俺とGANTZとさしす組   作:GANTZサイコー!呪術廻戦サイコー!!

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無為転変

 戦っていたのは人間だった。

そう聞かされた虎杖悠仁の心中は、少し荒れていた。あと少しで、自分は人殺しになっていたかもしれない、と考えると、気が気でなかった。

しかし、屋上にいた呪霊......否、改造された人間を解剖した家入硝子曰く、この人間は改造された時点で死んでいて、死体が動いていたようなもの。あのまま虎杖悠仁が殺していたとしても、それは人殺しに入らない。そこをしっかり理解すること、と注意された。

だが、虎杖悠仁には、どうしても改造人間が呪霊だと断定する事が出来なかった。他者に......しかも、その道のプロに解剖してもらった結果が「人間では無い」としても。

元は人間で、動いて、喋って、襲ってくる。

 

「(俺は改造人間を呪いとして(はら)っているのか?それとも......人間として、殺しているのか?)」

 

 人間を呪霊のように改造し、襲わせてくる存在がいる。虎杖悠仁は、その事に反吐が出る程気持ち悪い感情が押し寄せてきた。

 

「虎杖くん。これはそこそこでは済みません。気張っていきましょう」

 

「......押忍!」

 

 そして、ホワイトボードに貼り付けられる1人の少年の写真。

 

吉野順平(よしのじゅんぺい)。映画館に居た少年です。虎杖くんは伊地知さんと合同で彼について調べてください」

 

「ナナミンは?」

 

「......その呼び方やめてください。次言ったら引っぱたきます」

 

「ひど!?」

 

 奇しくも、尊敬してる先輩(願田環)と同じ呼び方で呼んでくる虎杖悠仁に強く当たってしまう。

 

「私は私でやることがあるので、そちらはそちらで動いてください。よろしくお願いします」

 

「そっか」

 

 そして、部屋を出ていく虎杖悠仁と伊地知潔高。

 

「......」

 

 ひょこっと、伊地知潔高が戻ってくる。

 

「本当は犯人の場所、分かってるんですよね?」

 

「......えぇ、まぁ。虎杖くんを連れていくリスクと、私が単身で乗り込むリスクを天秤にかけて、後者を選んだまでです。虎杖くんは改造された人間を殺す事に対し懐疑的です。それに、彼はまだ子供ですから。」

 

「伊地知さんっ!」

 

「わっ!?」

 

 部屋を覗き込んでいた伊地知潔高の背中を押して、虎杖悠仁が戻ってくる。そして、七海建人に向けて一言。

 

「気を付けてね!ナナミン!」

 

 パンッ。

 

「次言ったら引っぱたきますって言いましたよね」

 

「ごめんなさい......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特級仮想怨霊と呼ばれる存在が居る。大体の人間が知っている共通認識で畏怖されている存在が、大抵纏めてそう呼ばれている。」

 

「共通認識で畏怖されている存在......有名な妖怪や怪談とかですか?」

 

 ツギハギ顔の呪霊、真人と、吉野順平が、暗い下水道の中で話している。

 

「正解。トイレの花子さんとか、九尾の狐とか。でも、人間が本当に恐れているのはそういうものじゃないだろ?」

 

「......天災、とか?」

 

 吉野順平の言葉に、笑顔になる真人。

 

「順平との会話はストレスがなくて助かるよ」

 

「その......ありがとう、ございます」

 

 照れていると、下水道の奥から謎の大きなうめき声が聞こえる。吉野順平がその中を覗き込もうとすると、音もなく真人が吉野順平の隣に立つ。

 

「人々は昔から大地を、森を、海を。自然を恐れてきた。その恐れ......負のエネルギーは大き過ぎるがあまり、形を成す前に知恵を獲得し、今では呪霊として顕現している。みんな、大事な僕の仲間さ」

 

「真人......さんは、なんの呪霊なんですか......?」

 

「......()、さ。人が人を恐れ、憎悪し、嫉妬する腹から生まれた、人よりも人らしい呪霊だよ」

 

 

 また別の日。

吉野順平は、また真人と秘密に下水道で会っていた。

 

「【好きの反対は無関心】と最初に言った人は、しっかり地獄に落ちたでしょうか......悪意を持って人と関わる事が、関わらない事より正しいなんて有り得ない。

好きの反対は嫌いです。日本人って好きですよね。簡単な言葉に無意味に色々意味を付け足して、悦に浸るの。」

 

 掌にある小さな物をくるくる回しながら、吉野順平はそう愚痴る。

 

「それ考えたの、日本人じゃないよ?」

 

「知ってます。好きの反対は無関心。海外の人が言ったのは、【愛の反対は無関心】です。愛は広域的な解釈が出来るので、愛の反対は無関心は成り立ちます。でも愛って普段使わないじゃないですか。だから日本人は【愛】を【好き】に置き換えて使ってる。誰も愛≠無関心の定義を考えない。みんな【愛】と【好き】を同じものだと混同している。」

 

「みんな、言葉遊びが好きなのさ。なんせ人間は、生きる事すら言い訳がないと出来ないんだから」

 

 真人の後ろを歩いて複雑な下水道の道を歩いていくと、突き当たりに巨大な肉の塊があった。

 

「......これは?」

 

「人間さ。俺の術式......能力で変えた。1人の人間を何処まで大きくできるのか......逆に、順平の持ってる()()は、1人の人間をどこまで小さく出来るのか、だ」

 

 吉野順平は、今まで掌で弄んでいた小さな物を見る。よくみれば、口と両目らしきくぼみがある。シミュラクラ現象だろうか。いや、真人の言葉を信じるなら、本当に口と両目なのだろう。

 

「順平は死体に慣れてるの?」

 

 掌にあった人間()()()()()を真人に渡す。

 

「どうでしょう......もしこれが僕の母親だったら、泣いて、叫んで、取り乱したかもしれません......後、僕結構映画好きなんです。真人さんって、映画の中の人物みたいで......これも、それも。なんだか全部映画の中の......小道具みたいで。人間らしい形をしてないから、って言うのもあるかもしれません......かと言って、半端なB級スプラッタみたいな死体を見せ付けられても、何とも思えない気がします。

まぁ結論言ってしまえば、僕は人のリアルな死なんて、映画の中の劇中シーンの1つみたいなもので。無関心なんです。それこそが、人が行き着く美徳だと思ってます」

 

「そっか。でも、そんな順平が復讐をねぇ?」

 

 吉野順平は、【自分が嫌いな人間】を殺す度胸なんて持ってない。例えそれがボタン1つで為せる事だとしても、恐らく押せない程に。

でもそれが、【自分を嫌いな人間】を殺すボタンだったら。吉野順平は、迷いなく押すだろう。

 

「矛盾してる。って言いたいんですか?」

 

「......順平はさ。人に【心】って......あると思う?」

 

「え?......ないん、ですか?」

 

「ないよ。あるのは、【魂】だけさ。俺は世界で唯一、魂の輪郭を捉える事が出来る。俺の力は、相手の魂に触れ、生物の形を変えているからね。喜怒哀楽は、魂の代謝に過ぎない。心と呼ぶには......あまりにも、機械的過ぎやしないかい?魂を見れる俺にとって、肉体と魂に、命に違いはない。天地にとっての水と同じように、命もただ、巡るだけさ。(呪霊)(人間)も同じ。命に価値なんてない。あったとしても、全員同じだ。だからこそ何をしてもいいんだ。腹が減ったら飯を食べるように、憎いなら殺せばいい。生きるのに一貫性なんて必要ない。だから順平、【無関心】という理想に囚われてはいけないよ?

安心して。少なくとも俺は、順平の感情、生き方。その全てを肯定するよ」

 

 吉野順平はその言葉を聞いて、フッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「居ました」

 

「私服だな。平日なのに」

 

「高校へは、ここ暫く行ってないみたいですね」

 

 吉野順平の背後を着ける虎杖悠仁と伊地知潔高。

途中で車から降りて、荷物だけを持って歩道から吉野順平を尾行する。

荷物とは、4級の下位呪霊。どこにでも居る蝿頭という名の無害な呪霊がしまってある檻。これは、吉野順平が呪いを見ることが出来るのかどうか試す為である。

 

「確認です。虎杖くん。

まず、吉野順平が呪いを視認出来なかった場合、虎杖くんに祓ってもらい、救助してもらいます。

次に、吉野順平が呪いを視認出来るが、対処出来なかった場合、同じく、虎杖くんが救助してください。その後、事件当日の調書に入ります。

次に、吉野順平が呪いを視認出来、呪術を使って蝿頭を対処した場合。

即時、拘束です。」

 

「有無を言わさず?強制?力尽く?」

 

「有無を言わさず強制で力尽く、です。誤認ならまだいい。後で謝りましょう。

最後に、吉野順平に2級以上の潜在能力(ポテンシャル)があった場合、1度引いて七海さんと合流。作戦を練り直します。」

 

「2級なら俺でもなんとかなりそうだけど......」

 

「それは呪霊なら、です。

本来呪霊と同等級の術師が任務に当たります。しかしそれは、勝ち戦でなくてはいけません。つまり、2級術師は2級呪霊に勝って当たり前。ポテンシャルや相性差によっては1級下位、準1級程度は祓ってもらわなくては困る。という事です。」

 

「なんで俺はそんな大事なこと知らねーの......?」

 

「(五条さんが肝心な事教えないからッ......!)」

 

 その後も、吉野順平の尾行を続け、1人になるタイミングを待つ。

 

「なんだかマッチポンプみたいで気が乗らねぇなぁ......はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、とある下水道の中。

 

「さっさと出てきたらどうですか。異形、手遅れとはいえ人を殺めるのは気分が良いものではない」

 

 1級術師七海建人が、ネクタイを緩めながら、血の着いた愛用のなまくらの血を払う。

すると、奥の影からツギハギ顔の人型呪霊が歩いてくる。

 

「いやーよかったよかった。五条悟レベルが来られても困るけど、弱過ぎると実験になんないもん」

 

「残業は嫌いなので、手早く済ませましょう。」

 

 左手に着けた腕時計で時間を確認しながら、七海建人がそう言う。

そして、七海建人と真人の戦いが始まる。

 

「(絵に書いたような軽薄。そしてその奥にあるどす黒いまでの悪意......)」

 

 呪力でガードした真人の腕の7:3の位置を正確に叩き、腕を千切れさせる。

 

「あれ?切れた。なんで?俺呪力でガードしたよね?そういう術式?」

 

 ボコボコと腕が膨らみ、再生する。

 

「(治った。反転術式......いや、呪霊の時点で違うか。そういったことが出来る術式と見るのが妥当でしょう)そういうとは?相手に任せた抽象的な質問は嫌いです」

 

「良かった。話すのが嫌いなんじゃないんだ」

 

「相手によります(意思疎通が高レベルに出来ている。五条先輩の報告書にあった未登録の特級呪霊2体......無関係と判断する方が愚答ですね)」

 

「あのさぁ、君は肉体と魂、どっちが()だと思う?」

 

「......先、とは?」

 

「よくあるでしょ。卵が先か鶏が先か......みたいな。肉体という器に魂が宿るのかな?それとも、魂に肉体が外付けされるのかな?」

 

「(聞く......しかないか)前者。」

 

「ぶっぶー。正解は後者。いつだって肉体は魂の形に左右されるのさ。」

 

「(成程......彼の話が本当で、腕を再生させた事実に基づくなら、恐らく彼の術式は魂の操作。自身の魂の形を操作し腕を再生したように見せた......映画館の異形の死体や、改造人間も彼の術式。厄介ですね)」

 

無為転変(むいてんぺん)。それが俺の術式。話した方が効果あるらしいね......そういえば。一般人は形変えたら死んじゃうけど、呪術師はどうなんだろう?」

 

 左手に着けた腕時計を再度見る。

指し示す時間は17:30。

なまくらを構え直す。

 

「先程も言いましたが、私は残業が嫌いです。今日は10:00から働いているので......何がなんでも18:00までには終わらせます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吉野順平は住宅街に入った。周りに人気もない。

しかし、自宅前に着いた時、1人の男が自宅前に座り込んでいるのを見つける。

 

「吉野。ダメじゃないか。学校サボって」

 

「外村......先生」

 

 それは、自身が虐められているのを知りながら、見て見ぬふりをした先生だった。

 

「聞いたか?お前の()()の3人、亡くなったって。お前、仲良かったよな?」

 

「......は゛?」

 

 それは、自身を虐めていた3人。あの映画館で真人の無為転変により顔を変えられ死亡した、3人のことだった。

吉野順平は、自分の声だとは思えないほど小さな、低い声が口から出てしまった。

 

「友達の少ないお前を、よくかまってやってただろ。それなのに葬式にも出ないで――」

 

 その後外村の言った事は、あまり聞き取れなかった。怒りで頭が沸騰していたが、真人の言葉だけがいやにクリアに脳内に響いた。

 

「安心して。少なくとも俺は、順平の感情、生き方。その全てを肯定するよ」

 

 思わず、本当に無意識に、自身の()()()使()()()()()()()()()()()()()()を発動しようとした。その時――

 

「ストーーーーップ!!!」

 

 虎杖悠仁が、間に蝿頭を掴んで飛び込んできた。

 

「(あっ......コイツ(吉野順平)、見えてるな)」

 

 虎杖悠仁は華麗な着地を......するかと思いきや、ツルッと転んで電柱に頭をぶつけ、ぶつくさ文句を言っている。

作戦開始5秒前。

吉野順平が1人になったところを見計らって、蝿頭の檻を解放したら、外部者である外村が居ることを確認。慌てて蝿頭の確保に虎杖悠仁が走ったのだった。

 

「なぁ。映画館の事で話したいことあるから、ツラ貸してよ」

 

 蝿頭を片手に持ったまま、吉野順平に近付く。

 

「えっ?(あっ、このボタン......真人さんの言ってた......)」

 

「なんだお前は」

 

 外村が、吉野順平と虎杖悠仁の話の間に入る。

 

「あーいやー。結構大事な話でしてー......」

 

「大事な話?子供が何言ってるんだ。大体お前どこの生徒なん」

 

「せやぁっ!」

 

 スポーーン!と、それはもう気持ちいいくらいに外村のズボンをずり降ろす虎杖悠仁。

 

「なっ、なにをする!こら、やめんか!お前......!」

 

 押し問答をするが、そこは流石の馬鹿力虎杖悠仁。外村の妨害なぞいざ知らず、ズボンを追い剥ぎし、ダッシュで逃げる。

 

「待てぇ〜!私のズボン返してぇぇ〜〜!!」

 

「えっ、えぇ〜......?」

 

 吉野順平は、終始置き去りだった。

 

「よっ。待たせたな」

 

「早ぁっ!?」

 

 去っていった方向とは逆方向から虎杖悠仁が現れた。

ここいらを1周ぐるりと回ってきたらしいが、それにしても早すぎる。

 

「なんでそこまで......話があるなら、外村のズボン取って走り去るんじゃなくて、僕連れて逃げればよかったんじゃ......」

 

「んあ〜まぁそうなんだけど......なんとなく。だってお前、アイツ嫌いだろ?」

 

「えっ?」

 

「アレ。違った?」

 

 まるで心を見透かされたような気持ちになる。

確かに外村は嫌いだった。そう伝えると、

 

「ならいいじゃん。嫌いな奴に、ずっと家の前居て欲しくないっしょ?とりあえず、あっちで話そうぜ」

 

「............うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、下水道。

七海建人と真人。どちらも有効打を与えられず、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「(人間を弄るにあたって元の質量は関係ないようですね......いずれにせよ、私の十劃呪法とは相性が悪い)......ん?」

 

 ふと、自身が立っている改造人間を見ると、顔が浮き上がり、涙を流していた。

 

「た、たすけて......」

 

「......」

 

「あーごめん。色んな人間弄って練習したからさ、弄りたては死なないんだけど、脳?意識?まぁそういったものがおざなりで、魂の汗()が吹き出るんだ。気にしないでおくれ。続きをしよう」

 

 家入硝子が電話口で言っていたことを思い出す。

 

《改造された人間はまず助からない。殺してあげた方が、本人の為にもなる》

 

「......気にしてません。仕事に私情は持ち込まない主義です」

 

 改造人間の魂の汗()とやらを、親指で拭う。

 

「ハハッ!嘘が下手だねぇ!?魂の形が揺らいでいるよ!!

あぁ......ハハッ。ごめんごめん。ところで君、何級?」

 

 カチッカチッカチッ。

腕時計の秒針の音がいやにクリアに聞こえる。

 

「1級」

 

「そうか。通りで強いわけだ。実験体としては上々だね。感謝するよ」

 

 そして、真人自身の魂の形を変え、足を動物の足にして、一足で七海建人に肉薄し、接触する。

 

「無為転変」

 

 即座に七海建人に対し無為転変を発動する。

すると、周りの景色が一変する。

 

「(なんだ......何が起きた?どこだここ?)」

 

 先程まで触れていたはずの七海建人の姿も見当たらない。

周りは、閉鎖的な下水道ではなく、開放的なオフィスビルの立ち並ぶ風景になっていた。

 

「無為転変......恐ろしい能力ですが、どうやら格上には効かないようですね」

 

 遠く、20m程離れた場所に七海建人は居た。

七海建人愛用の斑模様のなまくらは無くなっていた。

 

「どういう事かな?」

 

「理屈は知りません。ですが確かな事は、貴方の術式、無為転変は()()()()()()()()()()()()()のようですね。憶測ですが、貴方の見ている()とやらは、生得領域の中にあるらしい。残業はしなくて済みそうです」

 

 七海建人の右手にズズズ......と、七支刀が現れる。

 

「領域展開」

 

 

「黄金七支刀」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜クソ。ダメだ。伊地知さん出ねぇ(もう俺が聞いちゃっていいかな......こういうのって馬鹿正直に聞いてもいいのか?てか高専の事ってどこまで話していいんだろ?)どうしたもんかいの〜?」

 

 ブツッ。

 

《おかけになった電話番号は、現在出られ――》

 

「出ろや!」

 

 伊地知潔高は、現在虎杖悠仁の持つ蝿頭とは別の蝿頭を追いかけていた。念の為2体用意したのが尾を引くとは......

 

「......」

 

 吉野順平は、虎杖悠仁の制服に着いた渦巻きのボタンを見ていた。それは、真人に言われた事。

 

「この渦巻きのボタンを付けた学生を見つけたら、仲良くするといい。付けているのは、呪術師だよ。きっと順平とも仲良く出来る」

 

「(でも、呪術師って真人さんの敵だよな......)」

 

「もういいやめんどくせぇ!聞いちゃえ!」

 

 虎杖悠仁は覚悟を決めた。責任を放り投げた、後から考える、どうとでもなれ、とも言う。

 

「なぁ。この前お前がいった映画館で人が死んでんだ。その時こういうキモイの見なかった?」

 

 左手に握る蝿頭をかざす。

 

「いや、見てないよ。そういうのが見えるようになったのも、つい最近の事なんだ」

 

「そっか!ならもう聞くことねぇや」

 

 あっさり引く呪術師......虎杖悠仁に、吉野順平は驚く。

 

「えっ!?も、もう?」

 

「え?うん。あーでも、一応俺の......上司?みたいな人が来るまで、少し待ってくんない?」

 

「良いけど......」

 

「サンキュ!なぁ、映画館で何見てたんだ?」

 

 虎杖悠仁は訓練の為とはいえ、名作ホラーからC級スプラッタまで選り取りみどりの映画を見ている。なので、最近は趣味みたいになってしまっている。

 

「昔のリバイバル上映だから、言ってもわかんないと思うけど......」

 

「いーからいーから!」

 

「......ミミズ人間3」

 

「アレか!クソほどつまんねぇよな(何回ツカモトに殴られた事か......)」

 

「まぁスプラッタ寄りの映画だからね〜。昔ながらの映画っていうか、アレ以上の完成度を求める方が悪いっていうか......でも2は」

 

「でも2は面白かったよな!ミミズ人間!」

 

 自身の趣味に合う人間が居なかったわけじゃない。

学校では映像研究会に入って、様々な映画を見ていた。有名な名作ホラーはもちろん、ニッチなスプラッタ映画も。しかし......

 

「そう!そうなんだよ!」

 

 ここまで趣味が合う人間は居なかった。

 

 

 

「大当たりだな」

 

 そんな2人を橋の上から見つめる黒いコートを羽織った氷川の姿。

 

 

 

「............それで、僕も最初、なんで面白いのか分からなくってさぁ。3回見たなぁ。ミミズ人間は2がグロ1番キレてたから辛かったなぁ......はぁ」

 

 しみじみと語る吉野順平。

 

「なんでそこまでして見るんだ......?」

 

 自身は恐らく訓練の為じゃなかったら見なかったであろう、そして訓練の為じゃなかったら映画鑑賞が趣味にならなかったであろう虎杖悠仁が疑問に思う。

 

「虎杖くん、映画好きなの?」

 

「まぁな。最初はちょち事情があって見てたんだけど、今じゃもう訓練通り越して趣味だな。でも映画館でってわけじゃないんだよな〜」

 

「(訓練......?)映画館じゃないんだ。勿体ないな。映画館で当たりを引いた時の感動はデカいよ」

 

「そっかー。最後に行ったのいつだっけな......なぁ、今度オススメあったら連れてってくれよ」

 

「え゛っ!」

 

 コイツ、陽キャだ!吉野順平(陰キャ)は直感でそう感じた。なにより距離の詰め方がエグい。しかし、無駄に詰めてくる訳じゃなく、しっかり共通の趣味があり、理由もあり、ちゃんと詰将棋のようにナチュラルに詰めてくるのは陽キャの貫禄だなぁと思った。

 

「連絡先なら、ほい。友達追加ってどうやるんだっけ......」

 

 スマホを差し出される。

あわあわ。陰キャの僕には今日会ったばっかりの虎杖くんと連絡先交換なんて......なにより生きる世界が違う気がする......!

 

「あれぇ〜?順平?」

 

「か、母さん!?」

 

 河原に座り込んで虎杖悠仁と話していると、背後から自身の名を呼ぶ聞き馴染んだ声が。

 

「こんな所で珍しいねぇ。友達?」

 

「きょ、今日会ったばっかだよ......」

 

「今日会ったばっかだけど、友達になれそうでーす!」

 

 コイツ!!!!!

 

「アハハ。まぁ仲良くしてあげてよ。あ、ごめん。あんたの前で吸わない約束だったわね」

 

 吸っていた煙草を携帯灰皿に捨て、河原の階段を降りてくる。

 

「お母さん!ネギ似合わないっすね!」

 

「お!分かるぅ?ネギ似合わない女目指してんの、私」

 

「(何言ってんだ母さんは......)」

 

「君、夜ご飯うちで食べてかない?」

 

 コイツ!!!!!(2度目)

 

「母さん!迷惑だろ!」

 

「あぁん!?私の飯が迷惑だって!?」

 

 ゴロゴロゴロゴロ......という音が虎杖悠仁の腹から聞こえる。

 

「アハハッ。面白いね。名前は?」

 

「虎杖悠仁です!好きなタイプはジェニファーローレンスです!」

 

「いい趣味してんじゃん。嫌いなものある?アレルギーとか」

 

「ないっす!」

 

「(正×正は限りなく高い正のエネルギーなんだ......!)」

 

 吉野順平は諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ......ハァ......!」

 

「キリがありませんね」

 

 七海建人の領域内にて、真人は瀕死になっていた。

 

「(コイツは魂を知覚していない......!だからどれだけのダメージ(黒閃)を受けようと俺は死なない!にしても限度がある......!)」

 

 押しているのは、領域主の七海建人だった。

七支刀で数えきれ無くなるくらいの黒閃を叩き込み、真人にダメージを与えていた。その一撃一撃が必殺で、真人以外の特級呪霊ならとっくに祓われていた。

 

「(改造人間も出したそばから祓われる!触れてもう1回無為転変をしようとしても触れる前に斬られる!俺の魂の形(肉体)を直した傍からぐちゃぐちゃに崩される......!)」

 

 真人は領域展開が使えない。それどころか、本来の術式【無為転変】も練習中だったのだ。呪術の極地(領域展開)なんて夢のまた夢だった。

真人の潜在能力(ポテンシャル)は計り知れない。漏瑚、花御が特級呪霊の中で頭に真人をすえるだけの事はある程に。

だが、それ(ポテンシャル)を上回る圧倒的な力に、為す術は無かった。

 

「私の領域展開【黄金七支刀】は術式効果と必中効果を呪力で具現化した七支刀に込めることで発動する領域展開です。五条先輩や環先輩のように、領域に入れたら勝ちが確定するタイプではありません。夏油先輩の領域展開に近いですね。領域に入っても、七支刀による物理的な打撃が必要です」

 

「(術式の開示!本気だ!)多重魂!撥体(ばったい)!!」

 

 大量に放出した改造人間達は、七支刀の一刀(黒閃)の元に吹き飛ばされる。

 

「ですが、こと継戦能力に至っては、五条先輩や夏油先輩の追随を許しません。環先輩は知りませんが......さて、意外に粘りますね......ダメ押しと行きましょう。双方残念ながら18:00を過ぎてしまいました。ここからは時間外労働です」

 

「(呪力が増えた!時間外労働!?......縛り!さっきまでは縛りで自らの呪力を制限していたのか!!)」

 

「貴方の倒し方を考えました。結論は2つ。まずは再生不可能なまでに一撃で粉々にすること......しかしこれは賭けです。少なくとも今までの抑えていた呪力では出来なかった。次に貴方の呪力が切れるまで切り刻み続ける事......前者が無理なら、後者を選択せざるを得ませんね」

 

「(クソッ!クソッ!!勝てない!!少なくとも今の俺じゃ!!)」

 

 ビルの隙間に隠れ込む。

しかし、ここは七海建人の領域内。逃げ場は限りなく無いに等しい。いくら必中効果が働かないと言っても、逃げるのには限界がある。

 

「(どうする!?どうすれば生きられる!?どうすれば......!)」

 

 

 

 

 

「領ォ域展開」

 

 

 

 何処からか、男の声が聞こえた。

真人からしたら知ってる声。七海建人からしたら知らない声だった。

 

血賊廻兒王(けつぞくかいこおう)

 

 七海建人の領域が侵される。

 

「(これは!!!氷川ァ!!!)」

 

「(領域外からの侵入。しかも高度な領域展開。不味いですね......)」

 

 七海建人の領域展開【黄金七支刀】と、謎の男(氷川)の領域展開【血賊廻兒王】がぶつかり合う。

 先程七海建人も言っていたが、七海建人の領域展開【黄金七支刀】の継戦能力は高い。五条悟よりも、夏油傑よりも、もしかすれば願田環よりも。それ故に領域の押し合いに強い。しかし......

 

「(手練ですね。私の領域と競り合っている)」

 

 ピシリ。と空間に亀裂が入る。亀裂の向こう側には下水道......つまり、領域の外側の景色が見える。

先に気付いたのは真人だった。我先にと亀裂に向かい、呪力を振り絞って魂の形を変え、より速く亀裂に到達しようとする。

 

「(呪力で閉じ......いや、無理だ。追い付けない。逃げられますね)」

 

 最初は向こう側(下水道)が見える程大きな亀裂だったが、七海建人の呪力により段々と閉じられる。だがあと少し、僅か30cmにも満たない小さな亀裂から、無為転変で自身の体をペラッペラに変えた真人が脱出する。

真人が出た瞬間、亀裂は閉じられる。

 

「(領域を解除し追う......のは、難しいですね。外には謎の領域展開が使える男が居る。時間外労働(残業)で呪力総量が本来の形に戻った事を考慮しても、領域を解除し、術式が焼き切れた状態で追うのは愚策......むしろ殺されに行くようなもの。完全に逃がしましたか......)」

 

 真人が脱出した後も領域の押し合いは続いたが、暫くすると相手の領域が消える。

 

「相手の術式範囲外まで逃げられましたね。あのツギハギ顔の呪霊の術式も、領域展開を使えない術師と当たったら一撃必殺になりかねません......」

 

 呪力感知で領域の外を探るが、何も居る感覚はしない。

それでもたっぷり2分は領域に閉じこもったままでいて、確実に相手が去ったのを確認してから領域を解除する。

 

「暫くぶりですね......領域展開するのは」

 

 地面に落ちていたなまくらを拾い、背中のホルダーに付ける。外していたネクタイも締め直し、ボタンを付けながら相対した特級呪霊について考える。

 

「(あの呪霊は()()だ。恐らく、発生してからまだ間もない。五条先輩が対峙した特級呪霊は領域展開を会得していた。あのツギハギ顔の呪霊がそのステージに登るのも、そう遠い話では無い......加えてこちらの予想を遥かに超える被害者数。1秒でも早く祓わねば、取り返しのつかない事になる......)」

 

「ここで倒せなかったのは失態ですね......邪魔さえ入らなければ、時間はかかったとはいえ祓え(倒せ)ていたというのに......」

 

 傷一つない七海建人は、とりあえず吉野順平を追っているであろう伊地知潔高と虎杖悠仁と合流する為、下水道を後にする。




アニメもあと2話で終わりか〜。

......そろそろ原作単行本買うか〜!
大筋はネタバレ食らってるから知ってるんだけど......やっぱり細かい描写が知りたくなるよね〜。


〜みんなのお悩み相談室〜

Q.長いってば。
A.ごめんってば。

Q.最初らへん、話の大筋は一緒だけど、細かな言い回しというか......順平の考え方が違うような?
A.原作見ながら書いてると恐ろしく筆が遅くなるので、大筋以外(細かなセリフとか)は変えてニュアンスだけ伝わればいいと思ってます。結果が同じなら過程や、方法なぞ......どうでもよいのだーーーーーッッ!!です。

Q.無為転変の効果ビミョーに違くない?
A.独自解釈です。
真人が原作で虎杖悠仁の魂に初めて触れた時、中にいる宿儺の生得領域に引き込まれた事を考えるに、真人の無為転変を【領域展開が使えるもの】に施したら、【強制的に相手の生得領域に引き込まれるもの】と解釈しました。
恐らくですが、真人の黒閃経験の有無等練度の違いもあると思います。
少なくとも、【魂は生得領域にある】は完全な独自解釈&ご都合主義&独自効果ですね!

Q.真人嫌いなの?
A.むしろ大好きです。声優の信長さんの演技が好きです。めっっっちゃ爽快にイラつきますよね。

Q.流石のナナミンと言えど、氷川の領域展開と押し合いで互角以上は有り得なくね?
A.むしろ()()()領域展開だからこそ、互角だったんです。
細かく言うとネタバレになるのでここら辺で......

〜じゅじゅさんぽ〜

 氷川に助け出された真人。

氷川「大丈夫かよ」

真人「危なかったな......あの七三術師......次会ったら確実に殺す......!」

氷川「でもテメェの無為転変は効かねぇんだろ。どう殺すつもりだ。俺は手伝わねぇぞ」

真人「クック......領域展開に対する最も有効的な手段は何か。氷川も知ってるだろ?」

氷川「オイオイ......そりゃ無茶だろ。(つたな)いが、俺の領域展開と押しあってた。並の領域展開じゃ押し合いに負けて今度こそ祓われるぞ」

真人「大丈夫さ......何も無為転変だけが俺の手札じゃない。それに次は七三術師単体では来ないだろうね。共に来た仲間を引きずり込むさ......!」

氷川「......ちったぁ反省したらどうだ。真人」

真人「ハッ。誰がするもんか。俺が俺であり続ける為に、戦い、成長し続けなければいけない!その為ならなんだってするさ!」

氷川「......はぁ」

じゅじゅさんぽどう?大丈夫そ?いや、結果で辞めるとか消すとか無いけど。

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