She is here.   作:非単一三角形

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 初めましての方は初めまして。
 ご存知の方にはお久し振りです。連載四作目にしてヒロアカ二次第二弾でございます。
 前作ほどのペースで更新できる見通しは立っておりませんが、お楽しみ頂ければ幸いです。



Chapter-1
C1-1 見上げた背中


 

 

「は……『()()()()()()()よ。そこから離れるのです』……!」

 

 

 それは彼にとって、なけなしの勇気を振り絞った呼び掛けだった。

 

 

 周囲には張り詰めた弦の如く、緊張に身を固めた見ず知らずの少年少女達。

 彼自身もまた生来の内気な性格も重なり、酷く上擦った声での発言となって。

 

 

「……今、ボクに声かけたの、キミかい?」

「っ!」

 

 掛けられた言葉に振り返ったのは、彼の眼前に立っていた一人の少女。

 さらりと流れた銀髪から覗く翠の瞳が、声の主へと不思議そうに瞬いた。

 

 

「え………あ、いやっ……き、君じゃなくて……っ!」

 

 しかし声を掛けた当人はと言えば、予想外とでもいうように泡を食いつつ首を振った。

 その様子に益々首を傾げる銀髪の少女に、彼は気まずそうに目を逸らしながらも言葉を紡ぐ。

 

 

「そ、その……君の、()()()()()()()が、このままだと危ないかなって……!」

 

 

 つっかえながらの返答と共に彼が指差したのは、少女の右肩に座る一羽の白い小鳥。

 やり取りに気付いた周囲の人間から注がれる奇異の眼差しを背に頬に感じながら、岩石のような肌を持った少年───口田甲司は、 羞恥に近い感情に目を逸らすのだった。

 

 

 

 

 ───人類の多くの人類がその身に『超常』を宿し到来した『超人社会』。

 在りし日の『生物』の枠から飛び出したそれらを、"個性"と呼び表して久しき現代にて。

 

 彼の少年の身に宿る"個性"『生き物ボイス』が可能とする『超常』は、動物や虫といった人語を解さない生物への、言語を介した呼び掛け(お願い)であった。

 

 

 夢への入り口を前に余裕を失くした少年少女のひしめくこの()()()()に、どこからか迷い込んでしまったらしい『小さな友人』を、彼が見過ごせなかったのが事の次第。

 しかして、そんな事情を知らない彼ら彼女らの目には、奇妙な行いと映って相違なく。

 

 更に動物へと呼び掛ける際には、何故か格式ばった口調になってしまう癖も顔を出していた。

 緊張からとんだ醜態を晒してしまったと、彼は岩肌を思わせる顔をますます赤面させ───

 

 

「ああ、成程。……ありがとうね」

「……えっ」

 

 

 けれど振り返った少女の顔に『笑い』は浮かべど『嗤い』は滲まず。

 呆ける彼を前に彼女は徐に左手を上げ、自身の肩に乗る小鳥へとあやすように指を差し出した。

 

 ピィピィと、小さな鳴き声と共に立てられた指に擦りつく小鳥。

 その様は少なくとも、『たまたま迷い込んだ小鳥』の振る舞いでないことは明らかで。

 

「……見ての通り、この子はちょっと特別なんだ。だから心配は要らないよ」

「あ……そ、そうなんだ……」

 

「とはいえ、確かに揉みくちゃになったりしたら困るかな? ……というわけで、ボクの頭の上に移ってくれるかい、『ピィちゃん』」

 

 少女の呼び掛けに『ピィ』と一鳴き、小さな羽をパタパタと広げた小鳥は、やがて彼女の銀髪の上へと鎮座する。

 直後、そのやり取りに目を丸くしている少年に気付き、少女は再度微笑みを浮かべた。

 

 

「も……もしかして、僕と同じ……」

「ん? ……ああ、いや違うよ。()()はボクの"個性"とかじゃなくて、この子が───」

 

 

 

 

『ハイ、スタートー!』

 

 

 

 

「「…………え?」」

 

 

 二人の会話を遮ったのは、()()()()に突如として響いた脈絡の無い号令。

 彼らを含めた何事かと呆ける()()()()へと、僅かの沈黙を経て再びの大音量が浴びせられる。

 

 

『───どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れぇ!!』

 

 

「「「えええ!?」」」

 

 驚きに叫びながらも、状況を理解した者から順に取る物も取り敢えず駆け出していく受験生達。

 生じた混乱と揉み合いの中には当然ながら、話を切り上げる形となった二人の姿もあり。

 

「悪いね、また今度だ! お互い頑張ろう!」

「……っ!」

 

 喧噪の中で聞こえた少女の声に、少年は伝わるとも思えずとも強く頷きを返す。

 遠ざかる銀髪の上で元気にピィピィと鳴く小鳥の姿を目に捉えつつ、彼もまた目の前の大舞台に意識を切り替えるのだった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

『標的捕捉!! ブッ殺───』

「……っ!」

 

 

 グシャリ、と。

 躍り出た『機体』から流れる物騒な電子音を、振り抜いた拳が途絶えさせた。

 

 

 市街地を模した会場にて、暴れ回る仮想(ヴィラン)───ロボットの鎮圧を求められる試験。

 

 それは彼にとって自身の"個性"をそのまま活かせる内容では無かったが、『異形』と数えられる身体に生まれた身には一概に『不運』とも言い難く。

 母親譲りの硬度を持つ肌に心中で感謝を捧げつつ、『力自慢』達に混ざる形で駆け回る金属塊を殴り伏せ───その最中、彼の視線は空へと向けられる。

 

 

『───クルル……』

「……『感謝します』っ」

 

 向けた視線の先には、中空を舞う一羽の鳩。

 己の頼みを聞き届けてくれた『友』へと謝辞を送りつつ、彼は一団から離れるように動き出す。

 そうして進んだ先には、未だ他の受験生の姿が無い場所で動くロボットの群れがあった。

 

 

 試験内容として提示されたのは、()()()()の対象となる仮想敵。

 その位置も、総数すらも伏されている以上、戦闘力と同様に問われるのは、情報収集能力。

 

 それ即ち───街で暴れるヴィランの元へと一早く辿り着き、鎮圧する能力。

 

 頭の中にそこまで明確なイメージを描いていたわけではなかったが、力はともかく感知に優れた身体や"個性"を持たない彼は、意思疎通可能な(動物)にそれを託すという回答を出していた。

 

 人語を解さない『生き物』へと呼び掛け、その『気持ち(願い)』を伝えるが彼の"個性"。

 試験直前は不首尾に終わった()()本来の機能と活用具合に、試験を見守るお歴々から高い評価が送られていた事を、彼が知るのは後の話。

 

 

「……あ」

「ん?」

 

 そして彼が考え、実行に移した行動指針は、再びの『出会い』へとその身を導いた。

 『沈黙』させた仮想敵を背にする、警棒のような武器を手にした銀髪の少女へと。

 

「あれ、また会ったね? そう狭い会場でも無いのに……」

「う、うん……?」

 

 軽い疑問を互いに浮かべること一瞬、両者の視線はどちらともなく頭上へと向けられる。

 視界の端で緩く旋回していた、()()()()()()()を追って。

 

 

『……クルル?』

『ピィ!』

 

 

「ああ、なるほど」

「……っ」

 

 鳩と小鳥、二羽の姿に頷く少女に、同じ結論に至った事を感じつつ、口田もまた小さく頷いた。

 

 入り組んだ市街地……を模した会場の中での、索敵と戦闘の分担。

 同じ試験の中で似た手段を用いていたとなれば、その行動範囲が似通るのも道理であろうと。

 

 

「うん。キミとは色々と気が合いそうだ……とはいえ試験は点の取り合い。恨みっこは───」

「あ……っ!」

 

『標的捕捉捕捉ゥ!! ブッコ───』

 

 続けようとした少女の言葉を遮ったのは、その背後の物陰から飛び出した一機の仮想敵。

 背後を襲われる形になった彼女に、口田の身体が半ば反射的に踏み出そうとしたその瞬間。

 

 

『ピィッ!』

『ロ゛ォ!?』

 

「無し、だよ!」

 

 小鳥の鋭い一鳴きと共に一閃。振り向きざまに振るわれた警棒が仮想敵の頭部を捉える。

 見た目よりは脆弱な作りをしているらしい機体が、首をひしゃげさせつつ蹈鞴を踏む。

 

 腕の先で軋み音を立てるそれを見ながら、「……仕留めきれてないか」と少女は小さく呟いて。

 

 

「それじゃ()()()()()……ピィちゃん!」

「……えっ」

 

『ピィ! ピイィィッ!!』

 

 続いた少女の指示に目を剥く口田を置き去りに、鳴き声で応えた小鳥は急降下を始める。

 白く小さな体躯を鋭く窄め、彼女の一撃で曲がった機体の首へと弾丸の如くに。

 

 

『……ピギュッ!』

『───ッ』

 

 

 果たして披露されたは、文字通りの【鳥衝突(バードストライク)】。

 小さくは無い破砕音と共に胴と泣き別れ、試験会場の路地に転がる仮想敵の頭部。

 それは当然ながら『撃破』の判定となったらしく、残った胴からも駆動音が消え去った。

 

 

「ふう……やったね、ピィちゃん。これで……アレ、何P(ポイント)目だったかな?」

『ピィ~?』

「え、あ……だ、大丈夫なの、その子……?」

 

「ん? ああ、言っただろう? この子は、()()()()()()()()()って」

『ピーィっ』

 

 おずおずと、金属の塊に体当たりしてみせた小鳥の身を案じる口田に、少女は笑って返答する。

 小鳥もまた心なしか胸を張るような仕草をとりつつ、彼に向けて誇らしげに一鳴きしてみせた。

 

 

「この場じゃ流石に具体的にどう特別かまで説明はできないけどね? まあ、無事に『同級生』になれた暁になら、ゆっくり話でも───っ」

 

 

 そんな少女の言葉はしかし、先の焼き直しの如く突然に断ち切られる。

 突如眼前で固まった少女の表情に、口田は疑問を感じて振り返り───彼もまた、同質の感情に身を竦ませることとなった。

 

 

 ───屹立するビル群が紙くずも斯くやと破砕されていく、誰の目にも鮮やかな異常事態。

 一瞬遅れて耳に届く、思考の全てを掻き消さんと響く大轟音。

 その破壊の向こう、視界の彼方から着実に迫る、見上げんばかりの金属塊。

 

 

 衝撃に痺れる彼らの脳裏に浮かんだのは、試験前に説明された『ギミック』の一言。

 雄大とすら形容されるだろう、他の仮想敵(得点)とは比較にもならないお邪魔虫(0ポイント敵)

 

 

「───何っっっだよ、アレ!? バカじゃねえのか!?」

 

「───逃げろ逃げろ!! あんなん巻き込まれたら死んじまう!!」

 

「───何とか逃げて……でもポイント稼がなきゃ……!」

 

 

 驚愕由来の沈黙から数秒。

 我に返った受験生達の動きは主に二つに分けられた。

 

 とにかく身の安全を優先し、少しでも脅威から遠ざかろうとする者。

 同じく逃走を考えつつも、保持する点数を気にして尚も僅かに残る標的を探す者。

 

 思いに差異はあれ、概ね一方向へと定まっていく人の流れの中で。

 

 

(ぼ、僕も早く逃げ……いや、でも……!)

 

 

 視界の端を通り過ぎていく同じ受験生達を見送りながら、しかし口田は動けずにいた。

 何故となれば───彼のすぐ隣にもまた、()()()()()()()()の姿があったが故に。

 

 

 ───恐怖に身を竦ませている? それにしては様子がおかしい。

 何より少女の視線は、今も迫りくる強大な暴威を()()()()()のだ。

 

 一瞬、自分と同じように逃げ惑う受験生達に視線を向け、それから思案するように俯いた少女。

 時間に直せば何秒にもならないだろう沈黙の中、しかし焦りに背を押された彼は再度彼女に声を掛けるべく近寄って。

 

 

「あ、あの……僕たちも、早く───」

 

 

「…………()()()、ない」

 

 

「え……?」

「あんなの、違う……らしくない……なら……」

 

 

 周囲を包む只ならぬ喧噪の中、耳が拾った呟きに口田が疑問を抱いたのも束の間。

 彼の視界の中、顔を上げた少女が徐に一歩、足を踏み出して。

 

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 

 

 斯くて、少女は動き出す。

 脅威から背を向けていった受験生達とは、真逆の方向へ。

 

 

 暴れる機械の剛腕が、今も瓦礫を舞い散らす───()()()()()と。

 

 

「え…………えぇ、あっ!?」

『ピイッ!!』

 

 瞠目した口田の視界と意識を、先の突撃を思わせる速度で横切っていく白小鳥。

 知れず追わせた視線の先で、その軌跡は先導する少女の元へと結び付き。

 

 

 

 

「さあ───こっちを見ろ! 鉄屑野郎!!」

『ピイィィッ!!』

 

 

 

 

 強大なる(ヴィラン)を前に並び立つ一人と一羽の背中を、見上げた彼の瞳は映していた。

 





 実は前作で一度も台詞を書いてなかった口田くんにスポット当ててみた三人称。
 とはいえ流石に手話とパントマイム縛りはキツイんで、そこそこ喋って頂くことに。
 周囲が騒がしい状況&動物の為となれば、原作初期の彼でも頑張ってくれるかなって。

 しかし後の口調と全然違うけど、あの喋り方じゃないと駄目なんだろうか、『生き物ボイス』。
 ひょっとして、『命令』することへの忌避感から自然と堅い口調になってるとかだったり(ry


Q. 実技試験って武器持ち込めるの?
A. 原作にも"個性"に合った装備を持ち込んでるモブ受験生いますし、常識の範囲ならOK説採用。

Q. 試験会場に鳩いるの?
A. 思いっきり青空見えてる屋外会場ですし、まあそれなりにはおるやろって。

Q. 緑谷くんと別会場なら号令も違う先生になるのでは?
A. 原作にて全会場に対しプレゼントマイクが号令出してるっぽいコマがありますので。
  不測の事態に備えて監督役ぐらいは各会場に配置してそうな気もしますが。




Q. 今作のオリ主の名前は? "個性"は?
A. まあ、追々ということで。

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