウェーイ、彼女なんて言うの?」
「シアです。はじめまして」
誘導されるがままに、男達の間に座る。
ちなみに、夜会用のドレスみたいなのを借りているのでガッツリ胸元の見えてるワンピースのような服装である。
抑えてるけど、発情させてしまってる気がする。
「失礼します」
「ここ、ハイボールと烏龍茶ハイ、飲み放題らしいんよ」
「すげぇ、マジすか?」
「マジだよマジ、2回目だから詳しいんだ」
そうなんだ。
きっと国営なんだろうな、お酒を無料で提供なんて祭りの振舞い酒じゃあるまいし……いや待て、バイト先もやってたぞ……よく考えたらどこでも水飲めるし、酒もそういう扱いなんだろうか。
「よく考えたら魔法もないのに氷が……氷室から用意したのか?冷蔵庫って奴か」
「シアちゃん、俺、濃いめね!」
指示通りグラスに氷を入れて、炭酸水と瓶に入った酒を入れる。
割合どのくらいだろうか、3対7って教わったから、炭酸水が3でウイスキーが7で良いだろうか。
「えっ?」
「えっ?」
「入れ過ぎじゃね?」
「入れ過ぎ、そうなんだ……」
せっかく作ったのに勿体ない。
お店の人には飲んじゃダメって言われてたけど、飲まないんだよね。
「飲みます?」
「薄めて欲しいなぁ……なんて」
「あっ、じゃあ貰っちゃいますね」
「えっ?」
グラスを手に、一気に喉に流していく。
ひんやりとした液体の感覚、キレのある炭酸が弾ける感じ、ウイスキーは火酒のようで樽の香りがする。
薄められてるから飲みやすく、炭酸のお陰で香りが広がっていく。
これがハイボール、すごい美味しい。
「じゃ、もう一回作りますね」
「いやいやいや、えっ、強すぎでしょ」
「あっ、お酒飲めないでーす」
「いや、今の一気のあとに言うことじゃ」
「お店の人からは、飲めないように言えって」
「じゃあ、言うことなのかもしれないけど……」
もう分からないから、1対1でいいだろ。
無料で飲めるんだから文句があるなら自分で作ればいい。
よし、2人分のお酒を作ったぞ。
「あれ、シアちゃんは?」
「なんかお客さんのお酒は飲んじゃいけないことになってるので、水です」
「あぁ、まぁ、あれ飲んだあとなら……」
「お酒よりご飯が好きです。なんでもいけます!」
「いや、意気込み言われても……じゃあ焼きそば頼むか」
そして運ばれてきたのはパスタのような物、茶色い!
なんだこれ、思ったより細い。
しかも、硬さがない……どっちかって言うと水っぽい。
だが、圧倒的な甘い香り!フルーツ、いやそれだけではない奥行きのような物を感じる。
野菜もなんか茶色いのに甘い匂いで香ばしくて美味しそう。
「めっちゃ、見るじゃん」
「食べていいですか?」
「いいけど、おっぱい触らしてくれる?」
「そんなんで良いんですか!食べますよ!」
背に腹は代えられない、卑劣なヒューマンめ!
だが、箸で挟んで啜る!やはり、ねちゃっと……ハッ!味の暴力、なんて濃い味!しかも、一部が焦げてるのかパリパリしてる。
肉だ、やはり肉は全てを凌駕する。
いや、待て、肉汁とソースが負けてないぞ!
何なら肉汁が甘くて美味いまである。
「なぁ、マジで触っていいと思う」
「やめとけよ、出禁とか嫌じゃん」
「ハッ……もうない」
「おい、三回ぐらいしか啜ってないぞ!嘘だろ!?」
少ない、量が少ないんじゃあ!
かくなる上は、洗脳魔法でおかわりを……ハッ、呼ばれている!
「シアさーん、次の卓お願いしまーす」
「はーい!あっ、さっきのおじさまだ」
商人達と別れて、先程のおじさんの所へ戻る。
どうやら指名とやらで私を呼んだらしい。
うーむ、恐らくそんなつもりはないが誘惑されてしまってる。
だが、襲ってこない所を見るにだいぶ理性的だ。
「やっと来た、何か飲むか。そうだ、食べ物はどうだ」
「あっ」
いや、そんなことはなかった。
メッチャ目が血走ってるし、欲情してるのが匂いで分かる……クラーケン臭い。
これは、きっかけ一つでマズイかもしれない。
「おじさま、おじさまって奥様とかいるんですか?」
「あぁ、妻か。まぁ、この歳だしいるにはいるが、アイツはなぁ……」
何だか視線をそらして気まずそうにされる。
ちょっと読心魔法で思考を見るか。
『チッ、忘れてたのにな。嫌なことを思い出した』
記憶が流れてくる。
妻の携帯、男とのやり取り、出張中に食事の約束。
怖っ!この世界、遠征中の男みたいに女の人も浮気するのか。
まぁ、まぁいい、相手がいるなら好都合だ。
「なら、早く帰りましょう。奥様が待ってますよ」
体力増強、精力増加、魅力向上、技量強化、生命力上昇、思考誘導、よしこれくらいバフ掛けとけばええやろ。
「ぬぅ……ッ!?」
「お会計、します?」
「あぁ!会計頼む!」
よし、私に向かってた欲望を奥様に移したぞ。
奥様には悪いが朝まで出来るようになってるから、付き合ってあげてほしい。
死なないように魔法使ったし、私への欲望がなくなるまで頑張れ。