それを倒すために、敗戦後日本に残された彼女たちが立ち上がる。
今度こそ、守るために。
泣きながら見えたものを形にした二次創作がこれです。ネタバレしか無いので未見の方はできれば劇場に見に行っていただければ。
先に形にされた夜想亭氏に許可をもらい、副題を「艦娘マイナスワン」にしています。
こころよく許可をしてくれた氏に感謝を。
帝都が巨大生物に蹂躙されて半月。
大戸島の伝承にならい「ゴジラ」と名付けられた巨大生物は、再度帝都を襲うと予測された。
再度の侵攻を阻止するために、ゴジラを駆除する作戦が立てられる。そして、作戦に参加するために、駆逐艦「雪風」と「響」は横須賀に回航されていた。
「ここにいたのかい、雪風」
「響ちゃん」
日がまさに落ちようとする横須賀、その港の突堤に雪風はいた。ここからは並んでいる船も含め、横須賀の港がよく見える。
「明朝マルハチマルマルに出撃が決まったそうだ。いよいよだね」
「いよいよですね」
そのまま彼女たちは、一緒に港を見つめる。かつてこの港を埋め尽くした艨艟たちはすでになく、今は彼女たちだけだ。
「雪風」
「はい?」
響は少し、目を伏せた。そして意を決したかのように雪風に問いかける。
「雪風、大和の最後はどうだったの」
思わず見返す雪風の顔を、響はいつもと変わらない、冷静な瞳で見つめる。
「いや、思い出したのさ」
響が指さす先、ふたりの鋼鉄の体の船尾には白い砲弾、46センチ砲弾が並んでいた。
この作戦のために呉と横須賀の倉庫をさらい、フロンガス放出前に爆発させ、ゴジラを爆圧の泡に落とし込むために改造されたものだ。
「わたしは行けなかったからね」
坊ノ岬の直前、響は触雷し戦列から外された。それがために作戦には参加できなかったのだ。
一呼吸、また一呼吸。
そして雪風は、ようやく言葉を紡ぎ出した。
「あでやかな、最後でした。
桜が散るように、散華されました」
とめどもなく流れ出す何かを押しつぶすかのように、雪風は目を伏せた。小さい、そのあまりにも小さいこぶしを握り締める。
わたしはまた、守れなかったのです。
こみあげる嗚咽のため、ついに発せられなかった言葉を、響は確かに聞いていた。
「雪風」
響は、静かに語りかける。
「でも、また機会が巡ってきた。
わたしたちはしくじってきたのかもしれない。でも生きていたから、またチャンスが来たんだ。
だから」
「はい」
そう、わたしたちはまた、大和さんと共に行くのです。たとえそれが一部であっても。
今度こそ、御国を守るために
「食い破ってやがる」
作戦は図に当たった。はずだった。
フロンガスにその身を包まれ、深海に引き込まれたゴジラは、それでも1500mの水圧に耐えたのだ。
速やかに予備作戦に移行し、海上に引き上げようとするが、体に巻き付けられた浮きをゴジラは食い破ったのだ。
「他に手はない! やれることは全部やるんだ! 機関全速!」
その大音声に、乗組員は弾かれたように動き出す。
艦長は、切り離しもせず、駆逐艦の推力により悪鬼を引き上げると決めたのだ。
ならば艦娘として、その命に応えなければならない。先に逝った夕風、樺のためにも。
鋼鉄の身がきしむ。
クレーンが負荷に耐えかね倒壊する。
機関があえぐ。
そう、あの時の、深手を負い、暗闇の海底に引き込まれていった彼女を曳航しようとしたときのように。
気を抜けば深海に引きずり込まれそうになる。
でも。
「雪風は沈みません!」
雪風は、吠えた。
「雪風は、生きて、戦うって決めているんです!」
しかし、悪鬼は、ゴジラは足掻く。強大な負荷に耐えかね、機関が悲鳴をあげる。
限界をむかえても、それでも曳く。
そのとき、彼女の耳に、声が届いた。
駆逐艦さん、早く。
わたしたちの手を。
顔を上げた雪風の霞む瞳に、たくさんのフネが見えた。
来てくれたんだ。
あの夜、潜水艦の魚雷に腹をえぐられた信濃を救おうと焦がれても来れなかった曳船が、来てくれたのだ。
響もまた、同じように伸ばされたもやい綱をとり、その身に巻き付けていく。そして、彼女たちと手を取り合い、さらに引く。
ついに、波しぶきとともにゴジラはその姿を現した
苦しんでいる。深海の膨大な圧力に耐えた体でも、否、耐えたからこそ真逆の圧力に体が引き裂かれている
だが、その瞳は憎しみに燃えている。
己が体を異形のそれに変えた人間の憎しみに。それに呼応するかのように、裂けた背中から青白い光が漏れだす。
雪風はそのまなこが自分を向いていると分かった時、どこか冷静に判断した。
こっちなら、響には影響はない。
ならば。
艦長の回避命令を聞きながらも、雪風はどこか安堵していた。
もう、見送ることはないのだ、と。
そのとき。
一機の異形の戦闘機が、彼女の真横をかすめていく。ゴジラを自分たちのもとに誘導してくれた戦闘機、震電だ。
濃緑に彩られた機体は風を裂き震わせ、今まさに放たれようとする光の奔流に抗い、電のように突っ込んでいく。
駄目
声ならぬ声で、雪風は叫んだ。もう何もできずに仲間が死んでいくところは見たくない。
生きて
そして、震電はゴジラの口にあやまたず、突入した。
爆発音は、思いのほか小さかった。
黒煙が晴れた時、ゴジラの頭部は消失していた。
また、生き残ってしまった。
雪風は、作戦が終わった後にいつも苛まれる罪悪感に身を焦がされている。
むろん、生き残ることにためらいはない。しかし、犠牲になった人たちを忘れるわけにはいかないのだ。
けれど。
「おい、あれを!」
それは舞い散る雪の華のように。
はらり、と風に吹かれ、舞い降りるのは白い落下傘。
「脱出、できたんですね」
よかった、と安堵する。そして、それを見届けたかのように、ゴジラの体が倒れこんだ。
次々と、乗組員が敬礼していく。
かつて敵艦を屠ったときのように。
沈みゆく、わだつみを弔うために。
~fin~