過去に戻った。知らない妹が居た。   作:金木桂

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5:魔法少女たちの勉強会?

 

 ファミレスに入ると、人工的な涼風に全身を撫でられる。

 日曜日ということもあるだろう。店内は客で賑わっており、ファミレスの喧騒は幼い子供の甲高い声が多く、その次に若者の話し声だった。

 

 徒凪さんの知り合いだという魔法少女は既にファミレスに来ているらしい。

 

「すみません、私たちは待ち合わせで……」

 

 案内のために寄ってきた店員に対して徒凪さんはそう言って、店内を一度ぐるりと見まわした。僕も追従する。見た限りだと一人客も多いけど、一人だけこちらに反応して手を挙げている女の子がいる。小柄で、ジャージにTシャツと年頃の女子の服装にしては随分とスポーティーな格好をしていて、帽子を反対向きに被ってシティー気取りなのが目を引く。後なんかとても見覚えがある気がする。

 その女の子は声も上げた。

 

「あっだなっぎちゃーん! 先週ぶりだねここだよ私だよ! 海神(わだつみ)だよ! そこのお兄さんも昨日ぶり!」

 

 なんかすごい五月蠅かった。

 昨日ぶりって言われたから確信したけどやっぱり昨日行った水族館のトレーナーの子だ。矢鱈と視線が来るなと思ったら徒凪さんと知り合いだったのか。

 徒凪さんは慣れたように会釈した。

 

「こんにちわ海神さん。ええと、こちらは比影壮一さんです」

 

 自然な流れで自己紹介をした方が良いかな、と思って頭を動かそうとすれば、その前に海神さんは席から近づいて僕へ近づいた。僕の足元から徐々に上半身へとその目を走らせ、最終的に上目遣いの形で僕を見た。

 

「噂はかねがね聞いちゃってるよ! なんか凄い度胸あってカッコよくてファンクラブがあるんだよね! よっ色男!」

「ど、どうも。よろしくお願いします」

「そう硬くならずに~。私なんてただのモアイ像だと思って気軽に接してよ」

「は、はあ」

 

 ユーモアが独特過ぎて生返事になってしまった。なんだろうかモアイ像って。イースター島に行ったことなんて無いからどう返せばいいか分からない、行ってたら分かるユーモアにも思えないけど。それとファンクラブってなんだ。僕にファンクラブが出来る要素なんて一ミリも無いはず。

 後者についてはとんでもなく聞き返したくなったが、初対面でそういうことを尋ねるのも自意識過剰みたいでどうかと思ったので、結局何も言うことなく海神さんが座っていたテーブルに座る。席としては僕と徒凪さんが隣同士で、向かいに海神さんという並びである。

 

 海神さんの容姿はやはり徒凪さんと見比べて、一段幼く見える。沙矢と同じ女子中学生だろうか。髪色は深海に差した朝日を思わせる鮮やかな藍色で首元でばっさりと整えられ、瞳は烏羽色に濡れている。快活な笑みを浮かべており、小さな顔には愛嬌のあるえくぼが出来ている。第一印象、悪い子にはとても見えない。徒凪さんに懐いているのを見ても明白だ。

 

「海神さん、比影さんはまだご存じないと思うので……自己紹介をしていただいてもいいですか?」

 

 不快感を与えない程度に観察していると、横に座る徒凪さんがそう言った。

 海神さんは大きく口を広げて髪を持ち上げる。

 

「あああああ! いっけね忘れてた! 私ね私! 海神宇美香(わだつみうみか)! 一目見たかったんだよね、よろしくお兄さん!」

 

 鼻が痒くなったのは面を食らったからだった。初対面でお兄さん呼びをされた経験は沙矢を除けば僕には無い。天然ではなく、大なり小なり算盤を弾いてこういう言動を取っているんだろう。初めて僕は現実であざといというやつを見た気がする。

 元気溌剌さを隠さない海神さんに対して、僕は徒凪さんの言葉を思い出す。

 

「……魔法少女なんですよね?」

「そうだよ! 魔法使って悪い怪人を懲らしめるんだから私!」

 

 言いながら海神さんは力こぶをを作ろうとして作れていない。ふにゃりと柔らかそうな白く華奢な二の腕が現れるだけである。

 困ってつい徒凪さんを見てしまう。徒凪さんは微笑みとも苦笑いとも判別付かない非常に複雑な顔をして、僕の視線に気づくと一回小さく頷いた。多分だけど海神さんは常にこんな感じなんだろう。僕はそう察したつもりで徒凪さんに頷き返すと、急に顔を赤くして僕から視線を外してしまった。なんでさ。

 

「それよりお兄さん、ありがとうね!」

「はい?」

「スワンプマンのことだよ! 私はどうにも出来なかったから本当に助かったんだ!」

 

 赤面症な徒凪さんのことを考えようとしていると、海神さんは僕に感謝の言葉を口にした。

 

「僕は大したことはしてないですよ。ほとんど徒凪さんの成果だ」

「またまたそんなご謙遜を~。海神さんは理解してるんですよ! お兄さんは私たちじゃできなかったことをしたんだ、もっとそれを誇って、肩張って街中を歩くくらいしたっていいんだってこれ本当の話!」

「それで世界が平和になるならやりますよ。魔法少女が要らなくなるほど平和になるなら沙矢と徒凪さんのために逆立ちで街中歩き回ったって良い」

「おっ、お兄さん言うね~! もしかして愛故にってやつなのかな? 一個聞くけどもうデキてるの? 結婚前提なのお二人は?」

「付き合ってないです」

「ふーん……まあ海神さんは露出した地雷は踏みにいかないタイプなのでこの話題はこのくらいで引いちゃうけど、まあ、爆発する前に話し合うといいと思うよ。これマジレス」

 

 良く分からないことを言うなこの子は。徒凪さんもあまりピンと来てない様子だし。年頃だから他人の恋路に興味津々って感じなのかもしれないな、良く分からないけど。

 それより気になったのは海神さんが魔法少女という点だ。

 

「色々と僕からも聞きたいことがありますが……まず最初に、その、海神さんはスワンプマン事件の怪我は大丈夫でしょうか?」

「あーそれ聞いちゃうかいお兄さん。非常に恥ずかしいことこの上ない話になるんだけど……」

 

 徒凪さんは影のある表情で言っていた。大怪我をして入院したと。あれからもうすぐ一ヶ月が経つけど、たった一ヶ月である。退院してることの方が驚きだ。

 海神さんは笑みを引っ込めると、本当に気まずそうな表情を浮かべながら後ろ髪を掻いた。

 

「きっとそれを聞くという事は徒凪ちゃんから聞いてるんだよね、あちゃちゃまあ……。恥ずかしながらスワンプマンと戦った時の傷は完治してないよ。まだ完治まで三ヶ月は掛かるってさ。怪我見る?」

 

 言い終えるや否や、右足のジャージを捲った。肌の代わりに露わになったのは包帯だ。黒いベルトで固定され、その下に太い包帯がグルグルと巻かれている。

 今日も昨日も長ズボンを履いている理由が漸く分かった。この大怪我を隠すためだったのか。海神さんの痛々しい足を見て、やっぱり魔法少女なんてものは存在するべきじゃないなと強く思う。こんなことは大人が引き受けるべきだ。男が少ないからとか、女が多いからとか、そういうのは関係なく、子供にやらせるべき仕事じゃない。

 

「これでも良くなったんだよね〜凄いや現代医療。でもでも少し傷跡は残るってさ、なんか武士みたいだよね」

 

 健気な言い方に僕は思考が突沸しかける。

 一瞬魔法少女の旗振り役である近巳さんへ怒りを覚えたのだ。海神さんはこの地域の魔法少女で徒凪さんと同僚だから、上司も自然と近巳さんになると考えて。

 でもそれが総理大臣の判断を無思考で批判する醜悪なネットの住民みたいに感じて、すぐに怒りの対象は自分へと移り変わる。

 

 すぐに誰かをスケープゴートにしてしまう不甲斐ない自分の脆弱な心、何も出来ないくせに一丁前に現状に怒りだけは感じる無力な僕。

 

 とても嫌になる。

 社会で生きていた僕よりはまだマシな自分になれているはずなのに、こんな高望みをしたり、更に沙矢を騙している僕は、今の自分が嫌いになりそうだ。

 

 何も言えないでいると、海神さんの唇が静かに戦慄いた

 

「酷い目をしてるよお兄さん。この世を滅ぼすことを考えているみたいな、憎しみに満ちた眼だ」

「……すみません、怪人を滅ぼす方法を考えていました」

 

 正直に答えて困らせてしまうのも宜しくない。代わりに口から出たのは本心から二つ横にあるようなこの世界における模範解答だった。

 しかし、僕の小賢しい考えとは裏腹に、海神さんは作り笑いを浮かべる。

 

「お兄さんがそんなに慮ってくれるのは嬉しいけどね、これは私にとって名誉の負傷なんだよ。だからそう悲しそうにされるとさ、ちょっち私も困るのさ」

「そうでしたか……」

「まあそう言われても難しいって気持ちは分かるよ、分かる。うん。痛々しいよねこれ。完治まではまだ少しかかるんだ。でも本職に復帰するくらいは良いって言われて、先週から職場復帰してるしそう心配なさんなお兄さん」

「そうですか……はい? 本職?」

 

 同情だとか憎悪だとかを一旦机の上から纏めて叩き落とすと、疑問形で僕は呟いた。

 本職ってまるでその言い草は学生じゃないみたいだ。さながら水族館のトレーナーが本業だと、そういう意味合いで聞こえた。でもそれはおかしい。その見た目で社会人と名乗られたら、世の人権団体や社会通念を正しく理解した大人が雇用主を許さないはすだ。

 僕の疑念はすぐに晴れた。

 

「そうだよ。水族館職員が本職で魔法少女は止むに止まれぬ副業ってわけ。あ、もしかしてお兄さんってば海神さんを学生って思ったでしょー! やだー! まだピチピチガールに見られるとは嬉しいねえ、いや本当に嬉しいかも。男子高校生にそう思われれば人生勝ちじゃんね」

「社会人……なんですか?」

「そうとも!」

 

 海神さんはピンと背を伸ばして胸を張った。きっと僕の顔は間抜けにも固まっていることだろう。何度目を擦っても社会人を名乗るような年齢に見えないというんだから驚きだ。良くて高校生、妥当で女子中学生にしか見えない。

 混乱していると、隣から徒凪さんが顔を近づけて、

 

「すみません、まだ説明してなかったですね……海神さんは今年で23歳です」

「ちょっと徒凪ちゃんそのネタバレは視聴者への配慮に欠けるよ!」

 

 補足するように徒凪さんが横から付け加える。口ぶりが少し楽しげだ。どうやら海神さんとは仲が良いらしい。学校で友人がいない徒凪さんが学外では関係性を築いているという事実は非常に好ましく思える。

 それにしても、23歳。23歳かあ。

 

「若いですね……」

「ちょいちょいそこのお兄さん! 高校生に言われたらおしまいだよ!」

 

 思わず漏れた呟きが的確に拾われてしまった。

 でも23歳は若い。大卒なら1年目だ。僕より4歳若い。4歳って言ったら中高は同じ校舎で学ぶ機会がない、それくらいの時間の差異がある。

 普段沙矢や徒凪さんと話しているから基準が歪みそうだなと考えていて、ふと思う。

 

「何で僕のことをお兄さんって呼ぶんですか。止めてほしいとかじゃなくて、普通に疑問として」

「そりゃ秘密! ここから先は親愛度を80まで貯めたら解放されるから本気で聞きたいのなら私を落とすことだねお兄さん!」

 

 ギャルゲーみたいな話だ。随分と懐かしい気分になる。最後にギャルゲーをプレイしたのはいつだっただろうか。少なくともここ5年は記憶がない。フリーターの僕にゲームに注ぐ金銭的余裕はほぼ無かったし、それから年齢をある程度重ねるとギャルゲーと言う虚構に熱意を抱けなくなった。

 満面の笑みを見せる海神さんに、徒凪さんが溜息を吐いた。

 

「気にしないでください比影くん。海神さんは昔から兄が欲しいと言って憚らない方でした……大した理由なんてないですきっと」

「だから徒凪ちゃんそれド級のネタバレ!? ここからシリアスな海神ルートに入ったときに『私のホントのお兄さんになってくれますか……?』って言って完全無欠のフィナーレになる予定が台無しですが!?」

「させません。比影くんを海神さんのお兄さんには。絶対に」

「かつてないほど口調強いね徒凪ちゃん!?」

「比影くんに妹は二人はいりません」

「どの立場!? 徒凪ちゃんどの立場から言ってる!?」

 

 徒凪さんは表情を無にした。こんなに感情を消し去るところを見たのは初めてかもしれない。彼女なりのじゃれ方なんだろう。

 

「徒凪さんが言うように、僕はもう妹がいるので海神さんを妹には出来ません。僕の両手は今の家族を抱えるので手一杯で、これ以上は難しいのでごめんなさい」

 

 海神さんは慌てた様子で目を大きく開いている。

 

「なんでお兄さんまでマジレス!? 別に本気で言ってないよ!? ちょっとしたジョークだからジョーク!」

「その割にお兄さん呼びは止めないんですね海神さん……」

「待って徒凪ちゃん? 紹介するの失敗したなって顔するの傷つくから止めてほしいな?」

「思っていませんけど……まあ……」

「けどまあって何かな!? 珍妙なものを見る目で見られると海神さん普通にウッ……ってなるから!」

 

 胸を抑えながら演技をする海神さんに呆れるように白い眼を向ける徒凪さん。理解したぞ。この人は根っからの芸人で、表情豊かに反応して見せて人を笑顔にするのが好きなんだろう。僕としてはかなり好ましい人柄だ。こういう人は接しやすい。それに経験上人柄も良い。まあ人柄に関しては徒凪さんが信頼した様子を見せている時点で折り紙付きだ。性格は変わっているけど、こんな世界で魔法少女なんてやってれば一つや二つ歪んで然るべしと言ったところか。

 

 ……ところで僕らって今日は勉強しに来たんじゃなかったか。

 そう思って視線を送って、違和感を覚える。

 

「あれ、ちょっと待ってください。海神さん23歳なんですよね?」

「うん、お兄さんに比べたらちょ~~っと年上かもしれないけどそれがどうかした?」

「約6歳差がちょっと……?」

 

 この見た目で23歳とは恐れ入った。若作りとかちゃちなレベルじゃない。何度見ても中高生にしか見えない。

 でも23歳か。中高生じゃないにせよ、23歳ならまだまだ無限の可能性を持っているとも僕は思う。25歳くらいから人生の分岐が始まって、僕はまだだけど30歳くらいに分岐が収束して取り返しがつかなくなる。僕の人生への印象はそんなもんだ。だから23歳は若い。

 

 こてんと首を傾げる徒凪さんの反応はとても妥当だと思うけど、僕はそれより更にちょっとだけ年上なので無視して話を続ける。

 

「僕と徒凪さんは勉強をしに来たんですけど、海神さんも勉強されるんですか? それとも勉強を見ていただけるとか?」

「いやいや勉強嫌いだし~てか高卒だから教えるとかは期待しないでね」

「僕も徒凪さんもこれから勉強するので退屈になりますよ?」

「海神さんは徒凪ちゃんとお兄さんが勉学に苦しむのを肴に黙って見てるよ~!」

「あの失礼ながら酔ってますか?」

「あ、それいいね。お兄さんそれ名案だよ」

 

 そう言うや否や店員を呼んで海神さんはワインを頼んだ。しかも1.5Lのワインだ。隣に座る徒凪さんの温度が下がるのを感じる。僕も同感だ。昼から酒を好んで飲むのは身体に悪い。体内の酵素の量が夜より少ないので酔いやすく、アルコール依存症の第一歩とも言える。ついでに僕と徒凪さんもドリンクバーと適当な軽食を頼んだ。

 

 ワインがやってくると海神さんはグラスに注ぐと一気にグビっと呷った。全くワインの飲み方じゃない。どちらかと言うとビールだろそれは。グラス2/3の量が一度に口を経由して食道へと消えていった。どうも酒豪らしい。

 僕と徒凪さんがドリンクバーで適当な飲み物を持ってくる間にもボトルがかなり減っている。

 思わず口を突いた。

 

「飲むならせめて100円ワインに変えた方がいいですよ」

「イヤです~! 喉が焼けないと吞んだ気になれないじゃん、あ、お兄さんには分からないか!」

 

 年長者として注意するが、聞く耳は持たない。思えば僕も経験がある。酒にある程度慣れてきた20代前半の僕も同じように安酒を好んで選んでは可能な限り摂取していた。今思うと若気の至りなのだが、こうして人のそれを見ると少し心配になる。依存症とかアルコール中毒とか。

 

「ごめんなさい比影くん……」

「どうしたの?」

「海神さんは呼ぶべきじゃありませんでした」

 

 それを横目で見ながら勉強道具を出していた徒凪さんが、白状するみたいな悲壮感溢れる面持ちでぽつりとこぼした。

 

「海神さんはその、悪い方じゃないんですけど……何分破天荒なのでこうなることは予想できたんですけど……」

「徒凪さんは悪くないよ」

「それ海神さんが悪いって言ってる~? だいせいか~い! でもほんっとに大人しくしてるからさぁ許してよ~許してちょ☆彡」

 

 僕と徒凪さんはぐびぐびと飲み続ける海神さんに対して同時に溜息を吐いた。 

 目の前で非難されているのに全く堪えた様子もなく、ウインクをした上でそんなことを宣う余裕があるのは純粋に羨ましいと思った。

 

 そのまま勉強道具を広げて、僕と徒凪さんは勉強に取り掛かる。科目はまだ希望の持てる数学。並んだ数列を無理矢理公式に当てはめて四苦八苦する様子を本当に海神さんは肴にしてワインを豪快に飲みまくっている。正直鬱陶しい。

 

 更に海神さんは徒凪さんと僕へ視線を巡らせて、言葉軽やかに話を継続させる。

 

「徒凪ちゃんは元々だけどお兄さんも真面目だね~! 男なのに偉い偉い! 将来は何になるの?」

「無視してください比影くん。絡み酒なんですこの人」

「あ! 酷い徒凪ちゃん! あっだなぎちゃん! あっっだなっぎちゃん!!」

「顔を近づけないでください。臭いです」

「ブドウの芳醇な香りって言ってくれないかな!?」

 

 もう漫才だ。また僕は思う。なんでこの人ここに連れてきたんだろう徒凪さん。多分それは本人が一番思ってる気がするけど。なにせ徒凪さんは海神さんに対しては辛辣で、いつもより声も大きい。それだけ海神さんと馴染んでいる、というか海神さんがダメな大人を体現しちゃっているのが原因だろうけど、まあ何でもいい。徒凪さんにもそういう相手がいたのはちょっと安心した。

 

 勉強する間にもちょくちょく海神さんは徒凪さんへ絡んだ。絡み酒だった。それを顰め面で邪険にしながらも徒凪さんは振り払うことなくしっかり付き合っている。海神さんのことを好きなのもそうだろうけど、恐らく、僕へダル絡みが行かないように立ち回っているんだろうなと思った。徒凪さんは面倒見が良い。あと性格的に僕と海神さん、両者を立てようとするのは想像に易い。僕もそれに甘えないようにしないと。

 

「そう言えばさ、あの子は大丈夫そう? 同じクラスなんだよね徒凪ちゃん」

 

 さっきまでの明るく滑らかな声音が平坦に均される。

 急に何の話だろうかと疑問に思えば、徒凪さんはほろ苦い顔をした。

 

「文鳥さんのことですか?」

「うんうん。文鳥ちゃんのこと。心配になるんだよね先輩としては」

「まあ、はい……」

 

 口籠った煮えきらない徒凪さんの返事。

 それもそうだ。

 文鳥さんといえば僕と徒凪さんを殴った少女で、良好な関係とは言えない。ただし徒凪さんが明確な返事を返さないのはそれだけじゃないのだろう。

 つい僕は聞いた。

 

「文鳥さんって魔法少女なんですか?」

「そっか、お兄さんもクラスが同じか! そうだよ、この周辺地域の魔法少女がいま手薄だから県北から魔法少女を呼んだとか〜いやもう大変だよね。スワンプマンのせいでハチャメチャだよもう」

 

 何だそれ。安全保障上の理由とは言ってもそんな身勝手に未成年を振り回すのかこの国は。転校なんて簡単なことじゃないだろうに。また僕は一つ魔法少女の組織に属する大人が嫌いになった。

 まあそんなことは良いか。100が101になったところで大勢に影響など無い。

 それより文鳥さんのことだ。確かに僕がスワンプマン事件に関わったことだとか、徒凪さんまで殴られたことだとか、何故関係者を知っていたのか不思議ではあった。魔法少女なら納得がいく。立場柄僕のことを知っていて、徒凪さんのことを知っている。そんなの魔法少女関連の事情を持った人間しか考えられない。魔法少女であれば知ってて当然だ。

 

 ん~、とか言いながら人差し指を頬に付けながら海神さんは補足を入れる。

 

「でも文鳥ちゃんは違うんだっけ? 自分から希望出してここに来たんだよね〜確か。私の記憶だと」

「そんな異動願いみたいなノリなんですか?」

「そんなノリだよ! 社会人30年目くらいのお金貰ってるからね! 強制ではなく自分の意志で働く以上、未成年でもそのくらいは責任を果たさなきゃ。バイトじゃないからさ」

「そういや魔法少女って雇用形態ってどうなってるんですか?」

「学生とは思えない質問じゃん。国家公務員特別職って分かる?」

「それって内閣の大臣とか裁判官のことですよね。国家公務員の中でも国家公務員法が適用されないっていう」

「おお〜良く知ってるねお兄さん! そうそうその通り! 厳密には三権分立とか仕事内容で区分されるんだけど、難しい話はともかく、我々は公務員なのである! 凄いでしょ~?」

「はい、凄いですね」

 

 海神さんは胸を張って自慢げに言った。

 当然心から同意した訳じゃない。僕が嫌悪を向ける先が不透明な組織から国家に移った、ただそれだけの感嘆符である。

 

「自分から異動したという話ですが、理由は知ってますか?」

「さあどうだろうね? 詳しいわけじゃないよ。でも海神さんは人生の長として、それなりの動機はあると思う訳ですよ。一般論だけどね」

「話したことは?」

「いや~。私も話そうとしてるんだけど、バリアーっ! ていう感じでさ、嫌われちゃってるのかな? まあ恐る恐る頑張ってるんだけどさ、先輩だしそのくらいはしないと」

 

 クラスでもまだ誰かと親し気にしている様子は無かった。学外でもこうなら、現状かなり浮いている存在なんだろうと思う。そうまでして地元から出てここに来た理由。考えると非常に頭が痛い。間違いなく、文鳥さんの亡くなった友人が関係している気もする。重しだ。確固たる決意の源泉となるのも頷ける。

 

 僕と徒凪さんはその後は集中して勉強を再開した。

 海神さんは一人でワインを飲み終えると、後から頼んだつまみをぱくつきながらスマホで動画を見始めた。流石にずっと絡むわけじゃないらしい。大変助かったというのが正直な感想だった。

 そうして日曜日の勉強会は酒豪に見守られながら幕を閉じた。

 

 





ブランクが凄くて書くのが難しい。
忙しくて投稿できず申し訳なし。
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