モテモテの実食べちゃった笑 作:ワンピースにわか
「なにすんだテメー!」
「ちょ、ちょっと待て! 勝手に入ったのはそっちだろう!」
怒る少女──ペローナに対して、反論する。流石に理不尽だ。
「変なサングラスのやつが来たって言うから見に来たら……ガキじゃねえか。モリア様はなんでこんなやつを連れてきたんだ?」
「こんなやつで悪かったな」
ため息を吐きつつ、すぐにサングラスをかける。
さっき目を見てしまったが……ペローナの態度は原作と違いがないように思える。
「ところで、お前……俺に対して何も思わないのか?」
「あ? 何を思うって!?」
「口悪すぎだろ……」
やはり、ペローナの言動は原作通りだ。俺に対して、まるで
──そうか。ペローナはホロホロの実を食べていたはず。今のペローナは実体がないのか。
「お前、能力者か」
白々しく尋ねると、ペローナは空中で頷いた。
「そうだ。私はホロホロの実の霊体人間。てめえ、よく見抜いたな」
「……普通の人間は、浮かないぞ」
「それもそうか。お前、名前はなんだ」
「シロだ。そっちは?」
「私はペローナ。この島に来たのは私が先で……私の方がえらいんだからな、そこのところ、よく覚えとけよ!」
偉そうにする少女──ペローナ。霊体状態の彼女ならば、サングラスもいらないだろう。
俺はサングラスを外すと、小さくため息を吐いた。
「わかった……いやわかりました。よろしくお願いします、ペローナさん」
「な、なんだてめえ。素直なやつだな」
やはり根は素直なようだ。原作でもウソップを励ましていたり、ゾロを介抱したりと、優しい一面が描かれていたのも頷ける。
「まあ、いいか。よろしくな、シロ」
※ ※ ※
アブサロム、ホグバック、ペローナは皆俺のことを快く受け入れてくれた。
モリアは原作ではルフィ達の敵としてのイメージが強かったが、仲間といる時は穏やかで陽気な良き船長だった。基本は一日中寝ているか何かを食べているかで、七武海とは思えないほど自堕落な生活を送っている。今は手下のゾンビの数は少なく、まだブルックとも会っていないようだった。
アブサロムはノリの良い男で、城で会う度に男のロマンと自分の理想の嫁について語ってくる。最初はその態度に面食らったが、思い返してみると作中でもそこまで非道な男ではなかった。
ホグバックは知識を披露したいのもあるだろうが、軽い手当てのやり方や、海で気をつけるべき病気などをそれなりの頻度で教えてくれる。シンドリー関連ではクズな彼だが、仲間に対しては優しい男だった。
ペローナは口は悪いが、年相応の少女だった。原作から少し幼い姿の彼女だが、あと数年すれば原作に近いビジュアルになるだろう。今はまだ彼女の方が背が高く、俺はよくチビとバカにされているが……事実なのでしょうがない。最初は敬語で接していたが、「むずがゆいからやめろ」と言われ、今は飾らないで接している。
スリラーバークは俺にとって、安心できるとても居心地の良い場所だった。
だからこそ、問題があった。
※ ※ ※
城内に響いた叫び声に、モリアと晩酌をしていたホグバックは、声の方に目をやった。
「モリア様、今夜は……なんともにぎやかな夜ですね」
「キシシ、そうだな」
絶叫の主は、最近このスリラーバークに来た少年──シロだ。
彼はモリアが拾ってきた少年で、愛想がないこととある一点以外は特に問題のない子供だった。
その唯一の問題がこれである。
「今夜は一段と荒れてるようで」
「あとでよく眠れる薬を持っていってやれ」
「そうします」
この叫び声を最初に聞いた時、ホグバックはそれがシロだとはわからなかった。少年から出る声には思えなかったのだ。
ホグバックにしてみれば安眠を邪魔されるということで、文句の一つでも言ってやろうかと思ったのだが──モリアに止められた。
「十とそこらのガキが一人でおれに助けを乞うてきた。しかもおれが海賊と知った上でだ。何か事情があるのは明らかだろ」
その時の真面目なモリアの表情に、ホグバックはそれ以上何かをいうことはやめた。
夜中に叫んでしまうということは、十中八九寝ている時に起きてしまうということだろう。悪夢を見て、飛び起きて叫んでしまうほどの状態。
「どんな仕打ちを受けてきたのか……」
「……さあな」
毎朝顔面蒼白で謝るシロに、文句を言う人間はスリラーバークにはいなかった。本人は直すべき問題だと捉えているようだが、こればかりはどうしようもないだろう。
「時間をかけていくしかありませんね」
「……」
人の好感度をほぼ無条件で上げられる能力。それを持っていながら、初対面のモリアを頼った。
きれいな服を着ていたが、その身体には隠しきれていない生々しい傷跡がいくつも見えた。
加えてあの島で起きた、億越え海賊が天竜人の船を襲った事件。船長はすぐに捕まったらしいが、攻撃を受けた天竜人の船は無事ではなかったという。
──まあ、そういうことだろうな。
誰にだって聞かれたくないことはある。
「それよりも、だ」
グラスに注がれたワインを一息に飲み干し、モリアはホグバックの方へ向き直った。
「シロの事情について、今度お前らに話そうと思っている。もちろんシロには話をつけてある」
「事情、ですか」
「ああ、そうだ。それでホグバック、その前にお前に探しておいてほしいものがある」
探し物。それはこの城の書庫にある、悪魔の実について記された書物だった。
「本ですか……。わかりました、モリア様。やっておきますよ」
ホグバックはもう慣れたとばかりに苦笑いをした。船長の面倒くさがりな性格は今に始まった事ではない。
「任せたぞ」
モリアには一つ気になっていることがあった。
それはシロの能力である。
シロの説明を信じるならば、かなり強力な能力のはず。シロにも言った通り、モリアは過去に同じ能力と思われる者に会っている。しかしシロに伝えた話は、
シロには嘘を言ったわけではないが、事実を全て伝えたわけでもなかった。
過去にモリアは、同じ能力と思われる人間に、
二人目はシロに話した、前髪の長い男。この男は新世界で関わった。
一人目は海賊を始めて間もない頃、数回にわたり追い回された海兵の男だった。
豪快な性格のその男は、海兵にしては珍しく、海賊に同情する男だった。向上心もあり、戦いの筋も悪くなかった。こんなやつが仲間にいればな、と自然と思うくらいにはモリアはその海兵のことを気に入っていたのだ。
違和感を覚えたのはその海兵の評判だった。一目惚れした女海賊が自首をする珍事件が後を絶たないと聞いて、疑問を持ったのだ。
その海兵は見た目が悪いわけではなかったが、一目惚れするほどではなかった。交流を深めていくうちに仲が良くなるのはわかるが、自首した者たちはそうではないという。
何か秘密があるのか。そう疑問に思っているうちに、その海兵はモリアの前に姿を現さなくなった。
そうしてその男のことを忘れかけた頃、二人目の能力者に出会ったのだ。
能力のことを知り、「もしやあの海兵も」と思うのは当然だった。自分の彼に対する好感情にも納得がいった。
そして三人目の能力者──シロと出会った。
モリアはまだ四十年ほどしか生きていない。その短いとは言わないが長くもない人生で、三度も同じ能力の者と会うことがあるだろうか。
もし三人が、ただの似ている別の能力を持つなら良い。
しかし仮に同じ能力だった場合。モリアが生きている間に──相手を協力的にさせるという破格の能力を持っていながら──命を落とした者が二人いるということになる。
グランドラインは弱肉強食の世界だ。若くして死ぬ者も珍しくはない。
──だが、別の理由があるならば。
この違和感が気のせいなら良い。それを確かめるためにも。
「……調べておいて損はないだろうな」
※ ※ ※
シロがいなくなった。
その事実はシャルリアにとって、到底受け入れられないものだった。
「本当に、いなかったの……?」
「はい。島中を探しましたが、シャルリア宮がおっしゃられる少年は……見つかりませんでした」
海兵の言葉に、思わず激昂しそうになる。しかし、もしシロがこの場にいるならば良い顔はしないだろうと思い直す。
「シロ……」
見つからない。数度目の報告に、頭が痛くなる。
シロが、シロがもし──いや、そんなはずはない。
船の甲板には、後から到着したチャルロス聖とロズワード聖、そして護衛と海兵たちがいる。
「シャルリア、その奴隷はもう諦めるえ」
「兄上様……?」
「新しい奴隷を買ってやるから、気分を直すえ」
兄の気遣いはわかる。妹を心配しているのだろう。しかし彼でなくてはダメなのだ。
「兄上様、ありがとう」
チャルロス聖に感謝を伝えたシャルリアは、先ほど報告した海兵に向き直った。
「引き続き、探しなさい」
「……わかりました」
海兵が再び捜索に向かうのを見て、シャルリアは自分の顔を叩いた。
これは、シロがよくやっていた行為。帰るといってこっそりシロを見ていた時に、何度かしていたのだ。
こうしてシロと同じ行為をすると、シロがいないことの不安が少し紛れるのだ。
「シャルリア!? か、顔を……何をしてるえ!?」
「兄上様、父上様、来てくださってありがとう。少し、休みます」
何か言いたげな家族を置いて、シャルリアは船内へ戻った。
今はただ1人になりたかった。
「シロがいなくなるなんて……そんなの、ありえない」
彼との繋がりを感じられるもの。彼が遺してくれたもの。
それに縋ろうとシロに与えた部屋を思い出して、彼を感じられるものがほとんどなかったことに気がついた。
写真すら撮っていなかったのだ。
実際にマリージョアに戻ってみないことにはわからないが、今思い出せないということはないのだろう。
考えてみればシャルリアは、シロに与えてばかりだった。
シロが喜ぶと考えてのことだったが……彼は喜んでいたのだろうか。
思えばシロに与え始めたのは、最初に悪魔の実を食べさせた時からで──
「……悪魔の実?」
そういえばあれを食べた者には、特異な力が目覚めるはず。しかし彼には目立った変化はなかった。彼は何の能力を……?
「それを、知れば」
彼の能力を海兵たちに共有できれば。目撃情報も集めやすいかもしれない。
悪魔の実の形はほとんど覚えていないが、見れば思い出せるだろう。確か世の中には、悪魔の実図鑑と呼ばれるものがあったはず。
シャルリアは、幼い頃に父がその話をしていたことを思い出した。
「彼を、探さないと」
きっと、私に会いたくて困っているに違いない。
彼は身を挺して私を庇ったのだ。それで、海に──
「あれ、悪魔の実は確か……」
悪魔の実を食した者は、泳げなくなるはず。
それを知ってか知らずか、彼は己の命が危険に晒される状況で、シャルリアを庇ったのだ。
「ごめんなさい、シロ……。帰ってきたら、たっぷり甘やかしてあげないと」
命をかけて、助けられたのだ。再会できたら、相応の報酬を与えよう。
……いや、それだけではダメだ。シロが海で溺れていても、助けられるぐらいにはならなければいけない。
彼は、無力なのだから。
「ふふ、私がシロを護らなきゃ」
帰ったら、シロの捜索と並行して、強くなろう。
その決意は、シャルリアにとって現実逃避ではなかった。彼女の中でシロが生きていることは当然であった。
シャルリアの人生で、思い通りにならないことはなかった。だから今回も、思い通りにならないはずがない。
数日後、海軍全軍とCPにシロの情報が共有されるのだが──シロがそれを知るのは、数年後のことだった。
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