She is here.   作:非単一三角形

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Q. 常闇くんも火災ゾーンじゃないの?
A. だって彼の弱点は、()()『誰かさん』の眼に入ってないですもん。



C1-13 万の備え、一の言葉

 

 

 ―――土砂崩れに巻き込まれた住宅地。

 そんなコンセプトが見た目に明らかなエリア、土砂ゾーン。

 

 折れた木々が、横倒しに崩れた家屋が、土砂の中から顔を出す―――そうした災害現場を生徒に体験させるはずだったその場所には、今───

 

 

「……本当にガキかよ、これで……」

「なんて規模の"個性"……ふざけてやがる」

「エリートにも程があんだろ……」

 

 

 エリア一帯を覆った氷の原。直立のまま氷漬けになったヴィラン達。

 痛みと寒さに震えつつも悪態を吐く彼らの傍には、幾つもの()()()()()が屹立し。

 

 

「くっそ、動けね……」

「無茶苦茶しやがるぜ……なんて奴だ」

「末恐ろしいガキだぜ、まったく……」

 

「…………」

 

 その氷塊から生えたかのように並ぶ、同じく口汚い罵声を漏らす()()()()()()達。

 そんな地獄の最下層(コキュートス)も斯くやという様を作り出した彼───轟焦凍が、霜の降りた自身の半身を見遣り、無言で佇む姿があった。

 

 

 『ワープ』による急激な視界の変化、および多数の敵意持つ存在を感じた彼の応手はごく単純。

 その身に宿った"個性"『半冷半燃』───の半分の力を用いて創り出された即興の銀世界へと、問答の余地なく叩き込むという、世にも迅速な制圧であった。

 

 とはいえ彼もまたヒーロー志望。たとえ悪人と言えど無暗に苦しみを与えるような趣味趣向など持ってはいない。

 体表面が薄く凍り付き、無理に動けば重篤な傷を負う可能性もある───という程度に調整した冷気により、行動不能に追い込むことを目的に置いた一手であって。

 

 

「……あんたらは、()()で大丈夫だよな?」

「「「命はな!」」……容赦のねえガキだぜ、ったく」

 

「……そうか」

 

 そんな彼にとっての想定外が、目の前で苦笑交じりに応答する生首───構えていた数十というヴィランの中に紛れた、冷気に耐性のある"個性"持ち。

 放った最初の攻撃にも堪えた様子なく襲い掛かってきた彼らに、轟が内心驚きつつも、対処には粛々とあたった結果がこれであった。

 

 自身と同じく冷気を放つ、あるいは分厚い皮膚や毛皮を持つなど耐性の故は様々。

 それでも体躯を遥かに越える氷に閉じ込めてしまえば、抜け出せる"個性"など多くはない。

 

 逆にそうした耐性を持たない者には命に関わる事態となってしまう───そんな懸念を抱いての問い掛けに、至極元気な返答を受けた轟は、無表情のまま白い息を吐く。

 

 

「…………なあ、あんたらを此処に配置したのは、誰だ?」

「あ? そりゃオレらを集めた奴に決まってんだろ」

 

「……そいつは、何であんたらを……」

「オレらが知る訳ねえだろが」

 

「…………」

 

 浮かんだ疑問に至極尤もな答えを返され、納得してしまった轟は押し黙る。

 それから周囲で殊更痛々しく呻く、耐性を持たない面々に目を向け───浮かんだ自身の考えにとても意義を見出せないと、首を横に振った。

 

 

 ───そもそも人数比からして、偶然には有り得ない、とも言い切れない。

 

 状況からして『ワープ』させられた先でヴィランと対峙しているのが自分だけとも考えにくい。

 この程度の耐性ならありふれた"個性"の範囲に収まる以上、無作為に集めた破落戸を、これまた無作為に配置したとして、同じ状況になる可能性は特に低いとも言えないだろう。

 

 即ち、考えても意味などない。少なくとも現状では。

 そう結論付けた彼は、不敵に笑うヴィラン達から視線を切り、歩き出す。

 

 

(……見た限りじゃ、本当に危なそうな人間は4~5人程だった……それでも、あのオールマイトを殺れるっつう根拠……策があるっつうなら……)

 

 

 向けた視線の先は、遠目に戦いの様子が見える中央広間。

 想定以上に掛かった制圧までの時間、および今一度、()()()()()()()()()()()自身の身体に眉をひそめ───もう一度、彼は深く白い溜息を吐いた。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――時間がかかってしまいますの。大きなものを創造(つく)るのは」

 

 

 それは、徐に姿勢を低く下げた女子生徒の口から落とされた呟き。

 何が起きるのかと訝し気に向けられる視線の先で、()()は動き出す。

 

 少女の背中を突き破るように───実際に背面部分のコスチュームを破りつつ───その肌から湧出したのは巨大なシート。

 人間複数人を包んで尚余りあるそれは、当人および傍に居た級友の全身を忽ち覆い隠した。

 

 

「……シート?」

「盾のつもりか?」

 

 戸惑ったのは、この場に『ワープ』させられてきた彼ら生徒達を害さんと、直前まで各々攻撃を加えていたヴィラン達。

 大きさ厚さはともかく、特に強靭にも見えないシートに、意図を掴めず俄かに手が止まり。

 

 そんな彼らの逡巡を幸いと、シートの中から為されたのは決然とした指示。

 

 

「厚さ100mmの絶縁体シートです、上鳴さん」

「……なるほど。これなら俺は……クソ強え!」

 

「「「ぐああ!!?」」」

 

 行動に迷ったヴィラン達を襲うは、広範囲高電圧無差別放電。

 "個性"『蓄電』の欠点が一つ、共闘する者をも巻き込んでしまう放電を、多勢に囲まれた現状の打破に用いるが目的だったのだと彼らが悟ったのは、身を貫く電流に意識が落ちた後のこと。

 

 場所は、地震災害等により崩れた住宅街を想定したエリア、倒壊ゾーン。

 隣接する建物に寄りかかられ、諸共に崩れる寸前───をイメージされたビルの中で。

 

 

「他の方々が心配……合流を急ぎましょう」

 

 『ワープ』直後に受けた襲撃から、敵側に敷かれた構えを予測していた彼女───八百万百は、自身の"個性"『創造』により破れたコスチュームを創造(つく)り直しながら、そう言い放った。

 

 

「…………ああ」

「……? どうかなさいましたの、常闇さん?」

 

「いや……なんでもない」

 

 そんな八百万の言葉に応えつつ、同じくシートの下から這い出したのは、常闇踏影。

 彼女達と同じくこの場に『ワープ』させられ、共にヴィラン達と戦っていた彼はしかし、虚空に視線を彷徨わせて小さく頷いた。

 常より饒舌な男ではないとはいえ、目も合わせられない様子の彼に、八百万は首を傾げる。

 

 

「うぇ~~~い」

「!?」

「上鳴さん? そのお顔は一体……?」

 

 その奇妙な空気を分け入り飛び込んできたのは、何やらひどく気の抜けた同意(?)の声。

 不思議に思い、振り返った二人の視界に飛び込んできたのは、目元口元問わず緩みきった顔と、これまた何故か両手でゆるゆるとサムズアップを繰り返す上鳴の姿。

 

 これまで彼らを含む級友達に知られていなかった彼、上鳴電気の"個性"が孕むもう一つの欠点。

 一定以上の電力を一度に消費すると、暫し脳機能が著しく低下───アホになるという弱点が、ここにきて曝け出された形であった。

 

 

「……こんな煩労を抱えていたのか。これではすぐに動かす訳にもいかないな」

「そうですわね……」

「うぇい? うぇ~~い!」

 

 目の前の会話が自身を慮ってのものだと理解出来ているのか否か、ひたすら脱力感溢れる仕草を繰り出す上鳴。

 その力に助けられた直後でもある手前、何と表すことも出来ずに二人は顔を見合わせる。

 

 

 

 

(───へへっ、危ねえ危ねえ……流石雄英、とんだエリート"個性"共だぜ)

 

 そんな彼らの頭上、亀裂の走った天井に、一人。

 カメレオンに似た身体で景色に溶け込み、張り付いたまま冷や汗を拭うヴィランの姿があった。

 

 

 他のヴィランと同様、この倒壊ゾーンに構えていた彼が見たのは、事前に言い含められた通りに僅かな人数で囲いの中に落ちてきた、憐れな生徒達。

 

 多勢に無勢、飛んで火に入るなんとやら。

 持ち前の正義感からか、すぐさま臨戦態勢に入った彼らを、健気なものだと嗤っていられたのは束の間の事。

 

 

(……にしても、なんであの人数差で戦いになるんだよ……ヒーロー志望っつっても、まだガキの筈だろうが……世の中不公平だぜ)

 

 特に活躍目覚ましかったは、一人の男子生徒の身から出でた、形持つ影のような"個性"。

 初めに飛び掛かった数人が、いとも容易く薙ぎ払われる様を目にした時、彼は持ち前の"個性"で身を隠す事を選んだ。

 

 乱戦の中で自身が見失われることを見越し、有効に働ける時を待つこと暫し。

 そうして戦局を見守る中、数に『任せて』が『縋って』となるまでにどれほどの時があったか。

 

 

(ペチャクチャダベりやがって! その油断が……!)

 

 それでも見出した機には敏にと、彼は壁に貼り付けていた四肢から力を抜く。

 そうすれば彼の身体は支えを失い、音も無く重力の軛に囚われ、唯下方へと加速を始めた。

 

 ナイフを片手に、天井から落下する形で彼らの隙を突く。

 まさしく彼の"個性"を、生まれ持った手札を可能な限りに活かした一手と言えただろう。

 

 

 されど、そんな彼にとっての最大の不幸は───

 

 

『ヨォ』

「……へ?」

 

 生徒達に油断はあれども、その"個性"は───常闇踏影の身に宿る、当人とは全く別個の意思を持った『黒影(ダークシャドウ)』が、会話に加わらぬまま警戒を続けていたという事実で。

 

『残念、大人しク寝テナ!』

「ぐげぇ!?」

 

「っ、『黒影(ダークシャドウ)』! まだ敵が残っていたのか」

「放電から逃れて隠れていたんですのね……ありがとうございます、『黒影(ダークシャドウ)』さん」

『こノぐらイ、オ安い御用ダゼ!』

「うぇ~い!」

 

 

(……ち、ちくしょう……エリート、ども、め───)

 

 窮地を乗り切り、和気藹々と喜ぶ生徒達の声。

 妬みと嫉み、それにどうしようもない憧れの残滓の中で、彼の意識は闇に沈んでいくのだった。

 

 

 

『───ソレにしてもすごかっタナ、フミカゲ。ヤオヨロズのオ「黙れ黒影(ダークシャドウ)」』

 

『……フミカゲだってスゴい目で見「黙ってくれ黒影(ダークシャドウ)後生だ」』

 

「? 常闇さん、どうかなさ「仔細ない」……そ、そうですのね……?」

 

 キョロキョロと周囲を見回しつつ、軽口を叩く『黒影(ダークシャドウ)』に何やら険しい顔で応える常闇。

 未だ落ち着かない様子の彼を不思議に思いつつ、警戒を続けてくれているのなら有り難いかと、八百万は自身を納得させるように頷いた。

 

 

 

『───この通信、上鳴くんの特製電子変換無線だね? 聞こえるかい、上鳴くん?』

「うぇい?」

 

「っ! この声は!?」

「上鳴の無線……外との通信が繋がったのか!?」

「うぇ、うぇいだうぇい!?」

 

 突如響いた、この場に居ない人物の声を耳にし、弾かれたように振り返る常闇と八百万。

 声の出元である己の耳───に装着された特製無線に詰め寄られ、上鳴は緩みきった顔のまま、それでも受けた圧は分かるらしく、オロオロと仰け反った。

 

 襲撃が起きたその時より続く通信妨害(ジャミング)により遮断されていた、外部との連絡手段。

 その復旧を悟った二人は即座に、何を置いてもと伝えるべき内容を言い募らんとする。

 

「っ、学内の方ですね!? 聞いてください、校内にヴィランの襲撃ありです!」

「場所は訓練場……1年A組の授業に使用中───」

 

『うん、連絡ありがとうなのさ。しかし落ち着いて、まずは君達の身の安全を確保するんだ』

 

「っ……、わ、私達なら問題ありません。ですが……」

『それなら良かったのさ。大丈夫、安心しなさい』

 

 

 息を詰まらせる生徒達(二人)を宥めるように、無線の先から届く静かな指示の声。

 彼の人物が続けた言葉は、誰の心にも届く最上の一言。

 

 

『丁度そこに、()()()()()()()()()()()()()()なのさ』

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――校長とのお話の途中、御魂少女の"個性"が飛び込んできてね……何か異常が起きていると察し、飛び出してきたよ」

 

 施設入り口の電動扉をぶち破る音と共に、その声は響いた。

 

 

「つい今しがた飯田少年ともすれ違って……何が起きているかあらまし聞いた」

 

 襲う者、襲われる者の区別なく、全ての視線をそこに集めて。

 

 

「もう大丈夫───」

 

 『平和の象徴』オールマイトの現着。

 人々にとっての福音、ヴィランにとっての凶報となる筈の光景に。

 

 

 

「私が来た!」

 

「待ったよヒーロー、社会のごみめ」

 

 

 

 言葉を返したのは、現れたヴィラン達の中心人物、身体中を幾人分もの手首に掴ませた姿の男。

 喜色を浮かべる生徒達、腰の引けたヴィラン達の耳に届いたのは、どこか愉し気な呟き。

 

 

「ようやく、()()()()()()()だ」

 





  原作耳郎さん「つか服が超パンクに……」
 原作八百万さん「また創りますわ」

 ここでの彼女の躊躇いの無さは傍らに居るのが同性の友人だったから……ではないと思われ。
 USJ編構想中には峰田くんをこの位置に置く案もありましたが、彼が輝くのは此処じゃないなと思い直し、敢え無く配置変更と相成りました。ごめんね峰田くん。


 ……本作で電気耐性持ちが配置されてなかったのは何故かって?
 だって無差別放電ぶっぱは、()()『誰かさん』の眼に入ってないですもん。

 戦闘訓練の際には電気を纏うだけだった、という本人の発言もありますし、メタ対策される程の脅威認定には至ってなかったのです。やったね、上鳴くん。


 通信妨害が事件終盤まで健在だったのは、送られた生徒との奇跡的な噛み合い(電気耐性持ちなジャミング役の配置箇所に電撃ぶっぱ生徒転送)によるもの。いわゆる棚ボタ案件。
 今作では山岳ゾーンに送られた切島くんがしっかり殴り伏せたのです。

 ……というか、わりと重要な役割だったのにチンピラと同じ配置なのはどうなのよ黒霧さん。
 結果的に飯田くんが脱出して無意味になったとはいえ……あれ、これも黒霧さんのミスだな?

 原作死柄木「おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ……」

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