モテモテの実食べちゃった笑   作:ワンピースにわか

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モテモテの実

 間髪入れずに、銃声が鳴る。撃たれた弾は、全て男に当たっているようで、その度に男は呻き、血を吐いた。

 

「ぐっ、やめ──」

 

 言葉を掻き消すほど、連続で放たれる銃弾。

 何度も、何度も、男は撃たれ続けた。

 

「……なんだよ、これ」

 

 男が倒れる。それでも構わずに、シャルリア宮は男を撃ち続けた。

 俺は先程のダメージからまだ動けずに、それをただ見ているしかなかった。

 

「まったく、きぶんがわるいアマス」

 

 弾が切れると、シャルリア宮はそう吐き捨てた。

 

「どうなってんだよ、おい……なんで、なんで……」

「ほんとうに、きぶんがわるい」

 

 そう呟いたシャルリア宮は、不機嫌な顔で男を見ていた。

 しかしすぐにこちらを向き、俺の方へ駆け寄ってくると──

 

「なんてけがアマス! すぐにてあてするアマス!」

 

 血相を変えてそう言ったのだった。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 シャルリア宮は俺の手当てを兵士たちに命じると、心配そうな表情でずっと側についていた。

 俺は今、無駄に広い病室の真ん中に一人でいる。この部屋は中央にベッドが置かれている以外に、ほとんど物はない。シャルリア宮は家族に呼ばれたと言って、先ほど俺の側を離れていった。

 奴隷が暮らすには、綺麗すぎる部屋。今までの待遇との落差に、俺は混乱していた。

 部屋の外には何人かの護衛が付いているらしいが、部屋に入ってくることはなかった。らしい、というのはシャルリア宮がそう言っていたからだ。

 

 手のひら返し……というかまるで別人のような変わりように、何が起こったのか最初はわからなかった。

 しかし俺と関わった者全てが、シャルリア宮と同じように異常に優しくし始めるのを見れば、原因が俺にあるのはすぐにわかった。

 

「……悪魔の実の能力、だよな」

 

 どこにも外見上の変化はないし、身体の違和感もない。動物(ゾオン)系や自然(ロギア)系ではなさそうだった。とすれば、超人(パラミシア)系ということになるが……原作にこんな奇怪な能力は存在しなかったはずだ。一つ思いついたのはメロメロの実だが、あれは石化能力が中心で、他者の認識をここまで変えるほどの能力ではなかったはずだ。もしかするとこの能力は何かのイベントやアニメオリジナル、映画で登場しているのかもしれないが、さすがにそこまでは把握できていない。

 とにかくこの半日でわかった能力は、『目を合わせた者を俺に協力するように仕向ける』、もしくは『目が合った者の好感度を上げる』、『目が合った人を親しい人だと思わせる』といった、洗脳に近い能力であることがわかった。奴隷の治療に最初は難色を示した医者も、俺と目を合わせた途端すぐに治療を始めた。使った俺自身も背筋が寒くなるような、恐ろしい能力だ。

 

「問題は……これがいつまで続くのか、だけど」

 

 何事にもデメリットは存在する。この能力の効力がいつまで効くのか、俺の運命はそこにかかっている。効力に期限があるならば、俺の寿命はそこまでだろう。

 しかし──俺の頭では、その対策を考えられていなかった。死ぬことは嫌だが、どうすればいいのかがわからない。シンプルな手段としてここから逃げるというものがあるが、その方法が思いつかない。逃げ出せたとしても、背中に天竜人の奴隷の印である『竜の蹄』が刻まれている限り、外の世界でまっとうに生きていくことは難しいだろう。

 

「いや、そもそも」

 

 俺は、あの熊の能力の男を、見殺しにしている。能力によってシャルリア宮の認識を変え、殺させた。

 それは俺の罪だ。

 

「はは、ああ、本当に──」

 

 どうしようもない。

 自分のせいで人が死んだというのに、俺はまだ生きたいと願っていた。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 シャルリア宮は俺の傷が完治すると、お気に入りの奴隷として、俺を側に置き続けた。俺には専用の護衛が付けられ、服装もまともな物を与えられた。名前も忘れてしまっていたため、彼女に与えられた。

 俺が悪魔の実を食べてから一月も経つと、シャルリア宮は俺の機嫌を窺うようになった。そしてそこからが、最悪だった。

 

「シロ、きょうはこんなどれいをかってきたアマスよ」

 

 シロ──俺に笑顔を向けながら、シャルリアは自分が連れてきた三人の奴隷を紹介した。

 名付けの由来は髪の一部が白いかららしい。

 

「……そうか」

 

 俺はチラリとそちらを見ると、すぐに目をそらした。なるべく興味がないように、つまらなそうに見えるように、顔をしかめて見せる。

 本来ならばこんな口の利き方をした奴隷は、間違いなく殺されるだろう。しかしシャルリアは、俺のどんな態度も許した。敬意のない口調も、命令に従わないことも、特に気に留めなかった。むしろ彼女は俺に対等な言葉遣いを要求した。あまりに強く要求するものだから、押し切られる形で口調を普通のものにした。今では彼女への嫌悪感からぶっきらぼうな口調になることも多いが、シャルリアは俺のどんな態度も許した。彼女は俺の要望を極力叶えようとし、それに反対する護衛や天竜人を俺から遠ざけた。

 対する俺は、シャルリアに欲しいものや要望を尋ねられても、特に何も望まなかった。俺が何かを口にすれば、シャルリアは歪な形──主に略奪で、それを叶えようとする。それが俺は嫌だった。

 

「はあ、まただめアマス」

 

 何も要望を口にしない奴隷。そっけなく感情を表に出さない俺が、彼女はお気に召さなかったらしい。

 そこで彼女は次の行動に出た。

 奴隷たちを使って──つまり、彼らを嬲ることで俺を喜ばせようとしたのだ。自分が喜ぶことならば、俺も喜ぶはず。その考えからだろうが、俺にしてみれば最悪だけだった。

 俺も最初は、「見たくない、やめてくれ」とシャルリアを止めようとしたのだが、奴隷の種類がダメだと思ったのか、次の日には別の種族の奴隷を用意してきた。奴隷を見たくないと言えば一般人を、それもダメだと言えば海賊を。彼女は命を使って遊ぶことを止めなかった。

 痛みや苦しみには慣れたつもりだった。いや実際に、身体の苦痛には耐性が出来ていたのだろう。

 しかし、精神的な苦痛は別だった。

 

「やめてくれ! 頼む、おれはいい! どうか、妻と子供だけは……」

「シロ、みるアマス! おとななのにないてるアマス!」

 

 シャルリアが連れてきたのは家族だった。どこで調達したのかは知らないが、極めて普通の家族だ。

 ……本当に趣味が悪い。

 

「つまんない、解放してあげて」

「お前、なんて口の利き方を!」

 

 兵士が血相を変えるが、シャルリアが「うるさい」と言ったことですぐに下がる。

 

「シロ、みててほしいのはここからアマス! ここからがおもしろいアマス!」

 

 シャルリアが銃を取り出した。

 ……おい、まさか。

 弾を装填し、彼らに向けると──

 

「シロをたのしませるアマス!」

 

 躊躇いなく引き金を引いた。

 狙いは子供。しかし、凶弾に倒れたのは──

 

「あ、あなた……?」

「お父さん……?」

 

 父親だった。子供を庇ったのだ。

 そして、二つの悲鳴が部屋に響く。

 

「ちょっとうるさいアマス……シロはだいじょうぶ?」

 

 心配そうにこちらを見るシャルリア。

 ──ああ、こいつらは本当に。

 俺はシャルリアを責め立てたい気持ちを必死に抑え、無表情で父親を指さす。

 

「父親に、手当をしてやってくれないか」

「え? でも……」

「……頼む」

「シロがそういうなら……おい、そこのゴミをなおすアマス」

 

 命令された兵士が、父親を連れていく。

 

「もう今日は満足した。大丈夫だ。彼らを解放してやってくれ」

 

 シャルリアにぎこちない笑みを浮かべながらそう言うと、シャルリアは少し不満げにしながらも、わかった、と彼らを部屋から退室させた。

 

「うう、お父さん……」

 

 少年はこちらを支えながらこちらを一瞥し──母親を支えながら部屋を出て行った。

 

「どうしたアマス?」

「なんでもない」

 

 ああ、またあれだ。

 部屋を出る少年の、シャルリアと()()対する目。

 あの純粋な憎しみの視線だけは、いつまで経っても慣れなかった。

 

 もう何人に恨まれただろうか。

 俺のためにシャルリアが連れてきた人間は、そのほとんどが俺に憎しみを持っていることだろう。

 

「それは……嫌だなあ」

 

 シャルリアに聞こえないように、呟く。いつか、恨みを持った人間に殺されるかもしれない。

 でも、この生活から解放されるなら、いっそのこと──

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 ジンベエ率いる『タイヨウの海賊団』が七武海入りしたというニュースが入ってきたのは、シャルリアの態度が急変してから間も無くだった。

 

「ジンベエが……まだそんな時期なのか」

「どうしたアマ……どうしたの、シロ」

 

 シャルリアはここ最近天竜人特有の言葉遣いをやめようと心掛けているようだった。

 理由はよくわかっていない。天竜人の考えは突飛で予想がつかない。悪いことにならなければいいが……事前に俺にできることはほとんどないだろう。

 

「シロ、この海賊に興味があるの?」

 

 シャルリアは、俺の見ていた新聞に興味があるようだった。

 最近俺は、ある程度の自由を許されていた。シャルリアの用意した部屋の中であれば、自由に過ごすことが許可され、欲しいものも言えば手に入る。足枷も鉄ではあるが、かなり軽いものに変えられていた。もちろん見張りが大量につけられており、脱走は厳しい。シャルリアの来る頻度もそれなりのため、護衛兼見張りはかなりの手練れが用意されているようだった。

 しかし最初の環境に比べれば凄まじい変わりようだ。

 

「いや、まあ……魚人の海賊が七武海に入るからちょっと驚いただけだよ」

「ふーん、そうなの」

 

 原作で物語に深く関わるキャラだから、なんて口が裂けても言えない。

 シャルリアは俺のごまかしに、深くは追求してこなかった。

 

「シロ、この海賊、欲しい?」

「は? いや、いいよ! いらない!」

 

 シャルリアの爆弾発言に、俺は慌てて首を振る。

 こういうことがあるから、こいつらは油断ならない。どういう思考回路をしているんだ、本当に。

 

「そう、ならいらないアマ……じゃなくて、ならいらないね」

 

 本当に、シャルリアといると疲れる。

 どうにかして、彼女から遠ざかりたいが、興味をなくされてもどんな扱いを受けるかわからない。

 ──やっぱり、最初にむやみやたらと能力を使ったのがよくなかったか。

 

 シャルリアの態度が変わった直後、俺は事あるごとにシャルリアと目を合わせて能力を発動させていた。効力がいつ切れるかわからなかったのと、能力の詳細を知るためだ。結果この能力は重ねがけが可能ということがわかった。重ねれば重ねるほど俺本人への好感度が上昇しているようだった。俺に構う時間が急激に増え始めてからはかけることをやめたが、やめた後も好感度が下がっている様子はない。

 最初の目的であった能力の期限だが、それはわからなかった。が、一度しかかけていないシャルリアの護衛たちの態度が変化しないことを考えると、まだ切れていないだろう。ホビホビの能力と同じく能力者本人に何かあるまで永久的に続くという可能性もある。

 時間経過で効力が落ちるタイプの能力では無さそうだった。

 

「あの、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」

「あ、もうこんな時間。また明日、シロ」

 

 今一番危惧しているのは、能力が解けた時の報復だった。我に返った天竜人が何をするか。考えただけでも恐ろしい。

 部屋を後にするシャルリアを見て、俺は深いため息をついた。

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