モテモテの実食べちゃった笑 作:ワンピースにわか
「早く、ここから離れないと──うわっ」
走っていた俺の近くで衝撃と爆音が起こる。白い煙が巻き上がった。
「けほっ、げほっ……。はは、怒ってるな、あいつら」
海軍が到着したらしい。先ほどの一撃をきっかけに海賊船と砲弾の撃ち合いを始めたようだった。
少し前までの海賊船からの砲撃は、いま俺がいる島に向かってのものではなかった。しかし海軍が到着したことで、その標的がこの島の海軍へ変わったらしい。俺の近くに落ちたのはその流れ弾だろう。
「うまいこと長引いてくれればありがたいけど……」
そう言いながら、再び走り出す。
島の反対側の港へ向かい、そこからと脱出する。それが、俺の狙いだった。
「最初の予定とはかなりズレたけど……しょうがない。頼むからうまくいってくれよ……!」
シャルリアと離れることができた。しかも不自然なく、だ。脱走のこれ以上ないチャンスだ。
見つかった時の恐怖はある。しかしそれ以上に、自由への期待感があった。
久しく忘れていた感覚に、俺の口角は知らない内にあがっていた。
※ ※ ※
シャルリアが部屋に来る頻度は、日に日に増えていった。
能力はもう使っていない。シャルリアが俺に、少しずつではあるが依存し始めていたのだ。それだけならば良いのだが、それをよく思わない存在がいた。
他の天竜人、主にシャルリアの家族である。
シャルリアの愚痴や、護衛達の話から、俺の元へ通っていることが、彼女の両親からあまり良い反応をされていないことがわかった。
そもそもシャルリアは、奴隷である俺に専用の部屋を与え、さまざまな優遇措置を与えている。奴隷の扱いとしては本来考えられないものだ。当然他の天竜人は納得しないだろう。
彼らと目を合わせることさえできれば、俺に協力的にさせることができる。が、あまり自分から動いて、注目を浴びることはしたくない。能力の詳細がバレるのは問題だ。最悪処刑される。
目をつけられたくないのに、シャルリアの依存は深まっていく。
どうにもできない日々がしばらく続いた。
そんな中、シャルリアとの会話でとある話題が出た。
七武海の召集と、それに伴って行われる会議。それが近々行われるらしい。
本来ならば、天竜人がその会議に関わることはない。しかし俺はシャルリアからその情報を得た時に、一つの妙案を思いついた。
──ジンベエの元に、逃げ込むことはできないだろうか。
ジンベエ率いるタイヨウの海賊団ならば、俺に刻まれた『竜の蹄』──奴隷の烙印を消すことができる。
もちろんうまくいく可能性は低いが、七武海という立場ならば天竜人と敵対することも、他の立場よりは可能なのではないか。
ただ……ジンベエが俺の要望を聞いてくれるかは未知数だ。彼は魚人全体の未来を背負う立場にいる。天竜人と表立って敵対することはしたくないだろう。しかしそれと同時に、彼が天竜人をよく思っていないことも事実。原作で描写はされていないが、フィッシャータイガーの件から、そうみて間違いない。
賭けにはなるが、もしジンベエと接触することができれば。
この状況も、変わるかもしれない。
俺はまだ、シャルリアに飼われている己の現状を変えたいと思っていたらしい。
脱走できるかもしれない。その考えが浮かんだ途端、どんどんやりたいことが溢れてきた。
「人生諦めてたけど……頑張ってみるか」
そこからの俺の行動は早かった。
「シャルリア、七武海の会議を見てみたいんだけど」
貼り付けた笑顔で、シャルリアを唆し七武海が召集される詳しい日付を調べさせる。
数日でその詳細は判明し、近い内にマリンフォードで会議が開催されることがわかった。
「シャルリア、バカな海賊どもを見に行こう」
本当は一人で行きたかったが、そんなことが許されるはずもない。シャルリアが同行するのは仕方ないだろう。
俺の言葉に、シャルリアは二つ返事で同意した。
「シャルリアと二人で行きたいんだ」
家族を誘おうとする彼女の手を取り、悲しそうな顔で訴える。正直棒読みにしか聞こえないだろうが、能力にかかっているシャルリアには情熱的に聞こえたらしい。恥ずかしそうに頷いた。
これで、他の天竜人の同行を阻止できた。なるべく邪魔は少ない方が良い。
俺の作戦は不確実なものだった。
七武海会議を見学しているタイミングのどこかで、シャルリアとはぐれる。そしてジンベエを探し出し、接触。
彼と交渉し、共にマリンフォードから魚人島へ向かうというものだ。
行き当たりばったりもいいところだが、今の俺にはこれしか思いつかなかった。
もし実行できないとしても、今のところデメリットはない。途中でやめればいいだけだ。
※ ※ ※
その海賊船が見えたのは、全くの偶然だった。
マリンフォードへ向かう航路の途中にある島。本来政府の船は、マリンフォードへ向かう際にはその島に立ち寄らない。マリージョアからマリンフォードまで、立ち寄らなくとも航行が可能なのだ。今回もそのはずだった。
「あそこの島には、立ち寄らないんだな」
「シロ、気になるの?」
側に寄ってきたシャルリアを、「いや、違う」と止める。
島の海岸には天竜人の船を一目見ようと、市民たちが人の群れとなっていた。
天竜人に目をつけられても良いことなんてないのに、おめでたい人たちだ。いや、むしろ上陸しないから安心して見ていられるのか。
シャルリアには見せない方が良いと思い、船内へ入ろうとした時だった。
俺の目に、島の海岸の一部が目に入った。
そこには海賊船があった。この世界ではよくある光景。
直後、爆音が響いた。
「何だ……? いや、これは」
風を切る音。それが意味するものは──大砲だ。
熱風が俺とシャルリアを襲った。
「きゃっ! ……シロ!」
俺たちのいる場所の近い部分に被弾したらしい。船から火が上がり、甲板が割れる。
足場が崩れる刹那、シャルリアがこちらへ手を伸ばした。
「っ! 来るな馬鹿野郎!」
俺はシャルリアに対する情はない。それは断言できる。
しかし目の前で窮地に陥った、
俺は両手でシャルリアを突き飛ばしていた。
ほとんど反射での行動。
突き飛ばしてから、後悔する。
俺とシャルリアは船から落ちかけている。ここでシャルリアを見捨てて、俺はどさくさでこの船から逃げる。自分だけならば船から落ちなかったかもしれない。シャルリアを見捨てれば、一旦は解放されるかもしれないというのに。
俺、案外優しいんだな。
死にかけているというのに、俺は笑って──海へ落ちた。
※ ※ ※
とある海賊船の、砲台前。
その日は、船長が部下が行う大砲の手入れを見ていた。
この船長、億越えの賞金首であるが、その実力は億越えにしては低い部類であった。
計画的な行動と、民間人への間接的な被害から億越えの賞金が付いた、頭脳派の海賊であった。
「船長、今日この島の近くを天竜人を乗せた船が通るらしいですよ」
「ああ、さっきも聞いた」
部下の言葉に、船長は舌打ちしながら頷いた。
「傍迷惑な奴らめ。ただでさえマリンフォードが近いってのに」
マリンフォード付近は海兵が多い。新世界を目指す上でこの島を通る必要はない。船長がこの島に立ち寄ることを選んだ理由は、独自に掴んだその情報にあった。
「でも船長、なんでこの島に? 海軍本部も近いし、慎重な船長にしては珍しいっすね」
「今、レッドラインの前後は七武海がうろうろしているからな。多少は危険でも、こっちの航路の方が安全なんだよ」
「七武海!? そ、それは確かに危ないっすね」
海軍よりも手がつけられない存在、七武海。政府公認の海賊であり、その脅威は三大勢力の一つに数えられている。
そんな奴らがマリンフォードに召集されるという情報を船長は掴んでいた。
「そう。だからこっちの島を通るんだよ」
そう言いながら船長は双眼鏡を手に取った。
この島に立ち寄らないとはいえ、天竜人の動向は気になる。こんな時期に何の目的でここにいるのか、どんな天竜人が来ているのか。純粋に興味があった。
そして船長は、双眼鏡を覗いた。
「ん? あれが天竜人か?」
見えるのは頭にカプセルのようなものを被った、幼い少女と──首に鎖が繋がれた少年。
「奴隷か……気分が悪い」
しかし様子が変だ。奴隷にしては、少年の態度は堂々としている。そんなことを考えていると、少年がこちらを向いた。
そして──
「あ、れ──」
「船長、どうしました?」
「……おい、あの船に照準を合わせろ」
「え、船長?」
「早くしろ」
「で、でもあの船は天竜人の──」
「いいからやれ!」
「は、はいぃ!」
慌てて砲弾を装填する部下を横目に、船長は下唇を噛んだ。
「奴隷として生きるくらいなら、死んだ方がマシだよな」
その言葉は善意と狂気に溢れていた。
※ ※ ※
頭が痛い。
しかし腕は冷たい。いや、熱いのか? 感覚が掻き乱されているようで……頭が混乱する。
「くっ、いてぇ……」
ゆっくりと目を開けると木の板が目に入った。どうやら島の桟橋に打ち上げられていたらしい。
運良く港に流れ着いたのはラッキーだった。俺は能力者だ。あのまま溺れていてもおかしくない状況だった。
「他の人は……」
周りを見回すが、船の破片ばかりで人の姿は見当たらない。
そうしていると、砲撃音が響いた。
「今のは……!」
先ほどの海賊だろうか。なぜ天竜人の乗る船へ砲撃したのかはわからないが──結果的には良かった。シャルリアたちと離れることができた。
体を少し起こし、自分の状態を確認する。
身体にはいくつかの火傷と、すり傷のようなものが無数にできていた。しかし昔受けた拷問に比べれば大したことはない。
痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる。音の方へ少し歩くと、天竜人の船へ海賊船が一方的に攻撃している状況が見えた。攻撃されている側は、海賊船から後退しつつ島へ近づいていた。恐らく島に逃げる気なのだろう。
「これならいける……!」
まだ海軍は出てきていないようだが、直に出てくるはずだ。この混乱に乗じて、島の反対側へ行ければ。
再びの砲撃音。今度は島側からだった。
「海軍か!」
ああ、本当に運が良い。思わず笑みがこぼれる。同時に俺は島の方へ走り出した。
海賊と海軍。しばらくは撃ち合いが続くだろう。
砲撃を避けながら、内陸へ走る。
街へ入ると、そこには大勢の狼狽える市民がいた。
マリンフォードの近くということもあって、荒事に慣れていないのかもしれない。
混乱と恐怖。人々の取り乱し様は酷いものだった。
──だが、俺には関係ない。
街の人を避ける様にして、歩みを進める。船や協力者の確保や、今後に必要なものの入手。すべきことはたくさんある。
そうして街の外れまで来た俺は、街に入ろうとしている人物を見て──思わず足を止めた。
「キシシシシ! 賑やかだから来てみれば……なんだ、これはぁ!?」
白い巨体の男──ゲッコー・モリア。王下七武海に名を連ねる海賊が、そこにいた。
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