She is here.   作:非単一三角形

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 捏造考察多め回。



C1-12 燃えよ猿尾

 

 

「───手間ぁ掛けさせてくれたなあ、ガキ共?」

 

「ぐ……」

 

 

 巌の如き拳を鳴らし、ゆっくりと歩み寄る大男に、小さく呻きながら後退る男子生徒。

 対峙する前者の口元には愉し気な笑みが、後者からは小さな歯軋りの音が漏れ落ちる。

 

 『ワープ』により分配された生徒を襲うべく、各地に行われていた十数人のヴィラン配置。

 それは、()()()()()()()()()()()()このエリアも例外ではなく。

 

 

「しかしまあ、この人数差相手によく粘ったもんだ」

「流石は天下の雄英生サマってかあ?」

「そんな()()()()()()だけの地味"個性"に生まれてよくやるぜ」

 

「……地味はやめてくれよ。これでも結構気にしてるんだ」

 

 焦げ跡の浮かんだ尻尾を揺らし、流れる汗を垂らして軽口を返す。

 そんな生徒(子ども)の姿を虚勢と断じ、益々嗜虐心を露わにしていくヴィラン達。

 

 

「いやいや褒め言葉だぜ? その"個性"で俺らと足を止めて殴り合おうってんだからよ」

「そうそう……可哀想に。腕も脚も、それから尻尾まであちこち焦げちまってまあ」

「なにより相性がな。根性あるじゃねえか?」

 

「……ははっ、それはどうも」

 

 言葉は軽く、ただし満面の悪意は漲らせたまま少年を取り囲む男達。

 そんな彼らの容貌は、今日(こんにち)()()()()()()()()社会には不釣り合いな傾向(偏り)を持っていた。

 

 周囲を囲む炎に炙られ、赤熱する石炭のような肌を持つ者。

 四肢に舐めるような燈火を纏わせ、されど熱がる気配すら見せない者。

 その他、煙火を吹き出す器官を持つ等、総じて『熱』に強い耐性を持つ"個性"を宿した者達。

 

 

「俺らの身体を殴って戦ってたんだ、()()もなるわな」

「もっとガキらしく逃げ回ってりゃよお。もうちょっと楽出来ただろうに」

「まあ、()()()()()()だろうけどよ。……ヒーロー、だもんな?」

 

「…………」

 

 存分に嘲りの籠った言葉と、視線。

 言外に込められた意味を正しく受け取り、身体は正面に構えつつも、彼の意識は背後に向かう。

 

 

 

「ケロ……ごめんなさいね、尾白ちゃん……」

 

「……よしてくれ、蛙吹さん。()()は単に俺がまだまだ未熟者ってだけさ」

 

 

 火の粉混じりの風に、()()()()()()肌を荒れた呼吸で擦る蛙のクラスメイトを背に。

 鍛え抜いた手足に、痣と火傷を無数に作った彼───尾白猿夫は、ただ静かに尻尾を立てた。

 

 

 

 

 ───人間を除いた何らかの生物の特徴が身体に顕れる、『異形系』と呼ばれる"個性"。

 元となる生物は多種多様に渡り、また()()()()()についても十人十色。

 そんな中でも傾向として共通するのは、『ヒト』としての形質に加える形で、混じった生き物に近い『体質』を獲得する可能性が高いという点である。

 

 『ヒト』には存在しない、或いは殆ど顕出しない機能を得る事例も数ある"個性"由来の変成。

 それらは通常、見た目以外に支障をきたすものではないが───何事にも例外は存在する。

 

 

 

「……私、知らなかったわ。こんなにすぐ……動けなくなっちゃう、だなんて」

 

 

 

 時に───『蛙』という生物は、水中でも『呼吸』が可能な種の一つである。

 ただし、その身に魚類の鰓にあたる器官を持つのは子供(オタマジャクシ)の時分の話。

 ならば成熟し『蛙』となった彼らは、果たしてどのようにして水の中で酸素を得ているのか?

 

 問いの答えは『皮膚呼吸』。

 蛙を含む両生類の多くは、()()()()()に酸素を溶かし、それを血流に乗せる形で『呼吸』する。

 

 肺呼吸との依存比は生物により様々だが、蛙種───両生綱無尾目の平均は1:1から2:1。

 基本的に両呼吸を兼用し、活動に必要な酸素を取り込むのが『蛙』という種の有り方なのだ。

 

 

 そんな『蛙』の"個性"に生まれた少女、蛙吹梅雨。

 彼女の自己認識は当然ながら、少々『蛙』っぽさのある人間だ。

 

 似た"個性"を持つ家族ともども湿り気を好み、乾燥した部屋は居心地が悪い、程度の認識こそ持っていたが───自身の()()()()()を意識する機会には、幸か不幸か遭遇してはいなかった。

 

 

 故に彼女は、今の今まで知る由も無かったのだ。

 周囲を火炎に囲まれ、()()()()()()()()()()()という極限状況において、自身が忽ち()()()()()という弱点を抱えていたことなど。

 

 

「学校に、戻ったら……コスチュームの、改良……乾燥対策の要望、出さなきゃね……」

「……付き合うよ。俺も丁度、直接殴るのが辛い相手用の装備が欲しくなったとこ……というか、何で考えてなかったんだろうなあ、俺……」

 

「ふふ……ありがとう、尾白ちゃん。ここを乗り切ったら一緒に……約束よ?」

「ああ、約束……って、なんかすごいフラグっぽいぞ、コレ……」

 

 

 息も絶え絶えに、それでも『次』を口にする蛙吹に、ひきつりながらも笑って答える尾白。

 それは実に様々な意味で青く、眩しく───対峙する破落戸(ヴィラン)達にとっては虫唾の走る光景で。

 

「~ッ、ああ、泣かせてくれるじゃねえか。清く正しく生きてるガキってのはよお」

「そーいうのをなあ……黒コゲに焼き潰してやんのが、オレの生き甲斐なんだよなあ」

「ハッ……手足グチャグチャに焼き潰されても同じこと言えっか……試してやるよ!!」

 

「っ、ふっ!」

「うおっ!?」

 

 一番に向かってきた男の赤熱する拳───『熱を溜める』といった"個性"なのだろう───を、尾白は構えた尾で払うように流す。

 拳に接した尾の毛が黒く縮れる感覚を味わうも、気合い一声、男の体勢を崩し、弾き飛ばした。

 

 全霊の一撃を逸らされた男が、そのまま燃える路地へと転がっていく。

 その姿が建物の影に消えて数瞬、「ぐぇっ」と何かにぶつかったらしき呻き声が漏れ響いた。

 

 

「ははっ、やるねえ! んじゃ、コレはどうする!?」

「……! あぁっ!!」

 

 その言葉と共に、掲げた両手から放たれたのは握り拳程の炎の弾。

 避ければ当然、背後に庇う級友───退避しようとしているが震えた脚が動いていない───を襲う軌道を見た尾白が選んだのは、腰を捻り空気を巻き込むように振り抜いた尾による迎撃。

 

 尾の含んだ風圧により歪んだ炎弾は、内包する熱の大半を削がれ、掻き散らされる。

 その場に残されるのは、また少なからず炙られた尾に眉を寄せ、大きく体勢を崩した尾白の姿。

 

 

「いいねえ、いいねえ……! じゃ、仕上げだ」

 

「っ、くそ……」

「尾白ちゃん!」

 

 その隙を過たず狙うは三人目。石炭の如き剛腕を振り絞る大男。

 眼前に迫った拳、未だ宙にある自身の脚に歯噛みする尾白。

 

 それでもと、彼は動く両手で決死の防御態勢を取る。

 人間一人、人体一つ壊すに余りある一撃を待つ彼の耳に、悲鳴じみた蛙吹の叫びが響き───

 

 

 

「───さ、せ、る、か、よおおおおおッ!!」

 

「ガハッ!!?」

 

 

 

「……切島!?」

「切島ちゃん!?」

 

「っ、尾白ォ! 梅雨ちゃんも! 無事かあ!!?」

 

 両者の間に滑り込み、襲い来る石腕を砕いて見せたは『硬き』男、切島鋭児郎。

 "個性"『硬化』により固めた拳を振るい、大男を沈黙させた彼は、級友達へと快活に笑った。

 

 

「いや助かったけど……何でここに!?」

「おう! 俺は隣の山岳ゾーンに飛ばされたんだけどな! そこに居たヴィラン達を倒した後で、他も同じように飛ばされた先で襲われてるとしたら、場所と"個性"の組み合わせによっては危ねえ奴もいるんじゃねえかって心配になっちまって……だから、走ってきた!」

 

「走ってきた、って……」

「そしたら目の前にヴィランが転がってきて! この先誰か居るって覗いたら、案の定ヤベェのが見えたからよ!」

「飛び込んできてくれた、というわけね。……ありがとう、切島ちゃん」

 

「おうよ! ……梅雨ちゃん、調子悪そうだし下がってな!」

 

 明るく言い放ち、握った拳で親指を立てる切島に、僅かな苦笑いと共に全幅の感謝を送る二人。

 そんな彼の身体にも無数の痣や傷が浮かんでおり、防御に優れた"個性"を持つ彼をして、それが言葉ほど容易い道程ではなかったことを如実に表していた。

 

 

「……チッ、一人増えたからってなんだってんだ! まとめて黒コゲにしてやるよぉ!」

 

「っ、切島!!」

「心配すんな、尾白! 俺には効かねえよッ!!」

 

 雄々しく叫び返した切島が、放たれた炎の弾へと躊躇いなく吶喊していく。

 "個性"により硬質化した彼の肌は、火の熱すら寄せ付けない───わけではなく。

 

 彼の"個性"が保証するのは、偏に()()()()()

 火傷を含む熱による変成こそ防げるが、熱さに対する当人の感覚に関しては()()()()

 有体に言ってしまえば唯の、単なる()()()()

 

 しかし、それを踏まえて彼は叫ぶのだ───()()()()()()()()、と。

 

 

「抜けたぜおっらああああぁ!!」

「っ、マジかよ、この……エリート"個性"がよぉ!!」

 

 自身の"個性"を正面から突き破った彼に、炎弾を放ったヴィランが恐慌混じりの悪態を吐く。

 それが我慢の産物とは露知らず、迫る拳に怯える男に最早覇気は残されていない。

 

 熱さも痛みも根性で踏み潰し、通じないという体を装って相手の戦意を挫く。

 それこそが切島という漢が目指し、体現するヒーローの姿。

 

 

「や、やってられるか! 俺は逃げ……っ!? な、ちょ、待───」

 

「おっらあっ!!」

「ぎゃが……っ」

 

 逃げ出そうと踵を返したヴィランの一歩目が、踏み出した姿勢で不自然に停止する。

 起きた事態を理解できないまま、その身で拳を受け止めた彼は、短い悲鳴を上げ倒れ伏した。

 

 

「……どうしたんだ、あいつ? 急に動きが……」

「……! 尾白ちゃん、あのヴィランの足元……」

 

「え? ……あ!」

 

 何が起きたのかと訝しんだ尾白は、一早く気付いた蛙吹に示される形で()()を目に映す。

 切島の一撃を受け、力無く崩れ落ちた男の足の下。()()()()を思わせる丸い物体を。

 

 

 

「───なぁ、尾白よぉ……今、どんな気分だあ……?」

 

「ッ、峰田ちゃん!?」

「峰田!? 居たのか!?」

「おう、俺と同じとこ飛ばされてたからな! いや、正直スゲェ助かったぜ!」

 

 背後から轟くように聞こえてきた声に、ビクリと震えて振り返る尾白と蛙吹。

 驚き顔を向ける二人と、あっけらかんと感謝を口にする切島に一瞬目を向けた峰田は、再び地を這うような声で語り掛けた。

 

 

「さぞ気持ち良かっただろうなぁ……全国の青少年の妄想トップ3には入るシチュエーションを、見事に達成してたんだからよぉ……!」

「シチュって……いや、そんな余裕は───」

 

「取り繕うのはやめろよ尾白ぉ……! ここを越えればワンチャンあるとか思ってただろぉ!?」

「……いや、それは……」

 

 謎の威圧感を放つ峰田に、この非常時に何を、とは思いつつも少しばかり目を逸らす尾白。

 何故となれば、やはり彼も健全な男子高校生に名を連ねる身であるわけで。

 

 男児たるもの、何よりも幼い頃よりヒーローを目指してきた男として、女子を背中に悪漢と戦う構図に憧れが無かったとは言い切れず。

 また真に命の危機に直面していた最中に比べ、多少なり気を抜けるようになった今となっては、()()()()に回せる思考も生まれてくるというものでもあって。

 

 

「……うん、まあ、そういう気分が全く無かったかって言われたら、俺も正直悩むけど」

「ふふ……そうね。かっこよかったわよ、尾白ちゃん」

 

「っ、あ、蛙吹さん……!?」

「梅雨ちゃんと呼んで。ケロケロ」

 

 

 

 

「~ッ!!? おかしいよなぁ……! 世の中不公平だと思わねえかぁ、なあ尾白ォ……!?」

「…………ありがとう。なんかすごい一気に平常心に戻れたよ」

「おう、なんつーか……一周回って冷静になれるよな」

「ブレないのね、峰田ちゃん」

 





 原作切島くん「早く皆を助けに行こうぜ! 俺らがここにいることからして
        皆USJ内にいるだろうし! 攻撃手段少ねえ奴等が心配だ!」


 原作にて彼が広間に向かったのは、黒霧ブッ殺し一点狙いの爆豪くんに同調した結果。
 相方が変われば行動も変わるのです。

 ……まあ、その爆豪くんも生徒側に差し向けられたヴィランを取るに足らないと見たからこその判断だったわけですが。


 蛙吹さんの呼吸比率云々は当然捏造。
 原作での発言は、『蛙』の自分を水難ゾーンに送るよりは、丁度隣に見えてる火災ゾーンにでも送るよね、ぐらいの言い方っぽいので、明確な弱点として火災現場を挙げたわけではなさげかなと思ってます。あの原作台詞を拾いつつ、窮地として描くためにそれっぽい理屈を捏ねた次第。



 読み返して気付く、火災ゾーン(及び暴風・大雨ゾーン)のヴィラン一コマも映ってない問題。
 そこで仕方なくモブヴィラン三人盛りました。名無しのモブ。世紀〇で言うモ〇カン。
 原作尾白くんにヒットアンドアウェイで救助が来るまで凌がれた面々。よって機動力は皆無。

 一応"個性"名を考えるなら、『蓄熱』、『炎弾』、『石炭』。多分名前もそんな感じ。
 容量少なすぎたとか、鍛えても出せる炎が増えなかったとか、硬いように見えて脆かったとか、色々『踏み外し』た背景作ろうと思えば作れる余地は残してますが作る気は、ないです。

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