「なぁ、おかしいと思わねぇか?」
「なにがだ?」
「いやこの記事だよ」
「?この記事のどこがおかしいのさ」
「この『仮面ライダーハーメルン』、自分で記憶喪失って言ってんのに、役所で働いてるっていうんだよ」
「え?」
「名前も、年齢も、出身も分からないんだとよ」
「それはおかしいね。普通、内定後に戸籍謄本の提出をするのが一般的だものね」
「うーん…幼少期に戸籍を作ってた、とか?」
「まあその辺かな?あ、やべ、商談に遅れる」
「じゃあな〜」
「うわあああ!」
商談に行こうとしていた男の目の前に怪人が現れる!
「なんだ『メアリースー』か、走って逃げればーーー」
メアリースーの腕が、男を貫く。腕を引き抜くと、男は口から血を吐きながら倒れる。そして、腹部には風穴が。
「え…うそだ…メアリースーは人を襲わないって…」
男の血溜まりから湧き上がったのは、普段は全身が黒い男のような容貌をしているテキーだったが、今日のテキーは全身が赤い。
「いやぁぁぁあああ!!」
「やめてぇえええっ!!!」
人々が叫び喚く街を見下ろしながら、男女二人が話をしていた。
「これ以上『仮面ライダー』なるものが増える前に、手を打って正解だったようね」
「ひゃはは!やっと暴れられるゼ〜」
「ふふふ…今日は存分に暴れていいわ、バーザーグ」
男は全身に炎の意匠が施されたバッタ型の怪人になる。
「じゃ〜食いつくしちまおうカ」
バーザーグはその場から飛び降り、人の多い場所へと向かった。
「速報です!現在東京や大阪での主要都市での同時多発テロが発生しています!近隣の皆さんは避難所へ避難するか自宅のドアや窓を補強して、安全なところに身を隠してください!繰り返します!現在東京や大阪での主要都市でのーーー」
「大丈夫。大丈夫だからね」
「うん!しかもね、もしね、わるいやつがあらわれたらね、きゅあすかいがまもってくれるの!」
ドガシャア!!と、ドアを叩く音が聞こえる。
「まーちゃん、ここでじっとできる?」
「うん!」
「じゃあここでいい子いい子しててね」
母親は寝室に娘を1人残して、台所の包丁を取り、玄関へと向かう。
「まま、だいじょうぶかな」
娘はひろがるスカイプリキュアのエルちゃんを頭に思い浮かべる。もしエルちゃんならどうするかーーー。プリキュアに変身して、お母さんを助ける。きっとエルちゃんならそうする。娘は寝室の扉を開け、玄関に向かう。
ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン
なんの音だろうと娘は玄関の方を見る。
赤いシルエットが、こちらに背中を向けて、床を殴っている?
しかし娘は、なにを殴っているか気づいてしまう。
ずっと殴られていたであろう陣中より上の顔半分の皮は剥がれ、床は血でまみれていた。僅かに残っていた視力で娘を捉えると、母親は流し尽くしたはずの涙を流した。
口を僅かに動かして、に、げ、て、と繰り返す母親。その間も、執拗に殴り続けるテキー。
「まて!おかあさんをいじめるな!」
「ん…!んん…!」
テキーはゆっくりと振り返ると、娘の方に歩き始めた。体格は成人男性程度で、姿形は完全に人間と同一だ。
「ぷりきゅあ!ひろかるちぇんじ!すかい!」
何も、起こるはずは無い。テキーは足を止めない。
「ぷりきゅあ!ひろがるちぇんじ!すかい!」
「ぷりきゅあ!ひろがるちぇんじ!すかい!」
「ぷりきゅあ!ひろがるーーー」
テキーは娘の胸倉を掴むと、母親の方に投げつけた。
「う、う、うえーん、うえーん、いっ、いた、いたい」
「にげて」
「うっ、うっ、うっ」
「にげて」
テキーはどんどん二人の元に歩み寄る。娘は誕生日に買って貰ったミラージュペンを握りしめる。
テキーは、娘の髪の毛を掴むと、地面に何度も何度も頭を叩きつけた。
「あのね きゅあすかいは いないよ ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ」
テキーは、ミラージュペンを娘から奪い取ると、それで母親の脳天を一突きした。血が娘の頬に付き、母親の目玉はぐるぐるとした後、動かなくなった。そして呼吸をやめた。
母が死んだと分かるには十分であった。
「いゃああぁぁぁぁ…」
『ヒーローの出番です!』
『これ買って!』
『しょうがないなぁ』
『ここでいい子いい子しててね』
『にげて』
『あのね きゅあすかいは いないよ』
「うっ」
幼い体に赤いヒビが入る。そしてそれはどんどんと広がっていきーーーやがて少女を砕いた。
そして中から現れたのは白目のキュアスカイにコウモリの羽が付いた、『メアリースーノモト』自体であった。