モテモテの実食べちゃった笑 作:ワンピースにわか
俺がモリアに拾われてから、四年が経った。
世界では、ドフラミンゴが七武海に加入したり、海列車が開通したりと、原作であった色々なことが起こっていた。
原作で見覚えのある出来事を新聞で読む度に、ワンピースの世界にいるんだということを実感した。しかし裏では悲劇が起こっていることを考えると、複雑な気持ちになる。過去編で描かれていたことが、世界のどこかで起こっている。俺はそのことを理解はしていても、うまく飲み込めずにいた。
俺に悲劇を止めることはできなかった。……いや、最初から諦めていたのだ。
悲劇を防ぐ気で動いたとしても止めることができない可能性が高い。この世界の地理と、原作で起こることの年代が正確にわかっていないと、悲劇を回避させることは不可能だ。それに加え、下手に原作に介入して更なる悲劇が起こる可能性を考えると、闇雲に手を出す気にはなれなかった。
そんなことを考えながら、スリラーバークでの日常を送る。ここでの生活はそれなりに楽しい。
だからこそ自分はこのままでいいのだろうかという、漠然とした罪悪感のようなものが、俺の頭の中にはあった。
「シロ。またトレーニングか」
背後からの声に、トレーニングを止める。
トレーニングは、頭を空っぽにできる。俺は原作のゾロのように、暇な時があればトレーニングする鍛錬狂になっていた。
今日は考え事をしていて集中しきれていなかった。心の中でそんな反省をしながら、ゴーグルをつける。
声の方を向くと、そこにはアブサロムが立っていた。
「はい、アブサロム様。自分は弱いので、少しでも鍛えないと」
「敬語はやめてくれって言ってるだろう」
困り眉でため息を吐くアブサロム。
「弱い、か。ホグバックに改造してもらえばいいじゃないか。あんな奴だけど、腕は確かだぞ」
「それは……」
ホグバックの改造。考えなかったわけではない。しかしそれは、服を脱がねばならない。この身体に
「まあ、誰でも改造を受け入れられるわけじゃないよな」
答えに困っていると、気を使ったのか、アブサロムの方から話を畳んでくれた。
「……アブサロム様は、襲撃終わりですか? 先ほど大きな音が聞こえましたけど」
「ああ、そうだ。今回も迷い込んだ海賊から影を奪ってやったんだ」
原作で触れられていた通り、モリアは他の3人と連携し、ゾンビを使った罠や騙し討ちで順調に影を集めている。
俺もはじめのうちは能力を使用して手伝っていたが、途中から参加しなくなっていた。
理由はいくつかあるが、一番の理由は俺の強さだった。
俺は弱かった。能力を使えば懐柔できる可能性が高いとはいえ、相手が複数人の場合は全員に能力をかけるまでに時間がかかる。俺はピストルや矢で致命傷を負ってしまうため、相対することに向いていなかった。白兵戦はもっての外だ。
「まあ気にするなよ。お前の能力は強い。デメリットがあるとはいえ、格上をも倒せる可能性がある能力だ。おいそれとは使えなくても、お前は間違いなく強い」
「ありがとうございます、アブサロム様」
「だから敬語は……もういい。邪魔したな」
部屋を出るアブサロムに頭を下げる。
アブサロムがいなくなったことを確認すると、俺は再びトレーニングを始めた。
※ ※ ※
──残念だがシロには才能がねえな。おれが見てきた中でもかなり残念な方だ。
モリアの言葉だ。今でも鮮明に思い出せる。
俺には戦闘の才能というものがとことんなかったらしい。
モリアから覇気のコツや考え方を教えてもらい、この四年間覇気の修練を進めてきた。が、俺は未だ完璧に会得できていなかった。
見聞色、武装色共に発現はしている。
しかし見聞色はそれのみに集中しないと発動までに至らない上、武装色は一回使えばしばらくは使えないという燃費の悪さ。原作でルフィがギア4後に覇気を使えなくなっていたが、俺の場合一回武装色を使っただけでそれが起こる。加えて武装色の段階も硬化までに至っていない。
悪魔の実の能力を鍛えようにも、とある理由からモリアに能力の使用を禁止された。俺もそれは納得しているのだが、悪魔の実方面からの強化も望めないとなると、俺自身の強化は絶望的だった。
「覇気パンチも貧弱だし……」
鍛錬を終えた俺は、鏡に写った自分の身体を見ながらため息をついた。
見た目はそれなりに鍛えた身体だ。しかし肝心の実力がついてこない。考えられる限りの鍛錬は積んだ。死にかけたこともあった。しかしそれでも強くなれない。
俺の最大火力である覇気をまとったパンチも、大した威力は出ない。
「皆、本当にすごいんだな」
トレーニングを積んで強くなる。ただそれだけが難しい。
二年間で見違えるほど強くなった麦わらの一味の凄まじさが、今ではわかる。
「よう、シロ! またトレーニングしてるのか」
ルフィたちの強さを改めて実感していると、壁を貫通してペローナが入ってきた。
「今日も元気そうですね、ペローナ様」
「だからその敬語やめろって。最初みたいに生意気にしとけよ、チビシロ」
「気分が向いたらそうします」
直す気ねーだろ、とペローナは浮かびながら文句を垂れている。
霊体であるペローナは、俺が唯一目を隠さなくても大丈夫な人間だ。
ペローナ以外と接する時はサングラスやゴーグルといった完全に目が隠れるものをつけた状態で生活している。
この四年で俺の能力の発動条件が、「俺の認識に関わらず、俺の目と目があうこと」だとわかった。他にもわかった能力の発動条件として、映像というものがある。写真や事前に録った動画は大丈夫だったが、リアルタイムの映像は能力が発動できることがわかった。そのため映像でんでん虫を使えば広範囲に能力を使うことも可能だ。やりはしないが。
これらはモリアが捕まえた海賊たちで実験したもので、完全に判明するまでに一年ほどかかった。
「そう卑屈にならなくても良いと思うけどな。シロは能力……は使えなくても…………いいとこあるぜ!」
グッジョブ!と親指を突き立てるペローナに苦笑いを返す。
と、俺の腹が情けなく鳴った。
「ホロホロホロ、そろそろご飯の時間か」
「……」
ニヤニヤしながら俺のお腹を貫通しだしたペローナに、無視することで不機嫌をアピールする。
「へそまげんなよ、シロ。ほら、ご飯食べに──」
「おいシロ! 大変だ! ちょっといいか!」
部屋の扉が勢いよく叩かれる。聞こえてきた声はアブサロムだ。
「ちょっと待ってください、今ゴーグルします」
慌ててゴーグルで目を隠し、アブサロムに伝える。
部屋に入ってきたアブサロムは、血相を変えて息を切らしていた。
「今朝の朝刊に入ってたんだ。これを見てくれ」
差し出されたのは一枚の手配書だった。
そこに写されていた人物は──
「おい、アブサロム。これって……」
「ああそうだペローナ。こりゃあ……」
白がところどころ混じったボサボサの黒髪。幼さが残るが、もう青年といえる顔つき。
その手配書に写った人物は、間違いなく俺だった。
※ ※ ※
「モリア様大変です! 今朝配られた手配書に──」
「もう知ってる! シロはどこにいる!?」
モリアは珍しく声を荒げていた。原作では見ることの多いモリアの激情だが、シロが直に見るのは初めてだった。
「ここにいます」
部屋に入ったシロに、モリアはすぐさま手配書を見せた。
「シロ、ここに書いてあることは本当のことか?」
『天竜人の奴隷 シロ』。懸賞金1億ベリー。
罪状は、逃走。手配書には、生捕のみを示す「ONLY ALIVE」の文字が記されていた。
「シロ、天竜人の奴隷って……」
シロの後から部屋に入ったペローナが、心配そうに声をかける。
シロはそれを手で静止すると、モリアに向けて頭を下げた。
「モリア様、黙ってて申し訳ありません。昔マリージョアにいたことがありまして、その時の主が天竜人でした。もう忘れたかと思っていたんですが……根に持たれていたみたいです」
モテるのも大変ですね、と不自然に明るく言うシロに、四人からの言葉はない。
天竜人の奴隷であったこと。それが世界中に発信されたのだ。その心中が普段通りの平静であるはずがない。
この場にいる者で、シロを蔑む者はいない。しかしスリラーバーク外の人間はどうだろうか。これから先、過去の傷に触れられることは多くあるだろう。その未来を考えた上で──シロにどんな言葉をかければいいのか。
彼らにあるのは困惑だった。シロにどう接すればいいのかわからなかったのだ。
「まさか懸賞金が……しかも1億だなんて。我ながら凄いですね、俺」
静かな室内に「すごいなあ」とシロの明るい声が続く。
「この額、生捕のみ……。シロ、お前天竜人に能力をかけたのか?」
モリアの質問に、シロは表情を正す。
「はい。運良くかけることができたので。マリージョアにいた頃は、それを利用していました」
その答えに、唸りながら再び手配書を見るモリア。
主人に同調するように、ホグバックも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「……写真からして、買い出しの時に撮られたものだろうな。おれが近くにいない時に海軍に見つかったって感じか」
最近、シロはよくホグバックの買い出しに付き合っていた。
普段モリアとペローナは、買い出しの手伝いはほとんどしない……というか、スリラーバーク外にほとんど出ない。アブサロムも、スケスケの実があるとはいえ外見が物騒すぎる。消去法で、ここ一年ほどはシロがホグバックの荷物持ちをしていた。
ホグバックの推測に、モリアが腰を上げた。
「シロ、海軍はお前がおれの傘下だということを知らない。その手配書はそのせいだろう。……安心しろ。すぐに、海軍に連絡を━━」
「いえ。大丈夫です、モリア様」
「……どういうことだ、シロ」
「モリア様と自分の関係は……傘下ではなく協力者です。なので、その手配書はモリア様には何の関わりもない正当なものです」
「それはどういう意味だ?」
モリアの眉間に皺が寄る。
「そのままの意味です、モリア様。私は協力者という立場。モリア様が動くまでもないかと」
「協力者って……もう何年も一緒に暮らしてるじゃねーか」
ペローナの不安そうな声に、シロは明らかに作った笑顔を見せる。
「すぐに協力関係を解消するわけじゃありませんよ。お互いにメリットがあるうちはここにいます」
「だ、だよな。ったく、変な空気にするんじゃねーよ、シロ!」
頬を膨らませてわざとらしく怒った様子をするペローナ。その様子に、部屋の緊張感が少しだけ緩むが━━モリアの表情だけは晴れていなかった。
「とりあえず、俺はこの手配書は気にしていないので。モリア様も気にしないでください」
「……わかった」
渋々といった様子で頷いたモリアに、シロはほっと息をついた。
しかし直後、モリアは「だが」と言葉を続けた。
「変な気は起こすなよ。何かあればおれに言え」
「……はい、わかりました。モリア様」
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