モテモテの実食べちゃった笑   作:ワンピースにわか

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神の奴隷

 『ONE PIECE』。

 説明不要の名作漫画だ。百を超える巻数に、数億部の発行部数。アニメや映画、舞台に歌舞伎と、多くの形態で楽しまれてきた。その展開は日本だけではなく海外でドラマ化もされている。

 そんな超有名作品『ONE PIECE』だが、その世界観は世紀末に近い。

 天竜人の悪辣さはもちろん、海賊や強盗による略奪、殺人、差別による迫害、腐敗している国家と、悲劇が珍しくない世界だ。人為的なもの以外にも、超自然による過酷な環境や超生物による被害も、多くの人を苦しめている。

 ルフィたちの愉快な冒険や、悪魔の実といった魅力あふれるものなどこの世界のほんの一部でしかない。

 

 まあ、何が言いたいかというと。

 

 『ONE PIECE』の世界に転生するのは、最悪だということだ。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 天竜人と呼ばれる世界貴族。

 世界政府の頂点に君臨する彼らは、ワンピース世界における最大の汚点だ。彼らの前では彼らがルール。何をしても許される、神のような存在。

 そんな奴らに、俺は買われた。

 

 ──熱い。いや、寒いのか?

 

 身体が焼けるように……熱い。それでいて氷を当てられたかのように、寒い。

 相反する二つの感覚に違和感を覚えながら目を開けると、薄汚れた石の床が目に入った。

 

「……起きたか」

 

 近くでした声に振り向こうとして、身体に激痛が走った。

 

「動かない方がいい。皮がはがれているのと、火傷がひどい。この感じだと、骨も何本かやられてるだろうな。止血はしたが……こんな環境じゃ、気休めにしかならねえ」

 

 自分の状態を見ると、上半身には、服を裂いて作られた包帯のような物が巻かれている。

 軽く首を上げて辺りを見回すと、壁際に見知った奴隷の男がいた。

 

「あなたがこれを……?」

「やったのはおれだが……善意じゃねえ」

 

 苦いものを食べたかのような表情を浮かべて、男はため息を吐く。

 ゆっくりと記憶が蘇る。

 痛みを与えられても泣かなかった俺に、天竜人は機嫌を損ねた。そして何としても泣かせてやるとムキになった天竜人に、背中の皮や爪を剥がされ、さらには数人がかりで暴行を加えられたのだ。

 この世界の俺は十歳前後のガキだ。ガキ一人が拷問に耐えたということで、奴らの何かに触れたのだろう。暴力はさらに勢いを増した。

 結局俺は泣く以前に体力が尽きて気を失ったらしい。気絶する寸前の記憶はまだ曖昧だ。

 大の男ですら泣くような行為を耐えられた理由は──いや、耐えられてはいないか。ただ、前世で大人だったやつが簡単に泣くわけにはいかないというちっぽけな矜持のようなものがあっただけだ。次同じことをやられたら、十中八九耐えられないだろう。

 

「お前が死んだら、次はおれが標的になるだろう。お前には悪いが、おれも死にたくないんだ」

 

 ああ確かに、それはそうだ。

 俺が死ねば、天竜人たちはまた次のおもちゃで同じことをするに違いない。

 

「恨まれても、文句は言えん。だが、謝りはしないぞ」

 

 そういう男は無表情だった。

 天竜人に目をつけられないように、感情を殺す。奴隷にはよくあることだ。この地獄のような環境に身を置けば誰でもこうなるだろう。

 軽く息をつくと、俺は少しでも体力を回復するために、再び目を閉じた。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 異世界転生。

 恐らく俺の状態はこれに最も近いだろう。

 かの有名な『ONE PIECE』の世界に転生した何の能力もない一般人、それが俺だ。

 最初にワンピースの世界だとわかった時は、結構嬉しかった。自分も冒険できたりするかもしれないなんて、淡い希望も抱いていた。しかしそんな夢見るガキだった俺は現在、一般人以下の存在『奴隷』に身を落としている。

 

 経緯は単純だ。

 俺の住む村は、海賊に襲われた。男どもは殺され、女子供は売られた。顔も覚えていない両親は、俺を守ろうとその時に殺された。

 奴隷としてオークションに出され──暇つぶしとして俺を購入したやつは、あろうことか天竜人だった。

動物(ゾオン)

 俺と同時に買われた奴隷は20人ほどだったが、15人が死亡、後の何人かは連れていかれたまま、帰ってこなかった。どうなったのかはわからないが、ろくなことにはなってないだろう。結局、残ったのは俺と目の前にいる男の二人だけだ。

 最初に連れてこられたときは、フィッシャー・タイガーの奴隷解放に一縷の望みをかけて日々を耐え忍んでいた。が、つい最近、見張り達の言葉でそれが4年前に起きた事件だということを知った。

 

 ……生きる上での希望は、もう無かった。

 

「おい、奴隷ども。来い」

 

 見張りの声がして目を開ける。

 

「お呼びだ」

 

 何度目かわからない死刑宣告に、俺は激痛を堪えながら立ち上がった。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

「おそい。もっとはやくきてほしいアマス」

 

 クソガキが喚いている。宇宙飛行士のようなカプセルを頭にかぶった、幼い少女。

 原作にも登場していた天竜人だ。名前はシャルリア宮だったか。

 俺達を下民と蔑む彼女の表情は純粋なもので、自身が人間とは別の生き物だと本気で信じていることがわかる。

 その場にいたのはシャルリア宮一人で、兄や親の姿はなかった。運がいいのかはわからない。増長させられることがないとも言えるし、止める者がいないともいえる。

 ……どっちにしろ、嬲られるのは変わらないんだろうなあ。

 

 どこか他人事のような感想を抱きながら、歩を進める。

 

 隣に立つ奴隷の男は落ち着かない様子で周囲に目をやっている。この男は呼び出されることがほとんどなかったため、当然の反応と言える。

 何が天竜人の機嫌を損ねるかわからないから、あまり目立ってほしくないんだが。

 

「ん? おいそこの、そのからだにまいているゴミはなんだ?」

 

 シャルリア宮に指され、一瞬戸惑うが、すぐに意図を察する。男が治療してくれた、この包帯のことだろう。

 急いで跪く。そして俺は、刺激しないように慎重に言葉を選びながら、シャルリア宮に説明をした。

 

「……これは、見苦しい傷を覆い隠すために、与えられた布を切って巻いたものでございます」

「きず? きずって何アマスか?」

 

 ……これはひどいな。傷を知らないのか。

 シャルリア宮の言葉に息をのむ。

 シャルリア宮は近くの護衛に傷の説明を受けている。

 怪我を見たことはないということは無いだろう。今まで傷というものを認識していなかったのか。

 

「ああ、そういう……まあいいアマス」

 

 説明を受けたシャルリア宮は興味なさそうに軽く息をついた。

 気づかれぬように息を吐く。手当に関してはお咎めなしらしい。

 

「それよりいまは、あれアマス。ほら、はやく」

「は。……おいお前ら、食え」

 

 兵士からの命令と共に、『それ』が出される。

 

「……え?」

 

 目の前に置かれたものを見て、俺は言葉を失った。

 見覚えのある模様が入った、二つの果実。

 

 ──悪魔の実だ。

 

「これは……」

「たべて、そしてたたかうアマス。わちしをたのしませるアマス」

「……いや、戦うって」

 

 これを、食べて戦う?

 悪魔の実は、海で泳げなくなることを代償に特殊な能力を得ることができる果実だ。能力も様々で、便利な能力やとんでもなく強い能力もある。しかし食べる前にそれを見分けるのは難しい。種類と見た目を記録した悪魔の実図鑑というものもあるらしいが、奴隷がそれを入手できるわけもない。

 

 突然のことに混乱していると、いらついたようにシャルリア宮が懐から銃を取り出した。

 

「たべないならうつアマス」

「……っ」

 

 拳銃を突きつけられれば、逆らうことはできない。

 俺と男は表情を硬くしながら、お互いをちらりと見た。男も覚悟を決めたようだった。選択肢は一つしかない。

 

 男と俺は、それを口にして──せき込んだ。

 

「うぐっ、まず……」

 

 まずいなんてレベルじゃない……食べ物の味じゃねえ。

 作中の人物が表現していたまずさは、どうやら本物だったらしい。思わずせき込んでいると、はやくしろ、と急かされる。

 

「はやくたたかうアマス。おもしろいと、おちちうえさまからきいたアマス」

 

 能力者同士を戦わせる、か。いい趣味してやがる。

 

「奴隷ども、早くしろ」

「んー? なんでたたかわないアマス?」

 

 男の方を見ると、青い顔をしてこちらを見ている。

 

「たたかわないなら、ふたりともうつアマス」

 

 その言葉で、男の表情が恐怖に染まる。

 そして、こちらを再び見て──俺と()()()()()

 

「っ!?」

 

 その瞬間、男の表情が固まる。

 

「おれは、できない」

「……なにをいってるアマス?」

「こいつを殺すなんて、できない」

 

 根は善人なのだろう。人を殺そうとしたことなんて、いや人を傷つけたことすらないかもしれない。まだ彼は、()()()()()『人間』なのだ。

 

「あんた……」

 

 次の瞬間、鋭い銃声が響いた。

 男の近くの床から白い煙が出ている。

 

「つぎはあてるアマス」

 

 流石天竜人。ガキのくせして、銃の撃ち方をわかってやがる。

 

「う、うう……」

 

 歯をガチガチと鳴らして覚える男の様子は、子供のようだった。

 初めて目の当たりにした天竜人への恐怖で、混乱して良心が壊れかけているのだろう。俺はどこか他人事のように、それをなんとも哀れだと思った。

 

「なにしてるアマス! つまらない、つまらないアマス!」

 

 痺れをきらしたのか、俺と男を交互に狙って見せるシャルリア宮。

 さすがに撃つことはしなかったが、男には十分な脅しだったらしい。息が荒くなっていく。

 

「……いいよ、あんた」

「……え?」

「俺はあんたを恨まない」

 

 それは、俺の本心だった。

 俺は、彼ほど生への執着がなかった。いや、生きることを諦めていた。

 恐らく、これはどちらかが倒れるまで続く。それならば、残るべきは人間性を残した彼の方に違いない。

 俺は本気でそう思っていた。

 

「あ、ああ…………うわああああああっ!」

 

 叫び声をあげながら、男は俺に向かって殴りかかってくる。

 殴りかかると同時に、男の身体が変化していく。どんどん毛深く、そして身体も大きくなっていき──

 

「これは……熊か」

「すまねえ、すまねえ!」

 

 男が謝りながら腕を振りかぶる。そして、視界が反転した。

 

「かはっ」

 

 殴り飛ばされた。そのことを理解したのは自分の身体が地面に叩きつけられた後だった。

 動きは全く見えなかった。圧倒的なスピードとパワー。これが動物(ゾオン)系の力か。

 

「ほんとうにへんしんしたアマス!」

 

 シャルリア宮の方を見てみると、物珍しそうな表情で男を見ている。

 そしてこちらの方を向き──俺と()()()()()

 

 次の瞬間。

 

「え?」

 

 発砲音が響いた。

 

「な、なんで……」

 

 男が、撃たれた。

 撃ったのはシャルリア宮だった。

 

 

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