TSメスガキ鬱ゲークラッシャー   作:WhatSoon

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#3 感傷は夢の中で

ここは『聖地レイライン』。

聖葬教会の本拠地であり、祓魔師(エクソシスト)が集う場所。

 

……まぁ、原作基準で言えば道具の購入や、能力上げの訓練など、キャラクターの育成要素はここで行われる。

 

そして、任務の受諾も。

 

任務が貼られた掲示板の前に、二人の女が並んでいた。

 

 

「この任務良くない?」

 

「良いね。丁度『中位』の『悪魔』だし」

 

「それにほら、海の側!帰りに買い物もしていこうよ。貝から取れる宝石?が名産品なんだって!」

 

「……リリ、無駄遣いはやめた方がいい」

 

「良いじゃん!お洒落は無駄じゃないもん」

 

 

女三人寄れば(かしま)しいというが、二人でも十分に盛り上がっているようで。

二人の目は掲示板に貼られた紙に向けられている。

 

 

祓魔師(エクソシスト)に割り振られる任務には二種類ある。

 

司祭から直接、祓魔師(エクソシスト)個人に対して割り振られる『指名依頼』。

祓魔師(エクソシスト)が個人の判断で受託する『任意依頼』。

 

彼女達が見ている掲示板には、後者……つまり、司祭が個人に割り振らなかった余り物の『任意依頼』が貼ってあった。

 

『任意依頼』を受ける意味は、実績や小遣い稼ぎなどだ。

実際、『指名依頼』だけ熟している祓魔師(エクソシスト)と、『任意依頼』に積極的な祓魔師(エクソシスト)では昇格速度に差が出る。

 

まぁ、なんだ?

ぶっちゃけると、ゲームで言う所のフリークエストって奴だ。

受けなくても物語に関係ない、小遣い稼ぎ……と思いきや、この中にも幾つか登場人物の生死に関わる物がある。

だからこそ、私は『聖地レイライン』に滞在している間は毎朝、掲示板を確認している。

 

そんな『任意依頼』の紙が貼られた掲示板を横目に、騒がしい二人組に目を向けた。

 

赤い髪の女と、青い髪の女。

紫色の修道服から『中位』の祓魔師(エクソシスト)だと分かる。

 

初めて会った筈だ。

会話した事もない。

なのに、何故か覚えがあった。

 

 

二人は原作の登場人物だ。

 

 

私は彼女達が掲示板から剥がした任務の紙に、視線を向けた。

『中位』の『悪魔』を聖伐対象とした依頼だ。

 

祓魔師(エクソシスト)に『下位』や『上位』といった位階があるように、『悪魔』にも存在する。

といっても、聖葬教会が判別して暫定で付ける位階だ。

 

『悪魔』が「自分は上位だ」なんて自己主張する訳じゃない。

被害の規模や、対象の推定戦力などを考慮して、聖葬教会の司祭達が割り振っている。

 

そして、その位階の基準は、同一位階の祓魔師(エクソシスト)が悪魔を討伐できる事を基準としている。

 

つまり──

 

『中位』の祓魔師(エクソシスト)である彼女達は『中位』の『悪魔』を討伐できるという事だ。

それに彼女達は二人組の相棒(バディ)だ。

個人で安定して討伐できるのならば、二人組ならば更に安定するという事。

 

そう、何も問題はない。

 

本当に『中位』の『悪魔』ならば、だ。

私は彼女達の背後に近寄り──

 

 

「へぇ〜この任務、良さそ〜?」

 

 

依頼書をひったくった。

 

 

「ちょっと!人が持っている依頼書を取るなんて──

 

 

赤髪の女が振り返り……私を見て、吃った。

私の着ている修道服から、こちらが目上の位階であると気付いたのだろう。

 

少し遅れて青髪の女も私に視線を向けた。

警戒するような視線を身に受けながら、私は手元の紙をひらひらと動かす。

 

 

「これ、私に頂戴?」

 

「な……なんで──

 

「なぁに?文句あるの〜?」

 

「……い、いえ」

 

 

赤髪の祓魔師(エクソシスト)は文句を言おうとして、悩み、口を閉じた。

彼女は『中位』の祓魔師(エクソシスト)だ。

対して私は『上位』の祓魔師(エクソシスト)

 

教会の教え的には位階の差で偉い、偉くないとかが決まる訳じゃない。

それでも自分より位階が上の祓魔師(エクソシスト)相手を恐れてしまうのは、仕方のない話だ。

 

対して、青髪の祓魔師(エクソシスト)が私を睨んだ。

 

 

「返して貰えますか。それは私達が先に取った依頼です」

 

「ちょ、ちょっと……ミアちゃん、まずいよ……!?」

 

 

ミア、と呼ばれた青髪の祓魔師(エクソシスト)は首を横に振った。

 

 

「リリ、相手が『上位』祓魔師(エクソシスト)だからって、理不尽に屈する必要はない」

 

「でもっ……」

 

 

リリ、と呼ばれた赤髪の祓魔師(エクソシスト)が怯えた目で私を見た。

 

青髪の方が『連節棍(フレイル)祓魔師(エクソシスト) ミア』。

赤髪の方が『曲剣(ショーテル)祓魔師(エクソシスト) リリ』。

どちらも、原作で仲間にする事が出来て……死亡する祓魔師(エクソシスト)だ。

 

その死因は……どうもタイミングが良かったようで、私が今、手に握っている任務だ。

 

『中位』と記載されているが、実際は『上位』の『悪魔』が現れる依頼。

この任務を主人公が消化しなかった場合、彼女達の『どちらか』が死亡する。

そして、相棒(バディ)を失ったもう片方も……いずれ、どこかの任務で死亡する。

 

そんな『鬱フラグ』が、この依頼書だ。

彼女達はどうやら運が良かったらしい。

 

……後はどうやって、諦めさせるか。

この依頼の討伐対象が実は『上位』だ……なんて言っても信じる事はないだろう。

私と彼女達は初対面である故に信頼がなく、知識の元を明かせない故に証拠もない。

 

ならば、『いつも通り』でやるしかない。

 

私は鼻を鳴らして、青髪の……ミアを見下す。

身長に関しては彼女達の方が少し高いけれど。

 

 

「えー?まだ依頼を司祭に渡して受諾もしてないでしょ?じゃあ、アンタ達の依頼、って訳でもないよね?」

 

「ですが、私達の手からひったくって……それは、許される事ではっ──

 

「はー?それって教義で決まってるの?知らなかった〜」

 

「それは……」

 

「決まってなくなーい?自分ルールを押し付けてくるの、やめてくれない?キモいんですけど」

 

 

ミアが私の目の前で、唇を噛んだ。

確かにモラル違反だが、ルールを違反している訳ではないのだ。

だから、彼女の理屈は感情論でしかない。

それを自覚しているからこそ、言い返せないようだ。

 

彼女は少し悩んだ表情で、先ほどの勢いもなく口を開いた。

 

 

「……貴方は『上位』の祓魔師(エクソシスト)の筈です。私達、『中位』の依頼を奪う必要はあるのですか?」

 

掲示板(ここ)に『上位』の依頼は貼られない。そんな事も知らないの?」

 

 

教会内の掲示板に『上位』の『悪魔』に対する任務は貼られない。

何故ならば、『上位』の祓魔師(エクソシスト)の数が少ないからだ。

現在、私を含めて『上位』の祓魔師(エクソシスト)は16人。

掲示板に貼った所で、依頼を引き受けてくれる可能性も少なく……『上位』の『悪魔』が出没した場合は『指名依頼』として司祭から名指しで割り振られるのだ。

 

だから、このフリークエストに『上位』の任務は張り出されない。

 

しかし、この規則を知っているのは『上位』と、規則に詳しい事務員ぐらいだ。

彼女達が知らなくても仕方はない。

 

 

「で、ですが……」

 

 

それでも食い下がって来ようとするミアに、私は舌を出した。

 

 

「アンタ達じゃ力不足だって言ってるんですけど?」

 

「それは『中位』の『悪魔』の依頼です……!私達も『中位』の祓魔師(エクソシスト)として──

 

「えー?アンタ達、『中位』だったのー?雑魚臭すぎて『下位』だと思ってた!ごめんね〜?」

 

 

勿論、嘘だ。

祓魔師(エクソシスト)の位階は修道服の色で、一目で分かる。

だから、これは……明らかな侮蔑、嘲笑。

 

それはミア達にも分かったのだろう。

 

 

「良いから、それを返して下さい!」

 

 

瞬間、彼女が私に近付いて、依頼を無理やり奪い取ろうと手を伸ばして──

 

 

「……ふーん?」

 

 

私は彼女の手首を取り、引っ張りながら……足を引っ掛けた。

身体の中心を軸にして、振り回すように背を押して──

 

 

「うぐっ」

 

 

床に転ばせた。

 

 

「野蛮過ぎなんですけど〜?」

 

「ミ、ミアちゃん!?」

 

 

白磁のような大理石で出来た床だ。

神聖力(エーテル)』での咄嗟の防御も、受け身も取れなかった。

それでも祓魔師(エクソシスト)は人より丈夫だから、『痛い』ぐらいで済む。

 

床に転がった彼女の見下し、私は笑う。

 

 

「ダッサ〜?恥ずかしくないの?相手との力量差も見抜けない祓魔師(エクソシスト)は早死にするんですけど」

 

「……くっ」

 

 

歯を食いしばりながら私を睨む彼女を、鼻で笑う。

 

 

「フフン、負けは負けって認めた方がイイんですけど?……アンタみたいな雑魚は祓魔師(エクソシスト)を辞めた方が──

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

私の言葉を遮り、赤髪の……リリが頭を下げた。

ミアを庇うように、私の前に立ち、頭を下げたのだ。

 

怯えた目をしているが、それでも友人であるミアを守りたいのだろう。

……チラ、と床に転がるミアを見る。

 

意思が強く、強者にも屈しないミアと……友人の為ならば頭を下げられるリリ。

二人とも、悪い人間ではない。

 

善良な祓魔師(エクソシスト)なのだ。

 

悪いのは──

 

 

「は?何?私を悪者扱いしたいの?」

 

 

私だ。

 

笑みを浮かべた分厚い仮面を被り、彼女達に悪態を吐いた。

そうすれば、ミアは悔しそうに顔を歪ませ……リリは私に頭を下げた。

 

 

「違っ……違います……ミアが、その……すみませんでした」

 

 

きっと彼女はミアが悪いとは思っていない。

だが、この場で彼女を守るためには謝るのが最適だと理解しているのだろう。

 

……私の目的は、別に彼女達を虐めることではない。

この任務を強奪する事だけだ。

 

だから、彼女の謝罪を受け入れて頷く。

 

 

「分かれば良いけど。二度と突っ掛からないでね」

 

 

そう口にして、依頼書を握って彼女達に背を向ける。

そして、白塗りの壁に反射する彼女達の姿を見た。

 

リリはミアを立ち上がらせようと手を伸ばしていた。

ミアは申し訳なさそうに、その手を握った。

 

良い信頼関係のある祓魔師(エクソシスト)達だ。

 

だからこそ、この世界では生き辛い。

この世界では、大切な人を守ろうとする祓魔師(エクソシスト)から先に死んで逝く。

誰かを守ろうと、己の領分を越えれば……そこに待つのは凄惨な最期だ。

 

小さくため息を吐いて、私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「任務、取ってきた。今から行くから」

 

 

なんて、エルシーに急に言われた。

 

僕は慌てて準備をした。

今日は休日のつもりだったから、今から修練場で鍛錬する予定だったからだ。

それもフロイラさんとの鍛錬予定だった。

 

エルシーにボコボコにされた日から、僕は彼女に稽古を付けて貰っている。

少しでもエルシーに近づければ、と思って。

 

有難い事に、フロイラさんは日頃から『聖地レイライン』に篭っている。

奇跡(サイン)』を持つ『聖人』だから……ではない。

彼女は普通の『上位』……いや『上位』って時点で普通ではないかもしれないけれど、とにかく『奇跡(サイン)』は持っていない普通の祓魔師(エクソシスト)だ。

 

ただ、彼女は祓魔師(エクソシスト)の仕事に意欲がない。

相棒(バディ)が死ぬ前までは、司祭に指示される『指名依頼』だけではなく『任意依頼』も受けていたらしいが……今は最低限、『指名依頼』しか受けていないらしい。

 

……彼女の相棒(バディ)は6年前に殺されてしまったらしい。

だから、それ以降……彼女は一人で任務を熟しているとか。

新たに相棒(バディ)を作らないのも、『任意依頼』を受けないのも、きっと──

 

 

ため息を吐く。

 

 

僕は『聖水』や装備を準備し、エルシーと共に『聖地レイライン』唯一の駅に来ていた。

 

 

「それで、エルシー……何で急に任務を?」

 

「え?気分ですけど?」

 

 

なんて、遠出用の鞄を持ちながら悪びれる様子もなく答えられた。

僕は少し苦笑しながら、彼女の後ろを歩いた。

 

僕は彼女の『相棒(バディ)』だから、彼女の任務に同行しなければならない。

 

 

祓魔師(エクソシスト)には『相棒(バディ)制度』という物が存在している。

これは祓魔師(エクソシスト)の任務達成率や生存率を上げるための制度だ。

単純に一人より二人の方が強いから、というのもあるが──

 

一人で任務に行き、『悪魔』に負ければ……その情報は聖葬教会に届かない。

だが、二人なら片方が離脱し……聖葬教会に『悪魔』の正しい情報を運べる。

 

だからこその相棒(バディ)制度。

必ず相棒(バディ)を作らなければならないというルールはないが、それでも殆どの祓魔師(エクソシスト)相棒(バディ)を作り、二人で行動している。

 

 

僕と、エルシーのように。

 

 

汽車の中で、エルシーから依頼書を渡された。

南海辺の近くの港町からの依頼だ。

夜、海から唸り声が聞こえて……家と同じぐらいの大きさの『悪魔』を見た、という話。

 

まだ被害者も出ていない『中位』の依頼。

 

……エルシーはどうして、この依頼を急に受けたのだろう。

気分だなんて言っていたけれど、彼女はそんな気まぐれで動くような人じゃない……多分。

だから、きっと本当は別の理由が──

 

 

「じゃあ、私寝るから。着いたら起こして?」

 

「あ、うん」

 

 

まだ日は昇っているけれど……昨日、夜更かしでもしたのだろうか?

いや、自由依頼の任務を取るために早起きしたのかも知れない。

 

そう考えていると、彼女は口元を手で隠した。

 

 

「言っとくけど〜、変な事したら許さないから」

 

 

……そうニヤニヤ笑う彼女に、僕は慌てて首を振った。

 

 

「す、する訳ないよ!」

 

「そう?ユーリはムッツリだから信用ないんですけど〜」

 

「ムッツリって……ち、違うけど?」

 

「本当に?スカートを覗くのもダメだからね」

 

「しないよ!」

 

「え〜?否定するのに、必死過ぎなんですけど〜」

 

 

必死の否定をくすくすと嗤われて、僕は少しムカついて……飲み込んで、ため息を吐いた。

言っても無駄だからだ。

 

それどころか、彼女に1つ反論すれば3つ罵倒が返ってくる。

彼女に揶揄われた時の正解は『沈黙』なのだ。

 

そんな僕の態度が退屈なのか、彼女は視線を窓の外に向けて……汽車が、出立した。

 

窓から景色が見える。

『聖地レイライン』の街並み。

石造の外壁。

聖地に向かおうと足を進める信者の列。

 

聖地から離れるにつれて建造物は減り、豊かな自然が姿を現す。

窓の外に見える景色が、青い空と緑色の草っ原で埋められていく。

 

がたり、ごとりと揺られ……気付けば、目の前で──

 

 

「すぅ……ん……」

 

 

エルシーは微かに寝息を立てて眠っていた。

 

いつもの物言いの激しい様子は鳴りを潜めて、静かに眠っていた。

普段は人を見下すような言動をしているから気付き難いが……彼女は人並み以上に可愛いという事を嫌でも理解させられる。

 

 

「…………」

 

 

思わず目が吸い寄せられる。

いつもの、常に何かに怒って、馬鹿にするような表情ではない。

 

まるで、母親と離れてしまった子供のように、少し不安げな表情で……彼女は眠っていた。

 

 

「……はぁ」

 

 

僕は視線を逸らした。

何だか悪い事をしている気分になったからだ。

何だか、僕の知らない彼女の『何か』を覗き込んでしまいそうで。

 

代わりに僕は窓の外を見た。

流れる景色を目に、彼女の寝息を耳にして……僕は椅子に深く、座り直した。

 

エルシーは寝ている。

周りに他の人間はいない。

だから、少し退屈だ。

 

そして、その退屈さは僕を思考に没頭させた。

今日の任務の事とか、これからの事とか、エルシーについてだとか……様々な事が脳裏に浮かんでは、沈んで。

 

そうして頭の中はぐちゃぐちゃな連想ゲームを行って──

 

 

そして──

 

 

僕が彼女(エルシー)と初めて出会った時のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と出会ったのは一年前。

 

聖葬教会の祓魔師(エクソシスト)に任命されて、三ヶ月後の話だ。

 

僕は落ちこぼれだった。

 

言い訳になるけれど、周りの人間とは経験に差があったんだ。

同時期に祓魔師(エクソシスト)になった人達は、誰も彼もが子供の頃に『悪魔』に家族を殺されて……幼い頃から修道院で鍛錬してた人達だった。

 

僕は違った。

 

祓魔師(エクソシスト)になったのは一年前。

祓魔師(エクソシスト)になろうと思ったのも一年前だ。

 

何でもない。

『不幸な日』が来るのが、僕は周りより遅かったんだ。

 

それは喜ぶべき事で……いいや、そもそも『不幸な日』なんて来なければ良かったのに、なんて。

 

今でも時々、そう思う。

だけど、思った所で現実は変わらない。

 

みんなは家族や大切な人を殺した『悪魔』が憎くて祓魔師(エクソシスト)になった。

だけど、僕は……そんなに『悪魔』が憎い訳じゃなかった。

 

でも、『悪魔』によって僕の家族みたいな……理不尽な死に方をする人がいるなら、『悪魔』を倒さなきゃならないと思った。

 

それだけだ。

他の人よりも甘くて、弱々しい動機だ。

 

 

結局の所、僕は相棒(バディ)も作れないような、落ちこぼれの祓魔師(エクソシスト)になった、

身を焦がして生き急ぐような動機が無かったからだ。

 

 

そんな僕にただ一人、話しかけてくれたのは──

 

 

「えー?聖書の詠唱も出来ないの〜?よわよわ祓魔師(エクソシスト)なんですけど!」

 

 

傍若無人に振る舞うエルシーだけだった。

 

彼女は同年齢だったけど、祓魔師(エクソシスト)としては僕より先輩だった。

彼女は幼い頃から祓魔師(エクソシスト)をしていたらしい。

 

そして、彼女は僕よりも偉かった。

数少ない『上位』の祓魔師(エクソシスト)だからだ。

 

それに、彼女は僕よりも強かった。

僕の何倍も、その何倍も。

力も、知識も、意志の強さも。

 

 

そんな彼女が、何故か──

 

 

「決めた!貴方、今日から……私の相棒(バディ)決定ね」

 

 

僕を無理矢理、相棒(バディ)にした。

僕に拒否権はなかった。

 

そうして、何度か任務に行って……何度か僕は死にかけた。

彼女は『上位』で……相対する『悪魔』は『中位』ばかり。

対して、僕は『下位』の新米の祓魔師(エクソシスト)

 

死にかけて、頑張って、助けられて、また頑張って。

気付けば彼女に出会う前に比べて、随分と成長した。

 

 

「エルシーさんは──

 

「同年代相手に敬語?キモ過ぎなんですけど〜」

 

 

僕を見下す彼女の目は、同期が僕を見る目と少し違った。

何が違うかは……よく、分からないけれど。

 

小馬鹿にするような表情を浮かべていても、その目の奥に感じる『何か』は……僕を、見ていた。

 

 

「じゃ、じゃあ……エルシー?」

 

「何?」

 

 

他の人とは、違ったんだ。

 

彼女は僕を褒める事は殆どないし、僕の事をすぐに馬鹿にしてくる。

 

それでも、彼女は──

 

 

「どうして僕を、その、相棒(バディ)に?」

 

「別に?何となく……他の奴よりはマシってだけ。だから、自惚れないで欲しいんですけど?」

 

 

僕を見限らなかった。

 

どれだけ弱くても。

どれだけ情けなくても。

 

だから……だからこそ、彼女には甘えたくない。

 

足を引っ張らない為に。

彼女を助けられるように。

相棒(バディ)にして良かったと思って欲しくて。

 

 

「……ん……ぅ……」

 

 

……思考から、現実へ引き戻される。

目の前にいる、眠る彼女へ視線を向ける。

 

傷を隠すための腕の装飾品に、視線を落とした。

先日の『上位』の『指名依頼』によって発生した、傷だ。

 

結局の所、僕はエルシーに助けられてばかりの……足手纏いだ。

 

彼女を傷付けたのは『悪魔』だけど、その原因を作ったのは僕だから……僕が傷付けたようなものだ。

 

 

自分の手を、強く握る。

強くならなければ。

 

祓魔師(エクソシスト)として誰かを守れるように。

彼女の足手纏いにならないように。

 

 

……脳裏に、フロイラさんの思い出話が浮かぶ。

 

 

『元々、エルシーは優しい娘だった……今もそうだが。昔はあんな捻くれ方はしてなかった』

 

 

彼女が優しい事は知っている。

言葉と行動が釣り合ってない事を、よく知っている。

だからこそ、フロイラさんの言葉に頷いたんだ。

 

何が彼女を変えてしまったのか……どうして他人を助けながら、他人を拒絶してしまうのか。

 

 

フロイラさんは一つ、思い当たりがあると言っていた。

 

それは、恐らく──

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

今でも思い出す。

 

クローゼットの隙間から見てしまった、己の母親が喰い殺される光景を。

 

私の存在を『悪魔』に察せられないように、最後の一瞬も……私に視線すら向けなかった母を。

 

狭い空間で足を抱えて、震えを抑えて……恐怖が過ぎ去るのを待ち続ける私を。

 

昨日まで話していた人達が、物言わぬ骸になった事を。

 

 

……そして、私の前に現れた祓魔師(エクソシスト)を。

 

 

 

そして、私は……祓魔師(エクソシスト)になった。

 

全ての悲劇を消し去ってしまおうとした。

それが、助けられた者の義務だと思ったからだ。

 

誰にでも優しく振る舞い、困っている人がいれば助けて回った。

自身の身を挺して、誰も彼もを守った。

 

そうして気付けば、私は『中位』の祓魔師(エクソシスト)になっていた。

 

 

手の届く範囲が広がって、助けられる人が増えた。

他人からの評価が上がって、頼られるようになった。

それはとても良い事だと……この時は、思っていた。

 

 

 

 

二年前までは。

 

 

 

 

相棒(バディ)?」

 

 

私が首を傾げると、『師匠』兼『保護者』であるフロイラが頷いた。

 

 

「そうだ。一人より二人の方が安定性が上がる。万が一の事があれば……尚更だ」

 

「へぇ……」

 

 

自身の顎に手を当てた。

私は確かに『寿命を代償に力を得る』という強力な『奇跡(サイン)』を持っている。

 

だが、無条件に連発できない都合もあり、実際の力量はもっと下がるだろう。

一人では助けられない人も居る。

だが、二人ならば……どうだろうか?

 

周りの祓魔師(エクソシスト)の大半は相棒(バディ)を結成し、二人組で活動している。

その事実も、私の背を押した。

 

 

「確かに、相棒(バディ)は用意した方が良いかも」

 

「だろう?『中位』に上がった今、任務で相対する『悪魔』も強くなる。これを期に作ると良い」

 

「ふーん……なら、フロイラがなってよ。私の相棒(バディ)に」

 

 

思い付きだった。

フロイラは現在、相棒(バディ)が居ないし。

実力も『上位』だ……申し分ない。

 

それに、私は知っている人間と相棒(バディ)を組みたかった。

人見知りという訳ではないが。

 

だが、彼女は首を横に振った。

 

 

「いや……私は相棒(バディ)を作る気はないんだ」

 

「えぇ?どうして?」

 

「……まぁ、な。今は先に、お前の事だろう」

 

 

なんて、はぐらかされた。

私は食い下がる事なく、頷く。

 

 

「具体的に相棒(バディ)なんて、どうやって作れば良いと思う?修道院で一緒だった人達、殆ど死んだか、辞めたかのどっちかだし」

 

 

祓魔師(エクソシスト)は死亡率が高い。

離職率もだ。

 

身体が先に壊れるか、心が先に壊れるか……どちらかの差だ。

 

 

「……そうだな。私が見繕うとしよう」

 

「当てがあるの?」

 

「あぁ。『上位』の知人が、お前と同年代の弟子を取ってる。確か、そいつも相棒(バディ)が居なかった筈だ」

 

「へぇ……女の子?男の子?」

 

「女だ」

 

 

安堵の息を吐く。

祓魔師(エクソシスト)という仕事の都合上、相棒(バディ)と共にいる時間は長い。

プライベートな時間も一緒になる事が多い。

 

異性だと、同性同士ではない面倒事が沢山でてくる。

いや、私からすれば男性は異性なのか?

分からない。

 

 

結局、そこで話は打ち切られて……後日、『聖地レイライン』で会わせて貰える事となった。

 

 

 

 

 

 

 

教会内でフロイラの後ろを歩きながら、窓ガラスに反射した自分を見た。

薄紅色の前髪を、指で弄る。

 

紫色の『中位』の修道服の皺を伸ばして──

 

 

「エルシー、何をしてるんだ」

 

「え?」

 

 

気付けば足を止めていたようで、フロイラがため息を吐いていた。

私は慌てて弁明する。

 

 

「ほ、ほら!人間って第一印象が大切ですし?ね?」

 

「……はぁ。まぁ良いが」

 

 

踵を返したフロイラの後ろを小走りで追いかける。

そうしてそのまま教会内の廊下を歩き……目当ての部屋に到着した。

 

 

「入るぞ」

 

「う、うん」

 

 

フロイラに急かされて、二人で入る。

 

私と同年代の少女と……小豆色の修道服を着た、二十代後半らしき女性がいた。

ドアが開いた瞬間、少女の方は自身より年上の女性の後ろに隠れてた。

 

訝しんでいると、歳上の方の祓魔師(エクソシスト)がフロイラに声を掛けた。

 

 

「よく来ましたね、フロイラ」

 

「久しぶりだな。一年ぶりか?」

 

「……いえ?半年前に一度、会いましたが?」

 

「そうだったか?」

 

「……はぁ。貴女はいつも良い加減ですね」

 

「お前が逆に几帳面なだけだ」

 

 

服の色から分かる。

相手側の『上位』祓魔師(エクソシスト)だ。

濃い緑色の長髪の、お淑やかそうな女性が──

 

 

「貴女がエルシーですか?」

 

「は、はい!」

 

「私はミレイユです。よろしくお願いしますね?」

 

 

こくこくと頷く。

 

ミレイユという名に覚えがあった。

過去に師匠であるフロイラが話していたから……というのもあるが、原作で言及されていたキャラクターだからだ。

 

薙刀(グレイブ)祓魔師(エクソシスト) ミレイユ』。

『上位』の祓魔師(エクソシスト)であり、その戦闘能力は『上位』の『悪魔』を容易く葬れる程。

 

だが、彼女に弟子がいたなんて話に、私は覚えはないが──

 

 

「シェリ、貴女も自己紹介なさい」

 

 

そうミレイユが言えば、彼女の後ろにいた少女がおずおずと前に出てきた。

その少女は──

 

 

「シェ、シェリ、です……よ、よろしくお願い、しますっ!」

 

 

凄く……凄く、緊張していた。

 

薄緑色の綺麗な髪はボブカットに整えられており、表情は強張っていた。

視線は泳いでおり、緊張を感じさせる。

 

私も初めて会う『上位』の祓魔師(エクソシスト)相手に緊張していたが、彼女を見ると冷静になってきた。

人は、自分より遥かに緊張している人を見ると逆に落ち着くのだ。

 

 

「私の名前はエルシー。よろしくね?」

 

「は、はひっ……」

 

 

上擦った声に笑いつつ、彼女と握手をした。

 

これは今から二年前。

半月斧(バルディッシュ)祓魔師(エクソシスト) シェリ』と出会った時の思い出で──

 

 

 

 

 

 

「エルシー、着いたよ」

 

「……ん、え?」

 

 

肩を揺らされて、私は目を開けた。

ユーリが目の前にいた。

 

 

「ほら、目的地に」

 

 

寝起きで混乱している私の鼻に、磯の香りがした。

汽車は止まっている。

 

窓の外を見れば……少し離れて海が見えた。

 

 

「……そっか」

 

 

私は思い出を振り払い、立ち上がった。

優しい思い出だった。

 

……もう少し浸っていたかった気がする。

だけど、あそこで終わった方が良かったのだと……そんな思いもある。

 

ダメだな。

 

感傷を振り払うように、荷物の半分をユーリに投げ渡す。

 

 

「わ、わっ……!?」

 

「荷物持ち、よろしく〜」

 

 

少し不服そうなユーリを笑う。

 

手は、口元に。

 

大丈夫。

 

今は、笑えてる。

 

 

「……じゃあ、さっさと悪魔を片付けよっか。観光もしたいですし?」

 

 

大きく深呼吸すれば、磯の香りが鼻を突き抜けた。

少しツンとして、思わず……少しだけ、ほんの少しだけ目が潤んだ。

 

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